大阪・関西万博と夢洲IRの現在地を探る ― 日本観光・IR事業研究機構 第15回セミナーレポート ― NEW

9月25日(木)、大阪ATC O’sにて「大阪・関西万博の現状について」をテーマとしたセミナーが開催された。主催する日本観光・IR事業研究機構は、観光・MICE・IR事業を中心に産官学の専門家が集う研究機関として、定期的なセミナーや研究会を通じて最新の知見を共有している。本セミナーでは、大阪・関西万博とその舞台である夢洲を現地で体感し、IR(統合型リゾート施設)が開業する2030年以降を想像できる貴重な機会となった。セミナーで語られた「大阪・関西万博の閉幕から現在までの状況」をもとに、レポートする。池田剛代表理事・事務局長の開会挨拶によってスタートした本セミナーには多くの業界関係者が集まりました。
万博協会による総括
公益社団法人2025年日本国際博覧会協会の副事務総長・髙科淳さんは、開幕からここまでの来場状況を報告しました。来場者数は2,200万人に達し、国内外178の国と地域からの参加がありました。来場者の属性は幅広い世代におよび、特に大阪在住者の比率が高く、またSNSを通じた情報拡散が来場者増加とリピーター獲得に大きく寄与。海外比率は約7%で、アジア圏からの来場が中心。入場券は累計2,600万枚が販売され、地元経済への波及効果も顕著に表れました。
髙科さんによれば、今回の万博では10を超えるギネス世界記録が誕生しているとのこと。最大の木像建築物として認定された大屋根リングや開会日のドローンアートなど、多方面で話題を集めました。また各パビリオンでは、実際に来場者が触れたり参加できたりする「リアルな体験」が人気となっており、万博の持つ「リアル体験」の価値が、デジタル時代において改めて注目されている点が印象的でした。

建築デザインから見た夢洲の可能性
夢洲駅の設計
安井建築設計事務所の栗山純子さんは、夢洲駅の設計思想を紹介。日本の文化や技術を織り交ぜた空間構成で駅自体を“パビリオン”と位置づけた計画であり、鉄道の運行ダイヤ図と折り紙をモチーフにした天井デザインや時間帯に合わせ色温度を変化させる照明、サイネージの演出が一体となり、訪れる人に「劇場のような体験」を提供していること、さらに改札口付近には、将来のIRエリアへ接続する通路を備えていることなどを紹介されました。

大屋根リング・大阪ヘルスケアパビリオン
東畑建築事務所の武藤優哉さんは、万博会場の象徴的存在である「大屋根リング」および「大阪ヘルスケアパビリオン」について解説。“光と水と木を再構築した環境共生建築”がコンセプトである「大阪ヘルスケアパビリオン」は、水と木に支えられてきた大阪の歴史・文化から着想されました。また「大屋根リング」は世界最大の木造建築でありながら、清水寺等にみられる伝統的な貫接合技術を応用することで都市木造化の促進を目指しています。多様性を内包しながら一体性を生み出すデザインコンセプトは、会場全体の調和を体現しています。

シャインハットと太陽の塔の継承
株式会社昭和設計の竹内啓太さんは、EXPOホール「シャインハット」の設計を紹介。1970年大阪万博の象徴「太陽の塔」との連続性を意識しつつ、現代的な展示空間を力強く創出しました。会期中は夜になると外壁全体に未来への希望やビジョンを表したプロジェクションマッピングが投影され、人気を集めました。過去と未来をつなぐ建築的ストーリーテリングは、夢洲の開発コンセプトに重なるものといえるでしょう。

現地視察から見えた、2030年以降の夢洲
セミナー終了後、参加者は実際に万博会場を訪れ、シグネチャーパビリオン「いのちの未来」を体験。2075年の未来を描く展示では、株式会社ハートスホールディングス(代表取締役CEO 前田征道さん)が照明演出を担当し、来場者の感情を揺さぶる没入体験を実現。外国人来場者からも「泣ける」と評され、万博のハイライトの一つとして強い印象を残しました。

一般来場者の間で人気を集めていたのは、イタリア館の絵画・彫刻展示。観客との距離感が近く、リアルに触れることができる演出が高い支持を得ていました。また、「スマホ世代にとって、リアルに触れる体験こそが万博の意義」という声も多く聞かれました。さらに、各国が開催するナショナルデーや多彩なフード体験も注目を集め、ハンガリーやサウジアラビアの料理は特に高評価を得ていました。
これらの事例は、IRやMICE施設においても「五感に訴えるリアル体験」や「食・文化を通じた異文化交流」が集客と満足度向上の鍵となることを示唆しています。夢洲が万博での経験を土台に、IR開業後も国際的な来訪者に向けて多様な体験価値を提供できるかが、2030年以降の成功を左右しそうです。
今回のセミナーは、2025年大阪・関西万博の集大成を確認するとともに、夢洲IRの将来像を展望できる場となりました。建築家や万博関係者の視点を通じて、夢洲が「過去と未来をつなぐ舞台」であることが浮き彫りになったといえます。2030年に向けて、夢洲は日本の観光・IRのショーケースとして進化を続けるでしょう。
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