【大阪・関西万博 現地取材】「すごい」が満載!アーバンリサーチのチャレンジングな仕掛け NEW
ジーンズカジュアルショップとして1974年に大阪府内で創業した株式会社アーバンリサーチ。今や17のブランドを展開し、海外にも出店するなどアパレルブランドとしての地位を確立している。その「アーバンリサーチ」は、現在開幕中の大阪・関西万博に出店している。各国からさまざまな人々が訪れる万博で、アパレルブランドとしてどのような世界観を表現するのか。大阪・関西万博企画のプロジェクトリーダーであり、事業本部 THE GOODLAND MARKET ブランドディレクターの下間祥子さんにお話を伺った。
下間祥子さん/株式会社アーバンリサーチ 事業本部 THE GOODLAND MARKET ブランドディレクター
イギリス・ロンドンでの商品企画を経験した後、2019年、株式会社アーバンリサーチにKBFの商品企画として入社。その後、THE GOODLAND MARKETに移動し、立ち上げに携わる。入社前から環境や社会問題に対する意識は高く、TGMだからこそできることを常に模索している。
小売店として提案する「半歩先の未来」
ー 万博出店にあたり、御社ではどのように構想を練られたのですか。
他のパビリオンが大きなスケールの取り組みをされる中で、いわゆる普通のお洋服屋さんである我々には一体何ができるのか、企画の段階から試行錯誤しました。
具体的には、万博を意識したストーリーと従来の「アーバンリサーチ」らしさを大切にしたストーリー、どちらを重視すべきか社内で議論を重ねました。結果、もう2度とないかもしれない万博出店だからこそ、思い切ってどちらも両立させたチャレンジをしようという結論に行きつきました。
「アーバン博」と冠した万博店は、店舗の雰囲気や商品の一つひとつに思いを込め、お客さんが思わず「すごい」と言ってしまうような仕掛けをたくさん詰め込んだお店。親近感を感じていただきつつ半歩先の未来を提案し、お客さんを感動させ続けたいと考えています。
ー 店内には、御社の社是でもある「“すごい”をシェアする」というメッセージも掲げられていますね。
「アーバンリサーチ」がまだ数店舗だった草創期には、他社も含めた周囲から「『アーバンリサーチ』って何をしてくるか、想像がつかないよね」とよく言われていたそうです。アイデアがちょっと奇抜で、ユーモアがある。ある意味、大阪らしいかもしれません。「“すごい”をシェアする」には、当時も今も変わらない、「アーバンリサーチ」らしさが込められています。

3軸+αの商品構成で「らしさ」を表現
ー 万博店の商品ラインナップは、どのように決められたのですか。
老若男女、世界各国の方に手に取っていただきやすいことを念頭に置き、統一感がありながらさまざまな商品構成を行いました。主にテクノロジー、ジャポニズム、スーベニアの3つの軸+αでラインナップしています。さらに何度来店しても楽しんでいただけるよう、月替わりの限定商品も展開しています。
ー 3つの軸について、それぞれ教えてください。
まず、テクノロジーの軸として4月に展開しているのは「100人の声プロジェクト」です。こちらは、100人の社員の声を模様としてデザインした鯉口シャツを展開しています。アーティストのISA(イサ)さんとのコラボレーション商品で、サイマティクスという技術を活用しています。
サイマティクスとは、超音波力を使って音を振動としてキャッチし、模様として浮き上がらせるテクノロジーです。ISAさんのおばあさんは詩吟の先生としてとても有名な方だったそうで、その歌を次世代に引き継ぐ方法として発想したのが元となっています。服が何かの媒体となり「ただ着るもの」以上の価値を持つことができる点をわかりやすく表現したアイテムです。
ー 他では見られない斬新な取り組みですね。ジャポニズムに関してはいかがですか。
ジャポニズムを閉じ込めた商品のひとつに、だるまがあります。せっかくの万博ですから日本らしいものを販売したいと考えていた中、縁があってだるま職人の方と出会いました。
ー トラディショナルなものとは少し雰囲気の異なる、個性的な絵柄のだるまですよね。
ストリート感のある色味や柄表現で、陽の雰囲気を感じることができますよね。これは大阪市内で活動されている、若いだるま職人の方の作品です。「アーバンリサーチ」と共通したファッション性を感じ、共にものづくりにチャレンジすることとなりました。1点1点が手描きの、万博限定商品です。数量にはかなり限りがありますので、気になる方は早めにチェックしていただきたいです。
他にもジャポニズム軸の商品として今後、世界中で奄美大島だけでおこなわれている伝統技法でもある「泥染め」を活用した商品も販売予定です。オリジナリティの高い染め表現をされている職人の方に依頼をしたもので、非常に価値の高いピースになっています。
ー 続いて、スーベニアについても教えてください。
「食×ファッション」の文脈で他の企業・団体とコラボをしています。開幕時は、「551蓬莱」とのコラボで、フリースやスウェット、Tシャツを販売。5月には「UCC上島珈琲」とコーヒーかすを使って染めたTシャツや豆の輸送に使う麻袋をアップサイクルした商品も販売します。
ー 「551蓬莱」も「UCC上島珈琲」も、どちらも関西の企業ですね。
せっかくの万博の機会ですから、ぜひ地元企業とコラボしたいと考えました。今後もさまざまな企業とのコラボが続いていく予定です。また関西企業だけにとらわれず、以前からお付き合いがあり、循環をテーマに活動している「Syncs」とのコラボレーションも展開していきます。食べられる生地で作ったお洋服の展示なども含め、通常の売り場でなかなかチャレンジすることのない仕掛けもご用意しています。


ー 6月には「海への愛」という取り組みをされると伺いました。どのような内容ですか。
弊社が長年取り組んでいる地域密着型の商品プロジェクトで、海洋ごみとファッションを結び付け、廃漁網をアップサイクルした生地を使用した商品企画です。回収からリサイクル、商品化までの過程にできる限り責任を持った状態で取り組んでいます。こちらは以前から「JAPAN MADE PROJECT」としてお付き合いのあった、「FISHERMAN JAPAN」との取り組みです。
「FISHERMAN JAPAN」は、水産業の3K(汚い・臭い・稼げない)のイメージを変え、新3K(かっこよくて・稼げて・革新的)を追求している団体です。今までは漁業の現場での作業服を製造していましたが、今回はシティユースを想定して開発しました。ファッションだからこそできる、海への愛を表現しています。
デジタルとアナログを駆使し、各国に世界観を伝える
ー 商品だけではなく、店舗設計も印象的です。どのような点にこだわられましたか。
普段とは異なる年代・国籍の方々がいらっしゃいます。アーバンリサーチがそもそも何屋か知らない方も来店されることを想定し、できる限りの伝える努力が必要だと考えました。
例えばポップひとつとっても、従来の店舗は「大きめの文字で、わかりやすく、短文で」がセオリーです。しかし万博店では比較的長文にしているほか、ipadを設置して動画での説明も行っています。それは、美術館で作品を見るように説明を読んでもらい、一つひとつの商品に詰まったストーリーをを理解していただきたいからです。
それぞれの商品のストーリーを通して、「アーバンリサーチ」というお店、会社を知っていただけると考えています。
ー デジタルを活用し、さまざまな方法を駆使しているのですね。
その一方で、あえてアナログに紙媒体を活用している部分もあります。その代表的な取り組みが、店舗の壁を活用した寄せ書きです。弊社の社是に絡め、お客さんの“すごい”を、自由に書いていただく仕掛けを設けています。通常の店舗ではなかなか実現させにくい企画です。
ー それは楽しそうですね。反響はいかがですか。
思っていた以上に参加率が高く、すでにたくさんの方に書いていただいています。最近「フルマラソンを完走した」と書いてくださったお客さんもいましたね。書かれる内容には「その人らしさ」が滲み出ると感じます。いずれなくなってしまう売り場という点を逆手に取り、お客様の記憶や印象に残るシーンをこの壁を通しても作れたらなと思います。
「アーバンリサーチ」はお客さんとのコミュニケーションをとても大切にしており、気軽にお立ち寄りいただきたい意図で、ウォーターサーバーの設置も行っています。
せっかく万博という特殊な環境の中で、アーバンリサーチのお店にお越しいただいているので、小さなことにもアイデアを巡らせ、お客様とのタッチポイントを増やしたいと考えています。

ー 万博店では、お客様にどのような体験を届けていきたいですか。
出店に際し、さまざまな方とお話をする機会がありました。その中で最もよく聞いた言葉が「万博は一生に一度あるかないかの経験」です。たくさんの方にとって人生の大切な記憶の1ページとなるようなイベントに出店していることを非常に嬉しく思います。
素晴らしい店舗や各国のパビリオンが他にもある中で、当店にわざわざお越しいただくこと、商品をご購入いただくことは本当にありがたいことだと感じています。ぜひ当店の商品のラインナップや店舗の雰囲気も含め、お店で過ごしていただく時間を楽しんでいただきたいです。また買っていただいた商品がこの先何十年も、大切な万博の思い出として、お越しいただいた皆様の人生の語り草の1つになれば幸いです。

文:梅原ひかる
撮影:坂直子