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2025年下半期のラグジュアリー市場は縮小&停滞傾向へ?業界マネジメント層6名が語る、成長持続のための有効戦略とは

2025年下半期のラグジュアリー市場は縮小&停滞傾向へ?業界マネジメント層6名が語る、成長持続のための有効戦略とは NEW

2025年7月、ダビドフ オブ ジュネーブ ジャパンエーバルーンコンサルティング株式会社は、シガーとアルコールのペアリング体験を提供するクローズドイベントを共催した。会場となったダビドフ オブ ジュネーブ銀座に招かれたのは、主にファッションやジュエリー、時計を扱う外資系ラグジュアリーブランドでリテールに関わるマネジメント層の6名。シガーと向き合う贅沢なひとときを味わったあとは、ラグジュアリー業界における2025年下半期の市場予測や接客アプローチについて、各々が考えを述べ合った。


プレミアムシガーをシャンパンとのペアリングで堪能

イベント前半では、参加者6名が2つのテーブルに別れて、シガーとアルコールのペアリングを体験。ダビドフ オブ ジュネーブ ジャパン ゼネラルマネージャー 横田宏さんが冒頭の挨拶を終えると、早速、参加者にシガーが手渡され、吸口を作るカットから喫むまでのレクチャーが行われました。

シガートレーナーとして各テーブルに同席したのは、ダビドフ オブ ジュネーブ銀座で店長を務める浜崎達也さんと、昨年までダビドフ オブ ジュネーブ 東京ミッドタウンで店長を務め、現在はスーパーバイザーとして後進育成にも取り組む神林茂典さん。双方とも20年以上に渡って、ダビドフ オブ ジュネーブでキャリアを積み、自社製品の奥深さや哲学を網羅的に熟知したスペシャリストです。

1本目に提供されたシガーはブランドを代表するホワイト・バンド・コレクションの中でも、芳醇かつバランスのとれたアロマが感じられる「アニベルサリオ NO.3 チュボス」。参加者達はベストペアリングであるシャンパンを傍に、ダビドフ オブ ジュネーブが歩んできた歴史や受け継いできたクラフトマンシップ、製造工程について、時折、シガートレーナーへ質問しながら興味深く聞き入っていました。その後は、2本目のシガーとベストペアリングであるコニャックも提供され、各々が贅沢なひとときを愉しみました。


本物を選ぶ“選別の時代”で、市場は縮小傾向へ

イベント後半では、参加者6名が2025年下半期におけるラグジュアリー業界の動向を予測。各ブランドの特性や直近の動向を踏まえた上で、今後の市場に起こるであろう変化やブランド側に求められるものについてそれぞれが考えを述べました。

メンズファッションのラグジュアリーブランドでエリアマネージャーを務めるAさんは、ラグジュアリー業界が転換期を迎えていることを踏まえて、市場全体として縮小傾向になると予測。

「主な要因は、顧客層が持つ価値観の変化です。ラグジュアリーブランドの商品の中には、キャッチーな装飾や大規模なマーケティングによって売れてきたものが多くあります。しかし、消費者は徐々に目新しさや見た目の派手さに価値を感じなくなっており、これまでのように『流行に乗って“とりあえず”購入する』という購買動機が起こりづらくなっています」

「私どものブランドでは財布やネクタイからブランドの世界観を知ってもらい、理念や歴史に共感した顧客に対してはビスポークテーラリングといったハイエンド製品をご提案するという、深いカスタマージャーニーを設計しています。その結果、ブランドの世界観を体現できている主要店舗では、前年比+ 15〜20%という成長を実現しています。今後はこうした本質に根ざした価値を提供できるブランドだけが、縮小する市場の中で持続的な成長を維持できるでしょう」


ハードラグジュアリーメゾンでリテールディレクターを務めるBさんも同様の見解を示しました。

「2025年下半期は、昨年のようなツーリスト急増によるインバウンド需要は見込めません。ただ、異常値とも言える昨年の売上と比較して一喜一憂する必要もないと思っています。それよりも向き合わなければいけないのは、ラグジュアリーの世界に興味をお持ちで、かつ経済的余裕のある人であったとしても『本当にお金をかける価値があるか』を吟味する、いわば“選別の時代”に突入していることです。私どもが取り扱うハードラグジュアリーにおいては世代を超えて継承できるかがカギを握っています」

「今後はローカルのお客様に継続して選んでいただくために『体験の質』を高めていくことがより重要になるでしょう。接客するスタッフの知識や対応力はもちろん、空間の演出や過ごす時間そのものの心地良さも、顧客満足度に大きく関わってきます。2025年下半期は、お客様に『また来たい』と思って頂ける体験をどれだけ本気で追求してきたか。その取り組みの成果が、売上という形で表れ始める“勝負の時期”になると考えています」


不安定な国際情勢やローカルへのサービス低下による停滞も

高級腕時計ブランドでシニアセールスマネージャーを務めるCさんは、何とも言い難い現状にあると停滞を示唆しました。

「例えば、コロナ禍ではそれが明確な理由として売上に表れていたことで、ローカルにフォーカスするという対策を講じることができました。結果、インバウンドに頼らずとも売上を立てられる体制が整い、コロナ禍が明けてからはローカル、インバウンド共に好調な売り上げをみせましたし、“高級時計ブーム”と呼ばれる追い風が吹く時期も数年続いたんです」

「では、なぜこの上昇傾向が続いていかないのか。その理由のひとつとして社会情勢の不安定さが挙げられます。国際的に不安要素が複雑に絡み合っている最中で、ラグジュアリー市場が活発になるとは考えにくい。そういう意味では、ブランド側は2025年下半期をローカルの育成や新規顧客獲得に向けての準備期間として捉えるのが妥当だと思います」


顧客分析やリレーションを築くイベント企画を行うディベロップマネージャーのDさんも「2025年下半期のローカルにおける売上は辛抱が続く」との自論を展開しました。

「2024年はツーリストによるスピーディな購買行動が売上を押し上げ、ほとんどのブランドでイージーなセールスが見受けられたと思います。しかし、2025年下半期はその反動期とも言え、ツーリストの購買意欲は落ち着きを見せています。この現状を受け、業界が注力すべきは『ローカル顧客との関係性の再構築』です。インバウンド消費に依存したことで、日本在住の顧客に対するサービスが疎かになった反省を踏まえて、丁寧なコミュニケーションやパーソナライズされた接客を取り戻す必要があります」

「さらに、価格設定の見直しも大きな課題。2024年はツーリストの需要を見越して各ブランドが価格を大きく引き上げたものの、日本人消費者にとっては手の届きにくい水準となっています。一度上げた価格を下げるのはブランドイメージへの影響もあり非常に難しくはありますが、このジレンマも乗り越えなくてはいけない課題のひとつ。今後はローカルの繊細な感覚に寄り添った商品企画や価格設定なしには、勝ち目はないと考えています」


資産性の高い商品は消費の後押し、高級時計は“正常化”で再拡大の可能性

アパレルを取り扱うラグジュアリーブランドでリテールディレクターを務めるEさんは、2025年上半期はインバウンド需要が振るわず底を打った印象から、少しずつ拡大へ向かうと見ています。

「コロナ禍を通じてローカルの強化に取り組んできた結果、安定した売上を維持する店舗もある一方で、インバウンド依存の高かった店舗ではローカル強化だけでは補いきれない課題を抱えています。これはRTW(既製服)を中心に展開するブランドに共通する悩みかもしれません」。

「一方、資産性のある商品を扱うごく一部のブランドは、優良顧客、とくに社会情勢に左右されにくいトップ層の安定した消費に支えられ、影響を受けにくかったと考えられます。市場が急激に縮小する可能性は低いものの、成長に転じるためには、このトップ層に続く顧客層へのアプローチが不可欠です。彼らは株価に影響されやすいものの、頑なに消費を抑えるという意思があるわけではありません。体験型イベントなどを通じた付加価値の提供により、消費を後押しすることは十分可能です。特に上期に好調だったMTM(メイドトゥメジャー)商品に期待を寄せつつ、下半期に臨みたいと思います」


高級腕時計ブランドでホールセールを担うFさんは、“正常化”をキーワードに拡大する要因を分析。

「高級時計業界では、2023年にパンデミックの反動とも言える消費の高まりがピークを迎えました。現在、その勢いは落ち着きを見せており、下半期にかけて“正常化”という意味で再び拡大に向かっていくと思われます。こうした現状を踏まえると、今後業界が注力すべきは新しい戦い方の模索です。ホールセールの現場では、ラグジュアリーの入り口となる30〜40万円代の商品が求められており、今後はさらに上位グレードへの誘導、つまり“ランクアップ消費”への繋ぎ方が重要になってくるでしょう」

「その中で最も大切なのは、『買った人が主役になれるか』という視点です。ラグジュアリー商品は単に所有することがゴールではなく、顧客がそのモノを通じて自分の価値を表現し、満足感や達成感を得られるかが問われています。つまり、価格帯ごとにきちんとストーリーが設計されており、顧客が自分に合った選択肢を見つけられる環境づくりが欠かせません。2025年の後半は、前年に比べて冷静な市場になる一方で、年末に向けて再びラグジュアリー需要が高まるタイミングでもあります。この“上げ時”をどう捉えるかが勝負どころです」


参加者が実感したシガーとラグジュアリーの親和性

イベントの最後に、ダビドフ オブ ジュネーブ ジャパン ゼネラルマネージャー 横田宏さんは次のように話しました。

「参加された方々との対話を通じて、改めてシガービジネスの持つ可能性の大きさを実感しました。シガーは敷居が高く、マナーや作法が先行してしまう印象を持たれがちですが、本来はもっと気軽に、自由に楽しんでいただけるものです。距離を少しでも縮められるよう、コンスタントに体験の場を提供していきたいです。半年前から一般のお客様向けに体験型イベントも継続開催しておりますが、今後はラグジュアリーブランドと連携したイベント企画も積極的に行っていきたいです」

6名の参加者たちからは、シガーを通じて時間や空間の豊かさを再発見する機会となった、という声のほか、シガーを通じた新しいイベントの可能性、体験型の消費の価値やブランド側から踏み込んだ場づくりを行う重要性を改めて感じたなどの感想が挙がりました。

今後、大きな転換期を迎えるであろうラグジュアリー業界の市場拡大に必要とされているのは、まさにこうした上質な顧客体験なのかもしれません。

横田宏さん/ダビドフ オブ ジュネーブ ジャパン ゼネラルマネージャー(中央右)

文:芳賀たかし
写真:船場拓真

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「エーバルーンコンサルティング(A Balloon Consulting)」は、東京と大阪を拠点にしたファッション業界に特化した人材紹介サービス会社。販売スタッフからエグゼクティブクラスまで、ファッション業界の優良な人材と企業をつなぐエージェントとして、多くの紹介実績を持つ。