【イベントレポート】LORENZ.OGの「Nike Air Max 95カスタム」が東京にもたらした衝撃 NEW

独自のグラデーションを施した「Nike Air Max 95」のカスタムモデルで一躍脚光を浴びているロンドンのデザイナー・LORENZ.OGが、2026年4月25日(土)・26日(日)にスニーカーショップ「atmos」とエキシビジョン「AIR in colour atmos」を開催した。会場には、LORENZ.OGが本エキシビジョンのために制作した作品を中心に、過去の代表作や未発表作品が展示され、トークイベントが開催された。同エキシビジョンに参加したH-7HOUSE LLC 代表でブランド・マーケティングコンサルタントの堀 弘人さんが、LORENZ.OGの卓越した色彩感覚と、その表現がスニーカーカルチャーにもたらす新たな視点を考察する。
スニーカーには、ときに「時代の記憶」が宿る
それは単なるプロダクトの流行や市場価値ではなく、ある瞬間における社会の空気や人々の欲望、そして個人の体験が折り重なったものだ。「Nike Air Max 95」(以下、「 Air Max 95」)は、その象徴的な例と言えるだろう。
1995年の登場以降、このモデルは日本において特異な熱狂を生み出した。筋肉や肋骨といった人体の構造から着想を得たデザインは、当時のランニングシューズの文脈を大きく更新し、同時にストリートカルチャーの文脈においても強い存在感を放った。デザインを手がけたセルジオ・ロザーノによるグラデーションのレイヤーは、単なる機能表現を超え、視覚的なアイコンとして定着していく。
やがてそれは、希少性と価格の高騰を伴いながら社会現象へと発展した。しかし時間が経つにつれ、その存在はより広く開かれ、現在では日常の中に溶け込むプロダクトへと変化している。言い換えれば、伝説から“民主化されたアイコン”へと移行した存在である。
LORENZ.OGによる、色の再解釈
その確立されたアイコンに対し、改めて新たな視点を提示したのが、LORENZ.OGである。イギリス・リバプールを拠点とする彼は、スニーカーを単なるプロダクトとしてではなく、「色のメディウム」として捉えるアーティストだ。彼の作品に触れると、既存のカラースキームに依拠しない独特のグラデーションに気づく。それは朝焼けにも夕焼けにも見えるが、どちらとも断定できない曖昧な色域を持っている。
この曖昧さは偶然ではない。むしろ、見る者の記憶や感覚を引き出すために意図的に設計されているようにも感じられる。色を「定義するもの」ではなく、「想起させるもの」として扱う姿勢が、彼の表現の根底にあるように感じられる。
今回、彼はatmosとの協働により、エキシビジョン「AIR in colour atmos 」を実施した。会場となったatmos千駄ヶ谷店は、日本のスニーカーカルチャーを語るうえで欠かせない場所である。普段は整然と商品が並ぶその空間は、この期間、まったく異なる表情を見せていた。奥の壁面に配置された「Air Max 95」は、それぞれが微妙に異なる色を纏いながら、ひとつの連続した風景のように立ち上がる。

それは単なる展示ではない。むしろ、色彩の変化を時間軸として体験するインスタレーションに近い。個々のスニーカーは独立したプロダクトでありながら、同時に全体の一部として機能する。その関係性が、通常のリテール空間とは異なる没入感を生み出していた。
スニーカーに新たな価値をもたらすアプローチ
LORENZ.OGのアプローチの本質は、工業製品に対して「手の介入」を加える点にある。制作工程は単純な染色ではない。ソール部分には染料を用いた処理が施される一方で、アッパーは筆によって一足ずつ色が重ねられていく。そのプロセスは、均質性を前提とするスニーカーというプロダクトに対し、個体差という価値を与える行為でもある。
この手法は、ヨーロッパの工芸に見られる絵付けのように、一点一点に微細な差異を生み出す。結果として、同じモデルでありながら、二つとして同じものは存在しない。ここには、効率性とクラフトの間にある緊張関係が表れている。そしてその緊張こそが、現代のプロダクトに新たな価値を与えている。

「Air Max 95」がもたらす、世代を超えた共鳴
今回のプロジェクトは、日本のスニーカーファンの間でも大きな反響を呼んだ。週末に開催されたミート&グリートには、多くの応募が集まったという。印象的だったのは、その来場者層の広さである。1990年代の熱狂を体験した世代と、現在のストリートカルチャーを自分なりに解釈する若い世代が、同じプロダクトの前に立っている。同じスニーカーを見ながら、それぞれが異なる時間を見ている。その重なりが、スニーカーというプロダクトを単なる商品から文化へと引き上げる。


LORENZ.OGのカスタムモデル「Air Max 95」が与える影響
その後、原宿や千駄ヶ谷の店舗を巡ると、「Air Max 95」は様々なカラーで展開されている。かつては入手困難であったモデルが、いまは日常の中にある。しかしLORENZ.OGの作品は、その日常化した存在に対して、もう一度「見る視点」を与える。同じモデルであっても、色が変われば意味が変わる。そしてその意味は、履く人間の体験によってさらに更新されていく。彼の仕事は、何かを付け加えることではない。むしろ、既にあるものを“どのように見るか”を再設計することにある。
今回の展示を通じて感じたのは、色が持つ本質的な役割である。色は単なる視覚情報ではなく、記憶や感情と強く結びついている。言葉になる前の感覚として、私たちの中に蓄積されている。
「Air Max 95」がかつて身体構造を可視化したように、LORENZ.OGは色を通じて記憶の構造を可視化する。機能から感覚へ、工業製品から個人的体験へ。その静かな変換は、東京という都市の中で確かに起きていた。
そしてそれは、スニーカーカルチャーの文脈を越えて、「ものを見る」という行為そのものに対する問いを投げかけている。
今後、この作品がどのような形で展開されていくのかはまだ分からない。ただひとつ確かなのは、この試みが既存のスニーカーカルチャーに新たな視点を提示したということだ。色は、変わらない。しかし、色の見え方は変わり続ける。その変化の中にこそ、次のカルチャーの兆しがあるのかもしれない。
撮影(写真提供): LORENZ.OG
著者プロフィール:堀 弘人さん/H-7HOUSE LLC 代表 | ブランド・マーケティングコンサルタント
独立系マーケターやクリエイターと連携する H-7HOUSE (エイチセブンハウス)を創設し、企業の経営課題や社会課題に対するブランド・マーケティング戦略を推進するコンサルタント。 起業前は外資系ブランドでマーケティングディレクターを経験し、日系上場企業の国際戦略部門にて、新規事業責任者としての事業の垂直立ち上げと短期間での収益化を実現した実績を持つ。 人的資本を活かしたブランド構築を実践し「人」を軸にしたブランド価値の最大化を支援する。 ブランド戦略を経営視点で捉え、事業成長とブランド価値の最大化を両立させるコンサルティングを強みとする。
Brand Information
atmos
東京のスニーカーカルチャーを世界に向けて発信し続けるショップ「atmos」