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SDGs活動の特別感を払拭し、自由に意見交換ができる場を— 企業内起業から生まれた「CHIRUDA」の可能性

SDGs活動の特別感を払拭し、自由に意見交換ができる場を— 企業内起業から生まれた「CHIRUDA」の可能性

ベビー・キッズ向けのギフトブランド、子育て家族のためのユニセックス雑貨ブランドを発信している株式会社Yom。社員のアイディアや提案を後押ししてくれる風土のなか、久保さんは企業内起業という新たなスタイルでSDGsへの取り組みを行っている。久保さんが発案し、社内に広がる「CHIRUDA」が生まれた経緯、活動内容、目指すゴールについて話を伺った。

久保 治子さん/株式会社Yom Creative div. Chief VMD
文化服装学院卒業後、カナダ・トロントにワーキングホリデー留学。帰国後、旧渋谷PARCO内のショップにて接客とVMDを担当したのち、株式会社YomにVMDとして入社。現在入社7年目。

トップダウンではなく、ひとりの社員のプレゼンから始まったSDGsへの取り組み

―久保さんが立ち上げたSDGs関連である「チルダ」(以下:CHIRUDA)の取り組みは、企業内での起業というユニークな取り組みですね。

Yomには社員のアイディアを後押ししてくれる風土があります。私はもともとジェンダー(生物学的な性差に付加された社会的・文化的性差のこと)に興味があったので、3年ほど前、社長に「ジェンダーに関する取り組みをしてみたい」と提案したことがあったんです。でも当時は「やってみたい」という意欲だけで、具体性や軸もなく、何より会社に対しそれがどのようにプラスになるのかも考えていませんでした。ですから、当然却下されました(苦笑)。

ジェンダーへの興味をきっかけに、もっと広い視点でSDGsやサステイナビリティにもからめた提案ができれば、新たなアイディアを社長にプレゼンでき、今度は却下されずにカタチになると思いました。弊社は子育てを応援するために存在しているし、子育てや教育について本質的な価値や気づきを世界に提供してみたいと思ったんです。でも、そのためにはまずSDGsやサステイナビリティについて総合的に知るべきだと考えました。そこで、社会人向けに行われていたサステイナビリティについて学ぶ講座に半年ほど通うことにしたんです。

月に2回ほど、サステイナビリティの専門家からさまざまな話を聞くのですが、サステイナビリティへの理解を深めるうちに、SDGsが掲げる項目はどれも実は相互につながっていて、ひとつの課題だけではなく全体的に取り組まなければ問題は解決しないのではないかと思うようになりました。逆に言えば、ひとつの項目への関心を他にも広げていけば、他の課題の解決のヒントになるかもしれない。例えば、発展後進国における女の子への教育制度や男女平等の取り組みを支援し拡充することで、その国の生活水準があがり、結果的に地球温暖化への影響を抑えることが出来るといった調査結果も出ています。(*『DRAWDOWNドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』)ですから、私がもともと興味を持っていたジェンダー問題も何かの役に立てるのではないか、と考えました。

留学をきっかけに視野が広がった

―そもそもジェンダーにはなぜ興味があったのでしょう。

私は、シスジェンダー(性自認が女性)のストレート(性的嗜好が異性)という立場にありますが、もともと私はファッションの表現としてボーイッシュなスタイルが好きで、周囲からは「女の子らしくないね」「男の子みたい」などと言われていました。また、ゲイの友人がいて、私はそれに対して何も違和感を持っていなかったけれど、彼がゲイであることをカミングアウトすると離れていった知り合いが多く驚きました。

その後、カナダのトロントに留学したら、今でいうLGBTQ+への寛容性がごく当たり前に定着していて、個人のスタイルや性的マイノリティに対して嫌悪感を表す人はほとんどいませんでした。日本にいるときは、「私のような性差に対する考え方、捉え方って珍しいのかな」と思っていましたが、カナダではAlly(アライ:LGBTQ+当事者たちに共感し、寄り添いたいと考え支援する人のこと)方のほうがごく一般的でとても居心地がよかったんです。

また、留学中に世界各国の人と話をするたびに、自分も含めて日本人は自国である日本のことを知らないことを痛感しました。たとえば他国の人は自分の国の政治や情勢について語り、さらに自分の意見を持っているのに、日本人はそれができない人が多い。考えてみれば、私も普段、日本の友人と政治についてなんてほとんど話したことがありませんでした。

日本ってすごい国だね、いい国だね、と称される反面、日本人って外のことも内側のことも実はよく知らないのではないか。だからSGDsなどへの取り組みも日本は遅れているのでは?と思ったんですね。SDGsって特別なものじゃない。だから「特別感」を払拭したいと思いました

―外から日本を見ることで客観的な視点が養われ、やるべきことが見えてきたわけですね。2度目の挑戦は無事プレゼンが通り社内での活動が実現したわけですが、行動を起こすにあたってハードルを感じたことは他にもありましたか。

新しいことをやる人に対する「特別視」でしょうか。今は日本でもSDGsに取り組む企業は多く、報道なども増えてはいますが、個人的にかつ日常的にSDGsが話題に上ることってあまりないですよね。まだまだ日本には、「SDGsに取り組む人って、意識高い系だよね」というような風潮があると思うんです。

また、私はアートがとても好きなのですが、日本は海外に比べてアートがまだまだ日常には浸透していないように感じます。アートを日常的に楽しんだり美術館に行くのもやはり「意識高い系」の人たちが行うこと、みたいな。
だからCHIRUDAを通じて、SDGsなどの活動は「意識が高いもの」とか「限られた人がやるもの」ではないことを広く伝えたいと思いました。みんなが身の回りの課題に関心を持ち、問題を考えるきっかけになれば、と思いCHIRUDAを立ち上げたんです。

話せるようで話せなかった話題をテーマにした「お話会」

―CHIRUDAは、どのような活動を行っているのですか。

さまざまなテーマを用いてディスカッションやディベートをしています。社員にCHIRUDAという社内ベンチャーがある、との情報提供を行い、部署や役職を超え、賛同してくれたスタッフたちがCHIRUDAメンバーとして集まっています。

これまでに扱ったトピックは、「人を見た目で判断していない?」、「性教育について話し合うってタブー?」「敬語をやめてタメ語で話す会議をやってみよう」などなど。

実際の活動は、固めのディスカッションというよりも、メンバーによる自由なおしゃべりタイムといった雰囲気です。テーマ的には、一見SDGsにどう結びつくの?といった内容ですが、やってみると意外な発見や気づきがたくさんあるんです。たとえば「タメ語で話す会議」は、日本人にとってものすごくやりづらかった。メンバーのなかにニューヨーク出身のスタッフがいるのですが、英語圏出身者にとっては、むしろ敬語で会議をやる意義がわからないとう意見がある一方、日本人は敬語を使うことが常識として刷り込まれているので、タメ語で会議をすると話が進まないんですね。このように普段はまったく意識していないことでも、実際にやってみるといろいろな考え方やその背景が少なからず理解できるようになってきます。

―ディスカッションに参加するメンバーは、何人くらいいらっしゃるのですか。

それぞれの回に参加するのは20名ほどですが、メンバーは70人弱います。社員数が100名ほどですから、賛同者はとても多いですね。こんなに多くの人が賛同してくれるなんて予想外でした。

垣根のない自由なコミュニティづくりが目標

―CHIRUDAの活動のゴールは何なのでしょう。

まだ始めたばかりの活動なのでゴール設定には程遠いのですが、直近の目標としてはディスカッション・ディベートを重ねることによる「垣根のないコミュニティ」づくりです。それによって、自分が知らないこと、興味がないことへの偏見を持たないようになれば、と。というのも偏見を持つと、そこで思考がストップしてその先の可能性を排除することになりますよね。でも偏見ではなく受け入れる気持ちを持てば相互理解につながり、ゆくゆくは社会を、世界をよくすることに広がっていくのではないかと期待しているんです。

またディスカッションとは別に、アーティストを取材してSDGsに関連がありそうなヒントを拾い、取材した記事を読んだ人にSDGsについて少しでも関心を持ってもらえるような企画も考えています。そして、将来的にはコミュニティの場となるアートスペースなどもオープンしたいですね。

―会社の事業とからめた、社外への発信はどのようにすすめていきたいとお考えですか。

弊社はベビー・キッズ向け商品を扱う会社なので、お客様であるペアレンツ世代の方々に情報発信をして、SDGsやサステイナビリティについて考えていただけるヒントを提供したいです。親になることでこれまでになかった世界が広がりますし、気づきもある。そこにうまくアプローチしていきたいですね。

―先ほど、100名の社員のうち70中弱の方が賛同してくれていると伺いましたが、もともと久保さんが一人で発案したものがこんなに広がるなんて素晴らしいですね。

実はサステイナビリティの講座に通っていたとき、「3.5%の人々が本気で立ち上がると社会は変わる」という言葉を聞いたんです。弊社の本社に在籍している社員は約40名なので、その40名の3.5%を換算すると約1.4名です。規模は小さいですが、私がこの1.4名を担い行動を起こしたことで、イノベーションが確実に広がってきているし、誰かが何かを始めることによって状況は変わっていくものなのだな、ということを実感しています。ディスカッションチームも少しずつ大きくなっていますし、これから何ができるかとても楽しみです。

CHIRUDAというネーミングは「~」から生まれたもの。「~」って正しくはtilda(チルダ)という波線記号なのですが、表現したいのは創造性や柔軟性。カーブの連続である「~」をモチーフにし、ローマ字読みでCHIRUDAとしました。柔軟性を持つことで、差別や偏見を持つ前に、まず目の前のこと、相手のことを想像して、争いや嫌悪、排除の原点となる、差別・偏見がなくなっていくことを願っていますし、そうして私たち大人が柔軟に思考・想像することで、子どもたちの未来をより良い社会にできると信じています。

文=伊藤 郁世
撮影=Takuma Funaba

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“MARLMARL”ブランドを通じ、ベビー・キッズのギフト市場に質の高い情報・サービスを提供し、子育て世代の方々とともに社会的価値を創出するイノベーティブな企業体であることを目指しています。