ラグジュアリーブランドのマネージャーが教える、グローバルキャリア成功のカギ Vol.8 私を大きく変えた3つの行動と習慣 NEW
ラグジュアリーブランドの海外支社で働く――。そんな憧れを実際に叶えた、日本人男性・野﨑健太郎さん(ペンネーム)が綴るコラムです。日本人がグローバルで働く上で知っておきたいこと、海外のマーケット動向、キャリアアップしていくためのヒントとは……?これまでたくさんの挑戦と成功を重ねてきた野﨑さんだからこその視点や気づき、エピソードなどを交えながらお届けします!
※過去記事はこちら→Vol.1、Vol.2、Vol.3、Vol.4、Vol.5、Vol.6、Vol.7
日本の7月といえば、梅雨が明けていよいよ本格的に夏が始まる季節。「夏」と聞いて「ワクワクする!」という人もいれば、「暑くて憂鬱」と感じる人もいると思います。私はというと、サーファーらしからぬ話ですが、暑いのが苦手で、あまり夏が好きではありませんでした。でも、今働いているヨーロッパ系のラグジュアリーブランドに入社してからは、夏休みを長期で取得できるようになったこともあり、夏が楽しみな季節に変わってきました。
前職で店舗勤務だった頃の夏休みは、1週間から10日ほど。それでも十分ありがたかったのですが、オフィス勤務になってからは2週間前後は取れるようになり、さらにシンガポールに来てからは、代休の消化も絡めて3週間近く取れています。
背景には、ヨーロッパ系の企業でマネジメント層がバカンスを取るのが当たり前という文化があること、そして富裕層のお客様を対象としたサービス業であるため、休暇中はお客様も不在がちであることなどが挙げられます。
また、上司や同僚の国籍や文化的背景がさまざまで、それぞれが自分のタイミングでしっかり休みを取ることが共通認識となっており、休暇取得に対して変なプレッシャーがないのも、大きな理由のひとつです。
昨年は家族で約2週間、オーストラリアを「暮らすようなスタイル」で旅してきました。週単位でフラット(日本でいうマンションのような集合住宅)を借り、スーパーで買い物して子供たちと料理し、近所の公園や海で遊ぶ——そんな贅沢な時間を過ごすことができました。
その他にも、この3年間でモルディブ、イタリア、ギリシャ、ベトナム、インドネシアに、家族と一緒に旅することができました。こうした豊かな時間と充実した体験を、高い報酬を得ながら実現できているのも、2017年に自分の「行動と習慣」を変えたことが、大きなターニングポイントになったからだと思っています。
今月は、その「行動と習慣」について、掘り下げてお話ししたいと思います。やや自己啓発的な内容かもしれませんが、「今の職場から一歩踏み出したい」「何かを変えたい」と思っている方にとって、ヒントになればうれしいです。
行動と習慣その1・読書をする
私はもともと、仕事ができる人間ではありません。今でも、ついサボってしまい、それが原因で失敗して、「なんで自分はこうなんだ」と落ち込むことが何度もあります。意志が強いわけでもなく、どちらかといえば、弱い方です。
そんな自分を支えてくれたのが、読書でした。正直に言うと、読書によって本の中の先人の声に励まされながら、なんとか自分を奮い立たせてやってきたような気がします。
年齢を重ねて、自分の弱さを受け入れられるようになってからは、読書は自分にとって欠かせない“意識のリセット”であり、弱さを補うための“生命線”になりました。いつも2冊くらいを並行して読み進めています。
オフィス勤務が始まったばかりの頃は、店舗出身というコンプレックスを埋めたくて、「ビジネス書」や「経済学」の本を10冊くらい立て続けに読みました。最初は何が書いてあるのかさっぱりでしたが、5冊、10冊と読み進めるうちに、少しずつビジネスや経済の“形”がぼんやりと見えてくるようになりました。
「何を読めばいいかわからない」という人は、まずはミーハーに最新のベストセラーを手に取るのがオススメです。ビジネスや経済にもトレンドがあるので、まずは「今」を知ることで、戦える知識が身につくと感じています。
そして最終的に、ビジネスや経済に対しての私の答えは、とてもシンプルなものでした。私は小売業に携わっていることもあり、複雑な数式や演算よりも、「売上-経費=利益」――このシンプルな式に行き着きました。
迷ったときは「どうやって売上を最大化し、経費を最小化するか」を軸に考える。それだけで自分がとるべき行動が見えてきます。2017年は特に読書量を増やしました。通勤電車、昼休み、出張先の夜、夕飯に出かけずホテルの部屋で読書。そんな “スキマ時間” をとにかく使って、あらゆるジャンルの本を読みました。個人的に最も好きなビジネス書は、哲学をビジネスに取り込んだ山口周さんの本や、ベストセラー本「WHYから始めよ!」などTEDで有名なサイモン・シネック氏の著書です。今も新刊が出るたびに欠かさず購入しています。
行動と習慣その2・今に集中する、たくさんの人を味方につける
2014年、前職ブランドでの最終出勤日。私は全社員に向けて、最後の挨拶メールを書きました。内容ははっきり覚えていませんが、たしか「自分はラグビーが好きで、試合が終われば“ノーサイド”になる、その精神が好きです。今日が自分にとっての“ノーサイド”。ライバル会社に移りますが、業界全体に貢献するつもりで頑張ります」といったことを書いたと思います。
CEOも含めた全社員に宛てて、震える手で送信ボタンを押しました。
すると、すぐにCEOから電話がかかってきました。叱られるかと思いきや、「お前、熱いな。応援するぞ、飲みに行こう!」と、まさかのエールをいただきました。
2017年。この年を“勝負の年”と位置づけた私は、「毎日が最終出勤日のつもり」で働き始めました。月1回ほど全店舗に送っていた定期業務メールに、あの時のような自分の言葉を添えて発信し始めたのです。担当カテゴリーが複雑で難しい商材だったこともあり、「ただの業務連絡だけでは、誰も興味を持たないだろう」と思い、どうしたら“楽しんで売ってもらえるか”を考え、メッセージ性のある内容にしました。
「なぜこのブランドが存在しているのか」
「最近読んで感動した本の要約」
「サーフィンとビジネスの関係について」
など、自分の言葉、自分の経験をもとに書くようにしました。
規模が大きい会社だったので、送信先が1000人近くなることもあり、最初はかなり怖かったです。でも、地方店やアウトレットに行くたびに「毎月のあのメール、楽しみにしてます」と声をかけられるようになり、実際に売上にもつながっていきました。
業務連絡をシンプルに行うことは確かにビジネスの鉄則ですが、店舗出身の私には「店にはスキマ時間がある」ことを知っていました。その時間に読んでもらえるよう、役に立つ内容にこだわりました。また、オフィスの同僚たちが「店舗各位」「お疲れ様でございます」といった距離を感じさせる文面が多いことにも、少し違和感を覚えていました。だから私は、あえて親近感を大切にした言葉を選びました。なかには批判もありましたが、目に見えて数字がついてきたので自分の信じた道を疑わずに進みました。
行動と習慣その3・ライフとワークを完全に分けない
“圧倒的な結果を出すには、24時間365日働く”――そんなスタイルもあるかもしれません。でも、ラグジュアリーブランドのような業界では、必ずしもそれが正解とは限りません。一生懸命働くことはもちろん大事ですが、メリハリをつけた方が、良い結果を生みやすく、何より“続けられる”と実感しています。「ライフワークバランス」とよく言われますが、「ライフ」と「ワーク」を完全に分ける考え方には、正直あまり共感していません。私の場合は、趣味でも超一流を目指すことが、いい仕事につながると信じています。
実際に、仕事がうまく回り始めたタイミングで長年伸び悩んでいたサーフィンも不思議なほど急に上達し始めました(もちろん素人レベルですが)。むしろ、サーフィンをしている時に仕事のヒントが浮かんだり、仕事中にサーフィンへの向き合い方を省みるようなこともあり、相乗効果が生まれました。
一例をあげると、サーフィンには「THE DAY」と呼ばれる特別な日があります。鎌倉や湘南のようなエリアでは、年に数えるほどしか大波が来ません。だからこそサーファーは、その1日のために日頃から心と体の準備をします。THE DAYの朝は、早めに起き、気持ちを集中させるために呼吸法やストレッチをして、海に向かいます。
「仕事でも、毎日がTHE DAYだとしたら?」
せっかくもらったチャンスを、最高のパフォーマンスで迎えるために波が来る日と同じように準備して臨む。朝早く起きて、顔を洗って髭を剃り、ストレッチをして、呼吸を整えて、今日が最後の日だと自分に言い聞かせて始める。こうした姿勢が、私の仕事に対するアプローチを大きく変えてくれました。
この“サーフィンと仕事”の関係は、今後もっと掘り下げていきたいテーマなので、もし機会があれば、また別の記事で書かせていただけたらと思います。
そして2017年10月16日、私の人生におけるもう一つの「THE DAY」がやってきました。それは、元気いっぱいの次男が誕生したことです。
現在7歳になる彼は、人生の約半分をシンガポールで過ごし、流暢に英語を話しています。その姿を見ていると、「行動と習慣を変えてよかった」と心から思います。ありがたい経験をさせてもらっていることに、感謝しかありません。
■著者プロフィール
野﨑健太郎
大学卒業後はモデルとして活動し、国内外のショーや広告などに出演。28歳のとき、大手量販店で販売のアルバイトを始める。その後、いくつかのラグジュアリーブランドでのストア、オフィス勤務を経て、2021年12月より某ブランドのシンガポール支社に勤務。趣味は高校時代から続けているサーフィン。
■ペンネームへ込めた想い
野﨑健太郎はペンネームで、尊敬する祖父の名前です。祖父は明治生まれで、西郷隆盛を思わせるような大きな体と味海苔をおでこに張り付けたような太い眉の持ち主でした。東京・五反田を拠点に京浜工業地帯で鉄を拾って歩き回り、町工場を営んでいた祖父。信条は「上天丼を食べたいなら、人の倍働け!」でした。残念ながら50代で亡くなり、直接会うことは叶いませんでしたが、この言葉は親戚を通じて私の耳に届き、私の心に深く刻まれています。祖父のハードワーク魂が自分に宿ることをこのペンネームに込めました。