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「私が挑戦を選んだ理由」転職エージェント 北川加奈のキャリア論 Vol.1

「私が挑戦を選んだ理由」転職エージェント 北川加奈のキャリア論 Vol.1 NEW

学習塾の講師からリクルーターへ転身して18年。現在、人材紹介会社・エーバルーンコンサルティングのヴァイスプレジデントを務める北川加奈さんは、これまで3,000人近くもの人々の仕事人生の岐路に立ち合ってきた。このコラムでは、北川さんがリクルーターとしてキャリアを積み重ねてきたなかで得た学びや気づきを、自分自身の体験も交えながら綴る。


核心を突いた、ある人からの言葉

私のキャリアは、静岡県浜松市の学習塾から始まりました。新卒で選んだのは塾講師の仕事です。教えることが好きで、生徒が「わかった!」と目を輝かせる瞬間に立ち会えることに大きな喜びを感じていました。誰かの可能性が広がる瞬間に関われる。その手応えが、私の原点です。

同時に、塾に勤めるという働き方は、当時の私にとって現実的な選択でもありました。リウマチを患っていた母を支える必要があったからです。ひとりっ子だった私は、家事を担いながら働ける環境を求めていました。昼間は母のそばにいられ、夕方から授業を行う。そのバランスは、家族と仕事を両立するうえで最適でした。しかし、生徒たちが進学を機に浜松を離れ、新しい世界へ羽ばたいていく姿を見送るたびに、心のどこかが揺れていました。

私は、このままでいいのだろうか。

当時すでに少子化が進み、地方都市における教育ビジネスは構造的な変化の中にありました。市場が縮小していく中で、塾としてどのような価値を提供できるのか。私は模索し、海外短期留学の取り組みを立ち上げました。塾のオーナーの奥様がニュージーランド出身だったことがきっかけです。生徒たちをニュージーランドへ送り出すプログラムを実施し、私は3年連続で引率しました。

異文化の中で戸惑いながらも、自ら考え、挑戦し、成長していく生徒たち。環境が変わることで、人はここまで変わるのか。その姿は、私自身にも大きな影響を与えました。環境が人を育てるのなら、私は自分にどんな環境を与えているのだろう。そんな思いを抱えていた3年目の渡航時、現地の英語学校を経営していた日本人男性に問われました。

「あなたは、このまま浜松でキャリアを終えるのか」

心に刺さる言葉でした。私は、自分の葛藤を正直に打ち明けました。挑戦したい気持ちはある。しかし母のサポートが必要で、地元を離れる決断ができない、と。すると彼は静かに言いました。

「子どもの幸せが、親にとって一番大切だ」

そして、自身の娘がHRとして働いている会社を紹介してくれました。それが、人材ビジネスとの最初の接点です。

自分の人生は自分で選ぶという決意

帰国後、私は名古屋でその会社の面接を受けました。当時、名古屋オフィスの立ち上げメンバーを募集していたようでしたが、最終的に私が提示されたのは東京でのポジションでした。

「東京で一緒に仕事をしよう」

それは単なる勤務地の変更ではなく、自分の人生を左右する大きな選択でした。両親に相談すると、父はすぐに「挑戦できるなら行きなさい」と背中を押してくれました。一方、母は静かに話を聞いていました。

出発を目前にした夜、母は涙ながらに「やっぱり行ってほしくない」と言いました。当然の気持ちだったと思います。体調と向き合いながらの生活の中で、ひとり娘がそばにいる安心感は大きかったはずです。

私は迷いました。本当にこれでいいのか、と。そして浮かんだのが、ある本音でした。

もしここで挑戦を諦めたら、私はきっと一生、母のせいにしてしまうのではないか。本当は自分が怖いだけかもしれない。変化する勇気が足りないだけかもしれない。

「家族」という理由があれば、挑戦しない選択を正当化できます。けれどそれは、責任を自分の外に置くことでもあります。

挑戦せずに残る後悔は、誰かのせいにしてしまう後悔。
挑戦して生まれる後悔は、自分で引き受ける後悔。

私は、後者を選びました。

浜松を離れる朝、私は家で母と別れました。玄関先で交わした言葉は短いものでしたが、その重みは今でも忘れられません。不安はありました。確信があったわけでもありません。それでも、自分の人生を自分で選ぶという決意だけは、揺らぎませんでした。

母は5年前に他界しました。生前、父にはよく「加奈は頑張っている」と話してくれていたそうです。母から直接聞くことはありませんでしたが、その言葉を知ったとき、私はようやく、あのときの自分の選択を静かに肯定することができました。

いま振り返って思うのは、「決断とは正解を見つけることではない」ということです。決断とは、責任の所在を自分に置くこと。そして、選んだ道を正解にしていく覚悟を持つことだと、私は学びました。

これまで私はリクルーターとして18年間、多くの人々の転機に立ち会ってきました。転職は条件の比較ではなく、どの環境で自分の可能性を伸ばすかという選択です。「このままでいいのか」。かつて私が投げかけられた問いは、今も私の中にあります。そして今度は私が、その問いを誰かに手渡す立場になりました。

地方から東京へ。私にとって、それは単なる地理的な移動ではなく、自分の人生に責任を持つという意思表示でした。

あの日の決断が、いまの私の原点です。

■著者プロフィール
北川加奈/エーバルーンコンサルティング株式会社 ヴァイスプレジデント・人材コンサルタント
静岡県出身。英国留学後、塾の講師を経て人材業界に転身。2021年エーバルーンコンサルティングに上級職として就任。ラグジュアリー、ファッション、ライフスタイル、コスメ業界に強みを持ち、外資系エグゼクティブサーチに従事。1,000件以上の紹介実績があり、業界屈指のネットワークを誇る。平日は都会的なライフスタイル、週末はアウトドアを愛し、愛犬と共に都市と自然の調和の取れた生活を送る。

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「エーバルーンコンサルティング(A Balloon Consulting)」は、東京と大阪を拠点にしたファッション業界に特化した人材紹介サービス会社。販売スタッフからエグゼクティブクラスまで、ファッション業界の優良な人材と企業をつなぐエージェントとして、多くの紹介実績を持つ。