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「人と人がつながるプラットフォームでありたい」TOKISが浅草で描く展望とは

「人と人がつながるプラットフォームでありたい」TOKISが浅草で描く展望とは

浅草の住宅街に佇むTOKIS。オレンジ色の店構えに思わず目を奪われる。厳選されたこだわりの洋服が並んでいるだけでなく、『アトリエ』『ギャラリー』『リテール』の機能を兼ね備え、人と人がつながることを目的とした場でもある。オーナーはファッションブランドYOTA TOKIを手がけ、ファッション専門学校ESMOD TOKYOで講師を務める土岐洋太氏だ。双子の兄であり建築家の平太氏と一緒に2022年にTOKISを立ち上げた。浅草で有機的なつながりを大切にしている真意とは。お二人のこれまでのキャリアからTOKISに込めた思い、これからの展望を語っていただいた。

土岐洋太さん/TOKIS DESIGN 代表・YOTA TOKI デザイナー(写真:左)
ESMOD TOKYOでパターン、デザイン、モードファッション、テーラリングを学ぶ。卒業後、インポートの卸メーカーにて企画、営業、販売を経験。2013年にYOTA TOKIを設立。ESMOD TOKYOで講師を務める。2022年9月に浅草にTOKISをオープン。

土岐平太さん/Tado(Toki architects design office) 代表・建築家(写真:右)
神奈川大学工学部建築学科卒業。大学卒業後、約10年間建築デザイン事務所にて、大小さまざまな建築デザイン、建築外観デザイン、インテリアデザインを担当。特に古いマンション、店舗のリノベーションデザインが得意。

ファッションと建築。双子の兄弟が歩んできたそれぞれの道。

お二人のバックグラウンドを教えていただけますか。

土岐 洋太さん(以下、敬称略):僕は中学生の頃からファッションが好きで、地元・柏にあるお気に入りセレクトショップに通い詰めていました。原宿にもよく行っていましたね。

ファッション専門学校のエスモードに入学し、卒業後はアパレル企業で企画や営業を4年半経験しました。その後は自分のブランド“ YOTA TOKI ”を立ち上げて、現在で10年目になります。今では、母校のエスモードで講師も務めています。

土岐 平太さん(以下、敬称略):僕も現在もですがファッションが好きで、洋太と一緒に古着屋やフリーマーケットによく通っていました。柏には“裏原宿”をもじって、“裏カシ”と呼ばれる古着やセレクトショップ、雑貨店が集まるエリアがあるんです。

美術も好きだったので、高校1年生から美術の予備校に通っていました。しかし予備校で現役で芸大に行くのは厳しいなと気づいて。建築へ方向転換をして、大学では建築を専攻しました。大学卒業後に建築デザイン事務所に就職して、住宅の設計や店舗のデザインなどに約10年間携わっていました。

TOKISには洋太氏がデザインする、YOTA TOKIのコレクションが並ぶ。

ファッションや建築で印象に残るような原体験や影響を受けた人はいますか。

洋太:22歳の時に、有名ファッションデザイナーのジョンバートレット氏に会いにニューヨークへ行きました。ジョンバートレット氏は自身のブランドで数々の賞を受賞し、大成功を収められている方ですが、当時はブティックで接客もしていたんです。僕がカタコトの英語で話しかけたら、すごく喜んでくれて。なんとこの前SNSを通じて本人から取扱依頼の話がTOKISに来ました(笑)。日本にエージェントがないので仕入れることはできませんでしたが、本当は入れたかったですね。

平太:僕は国立代々木競技場や東京都庁舎を手がけた丹下健三氏ですね。フランスに行って有名な建築を巡ったことがあるのですが、そもそも風景が素晴らしいから、どんな建物でもかっこ良く見えてしまうんです(笑)。一方で丹下氏の建築物は、日本の美をずっと追求されていて、日本の雑多な風景の中にあってもかっこ良く佇んでいる。今でも憧れてますし、これからも参考にしていきたいですね。

ファッションのキャリアを築いてきた洋太氏と建築のキャリアを築いてきた平太氏の2人の想いが重なりあい“ TOKIS DESIGN ”が出来上がった。

別々のキャリアを歩まれてきたお二人が、なぜTOKISを一緒に立ち上げられたのでしょうか。

洋太:学生の頃から洋服が大好きだったので、それらを扱うお店に憧れていました。高校生の時に洋服の道に進むと決め、ESMOD TOKYOに入りました。そこでものづくりやデザインの奥深さに気づいたんです。そこで、ゆくゆくは洋服に限らず、幅広い分野のスペシャリストが集まったトータルデザイン会社をやりたいと、漠然と考えていました。23,4歳の頃には“ TOKIS DESIGN ”という屋号は決めていましたね。

就職や結婚などで動けない時期が長かったですが、昨年やっと平太と一緒に“ TOKIS DESIGN ”を立ち上げることができました。

TOKISは道の駅のような多種多様な人が集うプラットフォーム

なぜ浅草に店舗を構えたのでしょうか?

洋太:誰もやらない場所でやってみたかったんです。ニューヨークのダウンタウンに行くと、周りに他のお店がないようなところに、突然センスの良いお店が佇んでいたりする。日本は商圏をまとめる傾向がありますが、個人的には何もないようなところにポッと店舗を構えるのがモダンで新しいんじゃないかと考えてます。

あとは川沿いでやりたいなと思っていました。歴史で見ると、川沿いで商圏が栄える傾向にあります。フランスのセーヌ川とか、アメリカのハドソン川とか。浅草の隅田川沿いはビルが高くなくて、歴史もあるので好きです。

地元の柏で出店することも考えましたが、商圏ができあがっていて、アパレルのお店も一通り出揃っています。浅草はファッションのコンテンツがまだまだ少ないので、これからチャレンジできる余白があると思いました。

近隣の反応はいかがですか。

洋太:浅草は商業の町なので商いをする者どうしで、『浅草を盛り上げたい』という気持ちが伝わっているのか、歓迎されているように感じます。

渋谷や原宿などファッション/アパレルの店舗が多く立ち並ぶ場所ではなく、新しいチャレンジの場として「浅草」を選んだと語る。

TOKISは一般的なアパレルと違い、リテールや卸だけにこだわっていないとお聞きしました。TOKISのコンセプトについて教えてください。

洋太:TOKISのコンセプトは『リテール』『ギャラリー』『アトリエ』が複合したプラットフォームです。洋服の販売以外にも、イベント開催やものづくりの場として機能しています。そのため、地元のお客さまやブランドのファン、商談目的の取引先など多種多様な方々が来店してくれます。いろいろな人が集う“道の駅”のような存在でありたいです。

平太:僕は建築事務所に勤務していましたが、打ち合わせのためにお客さまが来社してくれていました。お話できるのは決まった目的を持った方々だけです。

一方でTOKISはアトリエ、リテール、ギャラリーの用途をもっているので、洋服目当てで来てくれたお客さまから別の仕事につながる可能性があります。TOKISの前を歩く人たちが、将来的に仕事につながるかもしれない。多種多様な人たちと出会えて、仕事の幅が広がっているのを感じています。

TOKISのイメージである“道の駅”について詳しく教えていただけますか。

洋太:TOKISは道の駅のようにいろいろな人が集うプラットフォームでありたいと思っています。道の駅には、近くの農家の農産物や手作り品、地域で作られた食品なんかも売っていたりしますよね。TOKISの場合は洋服の販売もする一方で、建築のプロとも話せるといった具合です。

さらに今の道の駅には小売スペース以外にもディベートができる場所や足湯、ドッグランなどさまざまな施設が併設されています。同じようにTOKISでも洋服の販売だけにとらわれずにいろんなことをやっていきたい。実際に商品の販売、打ち合わせ、ものづくり、イベント開催などをこの場所で行っています。

素敵なコンセプトですね。これまでどのようなイベントを開催してきましたか。

洋太:ヨガやマルチバーム作りのワークショップ、写真展、お取り組みしているブランドの受注会などを開催してきました。ゆくゆくは野菜の直売もやってみたいですね。僕のいとこが山形の庄内でお米を作っていて、実際に店舗でも売っているのですが、今後は山形のブランド野菜と合わせたマルシェを計画したいと思っています。

「道の駅」をイメージしたコンセプトで運営しているTOKISでは、山形・庄内で作られたお米も販売している。

モノを販売するだけではなく、さまざまな人が集まる道の駅のようなプラットフォームTOKISですが、お米やエスモード卒業生の商品が置かれていたり、つながりを大切にされている印象です。

洋太:人と人との有機的なつながりを大切にしています。例えばエスモードで担当している生徒が課題のチェックのためにTOKISに訪れます。学生が集う場所、寄り道できるような場所であっても良いのではないかと考えています。その一方で店舗の奥では緊張感のある商談をしていて、そのギャップがまた楽しいんじゃないかと思います。

現代はリモートワークが進んで会う機会が少なくなっていますが、直接会って話すに越したことはない。洋服もその場で売れた方が嬉しいし、建築の商談もその場で決まった方が嬉しいです。TOKISは人々が交流するアナログな場でありたいと願ってます。

今の時代だからこそ「アナログ」が大切なんですね。素敵な店構えからは想像できないワードでした。

洋太:人と違うのがいいです。理解されると嫌なこともあったりして(笑)。天邪鬼の部分があるんです。TOKISは洋服屋にもなれますが、いろいろなことをしているので、『洋服“も”売ってるよ』って表現がしっくりきますね。

TOKISの素敵な空間には洋服だけではなく、選び抜かれたこだわりの商品が揃っている。

温故知新を大切に、浅草で描く展望

TOKISは今年9月に1周年を迎えましたね。今後の展望を教えていただけますか。

洋太:一番は浅草に根付くことです。職人の町でもあるので、さまざまな会社と一緒にものづくりをしてみたいです。あとは平太が建築家なので、古い建物のリノベーションも考えています。カフェの内装をデザインするとか。TOKISのお客さまの中にもリノベーションをしたいとご要望をいただいています。建築でTOKISを知ってもらえれば、ファッションにも興味を持ってくれるかもしれない。ファッションと建築の相乗効果を期待しています。

それに衣食住に関することに携わりたいと昔から2人で話し合っていました。“衣”と“住”はやってきたので、次は食に関わることをしたいです。

平太:僕はここ浅草に長く住んでいて、街並みや建物を常にリサーチしています。浅草は古い建物がたくさん残っているので、希望があればリノベーションしていきたいです。例えばカフェや民泊施設など。古いものを生かして新しいクリエイティブなものを生み出す。そんなポテンシャルを浅草には感じています。

TOKISの建物も古い物件をリノベーションしました。もともとあるフレームを活用しながら新しい命を吹き込む方がこれからの時代にマッチしていると思います。今後はこの町を良くしていきたいと考えている人たちとつながり、コラボしていきたいですね。

TOKIS店舗リノベーション前
TOKIS店舗リノベーション後

最後にお二人が大事にしていることを教えていただけますか。

洋太:温故知新ですね。新しいことを突拍子もなくやるのではなく、何事にも順番がある。『基本を忠実に』ということを心に留めています。僕のコレクションも、一度時代を見つめ直して、デザインを新しく打ち出すという考えが根本にあります。

平太:現代はデザインツールがあふれかえっていて、素人でも少し勉強すれば簡単にデザインができます。だからこそ僕らにしかないオリジナリティを頑固に維持しつつも、新しいものも吸収していけたらと。若い人たちがサラッと出せるようなものではなく、こだわり抜いたものを提案していきたいですね。それを曲げてしまうと簡単なものに負ける可能性があるので、頑固な部分を持ち合わせていたいです。

文:吉田櫻子
撮影:Takuma Funaba

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