バーチャルヒューマンimmaの仕掛け人「プロデューサーM」が考えるSNSと未来 vol.1
新型コロナウイルスの影響で、ファッション業界全体にも大きな影響がありました。職を失い、他の業界に転職する人が増えた他、従来とは違った形での働き方も新たに生まれています。今回はバーチャルヒューマンのimma(イマ)のプロデューサーであるMさんのキャリアストーリーをお伺いしながら、バーチャルモデルのこれから、そしてSNS時代の今後についてお話を伺いました。
―まず現在のお仕事に至るまでのキャリアについて教えてください。
元々は映像コンテンツを作る会社にいて、コマーシャルをずっと作っていましたが、26~7歳くらいで辞めて、BtoC(企業対消費者間取引)をするWEBアプリの会社の立ち上げに関わりました。理由としては、映像というのはメディアに依存するのでメディアが変わっていくと映像の仕事も変わっていくっていうのを感じていて。「プロダクションからプロデューサーは抜けていくだろうし、代理店からクリエーターは抜けていくだろうし、タレントは事務所から辞めていくっていう時代が訪れる。」というのを感じていて、そのタイミングでBtoCをしたくて以前とは全然違うWEBアプリのビジネスをメインとする会社で新しい試みを始めました。その後、メディアに依存しない映像とコミュニケーションがとれる場を作りたくて1社NIONという会社を作りました。その中の一環としてアート作品として映像表現をしていた時に、CGのある会社の外部役員にもなったタイミングがあったんです。ずっとクリエイティブIPを使ったビジネスをしたかったんですが、アニメ会社とかにはあったりするんですけど、IP(知的財産)をクリエイティブで担うっていうのが日本にはあんまりないし、日本から世界に羽ばたけるコンテンツをやりたいなと思いました。僕の周りに結構カルチャー系が強かったので、このカルチャーを世界に発信するコンテンツをやりたいっていうのでバーチャルヒューマンに手を出したっていうのが2017~2018年くらいですね。
―ではimmaは、クライアントがいたわけではなく完全にMさんの思いつきで始めたと言うことですか?
そうです。むしろ勝手に作って勝手に運用していたって感じです。
―制作にあたっている人々はみんな同じ会社の人たちですか?
今はそうですけど、前はあんまりルールも決めてなくて。最初はほぼ遊び半分で知ってる人達と流れで作った感じで、今はきちんと会社化したって感じですね。遊び半分とは言いつつ、まあこうなるだろうなって言うのは想像ついていて。相手の意向じゃなくてこっちがやりたいことをやるっていうスタンス。だからインフルエンサーっていうのとはちょっと違うのかなっていう。インフルエンサービジネスにもずっと危惧を示しているんですが。世界を見ると意外と考え方はいいなと思うんですけど、日本だけを見るとズレてるなっていうか。その人のライフスタイルに影響があった上でフォロワーがあるのではなく、違った理由でフォロワー集めて、その子たちがブランド品をもらっていくみたいな。何の意味があるんだろう?と。もっと本質的なビジネスをしたいので、何か無理矢理作ってお金を摂取するみたいなことはなるべくしたくないんです。imma自体も、そういうことはなるべく引き受けないようにしています。
―immaさんはピンク髪のボブで、個性的なスタイルですよね。いわゆるコンサバ系ではなくこの個性的なキャラ設定はどのような戦略があって考えられたのでしょうか?
よく言ってるのは、日本のアイコンを作りたかったので。カルチャーのアップデートをしたかったんです。日本のアニメのコンテクストの中ではあるけど、ああいうアニメの中でしか出てこないようなピンクのキャラでありながら、ファッションと融合しているキャラっていないなと思って。
―immaさんのインスタでの言葉使いや好きなものとかを見ているとすごくリアリティがありますよね。CGという特徴を生かして完全にアニメキャラクターのようにぶっ飛んだ設定も可能な中でどうして限りなく実在しそうな人物に設定したのでしょうか?
なんていうのかな、消費物にしたくなかった。新しい提案をしたかったというだけですかね。今広告を選んでいるのもなるべく消費させない為なんですけど。今ひたすら使い倒されて、バーッとテレビとかにも出て、「誰だ、この子?すごーい!」って騒がれて終わっていくみたいに使い古されて終わりみたいにはしたくなくて。この子自身の概念とか思想みたいなものが今この混沌とした社会の中で一つ提示できる存在になれるんじゃないかっていうので、あまり非現実的なことを言っても…。まあ、孫悟空が「地球環境を大事にしよう!」って言ったら、「おお悟空が言ってるなあ」とはなるけど、それでしかないっていうか。謎の人間・もしくはCGみたいな謎の設定の子が言うっていうのが面白いのかなって思っていますね。
―immaさんはCGとしての完成度はもちろんなのですが、口調にしてもフィルターの使い方にしても限りなく実在に近い感じがしますよね。具体的に参考に設定しているサンプリング対象がいますか?
immaは複合的に独自の考え方をもっています。なので、厳密にはいないですね。元々同じような考えの人が集まって作っていたりするので皆相違がないとも言えます。人間として持っている基本的な大事なこととかしか言っていないんです。
―SK2のスキンケア広告モデルもimmaが務めてますよね。広告モデルとして、人を購買に掻き立てるのはなんだと思いますか?
その人自身の人物像の背景じゃないですかね。例えば全然美人じゃなくてルックが合ってなかったとしても、その人の発信しているいろんな背景を見て好きになっていると思うので、そこは実在してようがしてまいが関係ないというか。あんまりリアルである・ないという部分が重要ではないというのを感じます。
―実在する人物であったとして綺麗に場所を演出して撮ったり、顔を加工したり、SNSでリアルを演出している部分は大きいですよね。そういう意味でもSNSはリアルとバーチャルが入り混じっている気がします。今後のSNSはどうなっていくと見ますか?
個人的な意見で言うと、逆手にとっていると言うか。immaのテーマを含めて、真実はどこにもないっていう言い方をしているので。最近も色んなニュースがバーッと流れてるけど、何が真実なのか誰にもわからないし、結構SNSは危惧していて。昔は良くも悪くもSNSがなくてマスメディアだけでしたよね。特に日本では新聞は読まれているのは5誌くらいしかなくて、テレビも4~5チャンネルくらい。ある程度嘘をつけないって言うのが公共性に繋がっていたけど、今は影響力ある人が全然違うことをリツイートしたら、それが真実になったりする訳です。なので、今あんまりニュースを見なくなって。タレントがどうこうとか、どうしようもないニュースで溢れかえっているので…。そう考えてみると何をもって信じるかって言うのはすごく自分次第になってしまったから、余計に大事なことを強くストレートに伝えていく必要性があるなと思います。今やっていることの意味としても、それが大きな目的としてあるかもしれない。
―immaが溢れかえっている情報の中でキュレーターというか良い情報を人々に伝えてくれる存在になり得そうですね。
そうですね。でも、どっちかっていうと彼女の思想が自分が発信源となって伝えていこうというのもやっていこうと思っているので。あの子が思い浮かぶ商品を作ったりとか。今社会がよくわかんなくなっちゃっているように感じていて、それを抜本的に変えたいなっていう。
―imma自身はどちらかというと海外を視野に入れていますか?
海外しか視野に入れてないです。正直。
―日本では?
日本での活動はもちろんしていますが、海外の比率でいうと全然少ないですね。おそらく海外から見られているものと日本で見られているものの差は大きいかもしれません。
良くも悪くも海外の反応は素直で、ストレートでとてもやりやすいです。
本当に個人的な意見ですけど日本は遅い印象があります。よくわからない事情が働いてる感じ。だから代理店もクライアントも結構大変だと思います。immaとやってる仕事は「これをやらないんだったら受けません」って言っちゃうから。なるべくこっちからアイディアを出して。もちろん我が儘だけじゃなくてこっちが譲歩することもありますけど、やっぱ譲歩しすぎると「ああ、やっぱりつまらなくなっちゃったな」っていうのが出てきたり、あとで後悔するので。その辺はもう感覚で選んでいますね。あとはもう知り合いがいるとか、その人となりを含めて信じてたりするので、そういうので仕事を受けることはあります。逆に仕事したことないとことかだと大体失敗するので。
―信頼できるかどうか、というか。
というか、マネジメントする側がどういう仕事を受けるべきかっていう判断ができないと。いろんなタレント事務所からタレントが辞めていくのってその理由が大きいかなと。SNSが生まれてから作り手と出演する側が直接話して判断できる時代ってとうにきてる訳で。そりゃ辞めるよな、と。SNSに転換した時点で、発信者とものを作る人が一緒になってやるべきで。もう数年前からアメリカやヨーロッパはそうしていたし。「ここのターゲットに届けなくちゃいけない」って言われても「だったらうちじゃなくないですか?」みたいな話でしかないですね。
―immaのコーディネートはどのように考えられていますか?
基本はimmaの判断です。もちろん仕事によってスタイリストさんが入る時はスタイリストさんの意向も取り込みますが、普段のインスタグラムの写真とかはあんまり考えてないですね。この辺のこれで良いんじゃない?みたいな。
―では、トレンドサーチをしたりとかもしていないですか?
全くしていないです。もちろん好きなブランドとか流行っているブランドとかを着るときはありますけど、この辺にあるのも秋元梢がくれた服なんですけど、「似合うんじゃない?」って言われて、全然ブランド品とかじゃなかったけど、それを着て撮ってみたり。
―必ずしも最新ブランド入れなきゃいけないとかはないんですね。
全く。疲れそうじゃないですか?完全なるファッションアイコンになりたい訳じゃなくて新しいアイコンになりたいだけなので。もちろんファッションも大好きだし、活躍している分野だけど「これを着なきゃ」とかそういうことはないです。
―確かに流行のサイクルを追いすぎるとimmaちゃん自身の好みがわからなくなりますよね。
廃れるタイミングが早くなると思うんですよ。個人的にファッションは自由だと思ってるので、人のファッションに口出してる人がすごく嫌いで。ドン○西とかが昔テレビでやってた批評とかも大嫌いで。なんで勝手な価値観で言ってるんだろう?っていう。僕自身も派手な格好とかしてると「お前どうしたの?」って言われたりしたんですけど、それってカルチャーの違いであり、宗教観の違いとか、考え方の違いと一緒で、だから思うのがそこにこだわりが強いことがいいことである一方で、逆にそういう理由で戦が絶えないことにつながっている気さえもしちゃうんです。そんなことは許容すれば良いじゃんって。
―お洒落じゃなきゃいけないとか、こういうのを着てればお洒落だ、という強迫観念みたいなものがありますよね。
究極なんでも良いというか。お洒落をしたくて、奇抜な格好をしてきた人を特に日本は叩くというか。出る杭を打つじゃないけど「何その格好?」みたいな。でもその人は「お前こそなんて格好してるんだよ、毎日同じスーツ着て」って思ってるはずで。僕はそっちの方が正論だと思っているから。
なので、話を戻すと囚われすぎない方がいいかなと思っています。着させられるんじゃなくて着たいものを着る。主体性が必要です。
※vol.2に続く