【イベントレポート】なぜ「ライカ」は時計をつくるのか。創業者のDNAと新作「ライカZM 12」から見えた必然性 NEW

世界最大級の高級時計専門マーケットプレイス「Chrono24」は2025年12月7日、世界屈指のカメラブランド「ライカ」とのコラボレーションイベントをライカ表参道店で開催した。共にドイツに本拠を置く両社による本イベントはファンとの交流などを目的に、トークセッション、ウォッチの試着体験やポートレート撮影会が行われ、参加者は両ブランドの世界観を体感した。
冒頭、Chrono24Japan日本アジア太平洋地域代表の真木可奈さんが司会を務め、Chrono24ドイツ本社の最高成長責任者ホセ・ガステルさんと、ブランドエンゲージメント責任者バラシュ・フェレンツィさんが挨拶。特別な機会を日本のファンと共有できる喜びを伝えた。トークセッションでは、時計ジャーナリストでライカ愛好家の名畑政治さんと、ライカカメラジャパンの米山和久さんが登壇。名畑さんの愛機のエピソードや新作「ライカZM 12」の機能美について、両者が熱いトークを繰り広げた。
名畑 政治さん/時計ジャーナリスト・Gressive 編集長(写真:左)
フリーライターとして活動し、1994年からスイス時計フェアの取材を30年以上継続している。著書に『オメガ・ブック』『セイコー・ブック』など多数。現在は時計専門ウェブマガジン「Gressive」編集長。
真木 可奈さん/Chrono24 Japan合同会社 アジア太平洋地域代表 兼 日本法人代表執行役(写真:中央)
学生時代にジュエリーや時計の修理等を扱う店舗でのアルバイトを通し、さまざまな時計や職人と出会い時計の世界に引き込まれる。大学卒業後、日系や外資系企業にて海外営業やマーケティング業務に携わり、2012年に渡豪。グローバルに展開するテクノロジー企業のアジア太平洋本部にて、主に日本市場での事業拡大に従事。独立を経て、2021年より現職に着任。
米山 和久さん/ライカカメラジャパン株式会社 マーケティングアドバイザー(写真:右)
代理店時代を含め、30年以上にわたりライカのマーケティング業務に従事。2005年のライカカメラジャパン設立以降も同社のブランド戦略を支え続けている。
人生を変えた1950年製ライカと、忘れられない感触
名畑政治さん(以下、名畑):初めてライカを手に入れたのは、1980年のことです。大学2年生の時に「ブルータス」の特集を見て衝撃を受け、アルバイトでお金を貯めてライカを買いに行きました。実はその際、国産の一眼レフがとてもリーズナブルな価格で展示されており、心を動かされかけました。
しかし、「ライカを買いに来たんだ」と思い直して、1950年製の「ライカIIIf(バルナック型)」を手に入れたんです。あの時、国産を選んでいたら、きっと別の人生を歩んでいた。今の私はなかったかもしれません。
米山和久さん(以下、米山):ひとつの出会いや選択が、人生を変えることがありますね。名畑さんがライカに惹かれた理由は何だったのでしょうか。
名畑:まず指摘したいのは「フォルム」と「触感」です。ライカのボディは両端が丸くなっていて、持った時に吸い付くように手に馴染みます。当時のカメラは四角くてゴツゴツしたものが多かったので、ライカ特有の心地よさが、文字通り手放せなくなりました。
米山:人間工学に基づいた手に馴染む形状や操作性の良さは、ライカが創業時から徹底して追求してきた設計思想そのものです。
名畑:梨地仕上げのボディとポリッシュ仕上げの操作ノブとのコントラストも素晴らしい。
米山:削り出しによるシャープな造形に、あえてローレット加工などの異なる質感を組み合わせることで、見た目を含め明確なメリハリを生み出しているのです。
名畑:輝きのコントロールこそ、現代の高級時計でも非常に重要なポイントです。マットな仕上げと光沢のあるポリッシュを使い分けることで、立体感や高級感が生まれる。ライカのカメラが持つその美学は、そのまま時計づくりにも通じていると感じました。
米山:妥協なきクラフツマンシップや機能美の追求はライカのアイデンティティと言えるでしょう。カメラで培ってきた精密な加工技術や哲学があるからこそ、ライカらしい機械時計を生み出せるのです。
名畑:とはいえ、カメラメーカーがこれほど本格的な機械式時計を一からつくり上げるというのは、並大抵のことではないでしょう。

創業者のルーツに刻まれた「時計製造」のDNA
米山:ご指摘のように、ライカが時計を手がけているというと「なぜカメラブランドが?」と疑問に思われる方も少なくありません。しかし、ライカにとって時計製造は、決して唐突な多角化ビジネスではないのです。そこには、創業以来の歴史的な必然があります。
創業者エルンスト・ライツ1世は、1870年にウェッツラーで自身の光学機器の工場(後のライカ)を創業する前の1863年、時計製造の本場スイスに赴きました。時計職人として働きながら、微細な部品の加工技術や、精密機械の効率的な生産ノウハウを学んだのです。その後ドイツの工場にて、まず顕微鏡の製造で成功を収め、やがてその技術はカメラ製造にも応用していきました。
名畑:つまり、ライカの顕微鏡やカメラに見られる精密な大量生産技術の基礎は、実は時計づくりから持ち帰ったものだった。
米山:その通りです。時計を作ることは、ライカにとって新しい挑戦であると同時に、約150年前への“原点回帰”でもあるのです。
名畑:ライカの歴史とストーリーを感じます。そもそもカメラという道具も、シャッタースピードという時を制御して光を捉える機械です。根底に時計製造のDNAが流れているのは、深く納得がいきます。
米山:創業のルーツを真に受け継ぐためにも、他社にブランド名だけを貸すようなライセンス生産はしませんでした。創業の地であるウェッツラーに専用の工房を構え、自らの手で作り上げる自社製造の道を選んだのです。
名畑:ライカの本気度がプロダクトの仕上がりからもひしひしと伝わってきます。威信をかけて送り出す「精密機器」であることが、手にするとはっきりわかるんです。

ドイツのデザインとスイスの技術。新作「ライカZM 12」に見る融合
米山:そうした歴史的背景を経て誕生したのが「ライカZM 12」です。39mmの絶妙なサイズ感に、ライカの工業デザインとスイスの高度な時計製造技術を融合させた野心作です。
名畑:実機を手にして感じたのは、時計としての基本性能の高さです。ムーブメントの開発パートナーには、スイスの独立系メーカー・クロノード社を起用されましたね。
米山:はい。設立者のジャン・フランソワ・モジョン氏と共に、専用の自動巻きムーブメント「LA-3002」を開発しました。
名畑:モジョン氏といえば、数々の独創的な時計を手がけてきた現代の天才時計師です。モジョン氏が機関部を担っているというだけで、精度や信頼性は高くなります。一方、顔つきはドイツを強く感じさせます。
米山:デザインの精神は、長年ライカのカメラや初期の「ライカZM 1」「ライカZM 2」を手がけたアヒム・ハイネさんの系譜を継いでいます。造形の直接的なベースとなっているのは2023年に登場した「ライカZM 11」です。そのモダンなスタイルを、今回さらにミニマルに進化させました。スイスの精緻なメカニズムを、ドイツらしい無駄のない機能美で包み込む。それが「ライカZM 12」のコンセプトです。
名畑:機能美が最も象徴的に表れている箇所の一つが、文字盤ではないでしょうか。一見シンプルですが、見る角度によって表情が豊かに変化します。「ライカZM 12」はあえて日付表示をなくしたことで、シンメトリーな美しさが際立っていますね。
米山:ダイヤルは微細なカットとブラスト加工を施した二層構造になっています。これは写真で重要視される光と影の表現を時計に取り入れたもので、カメラメーカーならではの視覚的なアプローチと言えます。
名畑:まさにレンズを通した光の芸術です。また、初期モデルの「プッシュクラウン」で味わったシャッターボタンのような操作感が、今回の「ライカ・イージーチェンジ・システム」にも息づいていますね。
米山:ストラップ交換用のボタンは「レッド・ドット」を模しており、押した時のクリック感は、カメラのレンズ交換を彷彿とさせます。
名畑:指先に伝わる感触は完全に「ライカ」そのものでした。中身はスイスの最高峰でも、手に触れるインターフェースにはドイツの魂が宿っています。

カメラと時計に共通する「本質」の追求
米山:創業者の歴史から最新の技術まで、多岐にわたってお話しさせていただきました。改めて、名畑さんにとってライカの時計とはどのような存在でしょうか。
名畑:単なる時間を知る道具以上の相棒です。今はスマホがあれば時間は正確にわかります。それでも私たちが機械式時計やライカのカメラに惹かれるのは、そこに持つ喜びや操作する楽しさという本質的な価値があるからでしょう。
米山:操作する楽しさは、開発で最も大切にしていることのひとつです。シャッターを切る瞬間の感触や、レンズを装着する際の確かな手応え。感覚に深く響く体験は、ライカというブランドの核です。
名畑:機能を突き詰めた先に現れる美しさ、つまり機能美がカメラにも時計にも共通して宿っています。だからこそ、カメラファンがこの時計を持っても違和感がないし、逆に時計愛好家が触れても、その作りの良さに納得できる。
米山:ありがとうございます。150年程前、創業者がスイスで学んだ技術が、長い時を経てこうして腕時計として結実しました。この時計が、カメラと同じように皆様の人生の瞬間を刻む良きパートナーになれば嬉しい限りです。
名畑:歴史的背景という物語と、妥協のない技術。その両方を兼ね備えたライカウォッチは、まさに大人が選ぶべき一本だと感じました。これからの展開も非常に楽しみです。

コラボレーションイベントの熱気が冷めやらぬなか、締めくくりにChrono24 Japan代表の真木可奈さんが登壇した。真木さんは、本イベントについて「ライカのウォッチやカメラの実機体験、そしてトークセッションを通して、クラフツマンシップと機械的価値を改めて実感する貴重な機会となりました」と振り返る。さらに、「機械式時計と精密カメラは、精緻な構造や操作する喜び、そして職人の技によって人々を惹きつける点で共通しており、こうした価値観はChrono24とライカ、それぞれのコミュニティにも深く根付いていると感じています」と語り、両ブランドに通底する精神性を強調した。「本イベントを通じて、そうした共通の情熱を来場者の皆さまと共有できたことを大変嬉しく思います。ライカカメラジャパンの皆さまに心より感謝するとともに、今後のさらなるコラボレーションを楽しみにしています」。と未来への展望を述べ、盛況のうちにドイツのクラフツマンシップが響き合うイベントは幕を閉じた。
文:中谷藤士
撮影:加藤千雅
Brand Information
Chrono24
世界最大級の高級時計マーケットプレイス「Chrono24」