日本人こそ積極的に海外へチャレンジするべき! ラグジュアリーブランドMDの海外生活。
「失われた20年」はいつしか「失われた30年」に変わり、いまだ再浮上の兆しすら見えない日本経済。サラリーマンの平均給与は30年間横ばいで、物価だけがどんどん上がる状況が続いている。そんな中、最近では日本から海外へ“出稼ぎ”する若者もいるほど。ただ、日本は世界的に見ても英語が苦手なことも事実。そんな日本人が海外へ挑戦するのはハードルが高いのでは…と考えてしまうが、ラグジュアリーブランドのマーチャンダイザーとしてシンガポールにインターナルモビリティで異動して働く大崎氏は「英語は単なるツール」と言い切る。むしろ「日本人として海外で働くことはアドバンテージが多い」とまで。海外で実際に生活する人が言うのであればと、今回は大崎 カブネ氏に詳しく海外で働くことについて詳しく聞いた。
シンガポールを軸に周辺地域9カ国のMDを担当。海外イベントで感じたフェアな働き方が移住のモチベーションに
― 自己紹介も兼ねて簡単な経歴を教えてください
現在はラグジュアリーブランドのマーチャンダイザーとして、シンガポールで勤務しています。シンガポールに来てからは約1年が経ち、現在は周辺地域9か国を担当させていただいています。こちらに来る前は日本で同じブランドのマーチャンダイザーを約7年半、日本の他に韓国も担当していました。前職では現職の競合にあたるブランドの店舗マネージャーや販売スタッフを経験していたので、ラグジュアリーブランドだけでも14年ほど経験しています。
― 海外で働こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
東南アジアを中心とした地域は日本の半分の市場規模ながら今後の成長が見込まれることはもちろん、心地の良い働き方をしているなと感じたんです。2018年に海外で実施したイベントの手伝いをする機会がありました。海外だから緩い空気感で働いているのかと思ったら、実際にはものすごく優秀な方々がハードワークしていて、仕事の仕方もカッコいい。それぞれの個が強いのに、フェアでギスギスしていない。自分もこんな環境で働けたらなと、移住を決めるモチベーションになりました。ちょうどそのころ韓国での立ち上げがうまくできた知見もあったので、東南アジア行かせてくださいとアピールしてシンガポール勤務が実現しました。
英語は単なる「ツール」自信の仕事の軸がしっかりしていれば語学スキルは何とかなる!
― 語学力で困っていることはありますか?
ワードチョイスや言い回しのレパートリーが、少し足りないとは感じています。日常生活や通常業務では困らないのですが、1対大人数のスピーチのような形になるとまだまだ足りないと感じますね。あとカフェなどでの何気ない会話や、本気で飲みに行っているときは相手が何を言っているのかわからないことはありますね(笑)
― 語学に100%の自信がなくても、ビジネス会話ができれば海外での仕事はできますか?
マーチャンダイジングやリテールの仕事の軸がしっかりしていることが前提ですが、英語は単なるツールでしかないので問題ないと思います。というのも、特にシンガポールはマルチカルチャーということもあって、少し間違えたとしても「日本ではそういう言い回しなんだな」ってくらいしか思ってない。中にはネイティブスピーカーもいますが、アジア人と仕事すること自体に慣れているので、通じるまでいろんな言い回しで言い切ることが大切です(笑)
― 急な海外移住に対して家族から反対されませんでしたか?
ありがたいことに反対はありませんでした。子供たちは最初「え?」って驚いていたものの、妻は「むしろ行きたい」という前向きな姿勢で。実際にインターナショナルかつマルチカルチャーの中で生活できていることは、子供の教育の面や体験の面ではすごくプラスになっていると感じていますね。また、仕事面でも残業はあるものの休みはしっかりあったりとメリハリがある。普段は18時過ぎには帰宅できますし、金曜はみんな休日に向けた準備があるのでオフィスには誰もいない状況ですよ(笑)。もちろん、文化の違いでストレスに感じることなどのデメリットもありますね。
日本人は海外から見たらポテンシャルとアドバンテージだらけ!もっと海外に挑戦するべき!
― 実際に海外勤務をしてみて日本人は海外で活躍できる可能性はあると思いますか?
可能性はすごく高いと思います。一つは、日本人であることで信頼してくれるんです。こちらに来て初めて知ったのですが、日本は人や文化としても国としても尊敬されている。特に海外の富裕層からは「毎月日本に行っているよ」「日本で家を探しているんだ」とよく聞くぐらい。日本は人も含めてポテンシャルだらけだと思います。
二つ目に日本人は仕事面での守備範囲がすごく広い。例えば日本ではストアスタッフなのにMDが作るようなセリングポイントの資料を高いレベルで作れる人がいたりと、器用な人が多いです。でもこちらは自分の守備範囲以外は、絶対に手を出さない。「範囲外のことをするなら報酬ください」というのがマインドセットとしてあります。アドバンテージが多いからこそ、ラグジュアリーブランドで働いている日本人はもっと海外に来るべきだと思います。逆に、本気で語学留学していない人は、オーストラリアなどのイングリッシュネイティブの会話についていくのは難しいので、そこは勉強が必要になります。
ちなみに、自分が担当している地域で活躍している日本人はほとんどいないので…すごく重宝されると思います。
― 海外でのサラリーについても教えてください
正直に言うと、こちらにいる方が高い報酬がもらえています。家賃はある程度補助が出ていますし、シンガポールは税金がかなり安く仕組みもわかりやすい。日本だと複雑で税理士に頼みたくなるほどですが、年1回の確定申告時の所得税だけでOKなので手取りも多いですね。あとは家族構成にもよると思うのですが、子供がいれば教育費用はかなり高くなります。物価も多少高いですが、びっくりするほどではないので生活で困ることはほぼないですね。
― 様々な経験をしていますが今後のキャリアビジョンはありますか?
自分自身も迷っている部分はありつつ、2つの道を考えています。
一つは今のインターナショナルな経験を活かして、日本でハイポジションに戻る。もう一つは、マーチャンダイジングの仕事が好きでこの仕事に入ったので、もっとこの道を極めてヨーロッパや未開拓のニューマーケットに挑む。その二つを軸に考えていますが、後者の方に傾きかけています。やっぱり好きなことをやっている方が、働くステージが変わったとしても軸をしっかり持っていけると思うんです。スポーツ選手みたいな感覚で、1年1年全力でやっていきたいです。チャレンジすることが好きなので、これからもチャレンジし続けていきます。
大崎 カブネさん
ラグジュアリーブランド業界で14年間勤務しており、現在はマーチャンダイザーとしてシンガポールで活躍。シンガポールを軸に9か国担当し、出張を通してシンガポール以外でも多くの海外生活を経験している。
Twitter:@osakikabune