「Joy Colors Life」を喚起し、喜びの連鎖を生み出す。「ケイト・スペード ニューヨーク」柳澤綾子さんが語る、ブランドパーパスに込めた想い NEW
2009年の就任以来、約16年間にわたりケイト・スペード ジャパンのプレジデントを務める柳澤綾子さん。持ち前の明るさと積極性で「ケイト・スペード ニューヨーク」(以下、ケイト・スペード)の成長を牽引し、発展に尽力してきた。ケイト・スペードが創業時から大切にしてきた価値観を表し、社内に深く根付いているのがブランドパーパス「Joy Colors Life(喜びが人生を彩る)」。その意義や顧客への想い、浸透のための取り組みについて話を伺った。
柳澤綾子さん/タペストリー・ジャパン合同会社 ケイト・スペード ジャパン プレジデント
大妻女子大学在学中、イギリスに留学。帰国後の1998年に、株式会社サンエー・インターナショナルへ入社。翌年、ケイト・スペード事業部に配属され、MD(マーチャンダイザー)アシスタントや営業、VMD(ビジュアルマーチャンダイザー)、MD、事業統括を経て、2009年に代表取締役社長に就任。プライベートではピラティスや旅行をアクティブに楽しみながら、世界中を旅する夫と大学生の息子、愛犬と暮らす。
「お客さまの人生をカラフルに」がブランドの原点
― はじめに、柳澤さんのキャリアについて教えてください。
1998年、日本でケイト・スペードの取り扱いを開始したサンエー・インターナショナルに新卒で入社しています。ケイト・スペード事業部ではMDアシスタントからのスタートでしたが、6名の小規模なチームだったので多くの業務に関わらせてもらっていました。営業やVMD、MD、事業統括などを経験後、2009年のジョイントベンチャー設立とともにケイト・スペード ジャパンのプレジデントに就任しました。
― 日本でも幅広い層に支持され、ジャパンチームも大きく成長したケイト・スペードですが、ブランドの誕生は1993年のニューヨークだそうですね。
創業者のケイトとアンディー・スペードが「これまでになかったバッグを作ろう」と、艶やかな素材とカラーパレットが特徴的な「SAM(サム)」という6つのバッグを発表したのがはじまりです。日本には1996年に上陸し、多くのお客さまに受け入れられ、北米に次ぐ大きなマーケットへと成長しました。
長年、私がブランドとともに歩んできた原動力は、“お客さまの人生をカラフルにしたい、応援したい”という創業時から変わらないブランドの想いがあったからです。それは、私たちのブランドパーパス「Joy Colors Life」にも表れています。


― 「Joy Colors Life」に込めた想いを教えてください。
毎日のなかにある小さな喜びを見つけ、彩りのある人生を楽しんでもらいたいという想いです。人生にはハッピーな日もあれば、グレーな日もありますが、どんな日でも小さなJoy(喜び)は見つけられるはずです。そのきっかけを提供し、小さな喜びや幸せの瞬間を届けられるブランドであり続けたいと思っています。
また、一歩前に進みたいとき、優しく寄り添えるブランドでいたいですね。ケイト・スペードのアイテムを身につけることで自信が生まれ、思い切って挑戦した先にJoyが見つかればいいなと思っています。
― その想いをどのようなお客さまに届けたいですか。
年齢や性別を問わず、個性を大切にしながらトレンドを取り入れ、他の世代のファッションを刺激するZ世代をはじめ、すべてのお客さまに届けたいです。“Joyを感じたい”という気持ちは誰にでもあり、その感情を共有できる方々すべてがケイト・スペードのお客さまだと思っています。とくに若い頃から小さなことでも幸せを感じられる心を育てることで、大人になってもJoyを見つけやすくなるので、できるだけ若いときからその心の大切さを伝えたいです。
そこで、私たちはZ世代を中心に多くのお客さまに喜んでいただけるように、バッグだけではなく、アパレルやアクセサリー、ギフトなど、さまざまなカテゴリーを展開するファッションライフスタイルブランドへと成長しています。年代問わずJoyを感じるアイテムを提案し、「若い頃に手に入れたケイト・スペードのジュエリーを、愛する娘に引き継ぎたい」と、お客さまが大切な方とJoyの輪を広げるお手伝いができればいいなと思っています。

パーパスを体現して生まれたレコグニション・カルチャー
― パーパスに共感して入社する社員も多いのでしょうね。
そうですね。社員のみんなは、“ケイト・スペードの世界観にあふれた空間で働きたい”と思って入ってきます。
私がブランドに携わった当初、ケイトとアンディーから「私たちはバッグを売っているのではない。この世界観を売っている」と言われました。その世界観とは、パーパスに共感するスタッフたちでつくり上げた、前向きで遊び心あふれるブランドのカルチャーのこと。それを100年先も守り、発展させ続けることが私たちのミッションです。
だからこそ、パーパスに共感してくれる仲間がもっともっと増えてほしいと思っています。
― 社員のみなさんは、パーパスをどのように体現していますか。
些細なことでも喜びを感じながら働けるように、お互いの良いところを見つけたら、言葉にして伝えることが習慣になっています。例えば、スタイリスト(ストアスタッフ)同士はインカムや「Joyカード」と呼ばれるメッセージカードを活用して、「今の接客、すごくよかったよ」と称賛したり、「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えたりしているのです。
しかも、このレコグニション(相手を褒める、認める)・カルチャーを広めようと、社内のみんなが自発的にチームを結成しています。その活動の中で、レコグニション機会を増やす仕組みづくりに積極的に取り組んでいることを誇らしく思います。
―前向きに、楽しく働くことができそうな環境ですね。
互いに尊重されていることを感じることで働く時間が楽しくなったり、“このチームが好き”と思えたりすれば、やりがいや生産性が上がって成果にもつながるはずです。また、違うバックグラウンドを持つ人同士が価値観を認め合うことで、“自分もチームの一員である”と実感できるので、チームの結束力も強まるでしょう。さらに、仕事が楽しいとあるがままの自分に自信が持てて、周りのJoyも見つけやすくなるので、気持ちや感謝を言葉にして伝え合うことは大事だと思います。


パーパスの浸透がブランド・カルチャーをつくる
― パーパスの社内浸透に成功したポイントを教えてください。
まず、リーダーである私がパーパスを体現し続けることで、みんながパーパスを常に意識できるようにしています。働いていると時には大変なこともありますが、いつでも原点に立ち戻れる環境を大切にしているのです。
― パーパスを業務に結びつけるには社員自身がパーパスに共感することも大切ですが、どのような取り組みを行っていますか。
とくに印象的だったのは、社員と一緒に「Joyを感じる瞬間」をシェアする時間をつくり、「Joy Colors Life」を自分ごととして捉えてもらうセッションです。
パーパスを掲げるだけでは、どうしても表面的な理解にとどまりがちですよね。そこで、「あなたはどんな瞬間にJoyを感じますか?」と問いかけ、それぞれがパーパスと自身の経験を結びつけ、実感として落とし込めるようにしました。
Joyのカタチは人それぞれで、どれも否定されるものではありません。社員それぞれの個性溢れるJoyを語ることでお互いの理解が深まり、チームの結束力も強くなっています。
― セッションは頻繁に行なっているのでしょうか。
定例会議などのみんなが集まる場で、「リーダーたちのJoyを聞いてみましょう」といったテーマで話すことはよくありますね。
また、オフィスの入り口には、ケイト・スペードで働くすべてのスタッフが自身のJoyを書き込んだカードを貼り付けた「Joyボード」も展示しています。これも社員のアイディアから生まれたもので、日常的にパーパスを目にすることで自然と意識できる環境になりました。
こうした積み重ねによって、パーパスに共感して入社した社員にブランドの価値観が浸透し、カルチャーがどんどん色濃くなっていくのを実感しています。

Joyの連鎖を生み出し、お客さまの人生を彩る
― 世界中でケイト・スペードが愛され続ける理由は、どこにあると思いますか。
社員の言動だけでなく、アイテムやショップ、マーケティング活動といったすべてが私たちのパーパスに立ち返っており、お客さまにケイト・スペードの世界観が伝わっているからでしょう。
例えば、アイテムのディテールにはストーリーがあって、パーパスにつながるメッセージが込められています。昨年11月には、旗艦店である東京・銀座店をリニューアルオープンしました。ブランドを象徴する「ケイト・スペード グリーン」を基調に、ブランドの発祥の地であるニューヨークのエッセンスを取り入れた、カラフルでエネルギーに満ちた空間へと生まれ変わったのです。
ブランドの世界観を伝えるすべてが“喜びを感じたい”というお客さまの気持ちをくすぐり、共感を呼び起こすブランドへと成長できたのだと思います。
― 成長を続けるケイト・スペードですが、現在はどのようなことに注力していますか。
もっともっとたくさんのお客さまに、ケイト・スペードの世界観をお届けすることです。ブランドのメッセージをより研ぎ澄ませ、Z世代を中心にJoyを喚起する存在になることがブランドとしての目標であり、私のミッションでもあります。
そして、Joyの連鎖が生まれれば、こんなに嬉しいことはないですね。Joyには連鎖する力があって、喜びを感じた人の「ありがとう」が誰かの喜びにつながり、ポジティブなループが生まれます。ケイト・スペードのブランド世界観を通じて、お客さまの人生がより彩り豊かになることを願っています。
「この世界からケイト・スペードがなくなったら、Joyがなくなってしまう」。そう言われるような、100年先も200年先も私たちの想いをしっかりと届けられるブランドとしてあり続けたいです。
文:流石香織
撮影:船場拓真