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ゼブラ企業の社会的インパクトを可視化。ビジネス視点で目指す、持続可能な社会。 Zebras and Company Co-Founder 田淵 良敬氏インタビュー<前編>

ゼブラ企業の社会的インパクトを可視化。ビジネス視点で目指す、持続可能な社会。 Zebras and Company Co-Founder 田淵 良敬氏インタビュー<前編>

企業の成長度合いは、必ずしも一定ではない。社会における事業の位置づけによって、長期的な目線が必要な企業もあるはずだ。共生をキーワードに、利益と社会貢献の両立する「ゼブラ企業」という言葉を日本で広めた、Zebras and CompanyのCo-Founder 田淵良敬氏。ベンチャーキャピタルのような日本で主流となっている投資市場からあぶれてしまうゼブラ企業の社会的インパクトに着目し、ビジネスの視点で豊かな社会の実現を掲げている。前編となる本記事では、インパクト投資に目を向け、Zebras and Company立ち上げに至る田淵氏のキャリアを辿る。

田淵 良敬さん / Zebras and Company 共同創設者・代表取締役
同志社大学を卒業後、日商岩井株式会社(現:双日株式会社)に入社。IT、航空機ファイナンスを行い、米国ボーイング社にてアジア・パシフィック地域のマーケティング部門で経験を積んだのち、再生可能エネルギー投資・事業開発に従事。その後、LGT Venture Philanthropyに移り、東南アジアの起業家に向けたインパクト投資を行う。その後、ソーシャル・インベストメント・パートナーズを経て、独立。Zebras and Companyを立ち上げ、ゼブラ企業への投資・経営支援を行う。

総合商社で培った国際的なビジネス観

─ 神戸のご出身で、学生時代の留学経験から海外と関わりを持ちはじめた田淵さん。最初のキャリアを教えてください。

学生時代に自己分析や就職活動をしたのですが、結果として際立って好きなものが見つけきれませんでした。そういう意味で、多様な経験を積みながら社会人として成長できるところ、また、アメリカでの留学経験が活かせる国際的な仕事ができるという視点で総合商社を希望し、日商岩井へ入社。IT推進部に配属された数年後、航空機を扱う部署に移って3年ほどファイナンスの仕事をしました。大型航空機を扱う会社は世界で2社しかなく、日商岩井はそのうちの1社である「ボーイング」を日本に誘致し、代理店を運営する関係性があります。その関係から、日商岩井が担う日本での仕事から切り離された海外での仕事を担当する、出向とはまた違うローテーショナルプログラムが設けられています。今度はアメリカ・シアトルに行き、アジアパシフィック地域のマーケティング部署で2年間マーケティングディレクターのサポートをしていました。

─ そこで海外でのキャリアがスタートしたのですね。アメリカでの経験を教えてください。

実はシアトルに行く前から、キャリアとは別に自分のイニシアチブを運営していました。大きな金額を動かすビジネスと、コミュニティの構築を並行しているなかで、「この両方をコンバインできないか」と考え、ビジネススクールで学ぶことを決意。アメリカにいる間に受験し、ボーイングで働いたあとは、スペイン・バルセロナにあるIESE Business Schoolへ2年間通うこととなります。そこで今の仕事につながるインパクト投資やソーシャルビジネスを学び、アフリカのNGOでインターンシップも経験しました。

─ このあと、ビジネススクールでの学びをどのように活かしていったのでしょうか?

リヒテンシュタインのロイヤルファミリーが立ち上げた、「LGTVenture Philanthropy」というインパクト投資機関に移ります。LGT Venture Philanthropyにとっての市場は南米やアフリカ、東南アジアなどの発展途上国がメインで、ディスアドバンテージピープルという、いわゆる社会的弱者のサポートがミッション。わたしはフィリピンを拠点に、東南アジアの社会起業家に投資をしたり、経営支援をしたりしていました。日商岩井へ就職したときは自分のヴィジョンが見えていませんでしたが、ファイナンスというビジネスの観点から、ビジネススクールでの学びやNGOでの経験を経て、そこからスタートアップや小さな組織に投資をして数値化しにくい社会的インパクトを見える化し、経営を一緒につくっていくような仕事へと、少しずつ軸足をずらしながら働き方の解像度が上がっていったように感じています。

LGT VP時代のお写真。投資先や共同投資家を含めた現地の仲間たちと。

社会的インパクトを重視するゼブラ企業にフォーカス

─ さまざまな社会起業家と出会うなかで、当時の投資をどのようにとらえていましたか?

10年ほど前、ベンチャーキャピタルの投資のやり方を、社会起業家に当てはめるような考え方が仮説として話題になっていました。社会起業家の目的は必ずしも上場することとは限りませんが、上場するほどの規模にまで持っていければ、事業がつくりだすサービスやプロダクトの社会的なインパクトが大きくなる。それを可視化できれば、インパクト投資になるという理論です。

たしかに、この理論が間違っているわけではありませんが、ベンチャーキャピタルは投資の世界でもかなり特殊で、立ち上げたばかりの会社を3年や5年ほどの短いスパンで上場するところまで持っていきます。企業ごとにステークホルダーがあって、企業のフェーズによってプライオリティのバランスを考えながら事業設計をしていくので、当たり前ではありますが、すべての会社が同じように急な成長曲線を描けるわけではありません。長い時間を要する事業も当然あります。実際にさまざまな起業家と一緒に仕事をしてきたわたしとしては、ベンチャーキャピタルのような短期間で急成長できる会社よりも、むしろそれに当てはまらない企業の方が多いので、資金を供給する投資家と事業を推進する起業家での大きなギャップを感じていました。

─ その違和感が、「ゼブラ アンド カンパニー」の立ち上げに至るのですね。田淵さんが日本に広めた「ゼブラ企業」とは何か、改めて教えてください。

ベンチャーキャピタルの成長曲線に当てはまらない起業家を支援するための手段を考えていたときに、「ゼブラズ・ユナイト」というアメリカに拠点を置く組織の人と会う機会がありました。彼らと話をしているうちに同じことを考えていることがわかり、すぐに意気投合。「ゼブラ企業」の名前を借りて共同創業者と翻訳語をつくり、日本で広めようと発信していました。そこで名前を広めるだけでなく、実務としてサポートするために立ち上げたのが「ゼブラ アンド カンパニー」です。ゼブラ企業に対し、ユニコーン企業の代表格といえば、昔のFacebookやGoogle、Apple。定義としては、10億ドル以上、日本円で約1,000億円以上の企業価値がある大規模な未上場企業です。ユニコーンは幻想上の動物で、1匹狼的な存在。まさに珍しくて特別な企業を指しますが、一方で実在するしまうまは、群れをつくって相利共生をします。この世界にたくさん存在しますが、ちゃんと成長して利益を出し、かつ社会にインパクトを与えている企業の象徴です。また、黒と白の縞模様が経済的利益と社会インパクトの両方を表しているような、アメリカ人の遊び心が込められています。

社会貢献と企業の成長がインクルーシブな社会を実現

─ ゼブラ アンド カンパニーでは、どのような企業に投資をしていますか?

ゼブラ企業という言葉を世に出したときに、その反響もあって多くの企業から問い合わせを受けました。「起業家」と聞くと、IT企業をはじめとするユニコーン企業のような印象が強く、なかなか名乗りにくいところがあったんだと思います。そういう方々にアイデンティティが与えられて、「わたし実はゼブラ企業でした」と弊社に来てくれました。投資相談だけではありませんが、去年1年間で約300社・人の多種多様な企業や人と話しましたが、そのうちの3社に投資しています。

1番最初の投資先は、小林味愛さんという女性の起業家が立ち上げた株式会社陽と人です。最近だとフェムテック企業の分類にも当てはまると思います。その方は東京でバリバリ働いた経歴の持ち主で、ご自身の経験からも女性が自分の体をケアすることへの問題意識を持っています。福島県国見町でつくられた柿を加工する過程で捨てられていた皮をベースとした女性向けのプロダクトをつくり、福島の地域に対するインパクトと現代女性を取り巻く課題解決のインパクトの両方を考えられている会社です。

株式会社陽と人 代表の小林味愛さん

2社目は、ミャンマーで活動する日本人が創業し経営する企業。物資が届かないパパママストア(小規模の小売店)に物資供給をする、ロジスティックサービスを提供しています。

3社目は、西村勇哉さんという起業家が立ち上げたこれまでの2社とまた毛色が異なる株式会社エッセンスというテクノロジー系の企業です。日本の研究者を紹介するインタビュー記事を掲載する登録型のウェブメディアで、研究者の知見が世の中に活かされること、彼らの研究がより行いやすい仕組みづくり、ひいては、経済性の面も含め彼らの社会的地位が向上されることを目指しています。

分野の垣根を超えた研究者たちのインタビュー記事を通して未知の視点に出会う、「あなたの未来を拓く」WEBメディア

─ それぞれ分野が異なる3社ですが、どういった事業に関心をお持ちなのでしょうか?

さまざまなサービスを見渡して、この世の中にある価値には、経済的な価値に置き換わっている部分と、置き換わっていない部分があると思っています。経済的な価値に置き換わっている部分はわかりやすく、消費者も「お金を支払う価値がある」と思えているところ。たとえば、CO2削減やヘルスケアは、分析したデータによって定量化されているので、消費者側が「どのくらいの対価があるのか」と判断できるぐらいにまで熟してきています。

一方で、ゼブラ アンド カンパニーで投資している分野は、経済価値をどのようにして置き換えるべきなのかまだわからない世界線。投資先は3社3様ですが、ベンチャーキャピタルの間尺に合わない事業ですね。さまざまな場面で女性のジェンダー平等が謳われていますが、人の意識が変わるまでにはまだ時間が必要。ミャンマーのパパママストアに物資を届けるためには、現地の人たちと信頼関係を作っていくことが大切です。売上だけでなく、見えないところの労力やリソースが必要になるところが共通点として挙げられるでしょう。

─ 世界中を飛び回り、アメリカの企業とパートナーシップを組んでビジネスを回している田淵さん。アメリカと日本における、投資環境の違いを教えてください。

わたしが専門とするインパクト投資の観点で言うと、海外と比べて日本は後発です。アメリカやヨーロッパでは、10年前ほど前からすでにインパクト投資や別の言い方でESG投資(環境・社会・ガバナンスを重視する企業への投資)と呼ばれるものがありましたが、日本では2015年前後、震災のあとから特にインパクト投資という言葉を聞くようになりました。今になってようやく、一定数増えてきた段階だととらえています。日本ではわたしたちのようにゼブラ企業に向けて投資をしている方はごくわずかで、どちらかというとユニコーン企業的なインパクトを出す企業に投資する方が主流。一方で先を行くシリコンバレーでは、ユニコーン企業だけでなく、投資対象の企業の多様性が広がってきています。向かっている方向性は同じなので、全く違うわけではありませんが、投資先の幅広さは大きな違いだと思います。

─ 最後に、今後の展望を教えてください。

わたしたちのビジョンは、「優しく健やかで楽しい社会」をつくること。主に投資しかしないファンドとは違い、投資先の会社の成功だけがすべてではありません。投資を手段として位置づけ、長期的に包括的な視点をもって経営する企業を育て、その企業をサポートする投資家や支援者を増やすビジネスの社会をつくることを掲げています。まずは「ゼブラ企業」という言葉を広め、ムーブメントを起こすことは一定のレベルで達成しました。次にわたしたちに求められているのは、そのコンセプトを社会に実装できるかどうか。言葉だけではなく、インクルーシブな経営をする企業を増やすために、投資や支援をして実践している段階です。

また、わたしたちの取り組みを世に広めていくためには、たくさんの人の協力が不可欠。コンセプトを理論的に伝えるために、「長期的」や「包括的な視点」というのは具体的に何なのか、言語化を進めています。言語化ができれば、ゼブラ企業の経営や投資のリターン、どのくらいの時間が必要なのかが見えてくるので、ゼブラ企業を経営しようという起業家やサポーターも増やすことができるはず。社会への実装と言語化を達成できたらいいな、と思っています。

文:Nana Suzuki
撮影:Takuma Funaba

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