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ルイ・ヴィトン ジャパンと協働プロジェクト開始!サッカークラブ「水戸ホーリーホック」が実践するキャリア支援と人材育成

ルイ・ヴィトン ジャパンと協働プロジェクト開始!サッカークラブ「水戸ホーリーホック」が実践するキャリア支援と人材育成

『水戸ホーリーホック』は、多様性、交流というキーワードを軸に、所属選手の人間的成長サポートに力を入れている。社会に貢献できる人材を育てるために、数々の研修プログラムを導入。2022年12月には、現役選手がルイ・ヴィトンジャパンでのインターンシップにも参加。現在60クラブが所属するJリーグのなかでも、選手のピッチ外活動の多さ、多様性が注目されている。同クラブで社会連携と選手教育を担当する中川氏に、取り組みのねらいと背景、展望について話を伺った。

中川 賀之さん/株式会社フットボールクラブ 水戸ホーリーホック 社会連携・選手教育担当
サッカー選手としてエクアドルリーグでプレー。現役引退後は、サッカー、ラグビーなどの世界大会において代表チームに帯同し、渉外担当などを務める。2020年度より、茨城県水戸市を本拠地とする『水戸ホーリーホック』(Jリーグ J2)のスタッフに。社会連携および選手教育を担当している。

「無理」ではなく、「できる可能性」を模索し、提案

水戸ホーリーホックに所属する山口瑠伊選手が、昨年ルイ・ヴィトン表参道店でインターンシップを経験したことが話題になりました。なぜインターンシップに参加したのか、その経緯を教えていただけますか?

Jリーグに所属する全クラブに、昨年Jリーグから「ルイ・ヴィトンで働きたい人はいませんか」という一斉メールが届いたことがそもそもの発端です。水戸ホーリーホックは、これまでも選手がさまざまな業界と接点を持てる取り組みを行ってきましたので、これはいいチャンスだと思ったんですね。ただ、ルイ・ヴィトン様からの依頼は求人でしたので、現役選手から転職したいという人材はまずいないだろうと思っていました。それでも、求人に応募して働くのではなく、別の可能性を探ることはできるのではないか、と考えたときに思い浮かんだのが、山口選手だったのです。

― なぜ山口選手だったのでしょう?

彼は日本人とフランス人のミックス。水戸ホーリーホックでは、選手との面談を定期的に行っているのですが、彼は「フランスと日本の架け橋になることがしたい」と語っていました。ルイ・ヴィトン様と協働で何かをやることは、そうした彼の想いを体現できるチャンスだと思いましたし、写真をご覧になってもおわかりの通り、彼のルックスはモデルレベル。彼を推薦すれば、ルイ・ヴィトン様側も何かを感じてくれるのではないかと思いました。

そこでJリーグに、「山口選手をルイ・ヴィトン様のモデル、もしくはインターンとして活用していただくチャンスはないでしょうか」と返信しました。するとJリーグから「おもしろそうですね。打診して、反応があればぜひつなぎたい」とお返事をいただいたのです。

― そこから話がスムーズに進んだのですね。

現役選手がインターンとして店に出るなんて、ルイ・ヴィトン様としても初めての試みです。ただ、受け入れていただいた背景には、社会問題のひとつでもある現役引退後の選手の生き方がありました。プレミアリーグ(イングランドのプロサッカー1部リーグ)に所属していたような選手でも、引退後華やかな生活から抜けられず、さらに仕事が無く自己破産してしまうケースは多いんです。だからこそアスリートのキャリア支援を一緒にやってみましょうとの想いで、この取り組みがスタートしました。

ルイ・ヴィトン表参道店でインターンシップをしている山口選手の様子。

ピッチの外でも、中と同じスタンスで何かを行うことの大切さ

― これまでにはないアプローチで実現した取り組みだったのですね。山口選手がインターンシップを終えられた今、中川さんは、現役選手がインターンシップを行うメリットについてどのように感じていますか?

私は常に、選手にはピッチの中も外も同じスタンスでいることが大切だと考えています。ピッチの中だけ頑張るのではなく、外でも同じように頑張る。そうすることが人としての成長につながるのではないかと思っています。

山口選手は、ルイ・ヴィトン様という「外」の世界に全力で向き合いました。具体的なメリットとしては2点あると思います。まずひとつめは世界一のラグジュアリーブランドでの一流の接客、マナー、所作を受ける側ではなく、自らが提供する側として体感できたこと。そしてもうひとつは店舗の裏側に入らなければわからない、スタッフのコミュニケーションやチームワークのなかで仕事ができたことです。

サッカーとラグジュアリーブランドではフィールドが異なりますが、どのようなコミュニケーションやチームワークがあれば、あれだけの売り上げを出し、お客様を満足させることができるのかを体感すると、サッカーのクラブに戻った際、「では、水戸のチームワークはどうなのだろう。どのようにコミュニケーションをとれば、ルイ・ヴィトン表参道店の方々のような素晴らしいチームになれて、お客様を楽しませることができるのだろうか」、という視点が芽生えます。

もちろん彼一人がインターンシップを体験したことで、水戸のチーム全体の雰囲気がすぐに良くなるというわけではありません。しかし、山口選手が体験したことは彼にとってものすごく貴重な経験になっています。彼は現在24歳ですが、これからチームのなかでも年齢的に中堅どころを担ううえで、チーム全体をどうマネジメントしていくかを彼が主体的に考えることで、選手としても人としても成長してくれることを期待しています。

― 水戸ホーリーホックは、これまでも選手と社会との接点づくりのためにさまざまな取り組みを行っていますが、そうした活動の多さや多様性はJリーグのなかでもダントツですよね。水戸ホーリーホックが実践し続ける「OFF THE PITCH」(サッカーコート外での活動)の背景を教えていただけますか?

水戸ホーリーホックでは、取締役GMの西村が率先して「OFF THE PITCH」活動を推進してきた歴史があります。事あるごとに「OFF THE PITCH」活動の大切さを、GM自らが選手、スタッフ、フロント陣すべてに伝えてきました。「OFF THE PITCH」活動は、本業であるサッカーにも人生そのものにもプラスになるとの考えに共感し、2020年から私も取り組みを担当する一員として参加することになりました。

― 企業との合同研修や、学校訪問、農業体験など、あらゆる機会を設け、実践していらっしゃいますが、なぜここまでやるのでしょうか?

中途半端にやっても何も残らないからです。カタチだけの社会貢献をしてSNS等で発信するだけなら簡単ですが、それではお互いに何も残りません。やるからには徹底して、よいものを継続して行うことが水戸ホーリーホックのスタンスです。

― 選手の反応はいかがですか?

彼らの本業はサッカーなので、すべての取り組みにすべての選手が積極的に参加してくれているかというと、そこはまだまだ難しいのが現状です。けれども近年取り組みをさらに強化したことで、主体的に取り組む選手は着実に増えています。

― 何か印象的なエピソードはありますか?

選手による地元の小学校訪問などをよく行いますが、水戸ホーリーホックの場合は、ただ訪問して、子どもたちの前で話をしてもらうだけではなく、子どもたちと体育館で体を動かしながら交流し、子どもたちとの距離感を縮め、その後教室に移動し、選手が子どもたちに本音で語る時間を設けます。その時間に私から選手に対して根掘り葉掘り突っ込みを入れて質問することもあります。たとえば「夢」というテーマで語ってもらうときも、「きっかけは?」「なぜ?」「苦しかったことは?」「どうやって乗り越えた?」「乗り越えた先には?」「今後は?」など、選手が予定していなかった部分まで切り込んで語ってもらうシチュエーションを作ることもあります。内容によってはケガやそのときの精神状態を思い出し、涙ながらに語り出す選手もいました。子どもたちに対して嘘はつけません。素の自分を子どもたちの前でさらけ出すことは、選手が自分自身を見直すきっかけにもなり、試合でもまた心機一転して頑張ろう、自分の発した言葉に責任を持つなどという向上心にも繋がるという効果があると捉えています。

「OFF THE PITCH」活動が選手の人間力を上げ、サッカーのパフォーマンスにも大きく影響してくると語る。ひとりの人として、成長してもらいたいという思いが込められている。

海外から日本を見せたい

― 今後中川さんがやってみたい「OFF THE PITCH」活動はありますか?

すぐには実現できないとは思いますが、選手を海外に連れていきたいと思っています。海外に行くと、本当にさまざまな刺激を受けますよね。そうした経験を選手としての成長に、そして社会貢献につなげていってくれたらとの想いがあります。

― 中川さんご自身もサッカーをしていて、海外に出た経験があるそうですね。

高校時代、サッカーのクラブチームに所属していて、チームでオランダに行く機会があったんです。その時にものすごく大きな刺激を受けて、高校卒業後は海外に行こう、と決めました。とはいえ海外のクラブからオファーをもらえるような選手ではないため、バイトでお金をためて、単身でポルトガルに行ったんです。現地のサッカークラブの事務所を探して直接行って、片言の英語で「日本から来ました。チャンスを下さい」と。もちろん、門前払いですよね(苦笑)。そんな状態でしたから、ひと月でうちひしがれて帰国したのですが、このまま落ち込んでいても仕方がない、と奮起して、次はスペインに行きました。ボールだけ持っていって、毎日いろいろな公園でサッカーをしていたら、ある日、ペルー人のおじさんが「お前、上手いな」と声をかけてくれて。事情を話すと、ペルーならプロ選手になれるチャンスがあるかもしれないと言われたので、そのままおじさんの家に行って、ペルーのチームに国際電話をかけてもらいました。

― すごい行動力ですね!

そうしてすぐにスペインからペルーに飛び、国内2部リーグに属していたチームに行ってテストを受けていると思っていたのですが、そもそも2部リーグは外国人の登録なんかできない、と言われて。でもペルー3ヶ月の滞在でスペイン語を覚えたので、何とかスペイン語圏でチャンスを得たいと思い、2部リーグでも外国人選手の登録が可能な国を探し、見つかったのがエクアドル。エクアドルで選手登録をしたのが20歳。それから27歳まで在籍して、帰国しました。

― そうした体験を、水戸ホーリーホックの選手にも伝えたい、と。

私の場合はかなり特殊なので、それを伝えたいというわけではありません。ただ、海外に飛び出すと、外から日本を見ることができ、様々な気づきを得られるようになります。その視点を水戸に置き換えて考えると、クラブから外に出ていろいろな体験をしてみることや、ルイ・ヴィトン様でのインターンのようにサッカー界の外に出て刺激を受け、それをサッカー人生に還元していくことが大切だ、と。ずっとサッカーだけをやっていると、井の中の蛙になってしまうこともあるので、サッカー以外からも学びを得る機会を創出していきたいと考えています。

外部との接点を作り、色々な体験をすることで選手にも刺激があるという。海外へ行き、外から日本をみると改めて日本の良さや自分が大切にすべきことが見えてくる。

引退後も人生は続く。引退後、何をやるかは自分次第

― 外を見て経験することが、スパイクを脱いだ後のキャリア選択にもつながっていくわけですね。

選手がスパイクを脱いだ後は、よくセカンドキャリアという言葉が使われますが、私はその言葉はあまり使ってはいません。というのも、人の人生は、その人だけのもので、それは1本の線としてつながっているからです。幼稚園~小学校~中学~高校~プロサッカー選手、と1本の線でつながっていて今はサッカー選手という立場だけれど、その後の人生も1本の線の先にあるんです。

サッカーをやめてもサッカー選手であったことは変わりません。スパイクを脱いだあとも、人生にやりがいを持ち、周囲からも素敵だなと思われる人生を送ることができれば、サッカー選手っていいねって思われる存在になり、サッカー選手を目指したいという子どもたちももっとたくさん出てくるのではないでしょうか。

だから私は選手がチームにいる間にいろいろな「外」の経験をしてもらって、選手時代もスパイクを脱いだ後も、スポーツ界はもちろん、日本の社会、世界に貢献できる人材となるための貢献をしたいと思っています。

― それが中川さんのミッションなのですね。

クラブに所属するスタッフにはさまざまな仕事があります。もちろんクラブとしては、ひとつひとつの試合に勝つこと、そしてJ1昇格という大きな目標があります。そのなかで私の仕事の一つは「選手に外を見せる」こと。私がその仕事に注力できているのは、クラブの理解があってのことなので、クラブには常に感謝しています。だからこそ責任を持ってやっていきたいですし、昨年つながったルイ・ヴィトン様との縁もずっと大切にしていきたいと思っています。クラブ、選手、ステークホルダー、縁あって知り合えた全ての方々に対して貢献することが私のミッションです。

文:伊藤郁世
撮影:渡邉 彰太

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1854年パリで旅行鞄専門店として創業以来、一貫して「旅」をテーマに製品を展開。