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大手百貨店重役が活況に沸く外商ビジネスの裏側を明かす! 勝ち組ブランドの共通点とは…!?

大手百貨店重役が活況に沸く外商ビジネスの裏側を明かす! 勝ち組ブランドの共通点とは…!?

“百貨店不況”というワードを聞いて久しい昨今だが、日本百貨店協会が11月下旬に発表した10月の全国百貨店売上高は、前年比11.4%増(店舗数調整後)で8か月連続のプラスに。さらに各国の渡航緩和や水際対策の大幅緩和、円安の影響からインバウンド需要にも復調の兆しが見られている。その中でも目立って好調なのが外商ビジネス。上級顧客向けの施策や売上げが好調のようだが、不景気が続く中で売上を伸ばしている理由は何なのか。大手百貨店に長年勤める重役に話を聞いていく。

外商への入会基準が変わったことで顧客層が激変!? 購買意欲の高い顧客がベースになったことで売上が底上げ

― 百貨店ビジネスにおいて外商の需要が高まっていると言われていますが、コロナ前と比べて売上高は増加していますか?

一昔前と比べると増加傾向にはあります。というのも、今と昔では外商顧客の入会基準が違っていることも一因です。以前は顧客の納税額によって入会の基準を定めていて、単純に所得の多い上場企業の重役や経営者などが大半でした。

でも今は、納税額ではなく銀行に金融資産があるか、いわゆるキャッシュの有無によって決められています。そうなると、個人事業主なども含めて金融資産を保有している購買意欲が高い方たちが外商顧客のボリューム層になってくる。より購買に対して勢いのある方々が顧客層として多くなっているんです。

そのような中で、好調なブランドに偏りができていることも興味深いですね。というのも小売業全体を俯瞰して見ると、中間層のマーケットが疲弊しているんです。物価は上がり続けるのに、この数十年間給料は上がっていない。

簡単に言ってしまうと勝ち組はより儲けて、この流れは今後も加速していくでしょう。中間層の購買力が壊滅的な状況の中で取引のあるブランドや企業さんからは「百貨店の外商向けにシフトしたい」という声も多いのが現状です。

― 二極化する中で好調なブランドに何か共通点はありますか?

ラグジュアリーブランドというのは元々、店が混雑することを毛嫌いしていました。今のように、たくさんのお客様を呼んでたくさん売り上げるというビジネスモデルよりも特定の客層に向けていた。

今は層関係なくウェルカムになっているので買いやすくなった一方で、安定感のあるブランドに偏る傾向にあります。時計ならロレックス、ラグジュアリーブランドならエルメス、ルイ・ヴィトン。経済的に不景気な状況下だとリセールバリューも手伝って安定感のあるブランドが人気です。逆に景気が上向いてくると、好奇心が強くなって前衛的なブランドやコンテンポラリーなものが売れる傾向にあります。

だから不景気が続く昨今は、コラボ商品も減っています。景気が悪くなると、生産されるまでに時間がかかり在庫リスクも高いコラボ商品は避けられがち。通常であれば起爆剤になりそうな、著名デザイナーとのコラボや有名ブランド同士の禁断のコラボが激減しています。そういったところも含めて、勝ち組負け組のブランドがはっきりと出てきていますね。

― 各国の海外渡航も緩和されたことで訪日客も増えていますが、インバウンド需要に復調の兆しはありますか?

今夏から比較すると、売上高は数倍近くになっています。コロナ前のピーク時と比べても7割ほどまで戻ってきていますね。内訳でいうと、中国人富裕層の爆買いが増加傾向にあります。富裕層は中国国外へ出国はできるので、実は増えているんです。

また、為替などの影響で内外価格差が生じていて、中国や韓国よりも日本で購入する方が圧倒的に安くなっている。そのため、中国富裕層を中心に、中国・韓国人バイヤーが自国で流行っているモノを大量に購入している状況です。

日本のブランドではMAISON KITSUNEやBAO BAO ISSEY MIYAKE、COMME des GARCONSなどが好調。ネット通販でタイムラグなく在庫を抱えず買えるので、バイヤーは注文があった分だけ買っていくようです。ただ、ここでも安定的でベーシックな商品よりも“流行りもの”を追いかけるブランドは不調ですね。

今世界で売れているものは日本でも売れている、逆もしかりでバイヤーはその人気商品を大量に買っていく。今後は材料費や人件費の高騰による価格改定が予想されるので、人気ブランドの鞄や財布は値上がり前に駆け込み需要も発生すると考えられます。

ファッション&ジュエリー領域の人材流動が活発な中で大切なことは“人材を育てる”こと

― さまざまなブティックを見ていると思うのですが、売れる店にいる人材に共通点はありますか?

売上げの良い店というのは、当然のことながら安定感があるところ。同じスタッフが長期的に働いている所は売り上げが高いです。1店舗4、5人の販売員がいるとして、その中で1人でも変わると売上げも減少します。キャリアの長い販売員ほど販売力があるので、ブランド側の視点で言うと人は変えない方がいい。店舗間移動も含めて、変えれば変えるほど売上げは落ちます。

だからこそ今、ラグジュアリーブランドに必要なことは“人材を育てる”文化。そこをしっかり押さえていれば、企業として成長していきます。会社がブランドを大切にすることの一環で人材を育てる。長く現場を見ていると、結局はそこに行き着きますね。人を軸に売り上げを作っていくことが重要です。

あるラグジュアリーブランドでは販売員の販売力を様々な数値で管理していますが、厳しいことだと思います。そのプレッシャーに耐えられなくて退職してしまう人も多く、徹底的な数字管理だけではなく、顧客戦略をもっと丁寧に考えた方がいいと思います。

― 求人の面ではブランドからは「トップセラーを連れて来てほしい」という要望が多いのですが、トップセラーだから良いというものではないんですよね。

ここ数カ月で各ブランドの人材流出が加速度的に進んでいるようですが、中でもアパレルからジュエリーブランドへの流動が多いと聞きます。販売員のインセンティブがファッションブランドでは頭打ちになっている状況で、好調な高級時計やジュエリー関連に移動しているんですね。

“育てる”ことが大切と思う一方で、一つのブランドでしか経験していない人材は伸びしろが少ないのも事実。良い人材やいわゆるカリスマ店長というのは、様々なブランドで経験してきた人が際立っています。

歩んできた経験などが表情や接客に出たりするのは確かなので、一つのところに長くいたからといって良いわけでもないのが悩ましいですね。1社で1個の経験しかしていない人よりも、様々なところで経験した方が伸びしろはある。経験は買ってでもした方が良いというのは本当だと思います。

各大手百貨店では花形のファッションの取り扱い比率が減少傾向… 中間層のない二極化の社会で生き残るための次なる一手とは!?

― 各百貨店ではファッション領域の販売比率が下がっている。業界全体で今後はどうなっていくのでしょうか?

消費者の様々なライフスタイルを想定して展開するMDがより多くなってくると思うのですが、それと同じくらいSDGs視点での展開も増えてくると予想します。

今は自動車業界が2035年に向けてさまざまな方向性を立てて脱炭素を進めていますが、環境負荷産業でいえば自動車産業に続くのがファッション産業。この業界にもSDGsの波は必ず来るので、35年に向けて今のような大量生産大量消費のモデルはなくなる可能性は高いです。

ラグジュアリーブランドで考えたら在庫量は少なく調整して、鞄などの高単価商材は購入の前に注文型になるなどビジネスモデルは大きく変わるでしょう。ブランドやメーカー側は生産に対する消化率などを踏まえて生産をしないといけない時代になっていく。その部分を見据えて、システムを作ったところが先行者利益を得られると思います。

― そうなると変化に対応できないブランドは淘汰されそうですね。

ネット販売とラグジュアリーブランドのビジネスモデルは相性があまり良くなく、来店型の消費が圧倒的です。接客の際に「お客様だけですよ」「他のお客様には言わないでくださいね」という特別感、この2つのポイントが上級顧客への売り文句になる。お客様はそれをステータスと感じて顧客になっていく。

さらなる上級顧客は店舗に並ばないものを手に入れる。店頭にはベーシックの商品しか並ばず、上顧客はアンダーグラウンドのモノを手に入れる時代になっている。消費者はSNSでそれを見て商品がほしくなる、店頭に来て顧客になる。その繰り返しです。このようなシナリオができているブランドは生き残ることができるでしょう。

様々なところで二極化がはっきりしてきた世の中で、ラグジュアリーブランドは中間層が抜けた分は上級顧客で売り上げを保っています。最近では中間層の購買意欲が壊滅的で、ショッピングモールや複合商業施設は大変だと思います。

テナント側からは百貨店へ打診がすごく来ています。そのような中で百貨店業としても今後はマスをターゲットに展開していくことはやめ、コアなヘビーユーザーを抱え込む形に変わってきています。今後数年間はこのトレンドが続くでしょう。

高齢化の問題もありますが、あるブランドでは若年層にターゲットを切り替えています。高級スーツブランドをはじめ、ラグジュアリーブランドがどんどん若い層を狙っている。

日本のブランドも将来を見据えた時に、そこに目を向けないとダメだと思います。国内ブランドが失敗している点としてはお客様を見続けていたことで、一緒に歳を重ねていってしまったこと。常に若者層に目を向けていないと将来性はない。短期的な利益ではなく、長期的な視点で新しい層にもリーチしていくことが大切です。

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