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ラグジュアリービジネスの中心地でキャリアを築いたエグゼクティブが日本でのビジネスに感じた魅力とは――

ラグジュアリービジネスの中心地でキャリアを築いたエグゼクティブが日本でのビジネスに感じた魅力とは――

スペインのラグジュアリーポーセリンアートブランド・リヤドロ。その日本法人を率いるコリン氏は、複数のラグジュアリーブランドで、香港、ヨーロッパを舞台にビジネスを手掛けてきた。日本にたどり着くまでのキャリア、日本でのキャリアを選んだ理由などコリン氏の歩みを紐解きつつ、日本と世界のビジネスの違いなどについても伺った。

周 凱樑 コリン(Colin CHOW)さん/リヤドロジャパン株式会社 代表取締役社長
香港出身。香港科技大学(The Hong Kong University of Science and Technology)では経営管理を専攻。卒業後は、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループのルイ・ヴィトン香港に入社し、セリーヌのビジネスプランニング部門で活躍。パリ本社勤務を経て日本でのキャリアをスタート。その後、リシュモングループのダンヒル、エス・テー・デュポンを経て、2020年、リヤドロジャパン株式会社代表取締役社長に就任。

大学の選考を活かし、セリーヌのビジネスプランニング部門からキャリアをスタート

― まず、コリンさんのこれまでのキャリアについて教えてください。スタートはセリーヌだそうですね。

香港で生まれ育ち、大学ではファイナンスを専攻しました。卒業後LVMHグループに入社し、大学での専攻を活かせるセリーヌのビジネスプランニングに所属しました。当時のセリーヌは、現在よりもクラシックなブランドとして認知されており、ルイ・ヴィトンより他のシスターブランドと比較するとまだ小さなブランドでした。

小さな組織だったからこそ学べたことも多く、リアルな事業投資の分析や業績目標管理、改善の提案や実施なども含め、自身のスキルアップにつながる経験をたくさん積むことができました。私のキャリアにとってもっとも重要な時期だったと言えるかもしれません。

― セリーヌではどのようにキャリアを築いていかれたのですか。

最初の3年は香港で勤務し、その間に6カ月間、パリ本社のプロジェクトを担当したのち再び香港に戻り、さらに1年半後パリへ転勤となりました。本社には2年間勤務し、ヨーロッパ全体のビジネスプランニングを担当しました。

イギリスやイタリア、スペイン、ドイツなどヨーロッパ各国の経営管理はパリ本社が担っています。私はファイナンスのコントロール担当だったので表には出ず、数字面でのサポートなどを行いました。

この約5年の間に、ラグジュアリービジネスがどう動くのかを学ぶことができました。

日本語はできなかったもののマーケットの可能性に惹かれて日本へ。ビジネスを通じて日本語力を伸ばす

― ラグジュアリービジネスの中心にいたコリンさんがなぜ活躍の場を日本に移したのか、教えていただけますか。また、ビジネスコミュニケーションはどうされていたのでしょうか。

ヨーロッパやアジアのマーケットと比較すると、日本はやや規模が小さく見えるかもしれませんが、国別マーケットで比較すると日本のマーケットサイズは大きいのです。当時は商品価格もフランスの約1.4倍。将来性もありました。ホスピタリティもハイレベルです。

そんな日本でビジネスリーダーになりたいと思いました。同じアジア人として、マーケットを理解できる部分があるという考えもありました。ただ実際は戸惑いも大きかったですが。

当時はまったく日本語が話せず、最初はフランス語でコミュニケーションをとっていました。社長がフランス人で、オフィスの日本人の同僚もみんな外国語ができる。人によって英語だったり、フランス語だったり、スペイン語だったり。フランス語はできるけど英語はできなかったり。ポジティブな意味でのショックを受けましたね。

― その後、日本国内でセリーヌからリシュモングループのダンヒル、エス・テー・デュポン、リヤドロジャパンと転職されていますね。コリンさんなら香港でもパリでも機会はあったはずだと思うのですが。

私にとっての日本は「しっかり仕事ができる場所」。日本で働いている人たちはみんなハードワーキングです。日本のカルチャーは仕事が好きな人に合うんですよ。

それにとても安全な国だから子育てがしやすい。他の国と違って子どもが一人で学校に通えます。送り迎えをしなくていいので日本はすごく働きやすいですね。

ただセリーヌにいた頃は日本語ができなくて周囲に迷惑をかけたと感じ、必死に勉強しました。リシュモンのダンヒル部門では、初めて百貨店営業に携わりました。そこでは日本語オンリーですから、ビジネスを通して日本語力を伸ばしていきました。この経験がなければ日本語能力試験1級に合格できなかったでしょう。

― 日本に住んで16年になるそうですが、日本のカルチャーの好きなところはなんですか。

春は桜が美しく、お花見文化があります。花粉症には辛い季節でもありますが(笑)。夏はサーフィンをはじめいろんなウォータースポーツができます。秋は紅葉、冬は大好きなスキー。四季を通して飽きることがありません。

それに日本人は優しいですね。職場でも住んでいる街でもいろんなことを助けてくれます。日本には人と人とのつながりがあり、その温かさが私はすごく好きですね。

どんなビジネスも最後は数字。重要なのは“実行できるアイデア”と“実行できる人間”

― 経営するうえでファイナンスの経験があることの利点をどのように感じていらっしゃいますか。

私は経営するうえで、数字とサプライチェーンのオペレーションを大事にしています。今は営業やマーケティングの業務が多いのですが、その数字の感覚は最初のファイナンスの仕事を通して学んだものです。またオペレーション的にはKPI設定や効率性向上推進も重要だと考えています。

どう売上げを最大化し、コストをどれくらいかけるか。いかに予算計画通りにビジネスを推し進め、納得できる利益をあげるのか。どんなビジネスも最後は数字です。

― 売上げとコストをずっと追求してきた経験は、今のGMとしての仕事に活きているのですね。

さらに付け加えるなら、数字をつくるためには、ただ数字を見るだけでなく、いかに実行するかが非常に大事です。世の中には素晴らしいアイデアを持つ人はたくさんいるし、むしろアイデアは多すぎるくらいです。ただ、実行できるアイデア、実行できる人間はそう多くありません。いくらアイデアがあっても実行しなければ意味はないのです。

私に課せられた最重要テーマは、自分のチームのメンバーのモチベーションをいかに高め、どのように実行していくかだと考えています。

― 香港、フランス、日本で働いてきたコリンさんが感じる日本と世界のビジネスの違いについてお聞かせください。

日本のビジネスは、なぜそれをやるか、どういうふうにやるか、順序立てて考えるから時間がかかります。でもやろうと決めて始めてしまえば継続性は非常に高い。ファイナンス的には少々保守的かもしれませんが、投資に対して安定したリターンが得られます。ヨーロッパは早いけれど、1年後、2年後に中止することが珍しくありません。ただ仮に1年後にそのプロジェクトをストップしたとしても、また次のプロジェクトを起動するので、もしかしたらリスク、リターンについてはそれほど差はないのかもしれません。

このように考え方が違うので、ヨーロッパの本社と日本の支社がしっかりコミュニケーションをとり、理解し合うことが重要になります。時には外国人の「まずはトライする」という考え方を取り入れることも必要でしょう。取り返しのつかないミスなんてそうはありませんから。

私自身は、基本的には日本の自分のチームの味方というスタンスです。リテールの会社ですから、自分のチームのメンバーが走らなければ売上になりません。お客様にきちんと商品をお届けし、ご満足いただく。それがいちばん大事なことです。

伝統の技術や技法を守りつつ、モダンでエレガントな作品作りへ挑戦し続ける

― リヤドロは磁器のトップブランドとして世界中の人々から愛されています。その商品の特徴や展開についてお聞かせいただけますか。

1953年にスペイン・バレンシア州で創業以来、リヤドロの作品は現在も全てバレンシアの工房でひとつひとつ手作業で作り上げられています。着想からモデリング、彫刻、エッチング、絵付けまで、熟練したアーティストとデザイナーのチームが、創業時からの技術や技法を守り、ポーセリンを芸術作品へと仕上げています。

近年は今のお客様のインテリアに合わせたご提案をするため、クラシックな作品にとどまらず、一流のデザイナーや現代アーティストとコラボレーションしたモダンな作品を次々と発表しています。たとえばスペイン人アーティストであるハイメ・アジョンが創り出したキャラクターとポール・スミス、ケイツェン・ジャンなど名だたるデザイナーがコラボした作品なども人気が高いです。

また、シャンデリア、フロアランプ、ウォールランプ、テーブルランプなどのライティングコレクション、キャンドルやリキッドディフューザーといったフレグランス商品など、幅広いコレクションを展開しています。

雛人形や五月人形といった日本の節句作品をご用意しているのも、他のブランドにはない特徴だと言えるでしょう。

― 今年は70周年という記念すべき年ですね。

この記念すべき年に、日本を代表するデザイナー・深澤直人氏とコラボしたシャンデリア照明“Mokuren(モクレン)”を発表することができました。また守護龍(Gold)、Origamiドラゴン(RED)、ダース・ベイダー(Gold)など、70周年記念モデルも好評を集めています。

これからもリヤドロは、モダンかつエレガントでオリジナルなライフスタイルを代表するポーセリンブランドとして挑戦し続けていきます。

文:カソウスキ
撮影:Takuma Funaba

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