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中小企業と障害福祉団体をつなぐ。障害者雇用の可能性を広げる雇用モデル・ウィズダイバーシティ

中小企業と障害福祉団体をつなぐ。障害者雇用の可能性を広げる雇用モデル・ウィズダイバーシティ

障害者雇用の法定雇用率は年々上昇し、2024年3月までは2.3%、4月から2.5%となった。しかし、中小企業の多くは人的リソースや環境整備の問題から、その達成に苦慮しているのが現状だ。そんな中、株式会社ローランズの福寿満希さんは、中小企業と障害福祉団体を結ぶ雇用モデルウィズダイバーシティを立ち上げた。算定特例制度を活用し、企業が障害福祉団体に仕事を提供することで雇用を生み出す仕組みだ。花屋事業を通じて障害者雇用を実践してきた福寿さんに、障害者雇用の可能性、そして目指す未来について聞いた。

福寿満希(ふくじゅ みづき)さん/株式会社ローランズ代表取締役・ウィズダイバーシティ有限責任事業組合 発起人
大学在学中の特別支援学校での教育実習をきっかけに、障害者の就労支援に関心を持つ。2013年に株式会社ローランズを創業し、自身も心を救われた花屋事業を通じて障害者雇用を推進。2019年には中小企業と障害福祉団体をつなぐ雇用モデル「ウィズダイバーシティ」を立ち上げ、障害者雇用の可能性を広げる取り組みを行っている。現在、ローランズでは従業員80人中55人が障害者であり、多様性のある職場づくりを実践している。

花と障害者雇用の融合。ローランズ創業のきっかけ

福寿さんがローランズを創業されたきっかけについて教えてください。

創業のきっかけは、大学時代に受けた特別支援学校での教育実習にさかのぼります。そこでの経験が私の人生を大きく変えることになりました。

特別支援学校の子どもたちは、身体的な制限や余命がある中でも、大人になることや働くことを夢見ていました。一方で、就職活動の時期にいた私はまだまだ学生でいたくて「正直、働きたくない」とさえ思っていたんです。私にとって避けたいと思っていた“働く”は、子どもたちにとっては願いであることを知り、なんて失礼な考えを持っていたんだろうと思いました。

さらに、実習先の学校では就職率が15%程度で、多くの子どもたちが就職できずにいる現状を知りました。「子どもたちの働く夢がもっと叶うようにならないか」という思いが芽生え、いつかそれが叶えられるような社会にしたいと強く感じたのです。

その後、どのようにして花屋事業と障害者雇用を結びつけたのでしょうか。

大学卒業後、すぐに起業はせず一般企業に就職しました。働いていると、当然大変なことや辛いことがあり、それが重なって鬱々してしまっていた時に、通勤途中にあった花屋さんがいつも私の心を助けてくれたんです。そこから花に興味を持ち、勉強を始めました。2013年に株式会社ローランズを創業する際、自身を助けてくれた「花」の事業と「障害者支援」という想いを掛け合わせることにしたのです。

2016年から本格的に障害者雇用をスタートさせ、現在は、従業員80人のうち55人が障害と向き合うスタッフです。花屋事業でフラワーギフトやブライダル装花だけでなく、就職を目指す障害当事者に向けた職業訓練の提供や企業の障害者雇用サポートを行っており、より多くの人の働く願いを叶えるために取り組んでいます。

ローランズではさまざまな事業を展開されていますよね

大きく分けて3つの事業を展開しています。1つ目の花屋事業では、3つの店舗運営、全国配送のフラワーギフト、結婚式場やブランドショップの空間装花、植栽管理、花の栽培、など花や緑に関するサービス提供を行っています。2つ目は就労支援事業で、障害と向き合う人が働き始めるための支援や、長く働き続けられるサポートの提供です。例えば、ローランズは花屋を舞台にしながら就職に向けた職業訓練(フローリスト、事務職、接客職などを目指す)を行うアカデミー(就労移行支援)を行っています。経験がない人でも、花に触れながら心を整え、専門家として働くスキルを身に着けて就職するところまでサポートをしています。3つ目は雇用支援事業で、企業と一緒に障害者雇用作りを行い、共に人を咲かせる事業です。

これらは、障害と向き合う人たちの雇用機会を広げる大切な事業だと思っています。花屋事業では直接雇用を行い、就労支援事業では働き始めとそれを続けるサポートをし、雇用支援事業では企業と一緒に障害者雇用を促進しています。私たちだけでは雇用できる人数に限りがありますが、このように多角的にアプローチすることで、より多くの方々の就労機会を創出できると考えています。

ローランズ原宿店では花屋とカフェが併設されている素敵な空間になっている
企業向けのフラワーギフトを作っている様子

中小企業×障害福祉団体でWin-Winの雇用モデル

法定雇用率が年々上がってきている中で、障害者雇用における大きな課題はどこにあるのでしょうか。

日本企業の99%が中小企業で、その障害者雇用が追いついていないことだと認識しています。中小企業の多くは、障害者雇用に取り組みたくても、大手に比べ経営資源が限られており取り組むハードルが高いのが現状です。

例えば、50人から100人程度の従業員規模の企業では、人的リソースが限られている中で、障害者雇用の担当者が選ばれます。必然的に、他の業務との兼務が多くなるでしょう。その結果、障害者雇用に関する知識をインプットする時間や、障害者へ任せる業務や必要な配慮について考えたり本人と向き合う時間を確保できず、悩みを抱えてしまうのです。担当者はたくさんの兼務業務を持っていますから、結果的に障害者と共に働く状態を作りだせず、「障害者雇用はやはり難しい」と諦めてしまったケースを多く聞いてきました。何か新しい打ち手がなければ、法定雇用率が年々引き上げられる中、中小企業はますます取り残されてしまうでしょう。

ウィズダイバーシティの取り組みは、そういった課題をどのように解決しているのでしょうか。

ウィズダイバーシティは、中小企業と障害福祉団体を結ぶ新たな雇用モデルです。この取り組みは、障害者雇用の算定特例制度と組合方式を活用しています。具体的には、企業が障害福祉団体に仕事を提供することで、団体で働く障害者の人数を自社の雇用率に共同カウントできる仕組みです。中小企業にとっては、直接雇用のハードルを下げつつ、障害福祉団体と一体となって障害者雇用に取り組めるメリットがあります。

またウィズダイバーシティの特徴は、企業と障害福祉団体の双方がWin-Winの関係を築ける点です。企業は自社に本当に必要なサービスを受け取りながら障害者の雇用創出に取り組むことができ、障害福祉団体は安定的な仕事の受託によって障害者支援の質をより高めていくことができます。障害福祉団体と一緒になることで、企業では雇用のハードルが高い重度障害の方にも雇用が届いていきます。

雇用となると「継続」が要となりますが、良好な関係を維持できるような工夫はありますか。

企業が障害福祉団体に仕事を発注する際に、「社会貢献としての発注」ではなく、企業が経済活動を行い成長するために必要なサービスを企業がきちんと受け取れる状態を重視します。サービスとしての価値を認めてもらうことが継続的な発注につながり、安定した雇用を生み出すことができます。企業は障害福祉団体のサービスに対してフィードバックを行い、品質向上に向けても一緒に取り組んでいきます。障害福祉団体は、企業に価値があるサービス提供を通じて障害に対する理解促進を図り、企業の中での障害者自社雇用が進むようサポートします。このように、お互いの強みを活かし合うことで、障害者の雇用機会を拡大していけるのです。

ウィズダイバーシティを活用して「共同雇用」することで中小企業でも障害者雇用を促進することができる

“配慮”への意識変化が、障害者雇用のハードルを下げる

ウィズダイバーシティに参画している企業で、具体的な成果につながった事例はありますか。

ナチュラルコスメブランド「SABON」さんの事例が挙げられます。店内の装飾や一部店舗で取り扱っている製品とお花を組み合わせたギフトなどの販売を、ウィズダイバーシティに参加する障害福祉団体「ローランズ」にお任せくださっています。取り組みを通じて社内での障害者理解が深まり、自社での障害者雇用も増えていきました。当初、障害者雇用では事務作業と考えていたようですが、店舗採用にもチャレンジされ、雇用機会の場を広げられました。仕事を通じて人事以外の部署が障害者と接点を持っていくことや、いろんな仕事ができることを知って頂くことで意識変容が起こることを実感したとても嬉しい事例です。

企業が障害者雇用を前向きに進められる事例ですね。障害者雇用をする上で、福寿さんが大切だと思うことは何でしょうか。

最も大切にしているのは、「ひとりのための配慮が全員のための配慮になる」という考え方です。単に障害と向き合う人を特別扱いするのではなく、その人のために行う配慮を組織全体に広げていくという考えです。

例えば、情報処理に段階が必要な発達障害の方のために業務指示を箇条書きにしてわかりやすく伝えるという配慮を考えてみましょう。この方法を全従業員に対して適用すると、隠れていた同じ課題を持つ人にとって間違えが起こりづらくなります。実は複雑な指示が苦手な人や情報を整理して理解したい人など、従業員一人ひとりも様々な特性があるはずですから、隠れた働きづらさを抱えている人にとって環境が整います。「特別な対応が必要だから大変」という思い込みから、「みんなにとって働きやすい環境を作るきっかけになる」という前向きな認識に変わっていけば、障害者雇用に対する心のハードルも下がるでしょう。

仕事を通じて障害者雇用の理解を進めていくことが大事だと語る福寿さん

違いを認め、支え合える共生社会の実現にむけて

障害者雇用の未来について、福寿さんはどのようなビジョンをお持ちですか。

私には、「達成したらもう人生に悔いはない!」という大きな目標が2つあります。

ひとつ目は、ウィズダイバーシティで活用している算定特例制度の導入簡素化です。現状では、算定特例の認可取得や組合方式の運用には、かなり複雑な制度の読み解きと手続きが必要です。これが簡素化されることで、より多くの中小企業と障害福祉団体の連携が進み、障害と向き合う人に雇用が届くようになると考えています。

そのために、まずは東京でスタートしたウィズダイバーシティの取り組みを通じて、参加企業や障害福祉団体にきちんとメリットを示して共同雇用を増やし、その実績を基に、行政に対して制度導入の簡素化提案をし、算定特例がもっと活用しやすいものにしていきたいです。

2つ目の目標は、障害と向き合う人に整備された支援をより広い範囲の就労困難と向き合う人に展開していくことです。日本には難病やひきこもりの方、要介護の家族がいる方など約1500万人の就労困難者がいると言われています。その就労困難分野の中で最も多いのが、非就労障害者です(350万人)。私たちが障害者雇用で培ったノウハウや仕組みによって非就労障害者の雇用が改善された暁には、他の就労困難と向き合う人たちに仕組みが展開され、雇用が広がっていけばと考えています。

そのためにも、まずはローランズやウィズダイバーシティの取り組みを通じて、誰もが社会で力を咲かせることができることを証明し、互いを理解し支え合える共生社会の実現を目指していきたいです。

文:金井 みほ
撮影:船場 拓真

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