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ゴールドウインが“日本の美意識“を武器に世界へ。北陸発のブランドを海外に届けるマーケティング戦略とは

ゴールドウインが“日本の美意識“を武器に世界へ。北陸発のブランドを海外に届けるマーケティング戦略とは NEW

「ナイキ」「ユニクロ」「オールバーズ」「レッドブル」「ビルゲイツ財団」ーー数々のグローバルブランドを渡り歩いてきた蓑輪光浩さんが、2025年4月に株式会社ゴールドウインのマーケティング本部長に就任した。富山県で誕生したブランド「ゴールドウイン」は、リブランディングを経て海外展開を加速させようとしている。北陸の作り手によって丁寧に生み出された商品を、蓑輪さん率いるマーケティングチームはどう世界に伝えていくのか。AI活用による新たな試みも交えながら、マーケティング戦略の核心を聞いた。

蓑輪 光浩さん/株式会社ゴールドウイン マーケティング本部長
1997年、ナイキジャパン入社。ワールドカップ、箱根駅伝、NIKEiDをはじめとしたマーケティング、広告戦略などに携わる。2008年、NIKE EUROPEに赴任。2011年よりユニクロでスポーツ選手の広告起用や商品開発、各国のショップのオープンなどを手がける。2016年よりレッドブル・ジャパンにてフィールド・マーケティングを統括。2018年、ビル&メリンダ・ゲイツ財団 東京オリンピック プロジェクトマネージャーに就任。2019年にオールバーズ入社、2023年に日本総括マネージング ディレクターに就任。2025年4月より現職。

ゴールドウインの核にあるのは“日本の美意識”

これまで蓑輪さんはさまざまなブランドを経験されてきました。蓑輪さんにとって、ゴールドウインはどんなブランドですか。

夢のような場所ですね。私がマーケターとして基準のひとつにしているのは、お客様の気持ちとシンクロできるかどうか。例えば、前職のナイキでは、自分が歳を重ねていくと、ターゲットの年齢と乖離が出てくるんです。ターゲットの年齢より少し上ぐらいにいないと、良いマーケティングができないと思っています。

その点、ゴールドウインは、ターゲット層のプロファイル層がかなり自分と似ています。そういう意味で、マーケターとして勝負できる環境だと思いました。

ご自身とも距離が近いブランドだったんですね。

日本のブランドであり、世界展開を加速するステージであることも、自分の経験を活かしてバリューを出せると思いました。ゴールドウインは、日本では私たちの父親世代の認知度が高く、いまはリブランディングして若い世代にもアプローチしようとしています。一方、海外の市場では、スキーをやっている中年の方の認知度は高いものの、それ以外にはほとんど知られていません。

ただ、2022年にスタートしたライン「Goldwin 0」は、ファッション業界で評価され、パリでもいろんな方が着てくれるようになりました。うまくリブランドしてくれた人たちからバトンをつないでもらった私は、例えるなら第2走者。現状の認知度を今後どう上げていくかは、私自身興味がありますし、日本を代表するブランドにできたらと思っています。

中期5ヵ年経営計画では、ゴールドウインブランドの強化と、海外のマーケットへのアプローチ強化を強く打ち出しています。今後どのように海外へ展開していこうと考えていますか。

ゴールドウインは1964年の東京オリンピックの少し前、1950年代に富山県で誕生したブランドです。スキー業界を中心に成長してきて、「ヘリーハンセン」や「ザ・ノース・フェイス」(以下、「ノース・フェイス」)、「カンタベリー」、私が所属していた「オールバーズ」を抱える会社です。

いま、当社の売上の大きなウェイトを占めているのが「ノース・フェイス」です。ゴールドウインブランドには、「ノース・フェイス」の知見が基盤にあります。ただ、日本で開発した「ノース・フェイス」の商品は、契約上、海外に展開できません。しかし、ゴールドウイン自社ブランドの商品なら、世界中で展開できます。「ノース・フェイス」の基盤を持つゴールドウインの自社ブランドが海外で勝負できるのは、最大の強みだと思います。

2025年4月にオープンした「Goldwin Nanjing(ゴールドウイン 南京)」の店舗。現在中国大陸での出店を加速させている

ゴールドウインブランドの軸となるものは何だと思いますか。

この数カ月間、「自分たちは何者なのか」という問いをみんなで議論してきました。そこで導き出されたのが、ゴールドウインの商品は“日本の美意識”をまとっていることです。いま、新素材研究所の方々が手がける店舗空間の世界観の中に、プロダクトを丁寧に調和させています。今後オープンする海外店舗においても、日本の美意識や哲学を大切にした空間づくりを目指しています。

例えば、マクドナルドやレンジローバーなどの、グローバルブランドでも、その後ろに国旗がちらつきますよね。ゴールドウインもグローバルなブランドを目指しつつ、裏では日本の国旗を背負っている。それをお店や商品を通じて表現していくべきだと、チームの中で話しています。

“日本の美意識”を構成する要素は何だと思いますか。

商品づくりでいうと、細かいところまで配慮されていることだと思います。縫いしろの工夫や圧倒的な着心地など、北陸の人の仕事の丁寧さが表れています。実際に富山本社の工場へ行って感動したのは、おばあちゃん・お母さん・娘さんの3代で働いている方がいるんですよ。富山で丁寧な仕事で生み出された商品が世界中の人たちに着てもらえる。そういうものをこの会社は持っているわけです。日本人として誇りに思いました。

私たちマーケティングチームの役割のひとつは、北陸の人たちが愛を込めて真面目に作ったり、研究したりしている事を、外部へ上手く伝えていくことだと思っています。

富山本社の工場にも通い、そこで働く方々とのコミュニケーションも大切にしている

チームの指針となる「マーケティングマニフェスト」

海外展開を目指すにあたり、大切にしていることは何ですか。

チームが発足した時、10箇条の指針「マーケティングマニフェスト」を作りました。20年以上もマーケティングの仕事をして見聞きしたことや、心に残った言葉を、シンプルにチームに伝えることを心掛けました。

この指針はどのように行動に落とし込まれているのでしょう。例えば、中期5ヵ年経営計画では、ゴールドウインブランドで2033年3月期の売上高500億円を目指すというKPIがあります。それを達成するために、どう行動しているのでしょうか。

各国の売上構成が割り振られているのですが、やはりアジアがメインで、中国、韓国、日本の3か国が土台となっています。その上でマーケティングをするにあたって重要なのは、現地法人と本社が同じ目線でいられることです。

例えば、韓国のゴールドウインでは日本の「ノース・フェイス」の店舗で経験を積んできたエース級がマーケティングを担当しています。彼と韓国チームが、本社のチームとシンクロするのが成功のカギだと思います。。「本社が言ってるから」ではなくて主体的に、そして互いにリスペクトを持ちながらできるマーケターを戦略的に配置できるかが勝負だと思っています。

これはマーケティングマニフェストの4番目にある「Think global, act local」ですね。日本で作ったベースラインは渡しつつ、各国に適応させていく。そこで作るものがベースラインから大きくズレないように、互いのすり合わせができていることが理想だと思います。

蓑輪さんが作成した「マーケティングマニフェスト」

ブランドを築いていくうえで、蓑輪さんが大事にしていることは何ですか。

マーケティングマニフェストの最初に掲げている通り、「Product is King」だと思っています。やはり良い商品ができないと、どんなにマーケティングしても薄っぺらくなります。商品を作る人たちとマーケティングがどう連携できるかが非常に重要です。

また、最終的にはパッションも大事ですね。マーケティングチームの仕事は、自分が好きだと思うブランドや商品をどうやってマーケティングするか、考えて実行することです。「この人のために」「このブランドのために働きたい」と思えると、最後に結果をもう一段引き上げる力が出ます。やらされている仕事として取り組むのと、自分が好きでやりたいと思って打ち込むのとでは、同じ時間でも成果のクオリティは全然違います。

だから、チームの中の炎をどうやって絶やさずにいられるか。そして周りで支えてくれている方々とどうやって友好的な関係を保ち熱量を上げていくか。チームを率いる人間として、これらを大事にしています。マーケティングはひとりではできませんから。

AI×リアルのマーケティングを仕掛けたい

今後、どんなアクションを仕掛けていきたいですか。

ウィンタースポーツ業界では、今シーズンに販売される商品のマーケティングアセットを作る場合、雪のある1年前にサンプルを仕上げて、撮影しなくてはいけません。そこをミスると、南半球で撮影する事になり、コストもかかります。そこで、AIを使ってみれば、この季節のギャップを埋められる可能性があるのでは?と思いまして、自分の将来の学習のためにも、フルAIでコンテンツを作ってみました。

それが当社の契約選手を起用した「デリスキー」です。2026年にミラノ・コルティナ冬季オリンピックが開催されます。アルペンスキー競技の加藤聖五選手と小山陽平選手は同い年。子供の頃から一緒にスキーをしながら、争うオリンピックの出場枠は一つでライバルでもあります。そこにフィーチャーしてストーリーを考えました。

動画は選手の写真を使ってフルAIで作成しました。このプロジェクトで沢山の学びがありました。実はベルリン在住のAcciという日本人クリエイターと2人だけで、ひっそり制作しました。少人数で行う事でダイレクトに理解が深まるんです。まだ映像においてAIの再現性は低いのですが、AIは日進月歩で進化していますから、近い将来にはかなりリアルになるはずです。

また、デリスキーの映像は、選手のSNSだけで発信してもらう予定です。彼らのフォロワーはヨーロッパの人たちも多いので、ゴールドウインのことを世界に知ってもらうきっかけにもなるはずです。「日本って面白い」「ゴールドウインも面白い」と思ってもらえたら嬉しいですね。

文:渋谷唯子
撮影:船場拓真

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