真のサステナビリティへと導く「Shift C」「UPDATER TRACKs」。誕生の背景と目指す未来を、環境活動家・深本南さんが語る
サステナブルやエシカルに関する情報、またそれらをうたった商品で溢れている昨今。選択肢が広がる一方、うわべだけのグリーンウォッシュなものも紛れており、やや混沌としている。そんな中、ファッションやライフスタイル領域において信頼できる情報や商品を紹介するプラットフォームが2つ、新しく誕生した。株式会社UPDATERが運営する「Shift C powered by Good On You」(以下、「Shift C(シフトシー)」)と「UPDATER TRACKs(アップデーター トラックス)」だ。エグゼクティブアドバイザーとして両プラットフォームの指揮を執るのは環境活動家の深本南さん。環境問題に関心を持つようになったきっかけから、これまでのキャリア、2つのプラットフォームの意義や今後の展望を伺った。
深本 南さん/環境活動家、株式会社UPDATERエグゼクティブアドバイザー
幼少期から環境問題に高い関心を持つ。大学卒業後はファッション業界に身を置き、ビジネスを通じた環境問題の解決、社会貢献を志す。ファッション・IT系企業でECコンサルティング、マーケティング職に数年間従事。2020年、国内外のサステナブルな情報を発信する「ELEMINIST」を創設。以降、サステナビリティを専門領域としてさまざまなイベントの企画・プロデュースなどに携わる。2023年に株式会社UPDATERエグゼクティブアドバイザーに就任し、「Shift C」、「UPDATER TRACKs」のローンチに携わる。
幼少期から胸に抱く“地球を守りたい”という想い
― 深本さんは、いつ頃から環境について高い関心を持ち始めたのですか。
もともと共感力や利他的な精神が強い子どもだったのですが、きっかけとなったのは小学生のときに教科書に載っていた公害病や環境汚染問題。その深刻さを知り、“私は地球を守っていこう”と強く思ったのです。ちょうど、授業で20歳の自分へ向けて手紙を書くことがあり、その手紙にも「今、地球は平和ですか。私は水や電気を大切にして地球を守って生きています。あなたもそうしてください」というメッセージを書きました。
― ずいぶんと早くから関心を持たれていたのですね。
そうですね。家のトイレで流れゆく水を仁王立ちで眺めながら、“このトイレの水、雨水を利用できないだろうか”と考えるような子どもでした。その後も想いはずっと変わらず、大学時代には音楽フェスのゴミを分別し、資源化するボランティア活動に参加。それをきっかけに仲間と環境団体を立ち上げ、企業に勤めるのではなく社会課題を解決することでビジネスが成り立つ新しい働き方を模索しながら運営していました。
ファッションECの世界でスキルと経験を積む
― 大学卒業後は、ファッション業界へ就職。入社後はどのようなお仕事をされていたのでしょうか。
環境団体を運営するも、当時はそれだけで生活するのが難しいと痛感し、社会人になることを決断しました。音楽以外で影響力のある産業はどこかと考えたときに行き着いたのがファッション業界。人々が何気なく消費するアイテムがアニマルウェルフェアなセーターやオーガニックコットンのTシャツだったらいいなと思ったんです。
いま、カッターとガムテープを使わずに開封できる切り込みの入ったダンボールがありますよね。実はあのダンボールをパッケージメーカーに依頼して作ってもらったのはおそらく私が最初だと思います。EC部門で働いていた当時、毎日大量に使うガムテープを少しでも減らし、ダンボールを極力きれいな形でリサイクルしやすくしたい、と考えたことがきっかけ。私が仕事でサステナブルなイノベーションを起こせた第一歩でした。
― その後はどのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。
働くうちにだんだんとわかってきたのは、企業は利潤しか追求しておらず、社会貢献について考えるのは二の次、三の次だということ。ならば、自分がもっとスキルアップして決裁権を持つ人間になり、社会貢献や環境にやさしい仕事を生み出せるポジションに就くしかない、と。
そこで20代後半~30代半ば頃は2~3社でEC部門の事業部長を経験したり、ラグジュアリーブランドのeコマース構築、コンサルティングの仕事に携わったりしながらキャリアを積んでいきました。2020年にはWebメディア「ELEMINIST」を立ち上げました。自分が思い描くビジネスを行うために必要なスキルや経験を積極的に積んでいった時期ですね。
いま日本に必要なのは、信頼できるガイドやプラットフォーム
― 2023年12月にスタートした「Shift C」は、どのようなプラットフォームなのでしょうか。
「Shift C」はファッションにおいて、エシカルな消費判断や選択をできるようにしたエシカル度レーティングガイドです。約6,200のブランド(うち、日本のブランドは約390)のエシカル評価のデータを載せていて、エシカル度は5段階(素晴らしい・良い・ここから・まだまだ・他の選択を)で公開されています。
「Shift C」で公開するエシカル評価のデータは、世界最大級のエシカル評価機関「Good On You」と連携しています。「Good on You」のレーティングは、すべて公開情報に基づいていて、地球・動物・人間の3つの観点からなる900以上の項目でプロフェッショナルチームが評価したもの。これより、消費者は公平で透明性の高い信頼できる情報をもとに消費判断ができるようになっています。
― これまで日本にはなかった新しい発想ですね。
ファッション業界の課題を解決するため、日本にもそういった評価機関や公平で透明性のある選択肢の整備が必要だという考えからローンチに至りました。
いま国内には、“サステナブルやエシカルを実践していきたいがどうしたらいいのかわからない”、あるいは“脱炭素には取り組んでいるがゴミ問題は解決できていない”というように部分的にしか取り組めていない企業も多いのではないでしょうか。今後はそういった企業に対しても包括的にガイドしていける「Good Measures」というソリューションもサービスとして展開予定です。
― 2024年3月に誕生した「UPDATER TRACKs」は、どのようなプラットフォームですか。
生活者の暮らしをアップデートすることができる、サステナビリティに特化した検索型プラットフォームです。フード、ビューティーなどライフスタイル全般の商品アイテムを中心に、ショップやアプリ、書籍をご紹介しています。
いずれも自ら生産者を訪ねたり、経営者にお話を聞いたりして「顔が見える」ものに厳選。各ジャンルの専門家をアドバイザーに迎え入れ、独自のエシカル基準をクリアしたものだけを情報提供しています。
― いま世の中にはさまざまな情報、アイテムが溢れています。どれを選べばいいのかわからないときにも安心ですね。
どういった商品やサービスを選択すればいいか、またどの団体に寄付をすればいいかと私も知人からよく聞かれるため、自分が出会ってきた素晴らしい商品や情報をチャットbot化したいと考えていました。
非常に厳しい目線で選定しているので、最初はご紹介できるアイテム数が少ないかもしれませんが、専門家の方々とも提携して数を増やしていき、お客様の声も聞きながら、みんなでいっしょに共創していけるプラットフォームを目指していきたいと思っています。
原動力は、動物・植物・地球への愛
― 環境活動家としての活動についてもお聞きします。ここ数年は、さまざまなイベントを主催・プロデュースされていますね。
そうですね。なかでも2023年4月に開催した「EARTHDAY SHIMOKITA」は、大盛況でした。地球環境のために皆が簡単に行えるアクションをたくさんご提案したイベントで、企業の協賛を取らず、すべて自己資金+共催する方々とで実現させました。
利潤目的ではなく、“地球や環境を良くしたい”という同じ純粋な想いを持った者同士から生まれたつながりの強さ、パワーは計り知れない大きさでしたね。それが自然と来場者たちにも伝わり、深い共感を呼んだのだと思います。ちなみに、このイベントでは“ゴミを出さない(ゼロウェイスト)”も意識しました。その結果、約4,000人が参加したイベント終了後に出た生ゴミは、片手にのるサイズのザル1杯分だけだったんですよ。
―それは驚きです。今後の深本さんの活動にも大きく影響していきそうですね。
単に商業目的・利潤目的でサステナビリティやエシカルについて語るのは誰でもできること。私は本気でそれらに取り組んでいる方々の想いや愛をそのまま伝わるようなことをしていきたいですし、それが自分の役割だと思っています。
イベントを通し、社会を変えていくためのヒントは“現場にある”ということも改めて感じました。私自身も、もっと現場=リアルな世界での学びや体験を行うことが必要。時間を見つけては、地方の山や森へ行って自然、生き物に触れたり、土中環境について専門家から学んだりしています。
― とてもパワフルに活動されています。深本さんのパワーの源となっているのは何でしょうか。
常に動物や植物、地球への愛が自分の中にあります。苦しいことや悔しいことがあっても地球環境や動植物たちが犠牲になっているニュースを見ると、奮い立たせられます。こんなつまらないことでくじけている場合じゃない、とまた走り出せるんです。これからも私はそうやって走り続けていくのだと思います。「Shift C」や「UPDATER TRACKs」、さまざまな仕事・イベントを通じて、地球環境のために真に良いこと、社会貢献に繋がることを行っていきたいです。
取材・文/鈴木里映
撮影/船場拓真