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ツール・ド・フランスでも活躍する自転車メーカー「スペシャライズド」日本法人代表が語るブランドの根源と自転車市場の将来性

ツール・ド・フランスでも活躍する自転車メーカー「スペシャライズド」日本法人代表が語るブランドの根源と自転車市場の将来性

1974年にアメリカでスタートしたバイクブランド「スペシャライズド」。世界に8拠点の研究所を抱え、製品の開発に対して非常に力を入れている。そして高い機能性を持つ自転車を生み出し続けている背景には、同社の社是の一つである「Innovate or die – 革新を、さもなくば死を」という精神が影響しているのだという。今回はスペシャライズド・ジャパン代表である木戸脇 美輝成さんに、ブランドの強みと自転車市場の今後の展望についてお話を伺った。

木戸脇 美輝成さん/スペシャライズド・ジャパン代表
10代の頃からスノーボードに熱中し、大学卒業後、スノーボード世界一のブランド、バートンに入社。マーケティングマネージャーとしてイベント活動等を行う。その後、ナイキに転職し、ブランドマネージャー、エナジーマーケティングディレクターを経験、ランニングとライフスタイルの関係性に着目し、コラボレーションやランニングコミュニティの立ち上げなど、さまざまなプロジェクトを手掛けた。2017年からアディダスゴルフにて​​アジアパシフィック地域のブランドディレクターとして活動。昨今のゴルフ人気を高める。2023年よりスペシャライズド・ジャパンの代表を務める。

「Innovate or die – 革新を、さもなくば死を」の精神で作られた製品力

― まず木戸脇さんが日本代表を務めるスペシャライズドのブランドの歴史、そして製品の特徴や性能についてお伺いできますか?

スペシャライズドは1974年にアメリカでスタートしたブランドで、マイク・シンヤードという自転車好きの青年が立ち上げました。当時アメリカにはあまり良い自転車のパーツがなく、ヨーロッパや日本の製品の方が優れていたため、イタリアのパーツをアメリカに輸入する代理店としてスタートしました。その後、オリジナルのタイヤ、ロードバイクをリリースし、1981年には世界初の量産型マウンテンバイク「スタンプジャンパー」をリリースし大ブレイク。世界最高峰の自転車ロードレースであるツール・ド・フランスといった、世界中の様々な大会で優勝するような自転車を作り上げています。

現在はロード、マウンテン、アクティブ(街乗り)の3つのカテゴリーに加え、新しいジャンルとしてロードバイクでオフロードも走行可能なグラベルバイクがあります。この4つの分野に対し弊社はアプローチを行っているのですが、スペシャライズドは製品に対する情熱が非常に高い。それを象徴するのが、社是の一つである「Innovate or die – 革新を、さもなくば死を」です。

ヨーロッパツアー中のマイク・シンヤード

― 「革新を、さもなくば死を」と、かなり振り切った表現が使われているのですね。

私も最初は驚いたのですが、これはマイク・シンヤード自身が唱え、チーム一丸となって本気で実践していることです。弊社は現在、世界に8拠点のイノベーションセンターを構えていて、それぞれの分野にかなりの投資を行っています。そのうえで何度もテストを重ねて新しいものを常に生み出し、必然的にレベルが非常に高くなっているのです。

E-バイクも他ブランドはモーターに関して別のメーカー製品を採用していたりするのですが、マイク・シンヤードは「E-バイクはモーターが肝なのに、それを外注するのはありえない」と言って。スイスにイノベーションセンターを作り、エンジニアたちを招いて、自分たち専用のモーターを作りました。「Innovate or die」精神のベースで作ったので、軽量化、パワー、デザインのバランスは最高です。

このようなことが実現できるのは、やはり弊社だからこそ。モーターを作るにはかなりの投資が必要ですが、ライダーのために何が一番ベストなのかを常に判断基準として「Innovate or die」を実践しています。製品自体が驚くくらい高品質であることが、このブランドの一番の強みでしょう。私自身、会社に入る前に「このブランドはやりがいがあるな」と感じたのはその点でした。やはりプロダクトが強いことは世の中のライダーたちが何よりも求めていることです。そして自信を持ってしっかりブランディングしていくことで成長につながります。

― ほかにスペシャライズドの強みは、どんな点にあると思われますか?

一般的な知名度でいくと、スペシャライズドのことを知らない人が多いです。さらにライダーの中でも、スペシャライズドは「2台目の自転車」と言われているようです。「ちょっとロードバイクに挑戦してみよう」とか、「マウンテンバイクをやってみよう」と考えた時は、知名度が高くお店も流通も多いブランドのバイクをまず購入されますが、それは当然のことだと思います。

ですが、一度乗ってみて、この世界に魅了されると、スペシャライズドを選ぶ方が多いという感じですね。おかげ様で非常に良いブランドポジションを築くことができていて、本当に好きな人、情熱を注いでいるライダーに選ばれるブランドとなっています。

とはいえ、ビジネスとしては1台目の自転車としてもしっかり選ばれていきたいので、そこにもっとビジネスの機会はあると思います。プレミアムなポジションのまま、もっと民主化していくということが今後の成長にとって必要だと感じています。

2023年のLa Vuelta de Espana で山岳賞を獲得したレムコ・エヴェネプール

大きなポテンシャルを感じるE-バイクのニーズ

― 自転車業界は今、世界的にどのような状況にあると思われますか?また、これから日本市場はどんな動きになっていくのでしょうか?

どこの業界でもそうだったと思いますが、コロナ禍はサプライチェーンが乱れた3年間でした。コロナによって工場が止まって製品が作れないという事実は、いろいろな産業で起きていて。自転車業界はその中でも特にあおりを受けた業界だと思います。

コロナの時は、みんな電車に乗りたくない、ソーシャルディスタンスを保ちながら通勤したい、体を動かしたい、と言ったニーズがあって、世界中で自転車が爆発的に売れました。しかし工場はすべて止まってしまい、自転車の在庫がかなり薄くなってしまいました。そしてコロナが終焉を迎え工場が再開した際に、たくさん作っていったら、逆に自転車があふれてしまうという事態に。今も引き続き、スペシャライズドだけではなく各社セールを行ったり、さまざまな取り組みを行っています。

その中で少し光が見えてきて。8月にリリースしたTARMAC SL8というロードバイクが、世界中で大ブレイクしました。2020年に前のバージョンが出た時も大ヒットしたのですが、その売上を抜く勢いになりました。コロナによるあおりを頑張って処理しながらも新しいものもしっかりお届けしていかなければいけないので、両輪をしっかり回しながらビジネスを行っている状態です。

― ホームページを拝見すると、スペシャライズドの商品は3桁万円のものもあり、その辺の国産車より高いですよね。やはり投資をしているからこそ、この価格帯になるのでしょうか?

自転車はマテリアル的にも、空力科学やデザイン的にも、最新のイノベーションが数多く取り入れられています。例えばボディがすべてカーボンでできていている製品は本当に軽くて薄いのですが、どう編み込むと薄くても軽量で強度が保つかなど、細部まで極限を攻めています。女性でも片手で軽々持てる最新のロードバイクのイノベーションは、グラム単位、ミリ単位で最新のイノベーション、サイエンスが取り入れられており、世界のトップライダーのニーズに答えるために数年の歳月をかけて開発しております。

― 最近はE-バイクが増えてきていると感じます。これは世界的な流れだと思うのですが、市場の変化に対して、どのようにお考えでしょうか?

その点については今、私自身が手掛けていきたいと考えているテーマです。街でスペシャライズドのE-バイクを見かけるかというと、まだほとんど見かけない。でも約50年あまり自転車専門で営んできた会社が作るE-バイクは色んな意味において一味も二味も違います。

今、主流となっているE-バイクはモビリティ面、デザイン面でも非常に優れたプロダクトですし、若い人たちの心にも刺さっていてマーケティングも上手。私自身もすごくかっこいいと感じます。一方で自転車専門企業のE-バイクはもう少しアスレティックなデザインになっていて、アスリート寄りというか、ウェルネスの面が非常に考えられていています。あとはバランスや走り心地、乗り心地がとても優れています。そういうところをしっかり理解してくださる目の肥えた方々に、積極的にアプローチしていきたいと思います。今後の計画の一つとして、新たなカテゴリーのE-バイクを販売していきたいと思っています。このあたりは楽しみにしておいていただきたいです。

― モビリティの手段として、今後もバイクは注目されると思いますか?

アンケート調査の結果を見ると、今後、日本で自転車を買いたい人の40%は、「E-バイクを買いたい」と考えているようです。そのため、相当なポテンシャルがあると思います。特に我々は、ウェルネス、環境問題といった側面に意識を持っていらっしゃるライダーの方々と相性がいいと思います。

ただ楽をしながら移動するというよりは、そういった価値観を通してモビリティを考えることで、とても今らしいモビリティライフが過ごせるようになると思います。我々はそんな日常のライダーの方々をサポートしていきます。

今の時代に求められているマインドは、楽しく夢中になって結果を出すこと

― スペシャライズドの日本代表として、今後のご自身のミッションをどのようにとらえていらっしゃいますか?

私がこの会社に入って非常にいいなと思ったのが、「PEDAL THE PLANET FORWARD ペダルをこいで地球を前に進めよう」という企業の存在意義です。これはサイクリングを通して人々の健康や生活の質を向上させるとともに、環境や社会問題への改善にも挑戦していることを意味しています。ホームページにはこの概念をイラストで説明しているのですが、非常にイメージしやすいものになっていると思います。

考え方は今の時代にフィットしていますし、「PEDAL THE PLANET FORWARD」ではFORWARD FOURという4つの重要な要素があります。これはpeople、product、experience、responsibilityというのが具体的な中身です。

productについては、さきほど申し上げた「Innovate or die」の精神で作ってきたのは間違いありません。peopleは、スペシャライズド自体、自転車を好きな人たちがこれまで50年間支えてきたすごくコアなブランドなので、自転車に対して情熱のあるアスリートがたくさんいらして。みんなブランドが大好きで仕事しているから、そういったかたがたは我々にとって特別な存在なのです。

その次のステップとして、会社自体をBest place to work、 ride and growという、「働くのに一番いい場所にする」という課題に取り組みたいと考えています。弊社にはランチライドという、お昼の時間は自転車に乗り、終わったらサクッとご飯を食べて仕事をするという非常に良いカルチャーがあります。このように自転車に乗るカルチャーを会社自体が推進しているので、自転車好きにはたまらない環境だと思います。

ただしrideの後のgrow、つまり会社をどう成長させていくのかが、経営者の私としては重要な課題になります。ブランドに愛を持ったライダーたちが運営する会社で、そこからどのようにして成長していくのか。それは会社の中にずっといると見えなかったりする部分もあるので。私自身はアウトサイダーな目線から次のレベルに持っていくことを手掛けたいと思っています。

自転車にたくさん乗りながら、しかもビジネスも成功しているなんて最高な環境だと思います。本当に好きなことを仕事にして、夢中になって取り組む中でビジネスも成長することが、現代の価値観としてはとても大切だと思っています。

最高の自転車好き集団が、夢中になって仕事をして、そして成長する。最近、「努力は夢中に勝てない」という言葉はその通りだなと思って。努力してやることも大事なんですけれど、夢中になってやって結果が出る方が絶対に楽しいし、そういうマインドが今の時代求められていると思うので。スペシャライズドもそういう会社にしていきたいですね。

― 木戸脇さんのこれまでのご経歴を拝見すると、一貫してスポーツブランドで、スポーツとカルチャーの融合に取り組まれていらしたという印象があります。木戸脇さんのように自身が好きなことを仕事にするためには、どうすれば良いと思われますか?

私はそんなに器用な方ではないので、好きなことしかできないんだと思います。逆に言うと他の道を考えたことがないかもしれません。もちろん、苦しいことも嫌なこともあります。でもそれよりも取り組んでいることが自分の価値観に合うことの方を大切にしています。好きなことに夢中で取り組んでいると、同じ価値観の人々が集まってくる。そうするとまたそこから広がりも出るし、さらに良いサイクルができるような気がします。

文:キャベトンコ
撮影:Takuma Funaba

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