オランダから発信!ダイバーシティー&インクルージョンは「お花畑」なのか
ダイバーシティー&インクルージョン(以下、D&I)により、クリエイティビティやイノベーションが促されるようになると認識されて久しい。まずはインクルージョン:お互いに違いを受け入れ認め合うことにより、ダイバーシティー:多様な人材が活躍ができるようになる。一方、多忙であったり、不安が拡がると、人間関係にもあれこれあるのが「リアル」だとする考えも無視はできない。実現には、誰しもが、心の余裕を持ち合わせ、継続的な取り組みをしていく必要がある。D&Iが「お花畑」とするなら、しっかりと手入れを続けていく必要があるのかもしれない。ここ数年、ファッションやライフスタイル業界も多様性を取り入れる動きがあり、急速に変化してきている。そんな中、新たな才能とともに、モデル・エージェンシーとファッションウィークを基盤にし、世界へ向け存在感を発揮してきたのが、センスミーヤ・レティチア・サムター氏とデイジー・ヴァン・デル・ヴェーン氏だ。今回、オランダ・アムステルダムでサステナビリティやダイバーシティーを軸としたビジネスアドバイザリーをする「THE KNOCKOUTISM」代表の小笠原氏が話を伺った。(トップ画像:写真提供:Marcel Maximiliaan Schwab/衣装提供:Zalure Exclusive)
写真右)センスミーヤ・レティチア・サムターさん(Sensemielja Letitia Sumter)
写真左)デイジー・ヴァン・デル・ヴェーンさん(Daisy van der Veen)
/ダイバーシティー・モデル・エージェンシーDMA&アムステルダム ダイバーシティー・ファッションウィーク 共同創業者
センスミーヤとデイジーは、公私ともにパートナー。2018年より、アムステルダムを拠点にダイバーシティー・モデル・エージェンシーDMAとダイバーシティー・ファッションウィークを設立。多様性を取り入れた表現により、ファッションやメディアを変えていくことをミッションにしている。また、センスミーヤはモデルとして、デイジーはファッション・ビデオグラファーやエディターとして、国際的なイベントや媒体でも活躍。
小笠原 渓さん/THE KNOCKOUTISM 代表 サステナブル・デベロップメント
1981年、東京都生まれ、北海道小樽市育ち。欧州やアジアなどの国内外で、ラグジュアリーファッションやスポーツアパレルなどのモノづくりに関わる経験を積む。2022年、オランダにてTHE KNOCKOUTISMを事業登録し独立。現在は、オランダ発でファッション・ライフスタイル業界向けに、サステナビリティやダイバーシティーを軸としたビジネスのアドバイザリーやレポートなどのサービスを提供中。
ファッションを変える原動力
― 今年で早くも6年目となる、ダイバーシティー・モデル・エージェンシーDMAとダイバーシティー・ファッション・ウィークですが、設立となったきっかけを教えてください。
センスミーヤ・レティチア・サムターさん(以下、敬称略):あるファッションショーにて、たくさんのモデルがいる中で、その時は、ブラックは私が一人で、他にアジア系がもう一人だけいて、圧倒的な人種の偏りがあると感じました。まるで「見捨てられている」ような気になってしまったのがきっかけです。その上で、ファッション業界全体を見渡しても、人種の他にも、車いすでランウェイに登場するモデルであったり、ハンディキャップ、ジェンダー、体型など、多様性や相違を受け入れることが必要だと強く感じました。どちらも2018年に設立しているのですが、まずはDMAにて、モデルにフォーカスし、ファッション・ウィークで活躍できるようにしようと動き始めました。
― 今では、DMAのモデルは、多くの名だたるコレクションやメディアにも登場し、大活躍しておりますが、どのような反響がありましたか。
センスミーヤ:DMAのモデルが、ファッションを通しダイバーシティーを表現し実現していく姿が、同様の境遇の方はもちろん、たくさんの方へ伝わり、それがまた違う挑戦や変化を起こしてきました。
デイジー・ヴァン・デル・ヴェーンさん(以下、敬称略):不安や悩みを抱えていたモデルもいましたが、自分もモデルになれるんだ、自分らしさが尊重されていると感じるようになりました。加えて、クリエイターやデザイナーにとっても、例えば、モデルはこのサイズ、車いすだとこの服を着て動くことは難しいといった固定概念から、こうすればできるんだという流れができました。そういった全てが、私たちにとって、もっとできるといったモチベーションになっています。
実現のための発想力
― DMAやダイバーシティー・ファッション・ウィークを通して、経験した困難な出来事はありましたか。
デイジー:困難とはとらえず「違うやり方をする」ようにしています。違うということは、ネガティブなことではないと考えています。多くのことは、モデルにとっては、いつも日常生活で経験していることで、普通であったりもします。
センスミーヤ:もちろん、多角的に考え行動していく必要はあります。単に、「さあショーを始めましょう!」というわけにはいかないですし、簡単なことではないです。クライアントとも、お互いに何ができるかなど、連携をしながら進めています。具体的には例えば、ショーの会場まではバリアフリーでアクセスできるのか、どのようなトイレがあるのかといった確認をしたり、アルビノ(先天性白皮症)のモデルが活躍する撮影現場では、ライトを弱くしたり、目を守るため、フラッシュではなく補助ライトを設置したりなどの対応をとります。
― すばらしい発想転換のカルチャーですね。最近では、多くの国や企業も、D&Iの取り組みをしています。一方で、政治的、社会的な課題も、まだ多く残っています。例えば、特に女性で障がいを持っている方が、なかなか仕事につけないという問題もあります。日本では、政府により、従業員数が一定数以上の規模の企業は、一定以上の比率で、障がい者の雇用を義務付けられています。そして、その比率を段階的に増やしています。もちろん、比率の妥当性、そもそも障がい者をどう定義するかの議論もあります。このような流れとギャップをふまえ、他に何ができると考えますか。
デイジー:そういったD&Iの取り組みが多方面で始まっていることは、いいことですよね。もちろん、今熱い話題だから、取り組んでいるといったこともあるかもしれません。一方、今後は、実際にどう実行し落とし込むのかが、ギャップをうめていく鍵になるはずです。具体的には、企業でのワークショップやトレーニングの実施、経営幹部の女性を増やしたりと、ダイバーシティーを促すこと、あとは適材適所の人員配置ですかね。あるポジションで上手くいかなくても、違うポジションなら上手くいくことはよくあります。出来ないことに焦点を当てがちですが、そうではなく出来ることに焦点を当てることではないでしょうか。
センスミーヤ:それぞれの才能が輝けるよう、チャンスのステージをつくる必要もありますよね。DMAのモデルの一人は、片腕しかないことで誤解されがちなこともあるのですが、自分の車を持っていたり、実は色々なことができるんです。あとは、ファッションショーのみならず、他のどんな形態でも、D&Iがそこにあるのかを常に問い、自らチェックするような心構えも大事ではないでしょうか。
― 急速な流れとして、企業でもD&Iの専門ポジションができたりもしていますよね。一方で、周囲の日々の忙しさもあり、オープンなコミュニケーションがとれないまま孤立し、組織としての取り組みが上手くいかないこともあるようです。そういったことにならないよう、どのようなサポートができると思いますか。
デイジー:互いに自身の経験を共有して、できるだけ向き合っていくことが、サポートにつながると考えています。もちろん、伝えにくいこともあるかもしれませんが、どんな立場であっても、その立場にならないとわからないことはありますから。それが、よりよい組織をつくることにもなりますよね。
― ダイバーシティーというと、それぞれが自分らしく働ける環境をつくっていくことも重要ですよね。日本では、長時間労働による過労やバーンアウト(燃え尽き症候群)が問題視されてきました。ファッション業界でもそういった問題を抱えています。一方、オランダでは、ワーク・ライフ・バランスが重要視されていて、自分らしく働かれているイメージがあります。お二人は、DMAやダイバーシティー・ファッション・ウィークで、いつも大変お忙しそうですが、ワーク・ライフ・バランスをどのようにとっていますか。
デイジー:実は、私たちも帰宅後であっても、急ぎの案件、電話やメールでの対応、SNSなど、やらなくてはいけないことは多いです。営業時間外なので、対応はできませんともいかないので。私たちの場合は、ある程度は、立場上致し方ないことかもしれません。それでも、モデルによっては、学業や他の仕事があることも多いので、両立できるように配慮をしています。
センスミーヤ:特にわたしたちは一緒に仕事をし一緒に住んでいることもあり、最近は2人の間でも、土曜日はせめてSNSから解放され、休もうと決めています。
ダイバーシティーがつくる次のファッション
― 新型コロナウィルスの感染拡大によるパンデミック(COVID-19)の前と後で、ファッション業界における変化は感じていますか。例えば、ことファッションモデルに関しては、パンデミック後には、人種的なダイバーシティーが拡がってきています。もちろん、ブラック・ライブス・マターや、DMAのようなモデルエージェンシーの活躍、企業によっては、ステイ・ホームの間に、D&Iをテーマにしたワークショップやトレーニングを取り入れて、それぞれの効果が出てきていることもあるかもしれません。
センスミーヤ:それはあるかもしれないですね。以前と比較すると、パンデミック以降は、ダイバーシティーについて、理解がされるようになってきていると感じています。人種的な部分においても、ブラックのモデルも増えてきていますし、様々なモデルが活躍し始めています。
デイジー:変化というのは、常に時間を要する傾向にありますが、パンデミックにより、私たちはステイ・ホームを強いられるなど、それにより急速に進展したこともありますよね。少しづつですが「美しさとは」という点においても、変化は感じてきています。
― 日本でこの記事を読んでいる、モデルになりたいという方に向けて、アドバイスをいただけますでしょうか。
センスミーヤ:私は、どんなモデルであっても「美しく、いい匂いで、メイクは控え目に」と伝えるようにしています。鏡を見ながら、ウォーキングのトレーニングをしながら、自分らしさで魅せるようにします。もちろん、事前にどのようなものを着るのかを確認し、モデルとして振る舞うことも重要です。
デイジー:たとえば、企業やブランドにおける、ダイバーシティーやサステナビリティの理念などをリサーチして、自身がモデルとなり表現するのにふさわしいかを考えることも大事ですね。
― すごく素敵なアドバイスです。日本にもクリエイティブな才能を持った人たちがいます。今後ぜひともつながりたいといった声も、増えてくるかもしれません。DMAモデルやお二人とコラボレーションを希望する方に向けて、メッセージをお願いします。
センスミーヤ:わたしたちは、クリエイターやデザイナーが、多様なモデルと取り組み、表現をしているかをとても重要視しています。それにより、新たなクリエーションや価値観がつくり出されるからです。日本出身の有名なクリエイターやデザイナーには、素晴らしい方がたくさんいますよね。
デイジー:私たちも、新たな才能とのコラボレーションもやっていきたいですし、常に歓迎しています。あとは、これからを考えると、日本のファッションの学校ともつながりたいですね。サステナビリティなどは、若い才能から学べることもとても多いです。日本にもぜひとも行きたいです。
― 最後に、ダイバーシティー・モデル・エージェンシーDMAとダイバーシティー・ファッション・ウィークの目指すビジョンを教えてください。
センスミーヤ:ファッションの世界において「一番に向かうところ」というか、誰もが憧れ、目指す先として認知されるようにしていきたいです。より国際的にして、クリエイターでもモデルでも、次世代や、これまで活躍の場がなかった才能が、次々と見事に開花していけるようなプラットフォームにもしていきます。もちろん、アムステルダムのみならず、ニューヨークや東京のような他の魅力的な都市でも、ダイバーシティー・ファッション・ウィークを開催していきたいです。
NESTBOWLでは、THE KNOCKOUTISMとパートナーシップを組み、欧州トレンドをベースとしたサステナビリティコンサルティングや欧州企業(ブランド)とのビジネスマッチング機会の提供、欧州現地でのトレンド視察などを提供しています。ご興味がある方はこちらよりお問い合わせください。