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「モチベーションの源は貢献欲」コーセーのダイバーシティ推進リーダーが考える仕事への向き合い方

「モチベーションの源は貢献欲」コーセーのダイバーシティ推進リーダーが考える仕事への向き合い方

大手化粧品メーカーの株式会社コーセーは「多様な価値観を認める」という企業文化によって、長年、女性の活躍を推進する活動を行い、現在もダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進を積極的に取り組んでいる。そんなコーセーで、日本では数少ない女性CIO(最高情報責任者)となり、現在は執行役員、研究所長を務めながら「働きがい創出実行委員会 多様な働き方分科会」のリーダーとしても奮闘する小椋敦子氏。小椋氏は今ほど育児休業といった制度の整備が進んでいなかった時代に、壁にぶつかりながらも自分で仕事を切り拓いていった。小椋氏のこれまでのキャリア、コーセーの魅力、そして人生においてどんなことを大切にしているのかを語ってもらった。

小椋 敦子さん/株式会社コーセー 執行役員 研究所長 / 働きがい創出実行委員会 多様な働き方分科会リーダー
1988年、お茶の水女子大学卒業後、株式会社コーセー入社。研究所員として、新規事業、研究所内IT部門を経て、2007年に全社情報統括部門に異動。2014年より情報統括部部長、2019年に執行役員、2021年に研究所長に就任。同社のDXと研究開発を強力に推進するとともに、2017年より同社経営直下の全社横断型組織にて、ワークライフバランスなどの多様な働き方や、女性活躍をテーマにした分野でダイバーシティ推進リーダーを務める。長年ITに携わるスペシャリストとして、研究開発をリードする存在として、働く女性として、子育てと仕事を両立してきた母として、多様な経験から同社のダイバーシティをけん引する。

前向きなチャレンジを後押しする企業文化、入社2年目で新ブランド立ち上げに参画

― まず小椋さんのキャリアについて教えてください。

大学は理科学系の学部を卒業し、ものづくりに携わりたいという思いでコーセーの研究所に入社しました。入社2年目の時に会社がCI(コーポレートアイデンティティ)活動の一環で、新しいブランドを立ち上げたんです。そのブランドというのは、お客様一人ひとりの肌をしっかりと見極めて、お客様に合った化粧品を提供しようというコンセプトで。会社としては、若い研究員に立ち上げの推進を任せようという意向があり、私も携わるようになりました。

もともと研究所で製品を作っていたので、それまで他の仕事についてはほとんど知らなかったんです。でも新ブランド推進においては、いわゆるブランドコンセプトの作成から販売企画業務、店頭に直接行って販売に携わるスタッフの教育まで、一通りすべて経験しました。その時にお客様にものが届くまで、これだけたくさんの人の手が関わることを改めて知ると同時に、“ものづくりの思い”を営業現場までストレートに伝えることの難しさを非常に感じました。

また当社には“お客様のために、自分は何をしたらいいのか?”を常に考え、お客様を非常に大切にする優秀な販売スタッフ(ビューティーコンサルタント、BC)がたくさんいるんです。そういったすばらしいBCと実際に一緒に仕事ができたことが、私にとってはものすごく財産になりました。

― コーセーはたとえ若手であっても、新しいことを任せるという社風があるのですね。

当社の企業風土は前向きなチャレンジと、前向きにチャレンジしたいという意欲に関しては、ものすごく寛容で、それを推奨する風土が会社全体に浸透してるんです。当然ながらチャレンジする場合は失敗もともないますが、前向きなチャレンジの結果、失敗したことに関しても非常に寛容なんですよ。スタートアップはチャレンジしてこそ、と世間で言われていますけれど、当社はそもそも企業風土として、すでにチャレンジをしやすい風土ができあがっていました。

弊社はオーナー企業ですので、経営層の方々が目先の数年より、20年、30年先の企業のあり方・中長期の将来を見据えています。そのため足元のマイナスについては、目くじらを立てるよりも今後に向けた機会として捉えるんです。ちょうど2020年のコロナ禍で当社も実績が大変な状況になったのですが、その時に社長が全社員に向けて、「これはピンチだけどチャンスなんだ。われわれはこのピンチでさまざまなことを学び、新しいチャレンジをすることによって、これをチャンスに変えよう」というメッセージを全社員に向けて発信してるんです。そのためコロナの影響によるマイナスのメッセージは1つもなかったです。

入社2年目で新ブランド立ち上げを任された小椋氏。「私の社会人としてのマインドの礎は、その時の経験が作ってくれた、と改めて感じています」

日曜の夜も明日が楽しくなるくらい、仕事にやりがいを感じていた

― 新しいブランドを立ち上げている最中に、ライフイベントがあったそうですね。

オープンして1年くらい経った時に、結婚と妊娠というライフイベントが突然発生しまして。ちょうど出産したタイミングで、研究所のシステムを担当するIT部門に異動したんです。育児休業法の施行前だったこともあり、産後丸2ヶ月で仕事に復帰しました。その頃は睡眠時間が細切れで、だいたい3時間おきに起きなければいけないという状況で復帰をしたのですが、やはり体力的には非常にきつくて大変でした。でも気持ちは“もう仕事をしたくてしょうがない”と、自分自身の仕事のモチベーションがすごく高くて。きついながらも仕事を頑張りたいという思いで、復帰をいたしました。

ただ、子どもの発熱などで突然呼び出されることも多いので、期限が非常に厳しい仕事は当然ながらできないこともあります。後は周囲にサポートしてくれる身内がいない中で出産したのは私がほぼ第一号だったんです。だから当時の上司や周りの方々がものすごく配慮してくださって、「とにかく仕事に、会社に来ればいいよ。自分のペースで仕事をしなさい」と言ってくださっていたんです。でも私は“仕事で貢献したい”という思いがあって。まさに今ですとアンコンシャス・バイアス(誰が心の中にもっている偏見や根拠のない思い込み)なんですけれども、その当時はそういう言葉はないですし。周りの方も本当に愛情を持って配慮してくださったのですが、それが逆に私にはとてもつらかった。そんな時期がありました。

― そういうところは、どうやって払拭していったのでしょうか?

仕事がないのであれば、自分で仕事を作ればいいのではないかと気づいたんです。実際に周りを見渡すと、いろいろな仕事のステップで課題があります。そこで「根本的にどこを解消すれば、この課題はなくなるのだろうか?」と考えるようになって、「こう解消すればいいのでは?」と解決策も見えてくるようになりました。

皆さん目の前の重要な仕事をこなすことで忙しく時間も取られるので「やらなきゃいけない」と思っても、なかなか手を付けることができない。それなら、私はそういった仕事を任せてもらおうと考え「これをやらせてください」のと自ら手を上げるようにしました。

それは前向きなチャレンジなので、特に期限もなく「やりたいのだったら、やればいいじゃない」と言われて、1つ1つチャレンジを繰り返していきました。そして成果が出てくると、今度はネクストステップとして「こんなことをやればいいんじゃないか」と自分の中でもやりたいことが見つかったりして。あとはその成果を受けて「こういうことをやってほしい」と逆にニーズも出てくるようになりました。そういうことを繰り返し、子どもの成長とともに、私も仕事にも時間をさけるようになっていったんです。

― 自分で課題を見つけて、さらに自分で解決提案をしていく、ということを繰り返して、実績を積んでいったのですね。

育児期間にITの担当をしたのですが、非常に大きな出会いだったと思います。私は昨年の4月までずっとIT部門を担当していたんですけれども、ITは業務改善の成果が非常に見えやすいんです。だから小さな改善も小さな成果がよく見えるし、システムを改善することによって、業務プロセスが改善し効率化された成果が、非常に短期間で見えやすい。そのため自分の中でもモチベーションが非常に上がりますし、周りにとっても、その成果が分かりやすいがゆえに、「次はこういうことをやってほしい」というニーズを出しやすいでしょう。

私は自ら志望してITの世界に飛び込むことはなかったと思うんですよ。本当に偶然、人事的な異動を経て、そこから30年くらいITの世界で仕事をしてきたことは、本当にすばらしい出会いだったと思います。

若い方々からよく「モチベーションの源はなんですか?」と質問されます。私はやはり貢献欲だと思うんですね。人の役に立つような貢献をしたい、それと同時にコーセーという会社が大好きなんです。やはり会社のために、そして若い人たちのために何かしらの貢献をしたい、人の役に立ちたいという、その思いでここまでやってきました。

よくサザエさん症候群といって、日曜日の夕方になるとサラリーマンはナーバスになるという話がありますが、私は日曜日の夜が楽しくて。「月曜に会社に行ったら、あれとあれをやりたいな」と、毎日ワクワクしながらこれまで仕事をしてきました。

”自分で仕事を作ればいい”と気づいた時に役立ったのも、かつての新ブランド立ち上げの経験だった。「新規事業では、根本的にどこを解消すればこの課題はなくなるんだろう?という考え方が非常に重要。そこで根本的な要因を探り、解決策を自らが取り組む仕事として会社に提案することができました」

全社IT部門を任され、経験したことがないものを理解する訓練に

― IT部門を長年経験されてく中で、今度は研究所のIT部門から、本社のIT部門にマネージャーへの昇進とともに異動されたそうですね。どんな経験をされたのでしょうか?

まず研究所の中のITを担っている時はもともと研究員だったので、業務内容や課題については、業務を知っているがゆえにすべて分かります。そのため解決策も自分の頭の中で「これをすればいい」とすぐに分かったのですが、全社になると、例えば物流や経理など自分はまったく経験したことがなく、分からない業務のシステムも担当しなければならない。でも業務をまったくわからない人間がシステムだけ作ると、お互いに不幸なものができあがってしまうんです。

だから全社のIT部門に異動してから、分からないながらも、それぞれの業務でどんな課題があるのか。その課題は根本的にどこを改善すれば、解消できるのか。どうすれば本当にみんなが幸せになるのか。各部門の業務を徹底的にヒアリングするなどして、理解しようとしました。そうしているうちに、システム課題だけではなく、業務やプロセスの課題といったものも見えてくるようになったんです。もちろんそれが分かっていても、一足飛びに改善できない難しさがシステムにはあるんですけれども、どうすれば社員の皆さんの業務が効率的になるのかを徹底的に考えて実行できたというのは、非常によい経験だったと思います。

さらにそういった取り組みの中で、若いメンバーを連れて「どんどんヒアリングに行こう。業務の中に入り込もう」とやっていくうちに、メンバーも業務を理解して、その部門に寄り添ってシステムを作っていく、という成長を遂げていたんです。若手の成長を見守る、という幸せも、全社のIT部門では経験しました。

それと同時に内製化も進めていきました。最初は小さな取り組みだったんですけれど、かなり内製でシステムの開発ができる体制もできまして。そういった意味では本社に異動してこの15年間IT部門に携わってきましたが、IT部門のマインドを少しは変えることができたかな、と感じています。

当初は業務システムを担当していると、どうしても請負というか、「これが欲しい」と言われないとなかなか動けないところがあったのですが、ここ数年はブランド、マーケティング部門とタッグを組んで、攻めのシステム開発ができるようになっていて、まさにそれがうまく回りだしているところです。

昨年9月に私どもはパーソナルビューティーコンシェルジュという、オンラインカウンセリングのサービスを導入し、これがまさに検討時からブランドのメンバーと、IT部門のメンバーがディスカッションするところから始まりました。「このコロナ禍で、われわれとしてはどういう仕組みが必要なのか? タッチアップができないので、お客様と触れ合うことができない。その状況を解消するためにどうしたらいいのか?」を考えぬいて生まれていったんです。

DXを活用した新たなカウンセリングの手法オンラインカウンセリング・プラットフォーム「WEB-BC SYSTEM(ウェブ ビーシー システム)」を開発。昨年9月から「コスメデコルテ」でのカウンセリングサービスとしてスタート。

自分を変えながらチャレンジし続けると、チャンスにつながる

― コーセーの人を大事にしながら後押しをするという文化は、これまでずっと変わらないものなのでしょうか?

そうです。オーナー企業として脈々と受け継がれている、まさにコーセーの思想だと思います。当社の研究部門は昔から女性と男性が大体同じくらいの比率で構成をされていたんですけど、それ以外の総合職スタッフ部門では女性が非常に少なかったんですね。ただ上場が1つの大きなきっかけになったと感じているのですが、女性が一気に増えてきまして、今では新入社員は女性の方が多く、非常にありがたいことにものすごい倍率になっているという状況です。

その女性社員が確実に成長してきて、中堅になった時に、当社はこれまで男性ばかりの会社だったので、女性たちが活躍しないと当社の未来はないという、どちらかというと危機感ですね。最初は女性が活躍しなきゃいけないという危機感から、われわれはD&I、女性活躍の取り組みを全社のプロジェクトとしてスタートしたのです。

― 経営資源の1つとして、D&Iを位置づけているのですか?

そうです。女性が働きやすくて活躍できる会社は、当然ながら男性も働きやすく活躍できる会社です。だからまずは女性がしっかりと活躍できて、当然ながら女性だけにフォーカスを当てるのではなく、多様な人材が自分の強みをしっかりと活かしていけば、それはものすごい力になる。だからこそ当社は多様性を大切にし、皆が活躍できるような会社になろうという思いを込めて、経営戦略の1つとしてD&Iを掲げています。

― 流行りの言葉としてD&Iという言葉が一人歩きしてますけれども、そういう言葉が出てくる前から、御社にはずっと存在していたのですね。

ただ最初は少数派であったりするので、最初の一歩を踏み出せない女性社員が多かったんですけれど、D&Iが当たり前になって、「もっとやりなさい。活躍しなさい」というのが社内に浸透してくると、若い女性はどんどん手を挙げて活躍するようになってきています。経営戦略として「D&Iを推進するんだ」と対外的に宣言することが、すごく重要なんだ、と私自身感じていて。最初の頃と比べると、今、格段にみんなが活躍してるんです。

さらにわれわれの活動とは別に、社長自ら「もっと若い子にやらせなさい、チャレンジさせなさい」という発言をしてくださって、それがいい相乗効果になって、今は若手や中堅の女性が非常に活躍をしています。

― 今後のステップとしては、どういったことを考えていらっしゃいますか?

次のステップとしては、キャリアの階段を一段上がるための後押しを計画していました。でもここまで来た時に、当の女性社員の方から「女性の登用支援とか、女性キャリア育成セミナーみたいに、なぜ女性だけと限るんですか?」という声がくるようになって。もう女性に限定する段階ではない、性別に関わらずキャリアを後押ししていく段階になったんだというところで、キャリアパスについて相談者をナビゲートするキャリアデザインルームを社内で立ち上げました。キャリアカウンセラーの資格を持つシニアを含む社員の方が、若い方のキャリア相談を受けてアドバイスをしていて、ちょうど今年度からスタートし、これも徐々に対象を広げていきます。

― 小椋さんが大切にされていること、ずっと守っている信念をお伺いできますか?

自分を変えながらチャレンジをし続けることによって、それが結果的にチャンスにつながる。だからチャレンジを止めてはいけない、とメンバーには常に話をしています。

ポジティブに進んでいくことは、とても重要だと思います。これは私自身、子どもを産んで非常に苦しい時に、同期の中で一人だけステップアップできなかったという経験が元になっています。当然、当時はネガティブな感情が生まれました。

しかしこれは何も生まない。ネガティブな思いを排除したら自分の中にはポジティブなものしか残らないから、とにかく徹底的にネガティブ感情を排除し、つねに前向きにいろいろなことに取り組んでいこうと決めたんです。そうしたら、ポジティブな人に対しては、ポジティブなものだったり人であったり、事象であったりが集まってくるんです。だからより自分がポジティブになれるし、チャンスがちゃんと目の前を通り過ぎたりするんですよ。それをしっかりと掴むこともできるし、つねに前向きなチャレンジを止めないことだと思います。

もう一つ、私はこれまで後悔をしたことがないと思っています。もちろん失敗はたくさんしているし、その都度、反省をしています。でも後悔というのは“悔いる”こと。起こってしまったことを悔いるのではなく、反省に変えると今度は次の改善につながりますよね。だから後悔ではなくて、私は必ず反省をする。そうすることによって、未来は大きく変わっていくのだ、と思います。

文:キャベトンコ
撮影:Takuma Funaba

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