ラグジュアリーブランド外資マーケティングの仕事とは
ファッション業界にはさまざまな仕事があるが、販売戦略を担当するマーケティング職に課せられたミッションは非常に大きい。今回はなかでも外資系のラグジュアリーブランドにスポットを当て、実際にどのような仕事をしているのかをまとめた。
マーケティング職のミッションと仕事
外資系ラグジュアリーブランドのマーケティング職のミッションは、それぞれのブランドイメージに沿ったイベントやメディア展開、販促物を企画運営して、ブランドのファンを増やすことである。では、ミッションを遂行するためには具体的にどのような仕事があるのだろうか。
マーケティングの仕事は想像している以上に幅広い。主な仕事は、ローカルマーケティングの戦略&企画立案と現場マネジメント(広告メディアプラン、ストアイベント、マーケティングツール全般、デジタルDM、公式サイト日本語版管理、接客用デジタルツール開発、SNS運営)、予算管理などである。
外資マーケティングの仕事の流れ
では具体的な仕事の流れを見ていこう。
①コレクションチェック
本国のコレクション発表から、シーズンの全てが始まる。本国のプレゼンテーションをもとに、シーズンに推すべき商品やスタイル、ブランドのムードやキーワード、トレンドなどをつかみ、日本国内マーケのプランニングに落とし込む。
②予算管理
日本国内で行うマーケ活動は、基本的に全て本国からの予算を使用する。本国から与えられた予算をもとに予算配分をし、翌年のマーケ企画を練る。マーケ活動のための予算が減らされないよう前年度の企画等の検証を行い、本国へレポートしながら翌年の予算交渉につなげることも重要だ。
③年間カレンダー(通称マーケカレンダー)の作成
全体予算を把握したうえで、年間カレンダー(マーケカレンダー)を作成する。
マーケカレンダーとは、消費者行動の一般的な動きに合わせて情報発信するための極めて重要な資料で、社内関係者とも共有する。マーケカレンダーを作成する際は、日本の一般カレンダーを見て、どこに連休やボーナスの時期があるか等を把握しつつ、自社ブランドが推したい商品の入荷時期やそれに合わせたベストな販売促進の時期などの情報を入れ込んでゆく。
マーケカレンダーの作成にあたっては、MDと営業の協力が欠かせない。MDは商品バイイングを行っているため、日本のために多く買いつけた商品、特徴、入荷時期や個数を把握している。一方で営業は、数字目標を持っているため、路面店や大手百貨店からのリクエスト、各店舗の個性や課題を把握している。どの店舗にどんな販促施策があれば売り上げが作れるか、営業からニーズをヒアリングして優先順位をつけ、方向性を共有することもマーケティング職の大切な仕事のひとつだ。
④イベントの企画立案と、PR連携
マーケカレンダーに基づき、具体的なイベント案を練ると同時に、メディアを含めた販促施策の詳細を詰めていく。キャンペーンを実施したいタイミングから逆算して、ターゲットに合う媒体選びやストーリー展開をPRチームと共に練り上げる。
イベント企画を練る際には、ターゲットと開催時期を重要視する。ブランド認知向上、新規顧客の獲得、既存顧客向けかによって内容が異なるため、ターゲットを見極めたうえで企画を練る。また開催場所も、路面店、百貨店、百貨店内のイベントスペース、外のイベント会場かによって、規模や企画が異なる
⑤メディアプラン策定
どの時期にどの雑誌に、どんな広告を入れ、タイアップをすれば効果が得られるかを、広告代理店から情報を収集しながらPR担当者とともにメディアプランを策定する。交渉は広告代理店経由で行うので、広告代理店との連携が欠かせない。
⑥本国承認
前年度のうちに、翌年上半期のプランニングを行う。スケジュールと予算内訳、概要を本国に提出し、日本の事情とニーズを説明する。同じ会社の本社&支社とはいえ、日本と海外では民族性や価値観、ブランドの認知度、イメージも異なるため、本国承認をもらうには、丁寧な説明と十分な説得材料が必要となる。説明は、出張もしくはリモートで行う。承認後は上半期のプランを実行しながら、下半期のプランニングを練り、準備が整い次第、また本国に承認を得る。
➆実際の現場進行
本国からの承認を得たら、直近のマーケカレンダーのものから取りかかる。
ギフトやマーケティングツールの手配は、制作発注から納期までに時間を要するため、早めに着手。イベントは早急に企画内容の詳細を詰め、社内外でプレゼンを行い、交渉を進めていく。イベントは、セレブ起用のトークショー、ファッション媒体とのコラボイベント、モデルのフロアショー、本国の職人起用のイベント、芸術家とのコラボ、DJ、ミュージシャン起用の音楽系イベント、プレスディナー、展示会、受注会、異業種コラボなど多岐に渡る。その他、招待状作成、販促キャンペーンにまつわるノベルティ、ケータリング、花、カメラの手配まで様々な業務を行う。
近年では時代性もあり、デジタルを使ったコミュニケーションが飛躍的に増えている。具体的にはデジタルDM(E-CARD)配信、公式サイトおよび公式SNS日本語版のアップデートやイメージコントロールなど。
一連のコロナの影響もあり、大型イベントや賑やかなパーティーの類はめっきりなくなり、代わりにデジタルファッションショーのご案内や、リモート接客用販促ツールの開発などが活発になってきた。オンラインのマーケ施策は、今後益々増えていくだろう。
外資マーケティング職に必要なスキルとは
日本のマーケ担当に欠かせないスキルは、一般カレンダーのイベント時期や、媒体の進行状況を鑑みながら、「ターゲット商品の店頭入荷時期」と「販促施策の実施タイミング」を考えるバランス感覚。そしてそれに関わる情報収集と配信、各関係者からの理解を得るための交渉力とコミュニケーション力である。本国の意向や各店舗の売上等、予期せぬコロナもそうだが、状況が常に変化し続けるため、急な変化に動じない冷静さやフレキシビリティーも求められる。つまり日本の動向を正確に把握したうえで、関係各所と協力しながら仕事をすすめていくことがもっとも大切となる。
ベテランの外資系マーケティング担当者によると、ひとつでも趣味や得意技を持っておくことが、企画時や交渉時に役立つという。
外資マーケティングの魅力とやりがい
このようにさまざまな制限や国の違いにより、大変なことが多い仕事であるが、その反面仕事の達成感も大きい。売上や新規顧客が増え、本国からも高い評価を得ることはもちろん、他の国や本国でも日本のマーケティング方式が取り入れられることも、外資マーケティングならではのやりがいだと言えるだろう。