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野球×IPで共創するマーケティング。6球団横断だからこそ実現する大胆な戦略

野球×IPで共創するマーケティング。6球団横断だからこそ実現する大胆な戦略 NEW

2024年のプロ野球観客数は、セ・パ両リーグを合わせて2600万人余りで、5年ぶりに過去最多を更新した。特にパ・リーグは6球団すべてがホームゲームで10万人以上増、リーグ全体では前年比10%増と好調だ。背景にあるのは、チームや運営母体によるマーケティング戦略だ。その中心にいるのが、パシフィックリーグマーケティング株式会社である。6球団の共同出資で設立された同社は、大規模なIPコラボレーションプロジェクトやメディア展開をリーグ全体として実施。新たなファンの獲得や既存ファンのエンゲージメントに貢献している。MDの責任者を務める山﨑さやかさんに、同社の存在意義やプロ野球とIPのコラボの可能性について聞いた。

山﨑さやかさん/パシフィックリーグマーケティング株式会社 営業本部 営業部 MDグループマネージャー
小学生からサッカーを始め、2002年にU-19日本代表、2003年夏季ユニバーシアード日本代表に選出。早稲田大学在学中に株式会社ナイキジャパンのインターンを経験し、卒業後同社に入社。2019年、パシフィックリーグマーケティング株式会社に入社。MDグループのマネージャーとして、コラボプロジェクトの商品企画、販売戦略などを統括する。

6球団横断だからこそ効果的なマーケティングが実現する

御社はどのような経緯で設立されたのでしょうか。

2004年の球界再編期を経て、球団単位ではなくリーグとしてまとまってビジネスを展開することで新たなファンや市場機会を創出したいという意図で、6球団の共同出資で2007年5月に設立されました。

働いてみてどのような存在意義を感じますか。他のプロスポーツリーグにはない強みがあれば教えてください。

各球団ごとにビジネスとして成熟しています。しかし、外部の企業様とのコラボレーションやファンの皆様とのリレーションという意味では、パ・リーグ6球団としてまとまって取り組むことへの期待値があると感じています。というのも、1球団単位だと拠点地域との結びつきが強くなりますが、6球団として取り組むことで、全国的に野球全体と組んでいるというメッセージを発信することができるなどがあるからです。

例えばNFTのサービス事業(2021年当時)や海外放映権の販売など、1球団だと難しいけれど6球団が揃えば可能になる施策があります。特殊な企業体だからこそ、フットワーク軽くチャレンジできるメリットがあると思います。

また、当社はプロパーの社員や球団からの出向など、さまざまなバックグラウンドを持ったメンバーが在籍しています。加えて、各球団メンバーとの連携も強固です。多様なナレッジが入るので、取り組みが充実して協業する企業様やお客様の満足を得られる点が当社の強みです。

一方で、6球団それぞれに特色や歴史、企業文化の違いがあり、役割分担や企画の実施フロー、連携体制など苦労もあると思います。どのように調整されているのでしょうか。

MDや営業など、社内の部署ごとに6球団との定例会議の場を設けており、6球団全体でやりたいことを定期的に話し合っています。

例えば企業様とのコラボレーションでグッズを作るにしても、球団には多くのステークホルダーがあり、関係各所への確認が必要になります。また球団独自ですでに着手している場合もあるので調整が必須です。大きい案件は草案から実施まで半年ほどかかることもあります。調整が難しいこともありますが、乗り越えて球団すべての合意が得られた案件はそれだけ良い結果を生むと思います。

加えて当社では、「パ・リーグ.com」や「パーソル パ・リーグTV」、YouTube公式チャンネルやSNSといった自社運営のメディアを活用した自主的な活動も行っています。こちらに関しては球団とのすり合わせをしつつも、当社判断でクイックに実施できる部分があります。単独で動かせる部分と6球団と協議の上で進めていく部分のバランスを取りながら施策を進めています。

1球団ではできない施策をパシフィックリーグマーケティングを通じて実施している

IPとのコラボレーションによって新たなファンを獲得

これまでに実施された漫画、アニメ、音楽などのIPコラボの中で、特に成功したと感じるプロジェクトとその要因を教えてください。

最近では「おさるのジョージ」とのコラボに大きな反響がありました。版権元やグッズ制作会社とともに1年近くをかけて商品を企画したものです。球場での販促イベントなどPR施策も強化したことで、商品を売るだけではなく、多くの方に野球を知っていただくことができました。また、子ども向けに野球ボール型の柔らかいぬいぐるみをラインナップして、野球やスポーツに親しんでもらえるようにも工夫しました。

スクウェア・エニックスの「ドラゴンクエストウォーク」ともコラボイベント、グッズ製作を行いました。こちらは球場への送客に大きな効果が得られました。ゲームのテーマが「歩く」ことなので、ユーザーにも健康やスポーツへの関心が高い層が多く、「球場へ歩いて行って健康を促進し、試合を間近で楽しむ」というメリットが一致して3年間継続できました。

それらが大ヒットにつながった要因は何だと思いますか?

先方の皆様がスポーツとのコラボレーションに社会的な意義を感じてくださったことが大きいと思います。コラボ先の皆様に積極的に取り組んでいただけることで、我々もさらに前向きになるという相乗効果も生んでいます。

「おさるのジョージ」とのコラボでは、子どもたちにスポーツへの関心を持ってほしいという意図が一致し、グッズの販促をフルパワーで行っていただきました。「ドラゴンクエストウォーク」の場合も、スクウェア・エニックスの方が野球にリスペクトを持ってくださっていて、6球場でのコラボ試合でMDを展開するなど効果的な販促ができました。アプリ上でもコラボしていて、球場でだけ現れるオリジナルのモンスターやアプリ内のアバターが着用できるユニフォームなどを作っていただき、ファンの皆様に楽しんでいただいたと考えています。

他にも、家電メーカーと組んでネッククーラーを作ったり、ファッションブランドと組んでアパレルや日用雑貨を作ったりしています。球団のロゴが入っているだけでなく、いつもと違うテイストのグッズがラインナップされたことで、ファンの皆様にも新鮮に映ったのではないでしょうか。

大きな反響を生んだ「おさるのジョージ」とのコラボレーション

IPとのコラボレーションで、ファン層やターゲットに及ぼす変化はありましたか?

前提として、各球団個別の努力が実っていると思います。例えば千葉ロッテマリーンズは若者をターゲットにしており、球団企画のイベントもフェスのような雰囲気で演出しており、少し前では想像できなかったような変化が起きています。

当社との共同プロジェクトでも、まずはターゲットを絞ります。「ドラクエウォーク」はメインユーザー層が野球ファンと近かったので、新たなファン層として取り込む狙いがありました。一方で「おさるのジョージ」ではファミリー層、特に子どもたちをメインターゲットに想定していました。実際には、「おさるのジョージ」を見て育った層が10代から20代前半となり、グッズを手に取ってくれたので、想定以上に幅広い層に支持されました。これは6球団が大きなプロモーションをしているからこそリーチできた結果だと思います。

当社のミッションはプロ野球の新しいファンを増やすことです。コラボイベントをきっかけに球場に足を運んでくださる方や、コラボグッズをきっかけに野球に関心を持ってくださる方がいればコラボの意義は十分にあると思います。

コラボレーションの選定基準や、IP側との交渉・連携において重視しているのはどのような点でしょうか。

「ファンを増やすことができるか」「今のファンが楽しんでくれるか」を両軸で考えています。人気コンテンツだからという理由だけでコラボするわけではなく、逆に知名度は高くなくても親和性や世界観がマッチするものであれば組んでみたいと考えています。

ライセンス事業としては、購入者との接点も重視しています。商品がどこでどのように売られるのかという施策も一緒に検討し、スポーツや野球をよりよく知ってもらえる環境を選んでいます。

コラボをきっかけにプロ野球の新しいファンを増やすことを大事にしたいと語る山崎さん

今後、パ・リーグとして目指すIP活用・共創の未来像があれば教えてください。

国内・海外を問わず親しんでいただけるよう、グローバルなコラボレーションを進めたいです。例えばヨーロッパに目を向けて、ベルギー生まれのキャラクターとコラボした事例があります。

また、スポーツとスポーツのコラボレーションを考えています。直近では大相撲とのコラボレーションプロジェクトを進めており、球場がある周辺地域の出身力士に来場いただくコラボ試合を予定しています。今年は日本相撲協会が財団法人として設立100周年、パ・リーグの試合開始から75年という節目なので、国技である相撲と国民的スポーツであるプロ野球がコラボすることで、スポーツ界全体を盛り上げていきたいです。私自身はサッカー出身なので、いつかJリーグやWEリーグとも組んでみたいですね。

また、チームや選手を使わず、グルメやグッズを切り口にしたメディアの計画もあります。野球ファンの人が普段野球を見ない友達を誘えるきっかけとして使っていただけたらと思います。

最後に、「野球×異業種コラボ」の可能性について、メッセージをお願いします。

野球とコラボすることでファッションや文化を世の中に発信し、一緒にファンを増やしたり行動を起こしたりできたら嬉しいです。コラボすることで新たな価値が創出できる、そんな存在になれるように、我々も努力を続けていきたいと思います。

文:大貫翔子
撮影:船場拓真

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