女性リーダーの育成には、戦略的なソーシング、人材採用とオンボーディングプランが必要。企業の意識改革が実現の後押しに NEW
近年、企業における女性の活躍推進が叫ばれる中、依然として管理職に就く女性の割合は低いという現状がある。 女性の数が多く、活躍が目立つリテール業界においても、同様の課題がある。 今回は、かつてLVMHジャパン株式会社でタレント・アクイジションディレクターをしていた高瀬なおみさんと、エーバルーンコンサルティングのコンサルタント・北川加奈さんが対談。 女性リーダーの少なさの要因や、企業が行うべき取り組み、意識の持ち方について伺った。
高瀬なおみさん/TaroWashimi ヴァイスプレジデント(写真:右)
大学卒業までをニュージーランドで過ごす。卒業後、日本でヘッドハンティング会社に勤め、2016年から外資系ラグジュアリー業界へ転職。LVMHジャパンではタレント・アクイジションディレクター、HRBPを担当。2024年8月から日本のジュエリーブランド「TaroWashimi」で専務取締役として勤めている。中小企業からグループ会社での採用の経験を元に特に女性リーダーポジションのソーシングと採用プロセス、オンボーディングのトピックにパッションをもっている。
北川加奈さん/エーバルーンコンサルティング株式会社 ヴァイスプレジデント・人材コンサルタント(写真:左)
静岡県出身。英国留学後、英語教師を経て人材業界に転身。2021年エーバルーンコンサルティングに上級職として就任。ラグジュアリー、ファッション、ライフスタイル、コスメ業界に強みを持ち、外資系エグゼクティブサーチに従事。3,000件以上の紹介実績があり、業界屈指のネットワークを誇る。平日は都会的なライフスタイル、週末はアウトドアを愛し、愛犬と共に都市と自然の調和の取れた生活を送る。
女性リーダーが特に少ない、リテール業界の現状
北川加奈さん(以下、北川):最近、仕事の関係で「女性のリテール分野の人材マッピング調査」をしました。調査の結果、30代、40代前半の方が想像以上に多く、かつ高い語学力を持つ方も多く見受けられました。ただ、MDやマーケティングの分野では女性の活躍が目立つものの、リテールマネージャーディレクターに限るとまだまだ女性の数は少ないのが現状です。リテール業界における女性リーダーの現状について、高瀬さんはどのようにお感じですか。
高瀬なおみさん(以下、高瀬):私の経験上でも、結果は同様ですね。ストアマネージャーまでは男性も女性も多いですが、ストアマネージャーより上の、リテールマネージャーやエリアマネージャー、ゼネラルマネージャーといったポジションになると、途端に女性の数が減ってしまうのが現状です。
これは世界的に見ても同様で、マネジメント層までは女性が多いものの、より経営に近いポジションになるにつれて女性の数が減っていく傾向があります。ただ、日本のリテール企業(特にファッション)においては、この傾向がより顕著に現れているように感じます。その要因のひとつとして、日本のリテール業界では、そもそも女性の数が圧倒的に多いからです。
例えば、社員の7割が女性の会社であれば、単純に考えてもディレクター層にも7割の女性がいてもおかしくないはずです。しかし現状は異なり、女性管理職の割合は3割程度、多くても4割くらいではないでしょうか。
北川:4割でも、多い方かもしれませんね。
高瀬:メンズブランドでもない限り、女性社員の数は自然と多くなります。しかし、管理職以上のポジションに就く女性の割合が低いです。これが、リテール業界の抱える大きな課題の一つだと思っています。
重視すべきは採用と育成。女性リーダーが育つ環境とは
北川:高瀬さんは、リクルーターからスタートし、人材開発系のご経験がとても豊富です。その中でも、LVMHジャパンでタレント・アクイジションディレクターをされていたとき、リテールマネージャーである複数の女性に、そのポジションについた経緯を聞かれたことがあるそうですね。
高瀬:リテールマネージャーやさらに上のポジションに就いている女性は、貴重な存在だったからです。その経緯に興味がありました。
質問して分かったのは、彼女たちは自分が置かれている状況の“レアさ”に気づいていないことです。多くの場合、リテールマネージャーになったきっかけに対して、「前の会社で一緒に働いていた人に誘われた」「今の会社の上司からやってほしいと頼まれた」といった答えが返ってきました。
北川:自ら「リテールマネージャーになりたい」と手を挙げた方は少ないのですね。
高瀬:様々な理由で女性はなかなか上のポジションに手を上げないですが、男女の違いの例えで私も採用を通してよく経験してきたことは、ジョブディスクリプションに10個の職務があるとした場合女性の場合、すべて完璧にこなせる状態でなければ応募しない、あるいは1個でもできないことがあれば「これはできませんが、いいでしょうか?」と正直に面接で聞く傾向にあります。一方で、男性は10個のうち4個くらいできれば、とりあえず応募してみるという考えを持つ人が多いです。
北川:お話を聞く限り、せっかくのチャンスを逃している女性も多いと感じます。ポテンシャルのある女性たちが活躍できる場を提供するために意識すべきことはありますか。
高瀬:大前提として、女性リーダーの数が圧倒的に少ないことを理解すべきだと思います。企業側が「女性リーダーを採用したい」とどれだけ思っていても、リーダーにふさわしい能力を兼ね備えた候補者が少ないと採用は難しいですよね。なおかつ、リーダーは誰にでも務まるものではありません。採用の意識だけでなく、“企業で女性リーダーを育てる”という意識が必要なのです。女性リーダーの候補者が、採用したいときに当たり前にいると思ってはいけません。
ワンクッションメッセージで、女性はより挑戦しやすく
北川:努力なくして、女性リーダーは育たないということですね。リーダーを育てるために、企業や組織はどのような取り組みをすればよいでしょうか。
高瀬:女性がチャレンジできる体制を整えることです。体制については企業側でコントロールできる部分なので、力を入れることで大きな効果を期待できると考えています。
先ほど、リテールマネージャーになったきっかけに対して、「声をかけてもらった」「頼まれた」という回答が多かったという話をしました。女性は、このように「誰かに求められて、そのポジションに就いた」という状況に、安心感を覚える傾向があります。「頼まれたからやった」という謙虚な回答=安心感と捉えられるかもしれませんが、その安心感があることで、新しい挑戦に一歩踏み出せるという側面もあるでしょう。
そして、ひとたびスタートラインに立てば、あとは自分の力で頑張っていくしかありません。だからこそ、企業側は女性が安心してスタートを切れるように、チャレンジするハードルを下げてあげる必要があるのです。
北川:具体的な方法として、どのようなものがありますか。
高瀬:例えば、事前に候補者の性格や人柄、または業界内での評判などCVからは読み取れないことをリクルーターからよくヒアリングしておきます。そして、一次面接の段階から、なぜこの候補者に会いたかったのか具体的な理由を伝えるのです。またポジションの面白み、候補者のキャリア形成にどうつながるのかという説明や会社の強みを伝えることで、候補者が抱く印象は大きく変わるはずです。このようにワンクッション置くことで、女性は安心感を持って、そのポジションに挑戦する決断をしやすくなるでしょう。
企業側の意識改革なくして、女性リーダーは生まれない
北川:女性リーダーに活躍してもらうためには、企業全体でサポートしていく必要があるのですね。
高瀬:その通りです。その際は、気をつけるべきポイントが2つあります。1つ目は「女性リーダーの育成」を、人事部だけの仕事と考えないことです。
採用の仕事を人事部に任せきりだと、本当の意味での「女性活躍」は実現できません。女性リーダーを育てることは、会社全体で取り組むべき課題です。社長、役員、管理職はもちろん、すべての社員が「女性が活躍できる会社を創る」「女性リーダーを育成する」という意識を持って、日々の業務に取り組んでいくことが重要です。
2つ目は、「女性と男性ではスタートラインが異なる」と理解することです。社長や役員クラスの男性とお話する機会があると、「性別に関係なく、平等に評価しています」「面接で優秀な成績を収めた人が、採用されるのは当然です」とおっしゃる方が少なくありません。
しかし、男女でそもそもスタートラインが異なるということを、しっかりと理解していただきたいと思います。女性は男性に比べて、さまざまな理由で手を挙げにくい状況に置かれているのです。また、仮に面接で良い評価を得ることができても、「あなたを採用したら、何をしてくれるのか?」という視点だけで選考を進めていると、多くの女性は入社を辞退してしまうでしょう。
北川:入社前の時点で、不安を抱いてしまうのですね。
高瀬:だからこそ、企業側は「あなたを採用することで、会社として、こんなことを実現したいと考えています」「最初はこのようなオンボーディングプランを考えていますが、あなたはどう思いますか?」というように、候補者と一緒にキャリアプランや目標を具体的に描くトレーニングが大切です。そうすることで、面接の時点でミスマッチを防ぎ、入社後も長期的に活躍してくれる女性人材を確保することにつながるはずです。
北川:やはり、企業側の意識改革が必要不可欠ということですね。特にリテール業界では、上司や経営層が男性であるケースが多いので「女性は、男性と一緒に会社をつくり上げていく大切なパートナーである」という意識を改めて持ってもらう必要があると感じます。
高瀬:そうですね。「女性をマネジメントするのは手間がかかる」「男性の方が、話が早く進む」という考えでは現状は改善されません。私自身、今まで多くの方にチャンスをいただき、キャリアディベロップメントをサポートしてもらい、様々な経験を経て現在のVPポジションに就いていますが、女性リーダーの育成は未だに試行錯誤の連続です。それほど、女性リーダーを育てるのは簡単ではないのです。
だからこそ、「女性活躍」が単なるスローガンで終わってしまわないように、私たち一人ひとりができることから、そして企業全体で取り組んでいけることを、常に考え続けていかなければならないと感じています。
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A Balloon Consulting
「エーバルーンコンサルティング(A Balloon Consulting)」は、東京と大阪を拠点にしたファッション業界に特化した人材紹介サービス会社。販売スタッフからエグゼクティブクラスまで、ファッション業界の優良な人材と企業をつなぐエージェントとして、多くの紹介実績を持つ。