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1000年以上の歴史を誇る染色法のひとつ「柿渋染」。自然の恵みを活かした伝統の手法と地球にやさしいものづくり。今こそ求められる技術への想い。

1000年以上の歴史を誇る染色法のひとつ「柿渋染」。自然の恵みを活かした伝統の手法と地球にやさしいものづくり。今こそ求められる技術への想い。

多様な業界で活躍するフロントランナーにスポットを当て、NESTBOWLスピーカーとともに、キャリアや人物像を「丸ハダカ」にする新感覚対談「Career Naked」。今回は、約70年にわたって、麻にちなんだ糸・織物の加工、柿渋染を中心とした染色加工を行う工房「株式会社おおまえ」で働く、水谷真也氏が登場。世界的デニムブランド「リーバイス」でキャリアを積んだのち、伝統の染色技術「柿渋染」に魅せられた背景と、伝統技術への想いを、NESTBOWLブランドディレクターの堀が話を聞いた。

水谷 真也さん/株式会社おおまえ 職人
滋賀県生まれ。上京後、リーバイス(リーバイス・ストラウスジャパン株式会社)に18年間勤務。株式会社おおまえの職人兼社長である大前清司氏の技術・発想力に魅せられ、同社に入社。職人として働く傍ら、伝統技術の発信・継承にも力を注ぐ。型にとらわれない自分らしい生き方やスタイルを大切にしながら、地球にやさしく将来につながるビジネスのあり方を模索している。

公式HP:https://shibunosuke.jp/

堀 弘人さん/H-7 HOUSE合同会社 CEO・NESTBOWLブランドコンサルタント
1979年 埼玉県生まれ。米系広告代理店でキャリアをスタートし、アディダス、リーバイス、ナイキ、LVMHなど数々の外資系ブランドにてマーケティングディレクターを含む要職を歴任したのち、楽天の国際部門にて戦略プロジェクトリーダーとして活躍。20年以上に及ぶ自身のブランドビジネス経験を国内外企業の活性に役立てたいとブランドコンサルティング会社H-7HOUSEを設立。NESTBOWLをはじめとして様々な企業、政府系機関、ベンチャーなどのブランド戦略構築に幅広く参画している。

カッコいいドラマのような東京に憧れて

― 水谷さんは以前、リーバイスに18年在籍されていましたが、そもそもファッション業界を目指したきっかけは何だったのですか。

進学校に通っていたので高校時代は受験勉強も頑張っていたのですが、受験を控えた高3のある日、突然受験に興味がなくなってしまったんです。どうすればよいのかわからなくなって、東京にいた先輩に会いに行ったんですね。先輩は当時早稲田大学の学生で、東京の街や店はもちろん、バイト先や大学のゼミにも連れていってくれました。その1週間がものすごく刺激的で、もう東京に出るしかない!と決意して。ファッションにも興味もありましたし、「東京=カッコいい=ファッション」という自分のなかのイメージから、ファッション業界(リーバイス)に入ったんです。

リーバイス時代が人生の基盤に

― リーバイス時代は、どんな18年間でしたか。

人を人間としてきちんと見てくれる会社で、本当にいろいろな経験をさせてもらいました。営業からフラッグシップストアのマネージャーまで務め、組織の大きな変化とも向き合った18年間でしたね。いい仲間もたくさんできて、今でも公私にわたって助けてもらっています。

自分の色を出し、それを大切にできるといった点でも、リーバイスは本当に素晴らしい会社でした。ストアマネージャー時代はとくに、リーバイスという有名ブランドを大切にすると同時に、自分の色を出し、僕やスタッフだからこそ会いにきてくれるお客様を増やしたい、という想いでやっていました。このスタンスは、僕がマネージャーを辞めたあとも後輩たちが継承してくれました。いろいろな意味で、リーバイスは僕の人生の基盤なんですよ。

― そこまで好きだったリーバイスに、そして憧れだった東京にずっといようとは考えなかったのですか?

今から3年くらい前に、ふとその先のことを考えたんですね。このままリーバイスでキャリアを積むよりも、自分が見たいもの、信じるものに、触れて感じることにもっと時間を費やしたいという想いが強くなり、退職を決意しました。辞めた先に具体的な目標があったわけではないのですが、東京を離れて海外旅行に行くような感覚で、見たいものや信じるものを探そうと思いました。そんなときに話をしたのが、株式会社おおまえの社長なんです。

社長とは僕が20歳くらいのときに出会ったのですが、地元が同じという縁もあり、つきあいは続いていたんです。久しぶりに会って話をすると、「いろいろなものを見たい、触れたい」という僕の話にとても共感してくれて、たくさんの人を紹介してくれました。社長と一緒にあちこちに行って、3カ月くらいの間に約100人もの人に会いました。

― その社長さんが、柿渋染の職人である大前清司氏なのですね。

伝統工芸に携わる職人さんは高齢化していて、社長も69歳でした。いろいろな工房を訪ねて職人さんに会い、さらには社長がやってきた仕事を見るうちに、どうやって作るのだろう、とどんどん興味が湧いてきて、社長のもとで仕事を手伝うようになりました。

実は当時社長は工房をたたもうと思っていたんです。でも僕は、ぜったいこの技術は残さなければいけないと思った。技術だけではなく、社長のもつ人柄も魅力的だし、本当にクリエイティブでユニークなんです。そこから生まれるアイデアや技術に関して、ここで語り切れないのが残念なくらいです。だから必死で社長を説得し続けて、一緒にやることになったんです。

大前社長と水谷氏。いつもこのように仕事以外の時間も色んな話をしているそうだ。

1000年以上の歴史と伝統を誇る「柿渋染」の魅力

― 「おおまえ」でお二人が行っている「柿渋染」とは、どういったものなのですか。

柿渋染は、簡単に言えば渋柿の搾汁を発酵・成熟させたもので糸や生地、製品を染める工法です。現代の染料は化学薬品を用いた合成染料が主ですが、柿渋染は天然の青い渋柿から作られた染料を用いる、昔ながらの「染め」の技術で、いわゆる草木染の一種です。その歴史は古く、日本では1000年以上前から継承されてきた工法です。

柿渋に多く含まれるタンニンにはたくさんの効果があり、抗菌・防臭・消臭、最近では抗ウイルス効果もあることがわかってきました。その他、防腐、防水、防虫などにもすぐれ、昔から布、漆器、紙、漁網、ロープ、家具、建築材、雨具など、さまざまなものに利用されています。また、食べられるものが原料ですから体や肌にもやさしいし、使用済みの染料も自然に帰る。今、盛んに言われているSDGsと同じことをずっと昔からやってきた製法なんです。

― どの工房でも同じ製法で行われる技術なのですか。

大まかな工程は同じですが、工房によってやり方は違います。柿渋の原液も様々です。私たちの特徴は、純度100%の柿渋液で染色します。柿渋液を水で薄めて何度も染める手法を採用している工房もありますが、私たちは一切何も混ぜません。そして、私たちの柿渋液は食用としてきちんと認可されたものを使用している事も特徴ですかね。自然回帰は勿論、素手で作業をする作業者自身の事を思い、気持ちよく作業をしてほしいという社長ならではの選択です。また、工程に使用する水は自噴する天然水で、乾燥や発色も天日干しで行います。だから色合いなどの仕上がりも気候や天候、季節によって微妙に違うんです。自然の恩恵とともにですね。

社長のもとで学ぶうちに、柿渋染をはじめとする伝統の工法には、正解がないことがよくわかりました。そのなかでいかに自分が信頼できるもの、守りたいもの、伝えたいものを見つけるか。つくる責任、つかう責任。僕にとっては社長が続けてきたことが、その答えだったのです。

糸のかせ染
製品染め

― ホームページを拝見すると、工程も動画で紹介されていますね。

説明するよりも動画で見ていただいたほうがわかりやすいですしね。工法をたくさんの方に見ていただくことも、柿渋染を守り、伝え、継承する方法のひとつですから、写真や動画といった素材をきちんと集めて発信していく取り組みも大切だと考えています。

― 素材づくりだけでなく、マスクなどプロダクトもあるのですね。

うちは基本的には素材屋なんですが、マスクや米袋を再利用したトートバッグなども作ってオンラインで販売しています。マスクの場合、糸を柿渋で先染めしてニットとして加工していますが、肌触りなどのニーズに合わせて化学の力(ポリエステルなど)も借りることで、お客様が手に取りやすい価格設定を実現させています。コロナ禍になってから僕も柿渋マスクを愛用しているのですが、2枚を洗いながら交互に使い続けています。不織布マスクは長時間使うと匂いが気になりますが、柿渋マスクは匂いもなく、とても快適に使用できます。抗菌効果もありますしね。

肌になじむ無縫製の立体ニット。柿渋染めによる防臭、消臭効果と、抗菌・抗ウイルス加工効果がある。

柿渋染をベースに、縁の下の力持ちであり続けたい

― 柿渋染は決して派手な工法ではないけれど、実は昔からさまざまなことに活用されていて、今もそれが継承されている。しかも地球にやさしい。今こそ求められている技術なのかもしれませんし、だからこそコラボも期待できますね。

社長の変わらないポリシーは「うちは縁の下の力持ちでええんや」なんです。あえて柿渋染と声高に言わなくても、実はこれって柿渋染なんだ、というスタンスでいい、と。だからこそおもしろいコラボも生まれるのではないかと思っています。私も今後は、共感してくださる方やブランドとは積極的に話をしてコラボを実現させたいと考えていますし、動き始めているプランもいくつかあるんですよ。

地元のお蕎麦屋さんとコラボしたそば殻枕。その他にも有名鞄メーカーやラグジュアリーブランドとのコラボも控えている。

― そうしたコラボも含め、今後の展望や目標を教えていただけますか。

柿渋染めをものづくりのひとつとして2、3年後には、具現化・可視化させたいです。一方で、うちは素材屋ですから、ものづくりはうちだけではできません。繊維を中心とした地場のものづくりに関わるさまざまな人や仕事をつないで、人材確保や賃金の向上なども含めた地域産業、なかでも繊維業界の活性化に貢献できたら、と。時間はかかると思いますが、5年後10年後に少しでもそれがカタチになっていれば、僕が東京を離れて地元に戻ってきた理由も明確になるのではないかと思っています。

― 水谷さんの仕事や人生の節目には、高校の先輩、リーバイス時代の仲間、そして今の社長さんなど、大切な人との出会いがありますね。

本当に出会いには恵まれていると思います。僕はもともと人が好きですし、これまで出会ったすべての人に影響を受けていると言っても過言ではありません。そうした縁を大切にしながら、これからも自然体で生きていきたいですね。

社長である大前が職人としてこれまでやってきたこと、そしてこれからのものづくりにつながる豊かな発想もどんどん発信したいです。すごい人なんですよ、うちの社長は。

“ Sna’gl(スナグル)”合同展示会
開催期間:2022年8月30日~9月1日
場所:日本綿業倶楽部(綿業会館)

Sna’gl公式HP:https://www.snagl.jp/
is am are公式HP:https://www.isamare-osaka.com/

文:伊藤郁世
撮影:Takuma Funaba

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