アシックス、車いすバスケ体験会で“共生”を伝える。パラスポーツが拓くインクルーシブ教育の入口 NEW

スポーツ用品大手のアシックスが、プロ車いすバスケットボール選手の鳥海連志さんを講師に迎え、小学生向けのパラスポーツ体験会を開いた。会場に集まったのは小学1〜6年生の22名。ほとんどが車いすに乗るのは初めてという子どもたちが、競技を楽しみながら障がいについての“気づき”を持ち帰った。この体験会を起点に、パラスポーツが子どもにとってどんな学びの場になり得るのか、そして学校・地域・企業がこうした機会を広げる意味を考えたい。
なぜ今、子ども向けのパラスポーツ体験が重要なのか
「障がいのある人をどう理解するか」は、言葉で説明されるよりも、体で経験したほうが深く残る。これは教育の現場でも繰り返し確認されてきたことだ。
スポーツ庁は2015年度から、オリンピック・パラリンピック教育(オリパラ教育)を全国事業として展開してきた。そこでは、スポーツを通じたインクルーシブな社会(共生社会)の構築が柱の一つに据えられ、パラスポーツの競技体験やパラアスリートの講演が、身近なバリアフリーやユニバーサルデザインへ関心を持つきっかけになると位置づけられている。
共生社会は理念として唱えるだけのものではない。子どもたちを取り巻く現実そのものが多様性に満ちており、その現実をどう学び、共生社会をどう作っていくかを考えることが、大きな教育機会になる。パラリンピック教育はそう整理されている(パラサポWEB)。だからこそ、「実際に車いすに乗ってみる」というシンプルな体験が、子どもにとって最初の入口として機能する。
アシックスの体験会で何が行われたのか
体験会は、アシックススポーツファシリティーズが管理・運営する新宿区スポーツセンターで実施された。
まずは基本的な車いすの動かし方の練習からスタート。最初は恐る恐る車輪を回していた子どもたちも、鳥海選手から操作のコツを教わるうちに、スピードを出したり方向を変えたりできるようになっていったという。

操作に慣れてきたら、“車いす鬼ごっこ”に挑戦。鬼役の鳥海選手からボールを奪われないように逃げる中で、序盤はぶつかったりパスが回らなかったりしていた子どもたちが、次第に作戦を立て、声を掛け合ってチームワークを高めていった。
締めくくりには鳥海選手も加わってチーム戦を実施。真剣にゴールを狙う表情や、シュートが決まったときの笑顔が印象的だったと、主催者は振り返る。
ここで注目したいのは、「楽しさ」と「学び」が分かれていない点だ。
鬼ごっこやチーム戦という遊びの形式をとりながら、子どもたちは“車いすではこの動きが難しい”“こういう場面で困る”ということを、説明ではなく実感として理解していく。遊びの中に学びが溶け込んでいるからこそ、記憶に残りやすい。
鳥海選手の言葉から見える“共生”の本質
イベント終盤の質問コーナーには、練習のことから日常生活のことまで、体験を経たからこその率直な質問が次々と寄せられた。鳥海選手の答えは、いずれも“特別な存在として語らない”ことで一貫していた。
Q. 毎日どれくらい練習しているのですか?
鳥海選手「1日10時間くらいです。車いすで走るメニューや、シュート練習は1日300本はやるようにしています。」
Q. 車いすで大変なことは?
鳥海選手「移動の時は段差や坂道が大変なので、エレベーターを使います。もしみんなが車いすの人と一緒に乗ることがあったら、乗り降りのときにスペースを空けてくれると降りやすくなるよ。」
Q. 普段の生活はどうしているの?
鳥海選手「みんなと一緒だよ。ご飯を食べたり、お風呂に入ったり、トイレに行ったり。そういうことを車いすに乗ってしている、というだけかなと思います。」

“車いすを使っているだけで、特別な存在ではない”。この言葉が、子どもたちにとって大きな気づきになったようだ。鳥海選手はイベントの最後に、こう語りかけて締めくくった。
「皆さんの周りにも困っている人がいたら、その人に気づいて、迷わず手を差し伸べられる人になってほしいです。」
講師を務めた鳥海連志さんは、長崎県出身の車いすバスケットボール選手。生まれつき両手足に障がいがあり、中学時代に競技を始めた。2016年リオ大会に当時チーム最年少で出場し、東京2020パラリンピックでは日本代表の主軸として銀メダル獲得に貢献、国際車いすバスケットボール連盟(IWBF)の男子MVPにも選出された(パラサポWEB)。2023年にはアシックスとグローバル・パートナーシップ契約を結び、ブランドアンバサダーを務めている(アシックス)。
体験会後、鳥海選手はこう語っている。「一番伝えたかったのは、障がいのある人は“自分が住んでいるまちにいるよ”ということ。今日がそういった子どもたちの“気づき”の第一歩になればいいなと思っています。」
“遠い存在”を“身近なこと”に変える。鳥海選手のメッセージの核心はここにある。障がいを「特別な誰か」の話としてではなく、自分と同じまちに暮らす隣人のこととして捉え直す。その視点の転換こそが、共生社会の出発点になる。
学校・地域・企業がこうした体験を広げる意味
子ども向けのパラスポーツ体験は、アシックス単独の取り組みではない。スポーツ庁のオリパラ教育をはじめ、学校現場での競技体験やパラアスリートの講演、自治体・企業による体験会など、担い手は広がりつつある。それぞれが役割を持つことで、子どもが多様性に触れる機会の総量が増えていく。
企業の関与には固有の強みがある。
アシックスは「健全な身体に健全な精神があれかし(Anima Sana In Corpore Sano)」という創業哲学のもと、障がいの有無に関わらず誰もが公平にスポーツへ参加できる社会づくりを掲げ、グループ全体でDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を推進している(アシックス コーポレートサイト)。トップアスリートとの接点、競技施設の運営ノウハウ、用具やイベント運営の知見。そうした資源を持つ企業が加わることで、子どもたちは“本物”に触れながら学べる。
実際、アシックスはこの車いすバスケ体験会だけでなく、ゴールボールなど多様なパラスポーツ体験会の実施、各種パラスポーツ大会への協賛、主催イベントのユニバーサル化などを進めている。
重要なのは、一回限りのイベントで終わらせず、機会を継続的に積み重ねることだ。学校・地域・企業がそれぞれの強みを持ち寄り、点を線へ、線を面へと広げていくことが、子どもの“気づき”を社会の変化へとつなげる鍵になる。
スポーツは多様性を体感する学びの場になる
車いすに乗ってみて初めて分かる難しさ、鬼ごっこの中で生まれるチームワーク、そして“特別じゃない”という鳥海選手の言葉。これらはどれも、教科書を読むだけでは得られない。パラスポーツは、障がいを“身近なこと”として学ぶ入口になる。
子どもたちから多くの質問が飛び出したのは、自分の体で体験したからこそ興味と疑問が芽生えた証拠だ。スポーツが持つ“学びの場”としての力。その可能性に、改めて気づかされる体験会だった。こうした機会をどう増やし、どう続けていくか。問いは、私たち一人ひとりの社会にも向けられている。
出典・参考(一次情報)
本記事はアシックスジャパンによるPR TIMES STORYの内容を素材に、NESTBOWL編集部が独自の切り口で再構成したものです。体験会の事実関係および鳥海選手のコメントは元記事に基づきます。
- アシックスジャパン「アシックスが広げる、スポーツを通じた“多様性の学びの場”」(PR TIMES STORY・元記事) https://prtimes.jp/story/detail/wrVKGXHnYQb
- アシックス コーポレートサイト「ダイバーシティ エクイティ&インクルージョン」 https://corp.asics.com/jp/csr/diversity
- アシックス コーポレートサイト「パラスポーツに対する取り組み」 https://corp.asics.com/jp/csr/diversity/people_with_disabilities
- ASICS「ASICS Enters into Global Partnership Agreement with Renshi Chokai」(鳥海連志選手とのパートナーシップ) https://corp.asics.com/en/press/article/2023-10-10
- パラサポWEB「鳥海 連志|車いすバスケットボール界のスピードスター」(選手プロフィール・実績) https://www.parasapo.tokyo/featured-athletes/chokai-renshi
- スポーツ庁 Web広報マガジン「共生社会に向かい、多様性を認め合う次世代を育むオリパラ教育」 https://sports.go.jp/tag/life/post-45.html
- パラサポWEB「パラリンピック教育とは? スムーズに導入するために知っておきたいこと」 https://www.parasapo.tokyo/topics/32691