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「スタッフに会いに行く」というセレクトショップの未来を目指して。リアル×オンラインの融合で、買い物の楽しさを届けるビームス Heg.さんの接客術

「スタッフに会いに行く」というセレクトショップの未来を目指して。リアル×オンラインの融合で、買い物の楽しさを届けるビームス Heg.さんの接客術

オーバーサイズの洋服を絶妙なバランスで着こなし、親しみやすい発信でスタイリングを参考にする人も多いHeg.(ヘグ)さん。学生時代からビームスでアルバイトとして働きはじめ、現在は「ビームス 恵比寿」で買い物に楽しさを添えている。今年で入社7年目のHeg.さんは、接客の技術を競う「スタッフ・オブ・ザ・イヤー 2022」でグランプリを受賞。ビームスで培った「お客様目線」の接客が、高く評価された瞬間だった。コロナも徐々に収束に向かい、店頭での買い物が増えた今。Heg.さんは「コロナ前と同じ接客をするのではなく、オンラインの情報発信も並行して力を入れていく必要がある」と話す。店頭に立ちながらオンラインでの発信も積極的なHeg.さんに、お客様を巻き込む接客の極意をうかがった。

Heg.さん / 株式会社ビームス カスタマーエンゲージメント本部 デジタル部 オムニスタイル課 スタイルコンサルタントチーム サービスマスター
学生時代よりビームスでアルバイトとして働きはじめる。大学を卒業後、2017年にビームスに入社し、「ビームス 二子玉川」へ配属。その後「ビームス 恵比寿」に異動となり、オンラインでの発信をスタート。「スタッフ・オブ・ザ・イヤー 2022」グランプリ受賞。「お客様目線」を大切にした接客で、買い物や洋服を着る楽しさを伝えている。
Instagram:@res_no_vae

お客様目線の発信につながった、オンラインショッピングへの苦手意識

学生時代、どのような軸で就職活動をしていましたか?

もともと洋服が好きで海外にも興味があったので、洋服に関わる職業で海外にも行けそうなお仕事を探していました。

当時は営業や総合職でバリバリ働きたくて、海外にも行ける繊維商社の内定もいただいていたのですが、先輩社員から「20代後半から30代でようやく1人前になって、そこからがスタート」「海外とのやりとりがあるため、土日に出勤することがある」という働き方で、その忙しさを楽しめるかどうかという話を聞きました。

その分、十分なお給料がもらえるのかもしれませんが、仕事ばかりでもいいのかとふと疑問に思ったんです。人生が豊かになるかどうかと考えたときに、「自分の趣味も大切にしていきたい」という思いの方が強く、色んなことに興味を持って、好きなことを仕事に活かせるビームスを選びました。

ビームスに入社した決め手を教えてください。

学生時代の4年間、ビームスでアルバイトとして働いており、本部のスタッフがアルバイト先の店舗に来たときに、社内の雰囲気を感じられて、「この会社で働きたい」という気持ちが強くなったんです。もちろん洋服も好きなのですが、それ以上に会社のことが好きだったので、アパレル業界に就職するならセレクトショップのビームス一択でした。

好きな洋服や髪型で働けるので、アルバイトからビームスで働いて10年たった今、「やっぱりこっちの道を選んでよかった」と確信しています。

大学を卒業後、二子玉川の店舗に配属されます。アルバイトとして働いていたときと比べて変化はありましたか?

数週間前まで別の店舗にいたので、トレーナーの先輩も「何を教えようか?」という感じで、あまり変化はありませんでした。前にいた店舗との客層や接客スタイルの違いを学びながらも、店舗に立つことには慣れていたので、少しマンネリを感じていました。

そんなときに入社して半年くらいのタイミングで、所属店舗の上司から「公式サイトのスタイリング投稿を始めてみたら?」と声をかけられたんです。当時はインターネットで顔出しすることに抵抗があったので最初は断っていたのですが、マンネリを打破するためにもチャレンジしてみることに。時代の流れとしても求められているところであり、オンラインショッピングが苦手な自分の目線が活かせるかもしれない、という気持ちが後押しになりました。

負けず嫌いなので、やるからには徹底的にやりきりたい。結果として公式サイトのスタイリングやフォトログ、ブログなど総合的に評価する制度で、全社で1位を獲得することができました。

Heg.さんのスタイリングやフォトログの投稿は、ユーザー目線でわかりやすく欲しい情報がまとまっている

投稿するときに、どのような工夫をされましたか? 1位を獲れた秘訣を教えてください。

オンラインショッピングをしていたときに、「実物もこの色味なのか?」「サイズはこれでいいのか?」とよく悩んでいました。イメージと違うものが届いてしまったときに返品する面倒な手間に苦手意識を持っていたんです。自分が買い物をする立場になってページをみたときに、そのページだけで情報が完結できるような投稿をしていました。常に根底で「お客様目線」を意識しています。

スタイリング投稿などを続けていると、「Heg.ちゃんですよね」とブログを見て来店してくださるお客様も増えていきました。この名前で活動しているのも、お客様との距離感を縮めるため。

ブログを書くときもただ文章を書くのではなく、スタッフの画像やスタッフ同士の実際の会話を吹き出しで掲載し、流し読みができる状態にしていました。スタッフ同士の仲の良さや店舗の雰囲気を紹介することで、お客様が来店したときにいつの間にかこの輪に入っていた、という状況をつくっていました。

コロナ禍で再認識した、実店舗で買い物をする魅力

オンラインで顧客とのつながりを構築しながら、接客の技術を競う「スタッフ・オブ・ザ・イヤー 2022」で、グランプリを受賞されました。どのような想いでこの大会に参加されましたか?

社内で1位を獲得してから、全店のマネージャーを集めた会議や勉強会などで、講義する機会がありました。そこで自分の方法をご紹介は出来るものの、本当に最良かどうかは自信がありませんでした。「この方法で合っているのか?」と懸念していたときに大会の存在を知り、自分が大切にしている考えやマインドを試してみたいと思い参加しました。

大会を通してスタッフやお客様など沢山の方々が応援してくださったので、受賞したときはすごく嬉しかったです。アパレル業界への就職に反対していた父への証明にもなったと思います。

ここで意識したのも、やはり「お客様目線」。口コミやウェブサイトでリサーチしてから買い物をするのが当たり前になってきているので、自分も常にその目線を持っています。

「スタッフ・オブ・ザ・イヤー 2022」でグランプリを受賞したときの様子

インターネットを見てから来店される方も多いですよね。とくにコロナは業界にとって大きな転換点でもありましたが、振り返ってみて大きな変化はありましたか?

コロナ禍のお買い物は、「これを買いに来ました」と、目的を持って来店されるお客様がほとんど。外出を制限されていたので、ふらっと立ち寄る方はあまりいませんでした。淡々と進みがちなコミュニケーションのなかで、「やっぱり人と対面で会話ができるって、素敵だよね」とおっしゃるお客様にもお会いし、改めて実感する時間でもありましたね。

わたしたちは、お客様が事前にオンラインでリサーチする段階でサポートをしなくてはなりませんが、最終的に実物を見てから購入するお客様もいらっしゃいます。そういったニーズに対し、ただ商品を持ち帰ってもらうだけでなく、スタッフと会話をして、ここでしか得られない別の何かを持ち帰っていただきたい、という意識が高まりました。

オンラインで買い物を完結する人も増えたと思いますが、商品の情報だけでなく、わたしたちに興味を持ってもらえるような内容も発信して、より多くの人に「店舗に行きたい」と思ってもらえるような仕掛けも必要。オンラインと店舗、それぞれの足りないところをわたしたちでどう補っていくかが重要なポイントだと思います。

ビームスでは、まさにコロナ禍のタイミングである2020年5月に、「オムニスタイルコンサルタント」が発足されましたが、どのようなお仕事ですか?

オムニスタイルコンサルタントとは、デジタルツールを駆使し、リアルとデジタルの両面からお客さまとダイレクトにつながって多くの情報やスタイルを提供していく認定されたスタッフのことです。

各スタッフを総合的な評価で判断し、ワンスター、ツースター、スリースターとそれぞれクラス分けされます。スリースターがもっとも上位のポジションで、サンプルを撮影してご予約を促したり、店舗スタッフに対して講習会や勉強会を開催したりして啓蒙活動を行なっています。

ワンスターやツースターは、言わば今後スリースターになりうる候補生。スリースターには店舗所属のスタッフに撮影会の機会が与えられたり、デジタルに特化した動きをしていくようになっています。

いろんな部署から、オムニスタイルコンサルタントのチームに「デジタル接客力を上げたいから、講習会を開いてほしい」と声をかけられるようになって、首都圏の店舗だけでなく地方の店舗でも講習をするようになったのも、ひとつの成果です。

以前、設楽社長がインタビューなどで「ビームスは動物園だ」というような表現をされていましたよね。

社長は、さまざまな個性のスタッフがいることを「動物園」と例えられていますが、わたしも、普段からいろんな個性豊かなスタッフと関わるので、動物園という表現は間違っていないと思います。わたしたちオムニスタイルコンサルタントがデジタルとリアルを結びつけて、「こんなスタッフがいますよ」「こんな店舗がありますよ」と案内していけるような役割だと思います。

コロナ禍で改めて実店舗や接客の重要性が見直され、さらに、デジタルとリアルをつなぐ「オムニスタイルコンサルタント」が発足したことによりOMOが加速している

「このスタッフから買いたい」という未来を目指して

Heg.さんが考える、オンラインでは味わえない、実店舗の一番の付加価値とは、どのようなところでしょうか?

実店舗で買い物をする一番の魅力は、やはりスタッフに会えること。会いにいけるスタッフを目指しているので、好きなスタイリングをしているスタッフが提案してくれたものが買えるのは店舗ならではの体験だと思います。

AIに「あなたさっきまでこの商品見てたよね」と、広告として提案されるのではなく、対面なら「こういう趣味もお持ちなんですね。それなら、こちらがおすすめです」と、意外なものが提案されるかもしれません。

ルミネが取り組んでいる接客スキルを認定する制度「ルミネスト認定会」で「ルミネストゴールド」に認定された弊社スタッフの発信で発見があったのですが、お客様が試着をしていただいているときに、「何かお困りごとないですか?」とうかがっているそうです。

インターネットを使って自分で調べるときは、たとえば「室内は寒いから、薄手の羽織りを探そう」と商品まで辿り着かないと検索できないですよね。それをスタッフが「困っていることないですか?」と聞くことで、スタッフに検索をかけることができます。羽織りではなく、薄手のメッシュニットを案内されたり、そのスタッフならではの提案で新たなものに出会えるのも店舗で買い物をする醍醐味です。

AIに取って変わられない存在になるためには、感情が込められたコミュニケーションで、お客様との距離を縮めていくことが大事。少しずつコロナの収束に向かって来店が増えているなかで、「外での買い物って、楽しいよね」と言ってくださる方もたくさんいます。自分も楽しみながらお客様も巻き込んで、楽しさを持ち帰ってもらいたいですね。

オンラインで商品を紹介するときに、意識していることはありますか?

着た瞬間の心地よさや生地の厚みは、実物を手に取ってみないとわからないところ。「この洋服は着やすいな」と思った感覚を、わたしたちは手元で商品が見られない方や、近くにビームスの店舗がない方に対して、デジタルで伝えなければなりません。

わたしたちは普段店舗にいるので、手元に商品があって、試着できる状況が当たり前。洋服を見ることに慣れてしまっているので、スタッフの間で「よくある生地」と通用することもあるのですが、お客様のなかには当然その生地にはじめて触れる方もいます。初心に帰って、なんとなく感じた感覚や自分たちの当たり前を丁寧に表現しなくては、と思っています。

販売スタッフのこれからについて、描いている理想の姿はありますか?

商品を手に入れるためだけでなく、スタッフに会うために来店する、という世界線が理想です。スタッフに会いにいくことが、商品を買うことと同じくらいの割合で重要になっていくとおもしろいのではないでしょうか。

買い物をするときに、「あの人から買いたい」と人をベースに考えている方は、まだ多くありません。ゆくゆくはそれぞれの買い物に専門のプロがいて、美容師さんみたいに「このお客様は何時に来店する」と、買い物のスケジューリングができたら……と考えることもあります。

わたし自身いろんな業界に友人がいて、「この通りには、あの子のお店があるな」と、あらゆる地域で友人が働いています。ふらっと立ち寄れる場所に友人や知り合いがいる環境が楽しくて、買い物に行っても「いろんな人に会えた休日だな」、と過ごすことができるんです。自分もその一部になれたら嬉しいです。

お客様との会話から生まれるコミュニケーションは、さまざまな可能性を秘めていると語る。これからは販売員ひとりひとりの感性や提案能力が重要になってくるのかもしれない。

今後チャレンジしてみたいことや、目標を教えてください。

コロナ禍でデジタルでの接客が一般的になったものの、リアルでの接客も重要。どちらも両方同じ熱量を持ってスキルアップしていく必要性を、社内に伝える使命感を感じています。外出自粛期間を皮切りに、事前にリサーチをしてから来店する方が増えているので、これまで通りに接客するのではなく、お客様の買い物のスタイルに合わせて、私たちも対応しなければなりません。

アルバイトも含めてスタッフの人数が多いので、オンライン接客も流れ作業のようにやってしまいがち。来店されるお客様が増えたからといってオンラインでの発信を弱めてしまわずに、お客様がオンラインの情報に何を求め、最終的に来店につながっていることをしっかりとスタッフに伝えていきたいです。

大会でグランプリを受賞したからこそ、リアルとオンラインの融合を伝えていく使命があると感じています。もし、「これを買うならあの人のところに行こう」みたいな世界が広がるのであれば、この価値観を社内だけでなく、社外に向けて発信していくこともしていきたいです。

文:Nana Suzuki
撮影:Takuma Funaba

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