五感を感じる禅リトリート施設「禅坊 靖寧」とは。人材サービスを展開するパソナが考えるウェルビーイング
都会を離れた大自然の中で、体にやさしい食事とマインドフルネス体験を提供する「禅坊 靖寧(ぜんぼう せいねい)」。価値観が多様化している現代で、なぜ「ウェルビーイング」が求められているのか。人材事業を主体とするパソナが、淡路島という地に禅リトリート体験ができる施設をつくった理由、そしてその背景にある人と自然の調和について、株式会社パソナグループ 執行役員 Well-being本部長の大出亮さんにお話をうかがった。
大出 亮さん/株式会社パソナグループ 執行役員 Well-being本部長
1976年、福島県生まれ。金融業に就職後、求人誌会社に転職。2006年合併に伴いパソナへ入社。入社後は全国の営業支店で人材派遣等に従事した後、淡路島へ異動。淡路島ではパソナグループの企業理念「社会の問題点を解決する」ための事業開発を推進するほか、真に豊かなウェルビーイングな生き方・働き方を推進する活動を行っている。
五感で自然を感じる「調和」という概念
― 「禅坊 靖寧」のコンセプトについて教えてください。
「禅坊 靖寧」がオープンしたのは2022年4月。東経135度、日本標準時子午線、いわゆるパワースポットに位置しており、360度に広がる淡路島の四季折々の景色を五感で感じながら禅体験ができるリトリート施設です。大自然の中で心と体を癒すリトリート体験を通して、自分と向き合う時間を提供しています。
― 建築界最高栄誉といわれる「プリツカー賞」を受賞した、坂茂氏の設計による建築物というのも特徴的ですね。
日本杉を組み合わせて作られた全長約100mの木造建築で、約85%が木で建設された建物になります。いかに自然と調和するか。そのためには、自然を感じつつ、自然の中に溶け込むものでないといけません。これはパソナの全施設に共通するのですが、例えば外観であれば、 山の稜線を超えない高さで建設します。山から飛び出た大きな建物は印象に残りますが、自然の景観としては、そぐわない可能性があるからです。
そしてもうひとつ。自然の中にある木の高さは、人が感じられる五感の距離と近いものがあります。「知る」「聞く」だけではなく「感じる」という五感が及ぶ距離にそれを置かないといけない。だから「禅坊 靖寧」には、雨の滴る音を聞くという仕組みがあるんです。
これだけ長さのある建物なのに、雨樋(あまどい)がありません。つまり、雨がどこからでも落ちるということ。下の土地と建物の高さによって雨の音が違う、これが自然の理論です。そして水が滴る音からは、いろいろな音楽が聞こえてきます。水溜まりに落ちる音、岩に落ちる音、草木に落ちる音。これが「感じられる」であり、ある意味「自然」なのです。
― それらを自然の中で感じることが、「禅坊 靖寧」の特徴であり、魅力なのですね。
感じている状態とは、人にとって「調和」が取れている状態だと我々は考えています。日本には四季があり、人はそれに合わせて体を調整しながら暮らすことが大切です。そうしないと、風邪を引いたり、心や体のバランスが崩れたりしてしまう場合もあります。
例えば、日本家屋で取り入れられている襖(ふすま)や障子は、陽をいかに調光するかですよね。私の好きな言葉に「塩梅」があります。自然と調和して生きていくのは、まさにいい塩梅です。それが人間の豊かさ、柔らかさ、しなやかさを取り戻すことに繋がるのではないかと思います。
シンプルに力強く、真に幸せな働き方を追求していく
― 「禅坊 靖寧」が提供されているプログラムには、どのようなものがあるのでしょうか。
精神を落ち着かせ、調和を取り戻すために「ZENリトリート」を提供しています。このプログラムでは、瞑想やヨガを組み合わせた禅体験を行い心と体をひとつにします。また、素材にこだわったオリジナルの「禅坊料理」や「ZEN茶」「ZEN書」があるほか、季節のお食事で味噌や麹を作るといった食のプログラムを体験していただくことも可能です。これらは独自に生まれたものではなく、元々は我々文化の中に根付いていたものです。
― プログラムを受けることで人間が持っている本来の感覚を取り戻すことができそうですね。
仰る通りです。例えば、プログラム内の食事では「禅坊料理」を提供しているのですが、この料理には動物性食品、砂糖、油、乳製品、小麦粉を一切使用していません。加えて、現代では多く出回っている工業的製法で作られた調味料ではなく、1年から3年の時間をかけて伝統的な製法で作られた天然醸造の調味料で調理をしています。これは素材本来の味を引き立たせ、人間の身体にもやさしく健康を考えながら食べることで健康に繋がり、それがウェルビーイングとなります。
― なぜこのような施設をパソナグループが作られたのでしょうか。
いくつかある理由のひとつに「真に幸せな働き方」をどう追求するか、があります。そのひとつが地方創生。地方だからできること、取り戻せるもの、表現できるもの、これらの根幹として推進しています。
実際に「禅坊 靖寧」がオープンして一番驚いていたのは地域の方々。毎日見ていた場所に対して「こんな風景だった?」「こんな音だった?」と、今あるものに気づくという幸せを感じてもらえました。いまが平和であること、自然と共に生きられること。これらを感じることは、簡単に見えて意外と難しいものです。パソナグループが「禅坊 靖寧」を建設するにあたって、いかにその気持ちを取り戻すか。シンプルに、力強く。いろいろ考えて作られた建物になります。
心と体の健康を考えた社会づくりの必要性
― なぜ今、ウェルビーイングが求められるのでしょうか。
「幸せ」の定義が多様になり、見直されている時期だからだと思います。そこをきちんとしないと、生きるという価値を見いだせない。求めることで幸せが感受される世の中になりつつあると思います。そして皆さんが生活していく中で、元気に働きながら、お互いを助け合う。これが健康的な社会です。人のみではなく、自然との調和でもありますね。
―パソナグループが掲げている 「淡路島を健康の島に」という想いも、そこに繋がるということですね。
人と人が一緒に暮らす、そこには自然や社会があります。隣の人の息づかいを心地よく感じられるような社会づくりは必要だと考えています。
― なぜこのような構想を掲げられてきたのか、具体的に教えていただけますか。
まず、我々は実践することを重視しています。唱えるだけではなく、自らがこの地でやりましょう、という考えですね。そのやり方もひとつに限定することはありません。体に良いからと毎日禅食を摂れば、逆にストレスを感じることもありますから。その時々によって変えながら実践していくことを大切にしています。
― ウェルビーイングに注力する理由は何でしょうか。
人の可能性です。未開の能力に自分で気づき、さらに認め合える。これも人の強さです。それが社会の豊かさ、人の豊かさに繋がってくると思います。幸せや豊かさは人それぞれ定義が異なります。ただ、人も自然の一部であり、そこから独立して生きることはできません。人が健康であることと自然(地球)が健康であることは相関関係が必ずあると思います。そのために我々としてはウェルビーイングとして健康に注力しています。
― 企業研修などで「禅坊 靖寧」を活用してウェルビーイングを体験するのも良さそうですね。
企業研修で使われるケースも増えています。同じ空気を吸って、同じ景色を見ることによって何を得られるのか。一緒に同じ時間を過ごすことも大切です。語り合わず、感じることから始めるのも良いのではないかということで、ここで研修をされた事例もあります。ぜひ身近にあるものの素晴らしさに気づいていただきたいですね。
― 最後にメッセージをお願いします。
パソナでは、ウェルビーイングに乗せて人の可能性を追求しています。いろいろな方たちと真の幸せに向けて活動していくことを目指していますので、ぜひ一度、「禅坊 靖寧」にお越しください。
文:izumi