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「アークテリクス東京クリエイションセンター」が初のオープンスタジオを開催。2人のクリエイターによる、山をめぐる対話

「アークテリクス東京クリエイションセンター」が初のオープンスタジオを開催。2人のクリエイターによる、山をめぐる対話 NEW

カナダ・ブリティッシュコロンビア発のアウトドアブランド・アークテリクスが、北米以外で初となる常設の開発拠点 「東京クリエイションセンター(TCC)」を開設したのは、2024年5月のこと。4階建ての館内には縫製スペースやミーティングルームを備え、プロトタイプの製作のほか、コミュニティスペースとしても機能している。2025年12月、この場所でブランド初となるオープンスタジオが開催された。デザインとアウトドアの両フィールドで活躍する2人のプロフェッショナルを壇上に迎え、トークセッションを通して来場者へブランドメッセージを届けた。

<ゲストスピーカー>
上西 祐理さん/デザインスタジオ「北極」グラフィックデザイナー・アートディレクター
ジョージア・スミスさん/アークテリクス 東京クリエイションセンター・デザインディレクター

<ファシリテーター>
後藤 あゆみさん/株式会社Featured Projects 共同代表・クリエイティブプロデューサー 

オープニングトーク:「アークテリクス東京クリエイションセンター」誕生の背景

トークセッションは、アークテリクス 東京クリエイションセンター長を務めるハワード・リヒターさんの挨拶で幕を開けた。

「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます。まずは私から、東京クリエイションセンターについてお話させていただきます。アークテリクスは1991年、数名のスタッフでスタートした会社です。時を経て会社の規模は大きくなりましたが、原点である山やそこで活躍するアスリートの視点を忘れないという意識は創業当初から変わりません。今後ブランドが成長する上で、特定の地域や気候だけでなく、よりグローバルな視点で『山』や『アウトドア』を捉え直す必要があると考えるようになりました。そのため、私たちはできる限り多くの時間を山で過ごし、山に関わるアスリートやクリエイターと対話することを意識しています。さらなるインスピレーションを得るため、クリエイティブ、アウトドア、クラフト、イノベーションの中心地としてTCCを設立しました」

現在こちらにはデザイナー、デザインデベロッパー、テクニカルデベロッパー、パターンメーカー、サンプルメーカーなど、約15名のクリエイティブチームが在籍しているとのこと。東京で生まれる視点や対話を製品づくりに反映させるべく、今後さらに拡大する予定だという。

続いて、今回のオープンスタジオ開催の意図と今後の展望も示された。

「今回のイベントは、TCCの取り組みを外部に開き、皆様のような方々をお招きして、創作プロセスや、それが山や自然とどのように関わっているかについて対話する実験的な試みです。クリエイターや参加者と直接対話することで、新しい発想や視点が生まれるのではないかと思っています。今後も年に数回のペースで開催したいと考えています」

アークテリクスのモノづくりの源泉ともいうべき、イノベーティブなハブスペースである東京クリエイションセンター。その意義とビジョンを参加者と共有したところで、2名の登壇者によるトークセッションがスタートした。

イベントのオープニングトークでTCC設立の背景や想いを語るハワード・リヒターさん

自然体でアウトドアと向き合う2人のクリエイター

― 本日は、日ごろからデザインやアートディレクションに携わる一方で、アウトドアにおいても積極的に活動するお二人をお迎えしています。まずは上西さんから、自己紹介をお願いします。

上西 祐理さん(以下、上西):わたしは多摩美術大学卒業後、広告代理店に約12年間勤務してきました。2021年よりフリーランスとして活動を始め、現在は「北極」という会社で、企業や商品のロゴやポスター、キャンペーンビジュアルから、空間演出、展示、映像の仕事、また近年は美術館やアートイベント、音楽、ファッション領域の仕事も手がけています。

もともと写真をやっていたこともあり、「写真とグラフィックの間のはざま」の表現に興味があります。写真から情報やモチーフの意味を削ぎ落としてグラフィック化していったとき、最後に残るのはテクスチャーや質感だと思うんです。グラフィックデザインの仕事も、イメージをペーパープロダクトにしているという意識があります。一昨年、初めて開催した個展「Non-Printing」では、約1カ月半の会期中、常に印刷したものを貼り出し続けていくという実験的な展示をしました。

山や自然とのつながりは、作品づくりの根幹である精神的な部分で感じています。秘境の大自然でも日常風景でも、流れる水をきれいだなと感じる瞬間があり、私の中ではシームレスにつながっている感覚です。

― ありがとうございます。続いてジョージアさん、お願いいたします。

ジョージア・スミスさん(以下、ジョージア):私はこれまでテックウェアのスタートアップから、ハイファッション、老舗ブランドまで、ジャンルも規模もさまざまな企業で働いてきました。2020年にはコンテンポラリーなアウトドアブランド「Purple Mountain Observatory」を立ち上げ、機能性と日常性のバランスを大切にしながらものづくりをしています。

もうひとつ、私の活動の軸になっているのが、女性が安心してアウトドアを楽しむ環境をつくるというものです。私はボルダリングコーチの資格を持っており、多くの女性に自然の中で体を動かす楽しさを知ってもらうため、イギリスで「Gorp Girls」という女性のためのアウトドアコミュニティを共同設立しました。今年2月には、アークテリクスとコラボレーションし、女性限定のクライミングイベントを開催しました。

アークテリクスといえば、雨や雪を想定した製品を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、私たちが取り組んでいるのは、様々な気候に対応した製品の開発です。寒さだけでなく湿度や暑さにも適応する製品を揃えています。ラインナップの一部である犬用ジャケットを、今日は私たちの“友達”が着てくれています。

アークテリクスのロゴが入った犬用ジャケットを着用して登場

自然体験から得られるインスピレーション

― お二人は普段、どのように自然やアウトドアと向き合っているのでしょうか。

ジョージア:自然の中に行く理由は二つあります。ひとつは、自然の中でリラックスし、頭をリセットすること。もうひとつは、自分の限界を試すことです。

例えばゴビ砂漠で行われた122kmのウルトラマラソンでは、砂漠向けの帽子を自分で作って着用し、極限環境でテストしました。アークテリクスには砂漠で使うような製品がなかったので、「ないなら作って試してみよう」と思ったんです。大変過酷な環境でしたが、実際に機能したので、トライしてみてよかったと思っています。

上西:私はもともとインドアで学生時代は部活もやっていなかったのですが、働き始めてからリフレッシュのために旅に出るようになりました。初めての土地に行って見たことのないものを見たり、新しい価値観に触れたりすることが自分を拡張してくれて、忙しい東京での暮らしも受け入れやすくなったと感じています。

どちらかというと凍結湖や氷河といった寒冷地の景色が好きで、写真ではわからないリアルな感覚を得るために、気になる場所にはできるだけ直接足を運ぶようにしています。海外に行くのが難しい時でも旅の気分を味わえる場所として、国内の雪山登山に行くようになりました。バックパックに荷物を詰め込む行為は、天候や自分のコンディションなど不確定要素を考えて取捨選択するという意味で、仕事に通じる部分があるような気がしています。ペースを整えながら自分を厳しく律する点も、デザインの仕事に近いかもしれません。

試作した帽子を着用して、ゴビ砂漠のウルトラマラソンに参加したエピソードを語るジョージア・スミスさん

― アウトドアの活動を通して心に強く残っているエピソードや経験を教えてください。

上西:一昨年、エベレストのベースキャンプまで行きました。高地トレーニングをしながらエベレスト街道を歩いていると、自分が蟻になって巨大な地球儀の上にいるような感覚があり、少しずつ動くことで見える景色が変わっていくのが面白いと感じましたね。

10年ほど前、最初に上った時にはベースキャンプで体調を崩し、韓国からの登山客に針治療をしてもらいました。一昨年は目的地には到達できたものの、下山時に体調を崩してしまってヘリコプターで下山することになりました。どちらもすごく不安でしたが、予想外の事態が起きてうまくいかないことも、自然の中だからこそできる経験ですし、いい思い出です。

ジョージア:私は、アークテリクスのアスリートと訪れた屋久島での経験が印象的でした。わたしたちはデザインプロセスを始める際に、解決するべき課題を見つけるため必ずこうした自然体験をしています。屋久島では、苔むした岩にも小さな生態系があることを目の当たりにし、自分がいかにちっぽけな存在であるか実感すると同時に、こうした豊かな自然環境を守っていかなければという使命感を感じました。環境を壊さないように慎重に歩く体験は、2027年春夏コレクションのインスピレーションにもなっています。屋久島ではプロトタイプの着用テストも行いました。自分たちの製品が高温多湿の環境でもしっかり機能するというフィードバックも、この旅の収穫となりました。

― いずれも、自然の中ならではの貴重な経験ですね。このように自然から得られたインスピレーションを、どのようにクリエイティブに活かしているのでしょうか。

ジョージア:アウトドアでリラックスし、頭を休めることでクリエイティブな発想が生まれることもありますし、逆に何かの課題解決をしたいときに自然に触れて、ヒントを得ることもあります。

上西:私は常々、感動した体験や好きなものを忘れたくないと思っています。そうした強烈な体験や印象は、直接的に今作りたいものと結びつくわけではありませんが、日常の中でふと「あの景色は綺麗だったな」と思い出す瞬間があるんです。ですので一つ一つの経験がどこかでクリエイティブとつながっている感覚はありますね。

自然から得られたインスピレーションがクリエイティブにも繋がっていると語る上西さん

唯一無二のクリエイティブを支える価値観の源泉

― お二人が今後挑戦してみたいアウトドア体験はありますか。

ジョージア:アイスクライミングをやってみたいです。寒さや危険はありますが、ぜひ挑戦してみたいと思っています。

上西:これから雪が積もり、一番好きなシーズンになるので、今は山に行きたいですね。直近では国内で考えていますが、5年以内にモンブランに登頂することを目標にしています。

― また刺激的な旅になりそうですね。それではクリエイターとして、社会に貢献できることはどのようなことだとお考えでしょうか。

ジョージア:私はデザインの未来を「プロダクト」と「人」という2つの側面からとらえています。まずプロダクトに関して、地球環境に最も影響が少ないのは服を作らないことですが、そういうわけにはいきませんので、分解、リサイクル、リペアがしやすい製品設計をしています。人に関しては、現在、アークテリクス東京クリエイションセンターでは文化服装学院とコラボレーションをしていて、次世代を担う学生さんのメンターとして活動できていることに意義を感じています。

上西:私の場合はクライアントワークが多く、すべてに責任を持つことは難しいからこそ、やらない方がいいと思う仕事は断る、「これは違う」と思ったら率直に伝えるということを大切にしています。次世代の育成という側面では、大学で授業を行う際にデザインの仕事の楽しさや視覚表現の面白さを素直に伝えていきたいと思っています。あまり壮大なことは背負えませんが、自分と向き合いながらできることを一歩一歩やっていきたいです。

― 上西さんは、アウトドアに関わる仕事に携わるために工夫していることはありますか。

上西:デザイナーはインドア派が多く、特に女性では山登りを趣味にしている人がほぼいないんですね。私はSNSを頻繁に更新している方ではなく、インスタグラムにはほぼ山の写真しか載せていません。そうすると、「山登りをするデザイナー」という印象になり、今回のような山に関するお仕事につながっているのではないかと思います。依頼する側も、自社のプロダクトやプロジェクトにシンパシーを感じてくれる人にデザインしてもらった方がやりやすいでしょうし。やはり好きなものを発信することが今の時代は大切ですよね。

数多くの参加者が二人のユニークな話に耳を傾けた

― お二人の作品にはさまざまな感性が影響していることと思いますが、若い頃に経験したことや共感した考え方で、今の仕事の基盤になっていることはありますか。

ジョージア:祖母の存在が大きいです。祖母はイギリスのシェフィールドでアパレルのサンプルメーカーをしていたので、幼少期から裁縫を教えてもらい、5歳の頃にはミシンで自分や人形の服を作っていました。また、大工職人の父がたくさんのポケットがついた服を着ているのを見て、機能的な服に興味を持つようになりました。アウトドアに目覚めたのは8~9歳の頃、母がマチュピチュをハイキングするためにトレーニングしていて、それに付き合っていたときです。自然の中で心の平穏を感じたことを今でも覚えています。

上西:若い頃は、「限りある人生、好きじゃなければやらない方がいい」と思っていました。大人になるとやらなければいけないことに忙殺されてしまいがちですが、どうせなら好きなことや楽しいことを仕事にすれば、つらいこともすべて勉強になると思うんです。誰かにやらされているのではなく、自分で選んだ道なんだと思うことで、理不尽なことともポジティブに向き合っていくことができるようになりました。

参加者からの質疑応答も交え、トークセッションは終始活気に満ちた時間となった。続いて行われたギャザリングでは、さまざまなジャンルのブランドに携わる参加者とアークテリクスのメンバーが垣根なく言葉を交わし、自然体のコミュニケーションが生まれていく。会場には、ブランドが目指す「開かれたコミュニティ」の輪郭が早くも立ち上がり、次回の開催を期待する声も多く聞かれた。

文・大貫翔子
撮影:船場拓真

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革新的な高機能アウトドア製品を取り扱うカナダ、バンクーバー発祥のアウトドアブランド。