ラグジュアリーブランドのマネージャーが教える、グローバルキャリア成功のカギ Vol.2 日本と海外のビジネス文化の違いについて NEW
ラグジュアリーブランドの海外支社で働く――。そんな憧れを実際に叶えた、日本人男性・野﨑健太郎さん(ペンネーム)が綴るコラムです。日本人がグローバルで働く上で知っておきたいこと、海外のマーケット動向、キャリアアップしていくためのヒントとは……?これまでたくさんの挑戦と成功を重ねてきた野﨑さんだからこその視点や気づき、エピソードなどを交えながらお届けします!
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Vol.2 日本と海外のビジネス文化の違いについて
NESTBOWLをご覧の皆様、今年もどうぞよろしくお願いいたします。シンガポールから有益な情報を発信できるように精進してまいります。
シンガポールは中国の文化が色濃いため、日本の新年とは時期が異なり、旧正月が新年の時期にあたります。カレンダー上は、1月1日は祝日、2日から通常運転となります。私の勤めているオフィスでは、ヨーロッパ出身の人も多いため、クリスマス前後の12月20日頃から、1月の5日もしくは10日くらいまではホリデームードが漂います。1月中旬になり、メンツが揃って「さあ今年も1年がんばろうか」というところで、旧正月が始まるので、1月はあまり仕事が前進しない印象です。基本的には個人の仕事の裁量と判断になり、民族的バックグラウンドにも左右されるので、4週間休む人も居れば、1日しか休まない人もいます。日本人である私は、今年も有給と代休消化が溜まっていたので、クリスマス時期に3週間ほどお休みをとらせていただき、バリとヨーロッパを旅してきました。
さて、連載2回目の今回は「日本と海外のビジネス文化の違いについて」についてお届けしたいと思います。
私がシンガポールで働き始めてからの3年間の体験をもとに考察した内容です。手放しで「海外が良い!」という単純なものではなく、海外に出て初めて分かる「日本の強さ、良さ」を「シンガポールの良さ」と対比しながらお伝えします。
毎年1月、私が勤務するブランドでは「その年のイベント日程とイベントでの商品展開を決める」という作業があります。この作業は入社して以来10年間、必ず行ってきました。
日本にいた時は、まず会社と自分の部署(MD)のカレンダーを確認し、他部署や店長たちから百貨店のイベント情報や顧客の状況などを聞き出し、ドラフトを作成します。そして、上司とミーティングを行い修正を加えます。その後、他部署のイベントチーム、リテール、VM、ロジスティックのディレクターたちを集めて、日程や商品アソートメントを共有し、コンセンサスを取り、その後関係者と作業の進め方などを話して具体化していく、というものでした。上期・下期でそれぞれ一度、変更があるかを確認しますが、基本的には年の途中での変更はありません。変更となると大ごとで、すぐにディレクターたちに知らせなくてはなりません。情報共有がうまくいかず、スタッフが知らなかったりすると、「私は予定の変更を聞いていない!」とお𠮟りを受けることも頻繁にありました。
一方、シンガポールオフィスではどうかというと、まずイベントチームが大まかなイベントのプランを持ってきてくれます。その後も大きな会議や根回しはなく、パントリーでばったり会うか、デスクに行って話をして、「とりあえず、この日程で行こう」という流れになります。もちろんこちらは昨年の国別、店舗別のベストセラーなどの分析をして、商品のセレクションや戦略を提案していきます。イベントチームのディレクターがCEOの承諾をもらって、一旦終了となります。日本だと3週間くらいかかるこの作業が、シンガポールでは数日で終わります。ただし、日本のように詳細を詰めませんので、常に変更があったり、中止になったり、柔軟に最適化していくことが求められます。いざイベントの日程が迫ってくると、イベントに向けて会議を行い、各部署が「売り上げを上げるためにどうしたらよいか」についてアイデアを出し合い、トレーニングチームが自主的に資料を作ってきたり、オペレーションチームが配送後のサンプルの搬入の手配をしたりします。
日本が「形式」を重んじて、リーダーの同意を得なくては他部署からのサポートが受けられないのに対し、シンガポールオフィスの場合、形式的な部分が少なく、各リーダーがリードして自分の部下たちと、効率よく売り上げを上げるために協力する、という違いがあります。日本は「上司の承諾や指示」を重んじるのに対して、シンガポールでは「業務がスムーズに進むか」を重んじているように感じます。
日本は詳細まで詰めておけば、あとは大きな事故が無ければ問題なく作業が進められていく安心感がありますが、スピード感や一体感にやや欠けるのがデメリットのような気がします。
一方、シンガポールでは、スピード感があり、無駄な会議のための根回しや時間調整が無く、臨機応変で効率は良いのですが、ディテールの部分が直前まで詰められずに進行せざるを得なかったり、配送の遅れや商品の紛失があったりと、日本ではあり得ない問題発生や事故もよくあります。
世界のスタンダードでグローバルで通用する「仕事がデキる人」とは
このように一長一短がありますので、どちらが優れていると安易に結論づけることはできません。ただ、ファッション業界のような移り変わりが早い業界の場合、「日本式」はスピード感で置いていかれてしまうように思います。
こちらでは、それぞれの部署が臨機応変に動き、たとえ間違いが起きても、お互いを批判しあったりしません。
日本にいたときによく耳にした「聞いてないからやらない」というような姿勢で仕事している人はあまりおらず、「自分の役割を果たすにはどうしたらよいか」を考えて、マネージャーだろうがディレクターだろうが、プロジェクトの責任者に確かな情報を取りに行き、能動的に業務をこなしていきます。情報のアップデートが頻繁にあり、クリアに伝わらないことも多いので、それぞれが仕事を最適化することに慣れていて、ポジティブな姿勢で仕事を進めることが前提にあるように感じます。
また、日本では「あの人は仕事ができる、できない」とか「頭がよい、悪い」などの話をよく耳にしましたが、こちらではあまり聞きません。おそらく、日本で言う「仕事ができる」とは、会議などで自分が描くプランを論理的に説明し、各部署の長とコンセンサスを取り、一筆書きのようにスムーズに業務を進められる人の事を指すのかと思います。しかし、そもそも東南アジアではそれが不可能に近いので、そういった言葉を聞かないのかもしれません。誤解や間違いがあってもその場で修正に向けて全力で取り組んでベストを尽くすのみなので、チーム内での批判のやり合い、傍観者目線での上司や同僚の評価、愚痴などに時間を割いている暇がないのです。失敗や迷惑をかけてしまうことがあっても、チーム内に遺恨が残るようなこともほとんどありません。
こちらでは、大前提として、「最小限の労力で、最大限の成果を得たい」という暗黙の了解があるので、無茶なことをふるときや極端にワークロードが重い仕事がある場合は、バイトさんのようなひとを時給で雇って手を動かしてもらいます。
とはいっても色々なハプニングが起こるのが仕事ですので、深夜まで作業が掛かってしまうこともあります。その分はタイミングをみて代休を取ることでワークバランスを保つことができます。
どちらの方がストレスが少ないか、どちらの方が合っているか、は人それぞれだと思います。日本人の詳細で完璧に近いような仕事は美しいですし、圧倒的にレベルが高いと思います。前任者やこれまでの歴史も共有されているので、仕事の「最適解」がすでに存在しているかのようです。それが本当に最適解か、どうかは別として、その共通認識が仕事を「形式的」にしているのではないかと思います。
あまり形式を重んじずに臨機応変に仕事をする人や、「最適解」以外を試そうとすると、「できない人」とされてしまうような場合もあります。一方でシンガポールをはじめ、東南アジアや一般的な「海外」では、日本のような「形式」が少なく、自主性とその場その場のコミュニケーションによって、仕事を進めなくてはなりませんので、「面倒だな」とか「レベル低いな」と感じる人もいるかもしれません。
このように考えると、世界のスタンダードでグローバルで通用する「仕事がデキる人」というのは、美しく見事な一筆書きをできる人なのではなく、レベルが低い、共通認識がバラバラの同僚、部下、上司たちを現場レベルまで行き泥臭くまとめ上げ、ハプニングが起きても臨機応変に対応し、最後まであきらめずに業務を完遂することができる人を指すのではないかと思います。
■著者プロフィール
野﨑健太郎
大学卒業後はモデルとして活動し、国内外のショーや広告などに出演。28歳のとき、大手量販店で販売のアルバイトを始める。その後、いくつかのラグジュアリーブランドでのストア、オフィス勤務を経て、2021年12月より某ブランドのシンガポール支社に勤務。趣味は高校時代から続けているサーフィン。
■ペンネームへ込めた想い
野﨑健太郎はペンネームで、尊敬する祖父の名前です。祖父は明治生まれで、西郷隆盛を思わせるような大きな体と味海苔をおでこに張り付けたような太い眉の持ち主でした。東京・五反田を拠点に京浜工業地帯で鉄を拾って歩き回り、町工場を営んでいた祖父。信条は「上天丼を食べたいなら、人の倍働け!」でした。残念ながら50代で亡くなり、直接会うことは叶いませんでしたが、この言葉は親戚を通じて私の耳に届き、私の心に深く刻まれています。祖父のハードワーク魂が自分に宿ることをこのペンネームに込めました。