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急激なインフレ、経済低迷、ホームレスの増加 小売業の急速なデジタルシフト…約3年ぶりの訪米で感じた数々の異変とは!?

急激なインフレ、経済低迷、ホームレスの増加 小売業の急速なデジタルシフト…約3年ぶりの訪米で感じた数々の異変とは!?

新型コロナウィルスの流行から約3年。各国政府の対応の違いはあるものの、さまざまな制限がある生活は徐々に解除され、国外渡航を緩和する国が増えてきた。3年という年月で日本国内ではさまざまな変化があったが、それは国外でも同じこと。数年ぶりの渡航となると、その変化を敏感に感じ取れる機会になることは間違いない。そこで今回は、最近約3年ぶりにアメリカへ赴いたというH-7HOUSE CEO でNESTBOWLのブランドディレクターも務めている堀 弘人氏を直撃。アメリカ国内のインフレや失業者はニュースで伝えられてはいるものの、現地では実際どうなのか。現地で感じ取った空気感や実際に起こっていた異変とは!?大いに見聞を語っていただく。

堀 弘人さん/H-7HOUSE CEO・ブランドコンサルタント
1979年 埼玉県生まれ。米系広告代理店でキャリアをスタートし、アディダス、リーバイス、ナイキ、LVMHなど数々の外資系ブランドにてマーケティングディレクターを含む要職を歴任したのち、楽天の国際部門にて戦略プロジェクトリーダーとして活躍。20年以上に及ぶ自身のブランドビジネス経験を国内外企業の活性に役立てたいとブランドコンサルティング会社H-7HOUSEを設立。NESTBOWLをはじめとして様々な企業、政府系機関、ベンチャーなどのブランド戦略構築に幅広く参画している。2022年11月上旬に、地方行政の国際ビジネス支援のため、米国に訪問した。

3年ぶりの訪米では急激な物価高を実感。食事は日本の3倍ほどの価格に…

― 海外への渡航はいつぶりになるのでしょうか?

前回の海外渡航が2020年1月だったので、約3年ぶりになります。海外へ行って一番強く感じたのは、新型コロナウィルスへの向き合い方が日本の社会とは全く違うこと。飛行機内や空港はもちろん、市街地でもほとんどの人がマスクをしていない。日本では国民性や安全意識の高さもあるかと思うのですが、密になっていない場所でもマスクしている人ばかりですよね。
それともう1点、為替相場や経済的な金融不安をストレートに感じました。とにかくモノやサービスが高い。日本から行くと為替の影響だけでも高く感じる(渡米時:1ドル=147円)のですが、加えてアメリカ国内のインフレが急激に進行しており、日用品やホテル代、Uberなどあらゆるものの物価が上がっていましたね。

今回は米国西部のポートランドとサンフランシスコに行ったのですが、経済低迷から来る失業者の増加と、それに伴うホームレスの増加を目の当たりにしました。特にポートランドは近隣州からホームレスが集まってきているらしいんです。不法占拠で逮捕されることもなく、地元警官や住民から追い出されることもないためホームレスの方々にとっては環境が良いそうです。一方、それに伴って犯罪の危険が増しているよう。地元に長年住んでいる方でも、ポートランドのダウンタウンの一部を歩くのは怖いと言っていました。具体的なエリアで言うとチャイナタウン付近が特に危ないと言われていて、3年前では考えられませんでした。奇しくも今回の欧米で商談をした小売店が、私の帰国直後に店舗在庫を大量に盗まれる被害にあったそうです。この小売店もそのエリア付近でした

ポートランドで、ホームレス増加に伴い治安が悪化しているエリアの一角。この写真のそばにある小売店が記事を執筆中に大量の盗難被害にあったと報告があった。

― 3年前と比べて一番物価が上がっていると実感したものは何ですか?

滞在してみて一番感じたのは、やはり食事が高い。ある日の朝食では、パンケーキとコーヒー1杯を頼んだのですが、それだけで日本円で3,000円ほど。ラーメンも3,000円近くしてしまうので、日本で生活しているときよりも3倍近くの物価差があるような感覚でした。

有名ブランドが街中から消えた!?大手リテールの推し進めるデジタルシフト

― 物価高の影響は百貨店やモールをはじめとしたリテールに影響はあるのでしょうか?

都市型の大手百貨店だとMacy’sやNordstromなどが有名だと思うのですが、こちらも元気がない印象を受け、日本よりもリテールの集客減を感じましたね。今回、サンフランシスコのユニオンスクエア近くにあるマーケットストリートを土曜日の日中に歩いていたのですが、肌感覚ではあるものの全盛期の20~30%前後の人出しかなかったと思います。とにかくメインストリートでも人が少ない、それに伴って店が開いていない。あんなに賑わっていた場所を3年ぶりに訪れたら、シャッター街になっていて…サンフランシスコの中心部ですら、そういう状況になっているのが衝撃でした。ZARAやH&Mなどの大型SPAでも店舗はオープンしていますが、来店客はまばら。中小事業者の運営するリテールはほとんど店を閉めている印象でした。

週末にも関わらず閉店していたサンフランシスコ主要エリアのショッピングモール。

― 通行量自体が減っているんですね。閉まっていた店は撤退?それとも一時的に営業を中止しているのでしょうか?

撤退と一時的な営業中止、双方あるようです。物価上昇に加えて住宅の家賃上昇が著しく、同時に商業施設も家賃が上がっていることで小中規模のリテールには大打撃だということです。

― インフレが続くアメリカではそのような状況になっているのですね…

ただそのような中でも、アメリカ国内のリテールに関して、新しい潮流を感じることもできました。欧米を中心に日本でも大手リテールやブランドは、D2C(Direct to consumer)に注力する潮流にありますが、アメリカではそれが加速度的に推進されていてデジタルシフトが特に目立ちますね。今回スポーツ関係のリテールも多数見て回ったのですが、どの店もナイキやアディダスの商品があまり置かれていなくなってきています。ブランド力の強い企業が自社の流通での取り扱いに注力しているひとつの証拠だと思います。その代わりに、ランニング専門店では新興ブランドのHOKA ONE ONEやON、BROOKSが棚に並び、ランナーから人気を集めているそうです。そのようなブランド側の変化は消費者の購買の変化にも如実に出ていると感じますね。ちなみにアメリカでも日用品を低価格で提供する(EDLP)ウォルマートなどの小売は好調のようで、中価格帯の衣料品などは苦戦しているようです。

世界のリテール構造の負の側面が、たまたまアメリカで確認できましたが、今後は世界の先進国にも同じ現象が起こるであろうことは想像に難くないです。実店舗に依存し過ぎるビジネスモデルの危うさは、ここ数年で如実に表れていると思います。それをアメリカに行って現地で確認できたことは有意義でした。

ポートランドのスポーツ用品店にて。ナイキやアディダスは店頭から少なくなり、日本では見かけないブランドや新興ブランドが存在感を増していた。

デジタルシフトへの仕組みと体系づくりが急務!そして未来を担う人材に必要なのはITスキル&データを操る力!

― 将来的には日本でも急速なデジタルシフトが進むことを見越して、何か企業に対するアドバイスはありますか?

まずは経営層が経営判断として早急にデジタルシフトの必要性をもっと認識し、組織を含めた仕組みやビジネスモデルを再検討することが大切だと思います。日本の大手ファッション企業やセレクトショップのEC化率は現状約20〜30%前後だと思うのですが、アメリカの小売業は60~70%までになっているブランドも多数あります。この数十パーセントの差はかなり大きいと思うので、デジタルシフトを企業全体で推し進めることが改めて重要かと考えます。また、そのために優良なデジタル人材の確保をはじめとした人事戦略も必要です。ファッション業界やラグジュアリー業界では、まだまだリテールで売り上げを立てることが多く、デジタル人材の確保を重要視していない企業もまだまだあります。同時に、現状は業界内にデジタルに精通した専門人材が少ないのも事実なので、早急にデジタルシフトに必要な人材をどのように確保するかのを打ち手を人材コンサルティング企業などと一緒に構築すべきだと思いますね。

― 今後の業界全体のデジタルシフトに備え、店頭の販売員はどういったスキルを身に付けるべきでしょうか?

店頭などのフロントラインで働く人材は、これからはデジタルリテラシ―も身に付けることが大切です。それはプログラミングなどのベーシックなITを理解するためのスキルだけでなく、主に「データを操る力」です。数値を読みとき、分析し、その情報を基に次のアクションを仕掛ける総合的なデータ活用術。これは何も難しいことではなく、店長さんや副店長さんなど店舗のマネジメント層は、日々売上やKPIを見ているはずなので、そこから一歩踏み込んだデジタルの総合的な数字やデータも読み解く力が同時に重要になってくると思います。また、そうすることで店舗での販売員から次のキャリアラダーへと昇りやすくなると思います。

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