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外資系ラグジュアリーブランドのファイナンスの仕事とは? そして求められるスキルとは?

外資系ラグジュアリーブランドのファイナンスの仕事とは? そして求められるスキルとは?

ビジネスを包括的視点で捉え、財務面から経営の最適な意思決定を推進する外資系企業のファイナンス職。本国の親会社に対する数値報告も同職の職務であり、ビジネスリスクを予測し、会社の将来の計画や戦略を支援することで会社やブランドの価値を守る重要なポジションだ。今ではファイナンス職からCEOへというキャリアパスも珍しくなくなってきた。その理由や背景、求められるスキルとは何か。外資系ラグジュアリーブランドでの経理・財務・税務で豊富な実績をもつ、公認会計士・田村宏明にお話を伺った。

田村宏明さん/公認会計士・MBA 田村宏明公認会計士事務所代表
大学卒業年次に公認会計士試験合格し、4大監査法人に入所。監査やJ-SOX(内部統制報告制度)導入支援などを担当。その後、監査チームのインチャージ(現場責任者)を任され、現場のとりまとめ、監査報酬の見積もり作成、スタッフの一次評価、経営者ディスカッションへの参加などの経験を積む。この時にブランド業界に関与。その後はほぼ一貫して、外資系高級消費財企業にて経験を積み、ヘッドオブアカウンティングとして活躍。コングロマリットのブランド企業から単体のブランド企業まで幅広く携わり、単体ブランド企業に勤務の際は、経理・財務・ロジスティックス・法務を業務領域とする。2023年4月、田村宏明公認会計士事務所を設立。

数値面から経営戦略に携わるファイナンス職のキャリアパスとして

― 近年、ファイナンスをバックグラウンドにもつ人材が、ラグジュアリーブランドのCEOに就任するケースが増えています。それはなぜでしょうか。

アカウンティング(経理)、ファイナンス(財務)、バジェット(経営企画)に加え、ストラテジー(経営戦略)に関わることが増えたからだと考えています。

従来は、マーケティングやリテールの本部長からCEOへというのが多いパターンでした。ただ、予算をPL(損益計算書)として取りまとめているのは経営企画部門です。経営企画部門での仕事を通して、単に数値のみを取り扱うのではなく、企業経営の根幹となる戦略などにも触れる機会が得られます。CEOの決断などを横目に見つつ、具体的な業務の経験値を高めていけるので、ある意味、OJTのような形になっています。

ビジネスを率いていくうえで数値を読む力があるというのは非常に大きいです。

― そもそもファイナンスの仕事というのはどういうものですか。

会社の規模によって業務範囲は異なるため、一概には言いにくいところがあります。たとえば小規模な会社では、ファイナンスとアカウンティングを一人の社員が担当しているケースも少なくありません。一方、ある程度の規模の会社になると、アカウンティングが経理で会計処理の検討や、発生した取引の仕訳を切る、ファイナンスは財務として入出金や資金予測を担当するという形で分かれます。巨大企業ですと、事業部ごとにFP&A(ファイナンシャルプランニング&アナリシス)のチームを持っている場合もあります。

ただ、どのような規模の会社であっても、財務の部分についてはファイナンスの仕事となります。たとえば、いつ、いくらくらいお金の出入りがあるかを予測したり、足りなければ資金調達を考えることもあり支払いの部分もファイナンスの範囲と言えます。ファイナンスマネージャーというと、通常は入出金に関する責任を負う人というイメージです。

日系企業では、たとえば為替のリスクヘッジ、為替予測も重要な業務の一つ。また株式発行、社債発行、外部金融機関からの借り入れなど、どのような手段で資金調達を行うかも重要な仕事です。

PL、BSに続き、重要視されるようになったキャッシュフロー計算書

― キャッシュフローの重要性について解説いただけますか。

会社経営においては、従来はPL(損益計算書)が最重要視され、その後BS(貸借対照表)も重視されるようになりました。そしてここ5年くらいは、PL、BSに加えてキャッシュフロー計算書の重要性が急速に増しています。PLは会社の一定期間の経営成績、BSは財政状態とも言われ、特定時点の企業の体力を示すものです。それに対し、キャッシュフロー計算書は、資金の動きを示すもので「どのように資金を得てそれが使われたか」を把握するために利用されます。

ただし、キャッシュフロー計算書の重要性が上がったから、PLの重要性が下がったということでは決してありません。PL、BSも重要だが、キャッシュフロー計算書の重要性も上がってきたという意味です。最適な資金運用という点に、各社が注力するようになったということですね。

― 具体的な例をあげて、ご説明いただけますか。

たとえば10億円の余剰資金を当座預金の口座に置いておいた場合、利息も生まれず10億円のままです。しかし海外のヘッドクォーターの普通預金利率が5%の場合、ヘッドクォーターに送金してヘッドクォーターの預金口座に入れておけば、5%の利息、つまり5000万円が得られます。預金に限らず投資に回したとしても、運用益が得られる可能性もあります。

また、大型投資を行う場合、仮に投資案が承認されたとしても資金がなければ実行できません。ですからPLのみではなく、キャッシュフローの考え方も重要になってくるわけです。

― ファイナンスの経験を積めば、ラグジュアリーブランドのCEOになれる可能性があるのですね。

ファイナンスマネージャーからCFO、そしてCEOへというキャリアの可能性はもちろんあり得ると思います。しかしながら、ファイナンスのキャリアがブランド業界のCFOにおける確実または最速なキャリアパスかというと、現時点では一概にYesとは言えないでしょうね。

確かにCFOからCEOというケースは多々見られるようになりました。とはいえ、マーチャンダイジングや営業、マーケティングといった他の部門の長からCEOになるケースに比べて多いかというと、そこまで明確にはなっていませんので。

一般的なビジネスアカウンティングの知識が求められるが、もっとも重要なのはコミュニケーションスキル

― ファイナンス職に求められるスキルセットは何でしょうか。

もっとも重要なスキルはコミュニケーションスキルです。

テクニカルスキルという点では、当然ながら簿記の知識はあるに越したことはありませんが、どのレベルまで必要かというのはなかなか難しいですね。税理士レベルなのか、会計士レベルなのか、あるいは簿記2級レベルなのか。

アカウンティングマネージャーという点では、できれば簿記2級に加えて法人税や消費税など基本的な税務知識は欲しいところです。それは税務調査の対応ができるというのがアカウンティングマネージャーの一つの指標になるからです。

いっぽう、アカウンティングマネージャーとファイナンスマネージャーの両方のポジションがある規模の企業のファイナンスマネージャーのテクニカルスキルとしては、資格的なものがあるに越したことはないものの、実務経験のほうを重視したいですね。

また少なくともCEOレベルの人であれば、一般的なビジネスアカウンティングレベルは必須知識になってくるだろうと考えています。

― なぜコミュニケーション、対人スキルが重要なのですか。

ファイナンスはその性質上、多くの部門とのやり取りが発生します。また期限に近づいた際の督促や各部門からの情報収集なども行う必要があるため、私個人としてはコミュニケーションスキルがいちばん重要だと考えています。会計的なスキルは最低限でも対人スキルが高ければ、ファイナンスの業務は比較的円滑に回っていきます。最近の例でいうと新たに導入されたインボイス制度もいろいろな部署が絡んできますので、根回しや協調体制づくりといったコミュケーションが不可欠だったと思います。

海外とのやり取りでは、相手の人間だけでなく文化的な背景や立場の違いなどもある中でのコミュケーションとなります。たとえばカウンターパートとして海外のヘッドクォーターの人間が出てきた場合、いかにNoというべきところでNoと言えるか。それをそつなくやれるか、といった点からもコミュニケーションスキルの重要性は明らかです。

営業職などとは違い、あまりファイナンス分野でこのスキルに注目が当たることは少ないのですが、極めて重要だと思います。

上司の姿からファイナンスに必要な視野の広さや物事をリンクさせて考える力を学んでほしい

― 優秀なファイナンスの定義について、お考えをお聞かせください。

ひと言でいうと視野の広さとコミュニケーション能力の高さです。

あるブランドが路面店を初出店することになったとします。それに対して、ただ「すごいな」と思うのか、「この出店にはどれくらいの資金が必要なのだろうか」「100億円必要だとしたら、その資金を自己資金で賄うのか、外部から借り入れるのか、株式発行で調達するのか」「外部から借入する場合は何カ月前に申し込む必要があるのか」と、リンクさせながら考えられるのか。

つまり、ある事象が発生した時に、「それはここに関係するから、ここに手を打たないと」といった繋がりが見えて、前もって対策を講じられる人が優秀なファイナンスだと私は考えています。

ただ、そうした着眼点や対応策を自ら思いつくというのはなかなか難しいものです。CEOやファイナンスのシニアマネージャーといった上司の姿から学んでいくものだと思いますし、そうした姿勢で上司の仕事ぶりを見ることが大事なのだと思います。

企業の税務・会計、コンサルティング業務から海外留学支援まで幅広いサービスを提供

― 最後に、田村宏明公認会計士事務所が提供されているサービスについてご紹介ください。

当事務所では、月次・年次決算業務や経理業務の受託、監査業務サポート、会計・税務顧問、税務のセカンドオピニオン、ラグジュアリー業界企業への戦略支援などの業務を行っています。監査業務サポート業務では、英文のIFRSリファーラル監査を得意としています。

監査、経理共に外資系企業にて実務経験を積み重ねており、その点が当事務所の最大の特徴だと考えています。ご興味をお持ちになりましたら、ぜひご連絡いただければと思います。https://tamura-cpafirm.jp/

さらに、EMBA, MBA, Executive Educationの留学支援事業も手掛けています。私自身海外留学の経験があり、出願プロセスで大変苦労したため、そのような苦労を味わうことなく、「最小の労力でEMBA, MBA, Executive Educationを目指す」を目標に掲げて、支援を行っています。

10月28日(土)に京王プラザホテルにて開催される「QS Connect & Discover MBA留学フェア」にて説明会を行いますので、こちらも関心のある方はぜひお問い合わせください。https://bit.ly/NextStageOxford

文:カソウスキ
撮影:Takuma Funaba

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