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「カルティエ」女性支援プログラムの多様でリッチなコミュニティとは? Zebras and Company Co-Founder 田淵 良敬氏インタビュー<後編>

「カルティエ」女性支援プログラムの多様でリッチなコミュニティとは? Zebras and Company Co-Founder 田淵 良敬氏インタビュー<後編>

企業の成長度合いは、必ずしも一定ではない。社会における事業の位置づけによって、長期的な目線が必要な企業もあるはずだ。共生をキーワードに、利益と社会貢献の両立する「ゼブラ企業」という言葉を日本で広めた、Zebras and CompanyのCo-Founder 田淵良敬氏。ベンチャーキャピタルのような日本で主流となっている投資市場からあぶれてしまうゼブラ企業の社会的インパクトに着目し、ビジネスの視点で豊かな社会の実現を掲げている。後半となる本記事では、カルティエ本社による女性社会起業家の支援プロジェクト「カルティエ ウーマンズ イニシアチブ」の審査員としての顔に迫る。
前編はこちら>

田淵良敬さん / Zebras and Company 共同創設者・代表取締役
同志社大学を卒業後、日商岩井株式会社(現:双日株式会社)に入社。IT、航空機ファイナンスを行い、米国ボーイング社にてアジア・パシフィック地域のマーケティング部門で経験を積んだのち、再生可能エネルギー投資・事業開発に従事。LGT Venture Philanthropyに移り、東南アジアの起業家に向けたインパクト投資を行う。その後、ソーシャル・インベストメント・パートナーズを経て、独立。Zebras and Companyを立ち上げ、ゼブラ企業への投資・経営支援を行う。

ビジネスの側面から社会貢献する女性起業家を支援

─ 幅広く手がけていらっしゃる田淵さんは、ご自身の事業のほかにも「カルティエ ウーマンズ イニシアチブ」に携わっていらっしゃいますよね。この取り組みについて、詳しく教えてください。

2006年にカルティエが取り組む「カルティエ ウーマンズ イニシアチブ」は、社会的インパクトに貢献する女性の起業家を支援するプログラムです。設立当初は、今ほどジェンダー平等へのアプローチが活発ではなく、女性の活躍促進をグローバルにサポートする目的ではじまりました。世界を2022年までは7つ、2023年からは9つの地域に分けて、さらには2つのテーマを加えて女性の社会起業家を募集。各地域ごとにセレクションがあり、最終的にアワードで選ばれた起業家は、財務的な支援と、300人以上の起業家がメンバーにいる「カルティエコミュニティ」の参加権が贈られます。このコミュニティには、1年間のプログラムのなかで参加者を鍛えてくれるコーチや審査員、アドバイザーも所属しています。カルティエコミュニティに入ることで、一生もののサポートが受けられるところが大きな特徴です。

© Cartier

─ そこでの田淵さんが担う役割は、どういったところなのでしょうか?

各地域に4〜5人ずつ、審査員がいます。わたしは東アジア地域の審査員の1人として、2019年から関わりはじめました。現在はZebras and Company の協業パートナーにもなってもらっています。途中から、審査員プレジデントといういわゆる審査委員長としての役割も担っています。さまざまなアクセラレーターに携わっていますが、カルティエ ウーマンズ イニシアチブが特出しているのは、選考のプロセスにかなり手が込んでいるところ。登記簿や財務諸表、事業計画などすべての書類を出してもらい、それを見た上でピッチを聞きます。わたしは審査員やカルティエ本部のメンバーなどが集まって行われる議論のファシリテーターを務めています。また、各地域でコミュニティの中から2人ずつ代表として選ばれるのですが、つい先日東アジア地域のリージョナルリードに任命されたばかり。これからはコミュニティの方でも起業家の窓口となり、こちらからも「ゼブラ企業」に関する情報などを発信していきたいと考えています。

─ カルティエコミュニティは、どのような事業の起業家が集まっていますか?

カルティエ ウーマンズ イニシアチブには、規模や分野に関わらず多様な企業がエントリーしています。社会的なインパクトをつくりながら、短いスパンで急成長を遂げる「ソーシャルユニコーン」のような企業があれば、ビジネスモデル上の理由でべンチャーキャピタルの範囲に当てはまらないゼブラ型の企業もある。社会的インパクトが共通項としてありながらさまざまな規模の事業が集まっているので、カルティエコミュニティは多様でリッチなコミュニティです。

─ 多種多様な事業が集まっているのですね。実際に、アワードで受賞された方について教えてください。

必須要件としては、社会的インパクトのある事業を経営する女性起業家であること。細かく言えば起業年数や調達金額の制限などありますが、分野に指定はありません。たとえば、2020年に東アジア地域のトップに選ばれた中国の方は、アメリカでの生活が長く、マサチューセッツ工科大学でエネルギー関係のリサーチャーをしていたり、アメリカのエネルギーに関する委員会に所属されていました。今は中国でエネルギーのマネジメントを行うSaaSサービスで、効率よくエネルギーを使うためのシステムを作っているIT企業です。

他にも、オーストラリアで助産師から起業家に転身された方がいました。出産後のメンタルケアや子育てのトレーニングのクラスをやりはじめると、徐々に人気が出て拡大し、オンラインでの開催や病院との連携を進めるまでに事業を大きくして行ったパターンもありましたね。わたしも息子がいるので経験がありましたが、両親にとって妊娠から出産、子育ては未知のことだらけ。手探り状態のなかでこうしたサービスを求める人が多いということは、ペインポイントが深いところなんだと思います。

2022年のカルティエ ウーマンズ イニシアチブ授賞式での一枚。東アジア地区の受賞起業家と。

数合わせではない、ジェンダー平等に課題意識を向けて

─ さまざまなアクセラレーターがありますが、参加者はどの部分にメリットを感じているのでしょうか?

エントリーする起業家は、コミュニティに価値を感じている方が多いと思います。アワードで1位になると10万ドルが贈られるので、他のアクセラレーターに比べて高額かもしれませんが、金額で選んでエントリーする起業家は少ないと思います。最終的にアワードで選ばれる起業家の資料に目を通したり、彼ら、彼女らにインタビューをして話を聞くと、やはり表層的なお金だけを求めているわけでないとわかる。過去に受賞した起業家や、審査員とのつながりを求めているんだと思います。あとは、カルティエがインターナショナルな企業なので、海外展開を視野に捉えている人は、そこのバックアップやサポートに期待感を持っています。

─ 女性進出の課題について、田淵さんご自身はどのように捉えていらっしゃいますか?

女性の活躍促進の課題は山ほどあります。たとえば、日本では2030年までに役員に占める女性比率を30%以上にすることを掲げていますが、どうしても数合わせに感じることが多い。通過点として悪いことではありませんが、結局のところ数字に固執してしまうと、男性的な社会として出来上がった構造のなかに、女性を当てはめるだけになってしまうと思うんですよね。今の男性的な社会の枠組みに当てはめることは、結果としてあらゆる人々の個性や能力を潰してしまう可能性もあります。もちろんその環境が合う人もいるかもしれませんが、本当の意味でのジェンダーイノベーションではありません。日本に限った話ではありませんが、この男性的な社会の構造自体を変える必要があると考えています。

─ これから審査員プレジデントとしての関わり方も変わってくると思いますが、どのような起業家に来てほしいですか?

わたし個人として、日本の企業にもっとエントリーしてほしいです。カルティエも、さまざまな国からの起業家の参加を求めています。日本人の受賞は、15年間の歴史のなかで2019年のたった1度だけ。女性に向けたコミュニティを運営する企業でした。そのときわたしはまだ審査員として参加していなかったので、やっぱり少し寂しいですよね。人口の規模が違うので一概に比較できませんが、東アジア地域では圧倒的に中国の受賞が多い。1つの地域からまずは3人が選ばれ、そのなかから優勝者が決まるのですが、東アジア地域からは3人とも中国の方が選出されたという年もありました。審査員の立場で可能な限り相談に乗ったり、サポートしたいと思っているので、ぜひ参加を考えてみてほしいです。

文:Nana Suzuki
撮影:Takuma Funaba

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