【イベントレポート】パ・リーグ球団に広がるコラボレーションの可能性。共創で広げるファン接点と新たな市場 NEW
プロ野球界で、異業種との共創が新たなビジネスモデルとして注目を集めている。2024年には、プロ野球観客動員数が過去最多を記録。中でも、パ・リーグ6球団は前年比10%増と著しい成長を見せた。そのカギとなったのは、ブランドや企業との戦略的なコラボレーションだ。本イベントでは、パシフィック・リーグ6球団の活性などを担うパシフィックリーグマーケティング(以下、PLM)を中心に、北海道日本ハムファイターズ、埼玉西武ライオンズ、千葉ロッテマリーンズの事業責任者を登壇者に迎えてトークセッションを開催。それぞれの先進的な取り組みや球団横断型プロジェクトのリアルを語り、ブランド企業との共創における可能性を示した。
<ゲストスピーカー>
山﨑 さやかさん/パシフィックリーグマーケティング株式会社 コーポレートビジネス統括本部 パートナーシップ営業部 MDグループマネージャー(写真:左)
大学在学中に株式会社ナイキジャパンのインターンを経験し、卒業後同社に入社。2019年、パシフィックリーグマーケティング株式会社に入社。MDグループのマネージャーとして、コラボプロジェクトの商品企画、販売戦略などを統括する。
松橋 和彦さん/株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント 事業本部 コンシューマー統括本部 コンシューマー部 副部長(写真:中央左)
株式会社CDGでの広告営業を経て、2017年より出向先のファイターズでMD業務を担当。2022年に株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメントへ転籍し、MDグループ長を経験後、2025年からチケッティングやファンクラブ、MD、演出などを管轄するコンシューマー部で副部長を務める。
後藤 広樹さん/株式会社西武ライオンズ 事業部 部長(写真:中央右)
株式会社セガのトイ事業部で、約14年にわたり玩具事業に携わり、子ども向けの商品づくりなどを経験。その後、「スポーツを通じて、より幅広い年代に楽しさを届けたい」との思いから、2016年に株式会社西武ライオンズに入社。現在はMD業務を担い、イベントと絡めたグッズ展開などに注力している。
飯田 健太さん/株式会社千葉ロッテマリーンズ BtoC本部 本部長(写真:右)
株式会社モブキャスト(現:モブキャストホールディングス)でゲームマーケティングに従事後、株式会社インターナショナルスポーツマーケティングでWeb制作や広告代理店事業を経験。2020年、株式会社千葉ロッテマリーンズに入社。現在はBtoC本部長として、MDやチケッティング、ファンクラブ、飲食事業を統括する。
6球団横断のコラボレーションで新規ファンを開拓
― はじめに、「6球団横断だからこそ実現できること」を推進されているPLMさんのコラボ事例を教えてください。
山﨑 さやかさん(以下、山﨑):PLMはメーカーやIPホルダーなどの多様な企業と、年間10〜20件のコラボレーションを行っています。例えば、今年6月期の「日本相撲協会×パ・リーグ6球団スペシャルコラボ」では、両競技の広報担当者が連携して効果的なプロモーション体制を築き、大きな成果を上げました。
施策のひとつとして、プロ野球と大相撲の魅力を掛け合わせたイベントを開催。各球場でのコラボ試合では力士の来場に加え、大相撲をイメージしたのぼり旗での装飾や、選手入場時に「呼び出し」演出を取り入れるなど、それぞれの球場ごとに特色ある展開を行い、全国的に注目を集めることができました。
また、お互いのプロパティを生かしたコラボ商品も販売し、イベントプロモーションの一環として展開しています。
― このコラボレーションが生まれた背景をお伺いしたいです。
山﨑:お互いが今年周年を迎え、“国技である大相撲と国民的スポーツであるプロ野球がタッグを組むことでスポーツ界を盛り上げたい”という思いが一致したからです。加えて、担当者同士が互いの競技へのリスペクトがあったことも実現を後押ししました。
― 昨年は「おさるのジョージ」とも初コラボされたそうですね。
山﨑:「おさるのジョージ」は、アニメや絵本で世界中で親しまれている人気キャラクターですが、絵本の原題が「Curious George」というように、好奇心(Curious)をテーマに、パ・リーグ6球団とのコラボでは「野球にCurious!」を目指してコラボ商品展開を実施しました。球場での販促イベントもおこない、非常に盛り上がり、グッズの売れ行きも好調でした。身につけて楽しむアパレル雑貨類や応援グッズのほか、柔らかい素材のぬいぐるみボールを企画し、ボール遊びを通じてスポーツをすることへの好奇心が生まれてほしい願いも込めました。
このコラボでは、もとはファミリー層にターゲットを絞っていました。しかし実際には、ジョージに親しみのある10代後半〜20代前半の若者層にも支持され、長年愛されているキャラクターIPとのコラボならではの広いファン層との接点につながりました。昨年の好評を受けて今年はさらに充実した取組をおこなっています。
― PLMさんは、6球団というスケールで大々的にプロモーションできることが素晴らしいと思います。幅広い層にリーチできることで、予想外の新しいファン層も獲得されています。
山﨑:そうですね。私たちの役割は、コラボ企業の特性や要望を考慮した上で、6球団横断でどう展開し最大化できるかを考えることです。そのプロセスを通じて、新たなファンとの接点も生まれるので、日々楽しみながら取り組んでいます。
また、1球団だけでは難しい新たな取り組みも、6球団合同だからこそ挑戦できる強みがあります。PLMはいわば「第7の存在」という独自の立ち位置として、異業種とのコラボにも大きな可能性を感じています。
「この球場でしかできない体験」をつくりだす
― つづいて、北海道日本ハムファイターズさんのコラボ事例をご紹介いただけますか。
松橋 和彦さん(以下、松橋):少し変わった取り組みが、球場で着用するキャップをテーマに展開した「CAP DAY」です。
以前の本拠地「札幌ドーム」は、天井が開かないドーム型だったので、キャップの需要がほとんどありませんでした。その一方で、現在の本拠地は開閉式屋根を備えた「エスコンフィールド北海道」で、キャップの需要があります。そこで、来場者されたお客様にルーフトップオープンデーをより楽しんでもらえるよう、キャップを着用する文化をつくろうと「CAP DAY」というイベントを開催しています。
― 「CAP DAY」で特に意識したのは、どのようなことですか。
松橋:形状やカラー、サイズ、デザインなど多様なキャップを幅広く展開することです。そして、日常的にキャップを着用する方には選ぶ楽しさを、使わない方には新しい発見の機会を提供したかったんです。
また、球場での応援だけではなく、街中でも使いたくなるデザイン性を意識した結果、2年目にはキャップブランド「’47」さんが冠スポンサーに就任。おかげで、やりたかった施策が一気に加速し、キャップの販売数は札幌ドーム時代の約4倍に増えました。

― キャップを着用する文化の広がりは、どのように測っておられるのでしょうか。
松橋:「球場内でのキャップ着用率」がひとつの指標です。2024年のルーフトップオープンデーでは約40%まで上昇したので、今年は50%を目指しながら、売上目標を達成したいと考えています。
― 自分たちで立ち上げた企画を育てて、ブランドとのコラボにもつなげるという非常にユニークな取り組みですよね。今後も新たな企業とのコラボレーションを視野に入れていますか。
松橋:はい。今はリリーフカーにキャップを被せたり、球場で働く約2000人のスタッフにルーフトップオープンデーに合わせてキャップを着用してもらったりと、さまざまな仕掛けを実施中です。今後もさまざまな会社さんとコラボレーションしながら、見慣れた風景の中にキャップがある違和感を仕掛けていけたら面白いですね。

コラボ商品を軸に、球場と街中の両面からファンを惹きつける
― ライオンズさんも、ユニークなコラボを数多く実施されていますよね。
後藤 広樹(以下、後藤):その中でまずご紹介したいのが、2023年から展開しているブランドとのコラボユニフォームです。初年度は「COACH」さん、昨年は「NEWYORKER」さん、今年は「JILL STUART」さんとタッグを組み、いずれも約3万人の来場者に配布しました。昨年に関しては、選手も実際に着用して試合に臨んでいます。
加えて、ファッションショー形式の発表会も開催しました。昨年は、コラボユニフォームと「NEWYORKER」さんのアパレルを着用した選手がモデルとして登場し、メディア招致やライブ配信も行いました。
― ユニフォームをコラボレーションの中心に据えるのは斬新ですね。
後藤:ブランドの力をお借りすることで、”双方のファンに関心を持ってもらいたい”という狙いがあります。
その結果、コラボしたブランドからも高い評価をいただきました。どれだけ有名なブランドでも、約3万人が一斉に自社デザインのアパレルを着る機会はなかなかありません。だからこそ、コラボ企業の担当者の方は、球場全体が自社ブランドの世界観に染まる様子を見て感動してくださり、「今後もまたコラボしていきたいですね」と言っていただくことがあります。

― コラボレーションするブランドの基準も教えていただけますか。
後藤:一番大事にしているのは”ストーリー性”です。例えば「COACH」さんは、“野球用グローブのように丈夫でしなやかな美しい革製品をつくれないか”という思いからレザー素材の開発に着手され、ブランドが始まったそうです。その背景に野球との親和性を感じてお声がけしました。
― ユニフォーム以外のアパレルコラボについても教えてください。
後藤:今年は主に3ブランドとお取り組みしていて、2年目となる「UNITED ARROWS」さんとは、ライセンス付与にとどまらず、PRにも球団が積極的に関与しています。
例えば、自社グループの商業施設内にある店舗では、選手やマスコットキャラクターを活用した販促を行い、ファンの来店を促進。球団ショップでも二次展開を行い、双方で売り場を盛り上げる施策に取り組んでいます。

違和感なく楽しめるコラボでファンの共感を得る
― 千葉ロッテマリーンズさんは、どのようなコラボ事例があるのでしょうか。
飯田 健太(以下、飯田):我々もこれまで多くのブランドとコラボレーションしてきましたが、今回は直近3つの事例をご紹介します。まずひとつ目は、今年4月16日に開催した「STAR WARS NIGHT」です。
通常であれば集客が難しいプロ野球開幕直後の平日開催にもかかわらず、満員御礼となるほど反響がありました。隣接する幕張メッセで「STAR WARS」のファンイベントが開催される直前ということも追い風となり、キャラクターのコスプレをした来場者や外国人など、多くの方に足を運んでいただきました。関連グッズも試合開始前にすべて完売するなど、非常に盛り上がったイベントです。

― 今年は、アパレルブランド「WIND AND SEA」さんともコラボレーションされたそうですね。
飯田:はい。コラボレーションする際は、チームのブランドイメージと自然に重なり、ファンの方々に違和感なく受け入れられ、共感を得られるかどうかを重視しています。「WIND AND SEA」さんは、ブランド名に我々の本拠地・ZOZOマリンスタジアム名物の「海」や「風」が入っており、ブランドイメージにマッチすることなどからご一緒させていただきました。
― ZOZOさんと「A BATHING APE®(以下、BAPE®)」さんとのコラボレーションも気になります。
飯田:ZOZOさんはネーミングライツパートナーでもあり、その関係性を活かして「BAPE®」さんとの三者コラボアイテムを展開しました。今年8月24日には、ZOZOさんがスポンサーとなる冠試合を開催予定です。その試合では、ZOZOさんのブランディングを反映させる形で、「BAPE®」さんとのコラボユニフォームを選手が着用して試合に臨む企画を準備しています。

個性を活かし、成果を生むコラボレーションのポリシー
― 各球団の個性が際立つコラボ事例でしたが、みなさんがコラボレーションする上で大切にされているポリシーを教えてください。
松橋:ファイターズとして重視しているのは、大きく2点あります。まず、ファン視点では、“極力説明がいらず、納得感があるストーリー性”です。もうひとつは事業視点で、“接点の小さい又は小さくなってしまったファンとつながること”です。
IPコラボは完全なゼロから新しい顧客接点を持つというより、お互いの資産や世界観を掛け合わせてストーリーをつくり、少し距離ができてしまったファンとの接点を双方からつくるものだと考えております。そうした挑戦をご一緒できるパートナーさんと組みたいと思っています。
― ライオンズさんは「ストーリー性を重視している」とのお話がありました。他にも意識されていることはありますか。
後藤:“永続的な関係性を築いていけること”です。だからこそ、商品を作って終わるのではなく、球場での告知やキャンペーンなど、双方に収益が生まれる仕組みづくりを意識しています。
とはいえ、長く続くかどうかはやってみないとわからないことが結構あります。チャレンジャーでいないと新しいファンの方になかなか来てもらえません。だからこそ、“まずはやってみる”という姿勢も大事にしていますね。

― 千葉ロッテマリーンズさんは、いかがでしょうか。
飯田:お互いのお客様に“違和感を感じさせない文脈づくり”が重要だと考えています。親和性が高くなくても一緒に文脈を作り上げることで、共感を得られるコラボレーションになるはずです。
例えば、我々が注力している「BLACK SUMMER WEEK」というイベントは、まだ広く認知されていません。そこで、今年からは発信を強めて認知を広げることで、コラボ先のファンの方々にも違和感のなく受け入れてもらえるように取り組んでいます。
― 最後に、PLMさんならではのポリシーを教えてください。
山崎:“決して画一的にはせず、6球団それぞれの個性を尊重しながら、コラボ先の伝えたいメッセージがぶれないように調整すること”です。例えば、コラボグッズは全球団共通でも、関連するイベントは目的に適した球場だけで実施するなど、コラボ先のご要望に応じた強弱の付け方は我々が得意とするところです。
こうした柔軟な設計で成果が高まれば、私たちもハッピーだなと思いますし、各球団も同じ気持ちでいてくれていると信じています。
パ・リーグ6球団とのコラボレーションにご興味をお持ちの企業さまへ。本記事でご紹介した事例のように、各球団の個性やスケールを活かした共創は、ブランド価値を高めるだけでなく、新たなファン層との接点を生み出す力を持っています。「自社のプロダクトやサービスを通じて、新しい市場やファン層にアプローチしたい」そんなご希望をお持ちの企業さまは、ぜひこちらからお問い合わせください。
文:流石香織
撮影:船場拓真