大手ラグジュアリーブランド3社の業績比較。日本市場が引き続き伸長!インバウンド&円安の追い風強く
大手ファッションコングロマリットであるLVMH、Richemont、KERING3社の2024年6月末時点の業績が発表された。アフターコロナの追い風が落ち着いたこともあり、各社売上は微増もしくはマイナスを記録。特に景気後退の懸念がある中国のラグジュアリーブランド需要の減速が目立っている。その一方で、日本市場は円安と訪日客によるインバウンド需要で大きな伸長率を見せ、各社の売上世界シェアの伸びも見られた。各社の発表データを基に細かい状況を見ていく(※Richemontは3月決算)。
情報提供:田村宏明さん/公認会計士・MBA 田村宏明公認会計士事務所代表
大学卒業年次に公認会計士試験に合格し、4大監査法人に入所。監査やJ-SOX(内部統制報告制度)導入支援などを担当。その後、監査チームのインチャージ(現場責任者)を任され、現場のとりまとめ、監査報酬の見積もり作成、スタッフの一次評価、経営者ディスカッションへの参加などの経験を積む。この時にブランド業界に関与。その後はほぼ一貫して、外資系高級消費財企業にて経験を積み、ヘッドオブアカウンティングとして活躍。コングロマリットのブランド企業から単体のブランド企業まで幅広く携わり、単体ブランド企業に勤務の際は、経理・財務・ロジスティックス・法務を業務領域とする。2023年4月、田村宏明公認会計士事務所を設立。
HP:https://tamura-cpafirm.jp/
数値サマリー
各社前年同期比の売上増加率に関しては、LVMHが‐1%、Richemontが‐1%と前年から微減にとどめていますが、KERINGは‐11%と大きく落とす結果になりました。数値を見ていくと、ラグジュアリー業界全体として成長路線にブレーキがかかった結果になっています。特にアジア太平洋地域が大きなマイナスとなっており、なかでも中国の不調が大きく目立つ内容でした。中国の占める売上割合が大きい会社が、より厳しい状況に陥っていると考えられます。
3社の売上増加率の推移を2023年9月→12月→2024年3月→6月と通年で見ていきます。
LVMH: 10%→9%→‐2%→‐1%
Richemont:6%→5%→3%→‐1%
KERING:‐2%→‐4%→‐11%→‐11%
各社3月期の落ち込みと比較すると減少はなだらかになっていますが、底を打ったと見るのは少し時期尚早かもしれません。Richemontに関しては前期までプラス成長だったものの、ついにマイナスに転じてしまいました。
※記載数値に関しては各社がホームページ上で発表しているIR情報より抜粋
※LVMH、KERINGは6月末で発表されている営業利益を参照
※Richemontは3月決算であり6月末(第1四半期)は営業利益が開示されていないため、3月末の数値を参考
各社詳細
各社の数値に関して、詳細を見ていきましょう。
① LVMH
▼売上増加率+2%
売上増加率が為替の影響を除いたOrganic Growthベースで+2%を記録。
※前述した売上増加率は為替も込みの数値で比較しているため、増加率は一致しておりません。以降の記述も同じくです。
▼お酒‐9%、ファッション&レザー+1%
お酒‐9%(Organic Growthベース)と、3月末の第1四半期と比較するとマイナスも一桁台へと回復しています。シャンパン・ワインが‐8%に対してコニャック・スピリッツが‐10%となっており、コニャック部門のマイナスが第1四半期に対して減少しており回復基調を示しています。
一方、主力のファッション&レザーは+1%で、何とかプラスを維持しています。ただ、ウォッチ&ジュエリーは‐3%となっており、宝飾セグメント全体の売上としては少々厳しい結果となりました。
▼APAC‐10%
地域別に見ると、アジア太平洋地域がついに‐10%とマイナス二桁になっているものの、ヨーロッパや不況と言われるアメリカもプラスで着地していることからAPACの没落ぶりが目立っています。
▼日本は+44%で、第1四半期に続き全リージョントップの伸び率を記録
日本市場における売上伸び率44%と全リージョンでダントツトップかつ唯一の二桁成長。前期から引き続き、日本市場は絶好調です。日本国内でも高価格帯商品を扱う百貨店業界の好調ぶりがニュースになっていることもあり、この状況に驚きはありません。ただ、日本国内の景気回復によるものというよりは、訪日中の中国客の売上が一部日本に移っているという点が考えられます。LVMH・CFOのジャン・ジャック・ギオニーが、アナリストの質疑応答で福岡の都市名などを挙げており、日本市場に非常に注目しているのが伺えました。日本の売上好調の理由としてアジアの消費先が日本になっていることを挙げていましたが、グループとしては訪日客が日本で購入して日本で売上が計上されていることはあまり好ましくないとのこと。利益率の観点から日本での販売価格が他国に比べて安くなっているため、海外旅行客の日本での購入が増加すると、結果として利益率としては下がってしまうというロジックのようです。
ギオニーの指摘する状況が続くと、日本のみ価格を大幅に引き上げるという価格戦略をとるブランドが出てくる可能性も捨てきれません。
また、個別ブランドについて珍しく言及があり、ブルガリが第1四半期と比較すると芳しくないとのこと。中国市場の影響と値上げ前の駆け込み需要が前期にあった点も触れられていました。
なお、第3四半期以降の業績見込みについて楽観的か悲観的かは明言せず、非常に慎重な対応を見せていました。
② Richemont
※3月決算のため、6月末が第1四半期
▼売上+1%
売上が1%増加と、かろうじてプラス。サマリーで示した数値との増加率の違いは、為替の影響を含むか否かの違いになり、こちらは為替の影響を除いた純粋な増加率になります。
▼宝石のメゾン+4%、時計ブランド‐13%
宝石のメゾンが+4%増加に対して、時計ブランドが二桁減という急降下により、売上微増にとどまりました。宝石メゾンは時計ブランドなど他カテゴリーが落ち込む状況の中でも堅実な伸びを示しています。
▼APAC‐18%
APAC(アジア太平洋)が‐18%と大幅なブレーキ要因となっています。Richemontの最大リージョンがアジア地域なので、全体に与える影響も大きくなります。
▼日本市場は+59%で世界シェア11.4%
好調なアジア地域の中でも、日本は最大59%の伸び率を記録。Richemontは6月末が第1四半期のため、4~6月の3ヵ月での前年比較であり、円安の影響や訪日客の購入がより大きくインパクトを与えているとはいえ、驚異的な伸び率です。好調な国内需要と円安による訪日客増加との相乗効果が要因として考えられます。この結果、日本のシェアが11.4%と一気に二桁シェアに伸長となり、興味深い数値になっています。
しかし、この好調要因がジュエリーによるものか、あるいは日本市場全体でも好調なウォッチによるものかについては開示がありませんでした。その一方で、リリース情報に要因として円安と明記されていることは、世界的にも円の弱さが認識されている点が浮き彫りになったといえます。
③ KERING
▼売上‐11%
前回の第1四半期が‐10%であったため、他の2社と比較するとKERINGのみ二桁のマイナスが続いている苦しい状況がうかがえます。
▼GUCCI‐18%
ブランド別で見ていくと、KERINGナンバーワンブランドのGUCCIが‐18%と急減速となっていることが不調の原因として挙げられます。このGUCCIの落ち込みが大きい中、KERING全体としてはグッチの落ち込みより低いマイナスで済んでいるという傾向は第1四半期と同じくです。一方でセクター別ではプラスになっている部分もあり、アイウェアは7%のプラス、宝石のBoucheronも二桁増とのことでした。
▼APAC‐22%
資料によると地域別はリテール(小売)のみの情報開示、となっているので売上全体の74%を占めるリテールの数値で見ていきます。前回の第1四半期は‐19%という中、今回の第2四半期は‐22%という結果に。中国でのGUCCIの売上減少が今回の半期決算の結果に繋がったと考えられます。
▼日本市場は+22%
日本に限れば売上+22%となっており、他社と同様にインバウンドに加えて円安の影響が大きく表れる結果になりました。
まとめ
今回の結果を地域別推移から読み解いていきます。LVMHにおいては、アメリカとEUはフラット。中国は四半期ごとに悪化、日本は逆に四半期ごとに上昇というトレンドが見えました。中国のマイナスが1〜3月と4〜6月で比較すると倍になっており、第3四半期にかけて歯止めがかかるのか、それともマイナスの拡大が継続されるのかが注目ポイントとなりそうです。
一方のKERINGもアメリカとヨーロッパは第1四半期と第2四半期でほぼ同水準で推移。中国はマイナスが拡大、日本は上昇というトレンドはLVMHと同様です。両者のAPAC推移で比較してみると、KERINGの方が3ヵ月ほど早くAPACのインパクトを受ける状況になっています。逆に中国大陸の消費が回復した際には、最も早く恩恵を受けるのがKERINGとも考えられます。
KERINGは2024年上半期決算を前年同期比11%減、営業利益は同42.2%減、純利益は同49.1%減と大幅な減収減益だったと発表。この状況を踏まえ、すでに下半期の営業利益は30%減を見込んでいると発表しています。さらに、8月5日現在、日本は円高基調の様相を見せており、次の四半期では大きな伸びを見せていた日本市場に変化が現れる可能性があります。また、消費大国アメリカの経済にも陰りが見えており、マイナストレンドが続きそうな状況は各社懸念点となりそうです。