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ナイキ、ワイデン+ケネディなどとも協業、ポートランド発のサスティナブル企業を率いるリーダーが実践する独自の経営スタイル

ナイキ、ワイデン+ケネディなどとも協業、ポートランド発のサスティナブル企業を率いるリーダーが実践する独自の経営スタイル

ビジネス界のトップランナーのキャリアを「丸ハダカ」にする、新感覚対談「Career Naked」。今回ご登場いただくのは、アメリカにあるポートランド ガーメント ファクトリー (PGF)のオーナー兼創設者であるBritt Howard氏。PGFはソフトグッズ、衣料品を製造し、サスティナビリティでアーティスティックなものづくりを実現している企業である。そこで2008年から14年間リーダーシップを発揮しているのがBritt Howard氏だ。今回、来日のタイミングで彼女が会社経営で大切にしていることや、未来への展望などについてお話を伺った。

Britt Howardさん/PORTLAND GARMENT FACTORY CEO
ポートランド ガーメント ファクトリー (PGF)のオーナー兼創業者。同社は廃棄物ゼロのものづくりにこだわり、B-Corp企業 および Climate Neutral企業として認定されている。体験型マーケティング、インスタレーション、アート、ハイエンドプロダクト等をカスタムメイドでプロデュースしており、上流の企画開発から、デザイン、生産を一貫して請け負っている。2008年の創立から現在に至るまで彼女のリーダーシップにより、PGFは数々のアワードを受賞し、そのポートフォリオには、ナイキ、インテル、アディダス、ポートランド美術館、ワイデン+ケネディ、ティラムックなどのクライアントが含まれている。

堀 弘人さん/H-7HOUSE合同会社 CEO・ブランドコンサルタント
1979年 埼玉県生まれ。米系広告代理店でキャリアをスタートし、アディダス、リーバイス、ナイキ、LVMHなど数々の外資系ブランドにてマーケティングディレクターを含む要職を歴任したのち、楽天の国際部門にて戦略プロジェクトリーダーとして活躍。20年以上に及ぶ自身のブランドビジネス経験を国内外企業の活性に役立てたいとブランドコンサルティング会社H-7HOUSEを設立。NESTBOWLをはじめとして様々な国内外の企業、政府系機関、ベンチャーなどブランド戦略構築に幅広く参画している。自身も環境課題解決型のビジネスにも率先して取り組んでいる。

従業員がハッピーで健康であれば、自社の製品が素晴らしいものになる

― Brittさんはどのようなお仕事をされているのでしょうか?

私はアメリカのポートランドで主に衣料品、それからバッグやアパレルなどのソフトグッズを作っている会社のオーナーをしています。私たちの企業ではとりわけ、アーティスティックなものづくり、そしてサステナブルな視点に重きを置いています。

私たちの考え方の根底にあるものは、People(人)、Planet(地球)、Profit(利益)です。ほとんどの企業では、だいたいProfitを最初に持ってくることが多いと思いますが、私たちはまずPeopleとPlanetを大切に考えていて、その後にProfitを追求しています。私はいつもビジネスを進行する際は、その考え方が自分の考え方に側しているかどうかを大事にしてきました。そのため私のビジネスは、自身の性格にかなり影響されています。

― 御社ではどのようなものづくりをされていますか?

私たちが作るプロダクトは常にアーティスティックなものでありたいと思っていて、デザインなどに特にこだわっています。実際に製造過程に携わる人間にはデザイナーやパタンナーもいて、クライアント企業に対して素材の供給や、製品の品質管理を行うのが主な仕事です。

ユニークで多様なプロジェクトをたくさん抱えていて、中にはアーティストとのコラボレーションで生地を作ったり、衣料品をデザインしたり、彫刻を作るようなプロジェクトもあります。場合によっては非常に大きな企業、例えばポートランドに拠点を置いているNikeや、世界的に有名なクリエイティブエージェンシーのWieden+Kennedy(ワイデン+ケネディ)とも仕事をしています。

― 従業員はどういう方々が働いていらっしゃいますか?

ベトナム、南米チリ、そしてアメリカなど、世界中から人が集まってきています。バックグラウンドも非常に独特で、舞台コスチュームを作っていたような人から、宣伝やビジネスを手掛けていたり、伝統工芸、ものづくりをひたすら続けてきた人など、本当にさまざま。ただ私たちの会社は、大企業のように高い給料や福利厚生を提供することはできません。提供できるのは、バランスのとれたクオリティオブライフだと思っています。

― クオリティオブライフに関連してお伺いしたいのですが、日本人はハードワーカーが多いことが有名で、アメリカ人と働き方が違うと思います。Brittさんは、この点についてどのようにお考えですか?

私たちは時給を設定して、「週に40時間働いてください」という働き方のコントロールをします。もちろん仕事が終わったら、帰ってもOK。できるだけ従業員が自由な選択ができるようにしています。私たちのような手工業のビジネスは、人を探すのが本当に難しいので、彼ら一人ひとりに対して敬意を持ち合わせていないと、どんどん人が辞めていってしまいます。小さい企業ですが、人を大事に扱うという点ではリーディングカンパニーでありたいですね。従業員がハッピーで健康であることは、最終的に自社の製品をすばらしいものにすると考えています。

Portland Garment Factoryの多国籍な従業員

火事ですべてを失いながらも、それを救ってくれた奇跡

― Brittさんにとって、最悪のできごとを教えてください。

大規模な火事でオフィスや倉庫が燃え、全てを失ってしまったことです。オレゴンやカルフォルニアは非常に山火事が多いところですが、私たちの会社は人が放火をしたケースでした。

2021年4月のある日のことです。朝5時に電話で知らせを受けて、私が現地に駆け付けると、オフィスの屋根全てが焼け落ちている状態でした。その時は「本当に打ちひしがれた」の一言に尽きます。私が人生で経験したことのないような最悪な出来事の一つで、何かに例えるなら、自分の近い人が亡くなってしまった時の感情に近いですね。さらに驚くべきことに放火犯は女性で、それはまた違う意味でショックでした。その後、まずは二つのことを行いました。

一つ目は、私たちの従業員が無事かどうかを確かめることです。彼らが心血を注いで作ってきたものたちが全部燃えてしまったわけですから、彼女たちの精神的なショックも大きいと思ったのです。翌日納品のアイテムもありましたが、それらもすべて燃え尽きてしまいました。ただ私は納品できないのだったら、お預かりしたお金はすべて返すべき、と考えていて。どういうお金の算段をしなければいけないのかを考えるところからスタートしました。

二つ目のアクションとしては保険です。すべての仕事と在庫、納品物を失ってしまったので、クライアントにお金を返さなければいけないかもしれないし、借金はどれぐらい残るのか、従業員に対してお給料をいくら払わなくてはいけないのか、という部分で非常に頭を悩ませていました。ただ、たまたま当社を担当していた保険会社の営業マネージャーの方がすごくいい方で。私が想像していた以上に保険の適用範囲が広く、大幅に補填することができました。また、幸いなことに当社のファイナンスマネージャーが優秀で、事前に非常に良い保険に入っていたこともあり、ある程度の費用を賄うことができました。それも奇跡的なことでしたね。

現在の工場とオフィス

海外から見た日本らしさとサスティナビリティ

― 世界中でサスティナビリティという言葉がある種トレンドになっています。日本にいらして、何か気づいたことはありますか?

これは決して否定ではないのですが、いろいろなお店に行った時に、ラッピングが過剰すぎることに気づきました。そのままバッグに入れてしまえばいいものもたくさんあるのですが、必ずしもそうでないのは少し違和感がありました。

サスティナビリティとは直接関係ないことですが、ものの扱い方に対してのさまざまな差異を感じました。私の日本と日本人のイメージは、ものごとが統率されている、清潔、そして人に対して敬意を払う、といったこと。今回、来日して気づいたのは、その敬意が人だけではなく、ものに対してもあるというところで、それは非常に面白いと思いました。百貨店などに行くと、雨の傘を入れる細いビニール袋がありますよね。あれも実はもったいないな、と思っていて。ただビニール袋があるからこそ、床が濡れずにクリーンな状態でお店の中を歩けるので、せめて地球に還る素材であるといいなと感じました。それからレストランでトイレに行った後などに、ビニールに入った紙製のおしぼりを大量に出してくれたり、コンビニでもお弁当と一緒に配っていますよね。あれも自分たちでタオルを持ち運んだりすれば、資源の節約になるのではと思います。

ただ、社会に大きな変化をもたらすためには、まずは大企業が行動すべきでしょう。先ほどの百貨店の傘のビニール袋は、使うかどうかは個人で選択できますが、本当に大海の中の一滴というか。だからこそ、マスの消費を促している大企業が責任を持つべきではないでしょうか。アメリカでいうとPatagonia(パタゴニア)が着古した商品をお店に持ってきて、それをリサイクルするといった活動をしています。一つのプロダクトを作るのに、二酸化炭素の排出量はどれぐらいあるのかという、カーボンフットプリントを指標として重要視しています。そのようにそれぞれの大企業がひとつひとつ可視化することが、最終的には地球温暖化や気候変動に対して大きなインパクトを起こすと思っています。

クリエイティブリーダーに必要なのは逆転思考とユーモア

― 今後の目標や、今後成し遂げていきたいことがあれば教えてください。

すごく難しい質問ですね。つねに私の優先順位は変わっていくので…。ただやはり私たちは審美性のあるデザインを通じて、人々にインスピレーションを与えていきたいです。それに加え、女性の雇用と社会進出に関心を持っていて、彼女たちが正しい利益を受けていくことを大事にしています。PGFとしては、最高の機会をすべての女性の方々に提供したいと思いますし、もっと雇用を促進していきたいと思っています。

二つ目としては、もっとアップサイクリングのプロジェクトを手掛けていきたいです。今は衣料品やソフトグッズが中心ですが、世の中を見回すと、まだ触れられてないサスティナビリティ領域はたくさんあります。たまたま私たちはソフトグッズや衣料品からスタートしてますが、将来的には組み合わせ次第で椅子にもテーブルにもなる家具だったり、デザイン的に優れた家具などを複合的に作ることができる会社になりたいと思っています。

― さらに加えてやりたいことはありますか?

リーダーシップは非常に重要です。女性をたくさん雇用してきた中で分かったのは、私のようにビジョンがあって強い女性は、組織の中では扱いづらいという難しい面があるということです。だから彼女たちに敬意をはらいながら、組織を作っていくこともやりたいことの一つです。

― クリエイティブなビジネスリーダーになるためには、どうしたらいいと思われますか?

まず一つは、ものごとを上下逆転や左右反転といったように、いつもとは違う思考法で考えることは非常に大事だと思います。プラスアルファとしてはユーモアが大事でしょう。物事をシビアなだけではなく、おもしろおかしく捉えることによって、変化を促すことも可能になると思います。あとは戦略を構築している部署の方、たとえば人事でいうと、たいてい組織表というのはピラミッド型に広がっていきますが、それを丸型やスパイラル構造にしてみる。伝統的なものに対して、こちら側も違ったことにトライしてみる、というアイデアが非常に大事です。

私もクリエイティブのリーダーでありたいと思いますが、常に旧来的な考え方をする人たちとのすり合わせを怠らないようにしています。それからビジネスリーダーとしてクリエイティブであるためには、そのアイデアを適切な正しい言葉で説明しないと、理解を得にくいでしょう。だからそれを適切に説明する作業も非常に必要だと思います。

文:キャベトンコ
撮影:Takuma Funaba

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