EC担当者のビジネスクリエイティブ力をあげるのがDX化の第一歩―ファッション業界のDX化を推進するBranditが目指す未来
さまざまな業界でDX化が叫ばれる中、ファッション業界にもDX化の波は押し寄せている。しかし、他の業界に比べるとまだまだDX化が進んでいないのが現状である。Branditは「Make Next Branding by Technology」をビジョンに、独自のEC/CRMサービスを提供し、ファッション業界のDX化を推進しているスタートアップ企業だ。今回、代表鍛治氏が考えるDX化の本質とBranditが目指す未来について話を伺った。
鍛治 良紀さん/株式会社 Brandit 代表取締役 CEO
同志社大学卒業後、新卒でサイバーエージェントに入社。その後、独立・事業売却を経て、営業DXサービスを提供するSansanや大手アパレル企業MARK STYLER、Times Transit、Candeeなど様々な企業の要職を務める。これまでの経験を活かし、ファッション業界のDXを推進するため2019年9月Branditを設立し代表取締役へ就任。
新卒で担当した仕事でECと出会う
― 2019年にBranditを立ち上げるまで、鍛治さんはどのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか?
大学を卒業して、新卒で株式会社サイバーエージェントに入社しました。当時はまだアメブロもない時代で、インターネット広告代理店という立ち位置の会社でした。私の仕事は広告営業で、主に関西の大手通販会社をいくつか担当していました。クライアントはアパレルも扱う会社だったのですが、いずれも商品を誰にどのようにして届けるのか、どのぐらいの広告費をかけてユーザーを獲りにいくのかなどを考えたり、費用対効果を注視する企業が多かったんです。そうした顧客を担当することで、数値でビジネスを見ることやロジカルシンキングの大切さを叩き込まれました。その経験が私のその後のキャリアやビジネス思考の原点になっているのだと思っています。
その頃から、デジタル分野とリアルな場所をつなげる仕事がしたいと思い、サイバーエージェント退職と同時に仲間ととも起業しました。体験ギフトサービスを立ち上げ30歳で代表を退任し、事業を売却。その頃に営業DXサービスを提供するSansanと出会い、大阪支社の立ち上げを任されました。
その後、アパレル企業のMARK STYLER(以下、マークスタイラー)に声をかけてもらい、EC事業を担当することになったんです。
アパレル業界でのキャリアは、マークスタイラーからのスタートでしたが、考えてみればサイバーエージェント時代からアパレル企業のクライアントを担当していました。業界だけで見ると、Sansanまでがデジタルで、マークスタイラーからアパレルなのですが、最初からアパレルとは縁があったんです。結局そうした縁や経験がすべてつながって私のキャリア形成の軸になっているのだと思います。
アパレル業界におけるECの課題に直面
― マークスタイラーではどのような仕事をしていたのですか?
当時のマークスタイラーは、店舗よりECに注力したいというスタンスでした。ところがECを強化しようとすると、人が定着しないことが課題になっていたんです。私の役割は、ECを強化するための組織作りやマネジメントでした。
― なぜECを推進すると人が定着しなかったのでしょう?
右脳と左脳で考えると、アパレル業界で働く人は感性的な右脳を主に使って仕事をしています。一方、ECはデジタルの考え方ですから、左脳の論理的思考が必要になります。思考としてはまったく異なりますから、そもそも互いの思考が理解し合えない。だからEC化にはついていけないという人が出てしまうのも、当然といえば当然です。
しかしEC化を進めるならデジタルの考えは不可欠。とはいえデジタル的な論理的思考を持つ人を多く入れれば解決する問題でもないので、何より今いる感性的思考を持つ人材に、デジタルの考え方のエッセンスを伝授して、アパレル業界の人がデジタル思考を持つための手伝いをしなければ、と思いました。
― アパレル業界で論理的思考を持てるようになると、何が変わるのでしょうか?
モノを売ることにおいて、利益率やビジネス思考への意識が高まります。たとえば1万円のものが1万円で売れることの中身がどうなっているかを考えられるようになる、ということです。売り方によって、同じ1万円でも利益率は大きく異なってきます。ただ売ればいいではなく、利益率を考えて最適な売り方を考えるきっかけになるのです。
たとえばもっとも利益率が高いのは自社ECからの売上なのですが、当時は自社ECでも店舗でのセールでも、出店している他社運営のモール型ECでも、とにかく売れたらいいという考えが主流でした。とはいえ他社モール型ECだと手数料を多くとられるので、利益率は下がります。でもそこには誰も目を向けないし、目を向けなくてもいいという風潮がありました。私はずっとそうした考え方に違和感や疑問を感じていて、現場がもっと利益率に目線を持っていけるようにしたい、と思っていたんです。
すべての経験、仕事が今につながる
― そうした想いが現在のビジネスにもつながっているのですね。目標にするターゲットが見つかった、と。
そうですね。サイバーエージェントやSansanでは論理的かつ数字的なモノの捉え方を学び、マークスタイラーではアパレル業界の改善点とアパレルならではの感性的な視野を学びました。その後参画した株式会社Candeeでも同様に、ライブコマースという新しい販売手法を用いたうえで「こういうことができるのではないか」という目標やイメージがありました。立ち上げた株式会社Branditでは、これまで「点」としてやってきた仕事を回収してつなげていっているという感じですね。だからこれまでのキャリアは、何ひとつムダなものがない。すべてがつながっているんです。
― Branditは、2つのブランドの運営と、顧客へのEC/CRMシステム支援のどちらもやっていますよね。
Branditには、EC/CRMシステムの企画・開発・運営を行うエンジニアと、アパレルブランドを運営する人材のどちらも在籍しています。論理的思考のエンジニアと、感性的なアパレルの人材が混在しているのですが、論理的、感性的だけで動くと仕事はうまくいきません。アパレル部門も売り方・売れ方への分析力は必要ですし、システム開発もただ論理的に開発するだけではなく、感性を大切にするアパレルの顧客がシステムを使いこなすためにどんなアプローチが必要なのかといった感性的なUI/UXの視点も必要です。
感性で動くアパレル系の人にとって、論理的に考えて使わなければならないEC/CRMシステムだと、アパレルの現場では使いづらいと思うんです。だから、現場の人が直感的に使いやすいシステムを作ってほしい、と私はよくうちのエンジニアたちに伝えています。要はiPhoneのように、取説がなくてもとりあえず使うことができるもの。ビジュアルであったり、直感的な使いやすさを大切にしています。
― ブランドもシステムもどちらもやっているからこそ、そうした融合的な考えやシステムづくりができるのですね。現場のかゆいところに手が届くシステムというか。そこが他社との違いであり、強みでもありますね。
そうなんです。どちらもやることで互いにフィードバックができます。ブランド運営においての課題をシステムに落とし込むこともできています。
Branditが考えるビジネスの可能性と目指す領域とは
― Branditのビジネスは、アパレル以外の領域にも使えそうな気がしますが、いかがでしょう?
もちろんそれは視野に入れています。私は、「アパレル=服、ファッション=ライフスタイル」という捉え方をしていますので、今後はライフスタイルそのものをターゲットにしていきたいと考えています。
ファッション=ライフスタイルという枠は、言わば、インフルエンサーがSNSにあげるものすべてがあてはまると思うんです。雑貨、食べ物、グッズ・・・。自転車だって単なる移動のためのモノではなく、ファッションの一部にもなっていますよね。
システムをご利用いただいているお客様もアパレルだけでなく、飲料メーカー様をはじめとした食品会社様や観葉植物を取り扱う企業様に活用頂けています。
― DX化の領域を広げていくために、もっとも大切にしてることは何でしょうか?
カスタマーサクセスを一番大切に考えています。システムを導入することがDXではなく、導入後に顧客に「気づきを与えられるシステム」にできるようお手伝いをしていくことが私たちの大切な役割。こんなことができます、と成功体験を顧客に伝えるのではなく、「こういうパターンもありますよ」といった問いかけを繰り返すことで、顧客の側から自発的な意見が出るようになる。そうした流れや思想がDXだと捉えています。
― 顧客が自分たちでアイディアを出してビジネスメイクができるようになることが、鍛治さんの考えるDX化なのですね。
プロダクトのコンセプトとして「小売接客にあるあたりまえをECに。」というテーマがベースにあり、店舗スタッフがお店で接客時にやっていることをデジタルでもできるようになればいいな、と思っています。店舗スタッフは、嗅覚的な感覚やお客様との関係性を考慮した顧客対応をしますよね。たとえば以前に購入いただいた商品の情報を事前に把握したうえで、手にとったり、興味がありそうな商品を提案したり、試着を促したりと、お客様の嗜好情報と過去の購買情報をかけ合わせて、さらに気候やトレンド、コーディネートなど複合的に考慮した提案までのストーリーがありますが、デジタルだとせいぜい新着情報やコーディネートの提案、販促としてのクーポンを発行してメルマガを不特定多数に一斉送信している企業様が多数だと思っています。リアルではできている当然のこともオンラインではできていないたくさんの部分をサポートできるプロダクトでありたいと思っています。
ただ、それを実現させるためには、使う側の運用意思が欠かせません。デジタルになっても店舗と同じようなことができているよね、という認識を使う側に持っていただく。その積み重ねの先にDXがあるのだと考えています。
今後は海外進出を目指す
― そうしたことを実現させると同時に、3〜5年後の展望をどのように考えていますか?
海外進出のためのお手伝いがしたいですね。日本は少子高齢化で、パイもシュリンクしていくことはいわずもがなです。これからは、コミュニティや、ブランドストーリーがないと、ブランドは生き残っていけません。さらに日本のアパレル業界はシステムも外注文化ですし、大手モール型ECなどに依存しないと海外進出もなかなか難しいのが現状です。だからそこをサポートしていきたい、と考えています。
たとえば、日本ではまったく売れていないけれど、台湾などでは人気がある日本発のブランドもあります。そうしたブランドを台湾でどう売っていくかというシステムの提案を構築したい。もちろん国が異なるとニーズはまったく違います。日本のやり方、とくに接客スタイルをそのまま当てはめてもダメかもしれません。そうした経験値に関してはうちもまだまだなので、自分たちの自社ブランドであるインキュベーション事業を通して経験しながらソリューションに落とし込むサイクルをつくっていきたいと考えています。
計画としては5年以内にはやりたいですね。今、明確なゴールをある程度設定しているので、それを目指して、手段を問わず進めていきたいと思っています。
― これからのBranditには、どんな人材が必要ですか?
末来をクリエイトできる考えを持つ人ですね。今Branditが持っているもの、持っていないものを考えてみると、圧倒的に「持っていないもの」のほうが多いんです。でもそれなら何があれば未来をともに作り上げていけるのかを考えられる人材とともに仕事がしたいと思っています。
具体的に言えば、主体性を持ってチャレンジを楽しめる人材。意思(やりたいこと)と意図(裏付け)を持って判断できる人材ですね。
― 最初にお話しされていた、右脳・左脳どちらの思考も持てる人、という感じでしょうか?
もちろん部署によっては、右脳寄り、左脳寄りの思考が必要になりますが、どちらか両極端に寄りすぎな思考だと視野が狭くなってしまいます。Branditはどちらの思考も大切にしている会社なので、どちらも受け入れられる人ならチャレンジを楽しみながら仕事ができると思います。
アパレルとデジタルの両輪を兼ね備えた、唯一無二の存在価値を高めていくビジネスを、ぜひ一緒に楽しめる方をお待ちしています。
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