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意味のわからないものにこそ、意義がある。相反する美しさを創造し続ける「SATORU SASAKI」の使命

意味のわからないものにこそ、意義がある。相反する美しさを創造し続ける「SATORU SASAKI」の使命 NEW

2020年に神戸を拠点としたブランド「SATORU SASAKI」を立ち上げて以来、国内外で新しい挑戦を続けているデザイナー・佐々木悟さん。フィービー・ファイロやダニエル・リー、堀内太郎氏の下でクリエイティブを学び、持ち前の行動力で未来を切り拓いてきた彼に、自身のルーツや今後の展望についてインタビューした。

佐々木悟さん/SATORU SASAKI デザイナー
1989年兵庫県生まれ。大学在学中に服飾専門学校で服作りを学び、卒業後上京。TARO HORIUCHIにて堀内太郎氏に師事。退社後に製作した作品が「TOKYO DESIGN WEEK ASIA AWARD 2015」のファイナリストに選出される。その後、2016年から渡欧し、JEANPAULKNOTTやフィービー・ファイロ在籍時の「CELINE」でデザインアシスタントを経験。帰国後の2020年、神戸を拠点に「SATORU SASAKI」を立ち上げる。「男性も憧れる女性を作る服」をコンセプトに、意志のある強い女性像をベースとしたフェミニンとマスキュリンをあわせもつコレクションを展開。

アート、クリエイティブとの向き合い方を教えてくれた叔父の存在

― まずはご自身の生い立ちから教えてください。

もともと祖父が靴のデザイナーをしていて、叔父は抽象画の画家でした。幼少期から、いつもそばにアートがあるような環境で育ちました。いま思うと、アートやデザインはコンセプトや哲学が何より大切だということを最初に教えてくれたのは叔父だったように思います。そんな家族の影響もあって、幼い頃から自然と将来はプロダクトを作ったりクリエイティブなことで勝負したいと思うようになりました。そして、大学在学中の21歳の頃、洋服好きが高じてファッションの世界へ進もうと決めました。始まりはそんな、とても単純な理由でした。

― 自分のブランドを立ち上げて人生を戦っていこうと決めたきっかけは何だったのですか。

大学卒業後に上京して、1年半くらい「TARO HORIUCHI」で修業させてもらいました。そこでクリエイティブディレクターという仕事を知り、僕はこの方向に振り切ろうと決めたんです。毎シーズンのテーマを決め、テーマの背景にある哲学を探り、その哲学をどうコレクションに落とし込むかをコンセプチュアルにアプローチしていくーーパターンや縫製ではなく、デザインやディレクションのみにフォーカスするやり方です。

ここで重要になるのは、「自分自身」を掘り下げる作業です。まず、自分の「好き」に疑いを持つことから始まります。「本当に好きなのか?」「まわりの影響で好きだと思い込んでいるだけではないのか?」そんな問いを繰り返して、ゼロから自分を掘り下げていくのです。自分が何者で、自分にしかできないものは何なのかを突き詰めていく作業です。この作業は、幼い頃から叔父に教えられていたアートとの向き合い方そのものでしたので、僕はこの世界で戦える、そう思いました。

「CELINE」の制作現場で得た刺激、そこから生まれた信念

― 海外を視野に入れ始めたのはいつ頃ですか。

「TARO HORIUCHI」の堀内太郎さんがアントワープ王立芸術アカデミー出身だったこともあり、僕もいつか海外で挑戦してみたいという気持ちが芽生えました。そして、「TARO HORIUCHI」を退職後、しばらくしてヨーロッパへ渡ったんです。

「JEANPAULKNOTT」のアトリエや、当時フィービー・ファイロがクリエイティブディレクターを務めていた「CELINE」で様々な経験を積ませてもらいました。フィービーの下にダニエル・リーがいて、僕は彼の下で働いていました。あの有名なクリエイターたちが1日2着くらいずつすごいスピードで作り続けるんです。しかもデザイン画は描かず、いきなり形にして提案する。その中からフィービーがピックアップして、修正を繰り返しながらコレクションとして発表していく。本当にハードな作業をタフにこなす彼らの姿に驚かされました。「常に新しいものを探求しながら形にしていくことこそがデザイナーのやるべき仕事でしょ?」というムードに刺激を受けながら、デザイナーというものの意味を教え込まれました。ここで得た経験は、今もずっと大切にしている僕の信念になっています。

― その後、2019年にご自身のブランドを立ち上げて5年、ファッションの世界で戦ってきていかがですか。

実はブランドの設立直後くらいに、ちょうど新型コロナウィルスが流行し始めました。でもそれは、僕にとってマイナスには感じられなかったです。というのも 小売店側が取引先を改めて精査し始めたタイミングだったんです。その流れにうまく、良い方向でのることができたと思っています。昨年、東京ファッションアワードを受賞して、今年の3月には初めてランウェイを経験。国内での認知が広がってきている実感があります。今後、パリでの展示会を予定しているので、よりグローバルな視点を築いていきたいですね。

相反するものが生む新しいスタイルがアイデンティティ

― 「SATORU SASAKI」のブランドコンセプト「男性も憧れる女性を作る服」について教えてください。

このコンセプトは、「CELINE」にいた時に決めました。そこで働いていた女性たちが本当に素敵だった。みんな自分の意志をしっかりと持っていて、強く、かっこいい。 僕は彼女たちに憧れていたので、彼女たちのような強い女性像をベースにフェミニンとマスキュリンを併せ持つ世界観で表現したいと思いました。

例えば、マニッシュなメンズサイズのテーラリングにフェミニンなスカートを合わせたり、男性的なパターンにエレガントなドレープやシルエットを取り入れたり……相反するものを組み合わせることで生まれる新しいスタイルや価値観が、僕のブランドのアイデンティティになっています。

それから、「WEIRD(ウィアード)=不思議な、奇妙な」という言葉も大切にしています。

男性的なデザインパターンの服を女性が着る。その“違和感”に、僕はとても惹かれるのです。

― 取引先のバイヤーや、オピニオンリーダー、ジャーナリストなどの目線とご自身の哲学と、どう折り合いをつけていますか。

これまでは、とにかくコンセプト重視の時代だったと思います。毎シーズンしっかりコレクションのストーリーを作って発表するような。ただ、今は少し変わりましたよね。デザイナーでもバイヤーでもなく、消費者が一番強くなりました。SNSを使えば、消費者自身が世界中の「今」の情報を手に入れられるので、バイヤーの役割も変化してきていると思います。特に日本は、インフルエンサーによるレディースブランドがかなり出てきています。価格は手頃ながら、クオリティーは非常に高い。 難しい戦いを迫られるようになってきました。

そういう状況もあり、前回のコレクションではとにかく「分かりやすさ」を強く意識したんです。 以前は、あえて抽象度を高くしてコンセプチュアルに打ち出していたのですが、現在はとにかく消費者に寄り添って伝わりやすいビジュアルに変えました。僕が表現したい世界観にマッチすると思ったカメラマンをInstagramで探して、直接DMを送ってオファーもしました。ここまで全部自分でやったのは、このシーズンが初めてでしたね。それまでの僕が見ていた感覚ややり方に固執するのではなく、折り合いをつけていくことも大事だと思っています。

問い続ける、デザイナーの存在意義

― 今なお地元の神戸をベースに活動し続けるのはなぜですか。

就職先を考える際、関西というだけでとても苦労した経験があります。結局、僕は東京へ行きましたが、全国いろんなところに拠点をもつブランドが増えれば、ファッションを志す人たちの可能性はもっと広がるのではないかと思います。そして僕がその環境づくりに一役買えたら、それはとても光栄なことだと思います。

もちろん、地元に貢献したいという気持ちも大きいです。兵庫の革、綿……地方に息づいている素材の魅力をもっと知ってもらいたいです。 「何かものづくりをするときには、必ず社会貢献をしなさい」。これは、祖父からよく言われていた言葉です。ファッションを通して僕ができる社会貢献が何なのか、いつも考えるようにしていますね。実際、コレクションには地元の素材を積極的に取り入れるようにもしています。

― 最後に、今後の展望を聞かせてください。

規模を大きくしたいとか、ラグジュアリーブランドにしたいという思いは正直ありません。

いつか僕がやりたいのは、明らかに着ることができないショーピースだけのラインを作ること。というのも、僕のルーツにはどうしても「アート」があるので、アートな世界を洋服で表現して、それを世界へ発信していきたいんです。デザイナーは「意味が分からないものを作らないと意味がない」と思っています。

誰でも洋服を作って発信できる時代になったからこそ、デザイナーである僕らの生きる意味が何かということを、新しいものへの探求心と共に常に問い続けています。

実際、ショーピースみたいな作品はすごく反応が良いんですよ。結局、自分では思いつかないところに、人は興味をもって目を向けてくれるんだと実感しました。展示会をしていると、いつもそう思わされて、創作へのエネルギーをもらっています。時代や社会と折り合いをつけながらも、「意味のわからない、デザイナーの存在意義となりうる作品」を、葛藤しながら、作り続けていきたいと思います。だって、そういう作品を好きだと言っていただけることが、僕は一番うれしいから。

撮影:船場拓真

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