カルチャーとブランドの交差点。C.P. Companyが仕掛けるカルチャー戦略 NEW

スポーツウェアやワークウェアに着想を得たユニークなプロダクトを発信し続ける「C.P. Company」。そのスタイルは、ファッションのみならずカルチャー全体に深い影響を与えてきた。スポーツ選手やミュージシャンからも厚い支持を得るこのブランドは、どのようにしてカルチャーシーンとの関係性を築き、それをブランディングへと昇華させているのか。マーケティングを統括するエンリコ・グリゴレッティ氏(Vice President, Brand)に詳しく話を聞いた。
エンリコ・グリゴレッティさん/C.P. Company Vice President, Brand
マーケティングおよびブランドディレクションを統括し、プロダクト・デザインチームとマーケティング・セールスチームを結びつけ、ブランドのコラボレーション、ポジショニング、そして戦略的なリーダーシップを発揮している。アルマ・マーテル・スタディオルム・ボローニャ大学で経済学とマーケティングを学び、C.P. Companyに入社する以前は、ファッションおよびデザイン業界の様々な企業でマーケティング職を歴任。また、クリエイティブスタジオ「Studio Fantastico」の共同設立者であるほか、メディア「Contemporary Standard」の創設者兼編集長を務めた経験もあり、その他にも多様なメディアやコンサルティングファームに寄稿などをしてきた経歴を有する。
スポーツと音楽のクロスオーバーによってブランドを押し上げる
― 「C.P. Company」のグローバル展開において、カルチャーとブランドはどのような関係性にあるのでしょうか。
私たちが採用しているのは、スポーツや音楽といったカルチャーとブランドを双方向に接続し、それらの文化がブランドの価値を反映し、さらに押し上げてくれるという戦略です。
結果として、C.P. Companyというブランドの意味を、オーディエンス自身が共に築いていく「本質的な関係性」を形成しています。
その好例が、イギリスのマンチェスター・シティFCとイタリアのボローニャFC 1909という2つのサッカーチームとのファッションウェアパートナーシップです。これらのコラボレーションは、サッカーやファッションといった共通の価値観を通じて、コミュニティとの絆をより強固なものにし、サポーターを巻き込みながらブランドストーリーを構築するものです。
また、音楽アーティストとの協業も積極的に行っており、特別なプロジェクトや特定の場面で着用されるカスタマイズアイテムを共同制作しています。これまでに、イギリスのラッパーKANOやバンドGorillazとのコラボレーションを実施し、それぞれがC.P. Companyを独自の視点で表現してくれました。


― サッカーカルチャーとのパートナーシップの狙いと反響について教えてください。
1990年代、サッカー選手はピッチ外ではまだ「ファッションアイコン」として見られておらず、むしろ野暮ったい存在とされていました。
しかし、この5年間でヨーロッパにおけるサッカーの立ち位置は大きく変化し、選手たちはファッションやライフスタイルの象徴的存在へと進化しています。現在では、アーティストやファッションリーダーが試合を観戦に訪れることも多く、ヴィンテージのサッカーシャツがファッションアイテムとして人気を集めるなど、音楽・ファッション・サッカーが自然に交わる文化的潮流が生まれています。このようなクロスオーバーこそが、C.P. Companyのブランドアイデンティティを支える柱のひとつです。

― イギリスを代表するバンド、Oasisとの関係についても教えてください。
彼らは1990年代からC.P. Companyを愛用しています。これは戦略的なタイアップではなく、彼ら自身が自主的に選び、着てくれているものです。ブランド創立50周年を記念したブックにも、彼らが自身の私物を着用して登場しています。彼らの地元であるマンチェスターという土地柄もあり、サッカーカルチャーとの親和性がブランドとの関係をさらに自然なものにしています。
― ヨーロッパと日本では、スポーツや音楽との関わり方に違いがあると思います。マーケティング上ではどのような違いを感じますか。
おっしゃる通り、バックグラウンドとなる文化的文脈はヨーロッパとは異なります。だからこそ私たちは日本市場に大きな可能性を感じています。スポーツ・音楽・ファッションが有機的に結びつく市場としては、まだ未開拓な部分が多く、C.P. Companyとしてその領域に誠実かつ勇敢に挑戦していきたいと考えています。
― サッカー以外のスポーツとの関わりはいかがでしょうか。
もちろんあります。スポーツウェアの持つ機能性とイノベーションは、常にC.P. Companyにとって重要なインスピレーション源です。1970〜80年代には、イタリアのクラシックカーレース「ミッレミリア(Mille Miglia)」でC.P. Companyのウェアが着用されており、モータースポーツとの結びつきはブランドのルーツの一部です。近年では、テニス選手マッティア・ベルッチとのコラボレーションで、コート内外のライフスタイルを意識したコレクションを展開しています。

ブランドを愛するアンバサダーや仲間との、真摯で自然な関係構築
― Z世代やα世代といった若年層もターゲットになっていると思います。特にどのような層から支持されているのでしょうか。
新しい世代はブランドの未来を形づくる最も重要な存在です。若年層の多くは、品質・独自性・デザインへの理解が深く、自分らしさを表現しながら、仲間とともに何かを楽しむコミュニティ意識を持っています。C.P. Companyは、まさにそうした本物志向で個性を大切にする人々から支持を得ています。
― デジタル世代に対して、ブランドの価値を伝える際に意識していることはありますか。
私たちは「今すぐには手が届かないけれど、いつかは手に入れたい」と思ってもらえるような憧れと到達可能性のバランスを大切にしています。そのため、若者に人気のラッパーやアーティストとコラボレーションを行い、TikTokなどのプラットフォームを通じて、ブランドの歴史や価値をその文化やトーン・オブ・ボイスに合わせて発信しています。現代の10代・20代は、広告とオーガニックな投稿の違いを瞬時に見抜くため、自然さと誠実さが何よりも重要です。私たちは決してブランドを押し付けず、「C.P. Companyを着たい」と思ってくれる人々を歓迎する姿勢を貫いています。こうして築かれるアーティスト、インフルエンサー、顧客との自然で敬意ある関係性こそが、私たちのブランディングの核です。
― 今後のブランド展開について教えてください。
近い将来では、2026年春夏コレクションの発表に合わせてパリでイベントを開催し、C.P. Companyの歴史的DNAとカルチャーの物語を紹介する予定です。それは、私たちの過去を愛でながら、ブランドの未来へと踏み出す重要な機会となるでしょう。どうぞご期待ください。
文: 大貫翔子
撮影: 船場拓真