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「360度マーケティング」でファンをさらに増やす。ワーナー ブラザース ジャパンのトップマーケターが実践するその手法とは

「360度マーケティング」でファンをさらに増やす。ワーナー ブラザース ジャパンのトップマーケターが実践するその手法とは

2023年、創立100周年を迎えたワーナー ブラザース。その目玉事業としてオープンしたのが「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京‐メイキング・オブ・ハリー・ポッター」だ。イギリスに次いで世界で2番目のオープン、しかもハリー・ポッターの屋内型施設としては世界最大規模を誇っている。映画事業に加え、そのようなさまざまな事業展開を支える根幹にあるのが、戦略的かつ緻密なマーケティング。同社でマーケティングの指揮を執る土合朋宏氏に、同社が実践するマーケティング手法やエンターテイメントカンパニーとして注力するコンテンツ、今後の展望などについて話を伺った。

土合 朋宏さん/ワーナーブラザース ジャパン マーケティング本部統括   上席執行役員 バイスプレジデント
一橋大学大学院商学研究科を修了後、大手外資系コンサルティングファームを経て1995年、日本コカ・コーラ株式会社に入社。ライフスタイルやトレンドの調査部門にてリサーチを経験した後、ブランドマーケティングに従事。「ファンタ」、「アクエリアス」などの既存ブランドの立て直しを担当したほか、「綾鷹」の開発・プロモーションを主導し、マーケティング本部バイスプレジデントに昇進。2011年、20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン株式会社に入社。マーケティング本部長を経て、代表取締役に就任。2017年、ワーナーブラザースジャパンの現職に着任。一橋大学大学院では客員教授としてマーケティング論を教えている。

マーケターとして、外資大手で活躍してきた半生

― 土合さんといえば、マーケティングのスーパープロフェッショナル。これまでのキャリアについてお聞かせください。

私はとにかくマーケティングが大好きだったので、大学と大学院でマーケティングを学びました。大学院修了後はアメリカの大手コンサルティングファームに入社し、サンフランシスコで働いていましたが、ファームの事業縮小に伴い、退職しました。

その後は、日本コカ・コーラに転職。当時、コカ・コーラグループでは新しいイノベーションの芽を見つけるために、飲料以外のことをリサーチするチームを立ち上げたタイミングでした。私はそのチームの一員として5年ほどその業務に従事した後、ブランドマネージャーとして新製品の開発、既存ブランドの立て直しなどを行い、計16年ほど勤務しました。

その後は、20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパンに移り、代表取締役を経験した後、2017年からワーナーブラザース ジャパンの現職に就いています。

― アメリカの最高峰のマーケティングをご経験され、現在はアメリカ文化の本流であるエンターテイメントビジネスの道を歩んでおられますね。

マーケティングが好き、という一心でここまでやってきました。3年ほど前からは、一橋大学大学院の客員教授として、「マーケティング思考をどのようにしてビジネスに活かすか」について学生たちに教えています。私はこれまで外資系企業でマーケティングにどっぷりと浸かっていましたが、日本ではマーケティングを深く経験した方はまだそれほど多くはないんです。だから、これから社会で活躍する方にマーケティング的な考え方を身につけてもらい、少しでもプラスにしてもらえたら、と思っています。

― 「マーケティング思考」とは端的にご説明いただくと、どういう内容なのでしょうか。

マーケティングとは、消費者を観察し、消費者が欲しいと思う価値を発見すること。でも今の時代はそれだけでは不十分なのです。「まだ世の中が気づいていない、新しい兆候や新しい価値を見つけて提示することで、社会・文化を変革していく仕事」です。マーケティングを通して、社会全体を動かしたり、より良くしたりと未来を拓くことができるのです。 私が「マーケティング思考」を学生に教える際には、シンプル・エッセンシャル・アメージングのそれぞれの頭文字を取った「SEA」モデルとして教えることがあります。つまり、本質的なことをシンプルに驚きとともに伝えるというのが肝。たくさんの要素・特徴がある中で、一番大事なことは何か。それをムダをそぎ落として驚きと共に魅力的に伝える――それこそが、マーケティングの仕事の真髄です。

「360度マーケティング」でタッチポイントを多く仕掛ける

― 現在、ワーナーブラザース ジャパンのマーケティング本部統括 上席執行役員・ヴァイスプレジデントとしてご活躍されています。どのような職務内容でしょうか。

我々の事業は大きく分けると、映画の制作・宣伝・配給といった映画事業、デジタル配信を含むホームエンターテイメント事業、テレビシリーズの制作・配給等を含むテレビ事業、IP(知的財産)をライセンスして商品化等を許諾するコンシューマープロダクツ事業、そしてディスカバリーやカートゥーンネットワークなどのネットワーク事業があります。私が担当しているのは、これら全ての事業のマーケティング・宣伝の統括と実施です。

― 最近の動きで言うと、この6月に東京・としまえん跡地に「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 – メイキング・オブ・ハリー・ポッター」をオープンされましたね。

我々がこの企画を進めた大きな理由としては、体験ビジネスを展開してファンをさらに増やしたいという想いがあります。「ハリー・ポッター」は本・映画・ゲーム・舞台・テレビ放送などの相乗効果によって、今後もまだまだ伸びていくIPです。当社ではこれまでさまざまな関連グッズの制作やショップ、カフェなどを展開してきました。映画を起点に、さまざまなプロダクトビジネス、体験ビジネスを展開することでファンをどんどん増やし、その輪を大きくしてきたのです。「スタジオツアー東京」はこの相乗効果、好循環を途切れさせないための新たな強力な存在になると考えています。当社ではこうした展開を、「360度マーケティング」や「フランチャイズ活動」と呼んでいます。

Harry Potter characters, names and related indicia are trademarks of and © Warner Bros. Entertainment Inc.
Harry Potter Publishing Rights © J.K.R.© 2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

― とても興味深いです。かつての映画ビジネスとはだいぶ変わりましたね。

そうですね。かつてのアメリカ映画のビジネスの在り方とは異なると思います。この「360度マーケティング」でタッチポイントを多く仕掛けていく手法を、今後は「ハリー・ポッター」以外の作品でも展開していければと考えています。そういった動きを効果的に行うるため、当社ではさまざまなビジネスを縦割りではなく、横串で見ています。それぞれの部門ごとではなく、ワンカンパニーとしてどれだけ利益を大きくするか、ということを目標にやっているのです。

― 「横串の組織づくり」とよく耳にしますが、実行するのは意外と難しいとも聞きます。上手く組織づくりを進めるポイントはありますか。

プロジェクトを進める際には、ひとつの部署だけで進めて完結させるのではなく、関連する他の部署の人も入れて会議を行ったり、協力し合ったりして進めています。そうすると、普段は接点があまりない社員同士でも、だんだん互いの顔や仕事内容が見えてきてコミュニケーションがより円滑になりますし、多角的な視点でプロジェクトを進められます。マーケティング本部のメンバーは各々所属する部署はあるものの、部署や部門をまたがった役割を持つ社員が多く、そういう意味では皆マルチタスクで動いています。

― ほかに、マーケティングのトップとして力を入れていることはありますか?

デジタルマーケティングには相当こだわっています。映画業界ではパブリシティが重視されるので、パブリシティやSNSといったアーンドメディアをどのように活用していくか。その点についてはかなり研究していますし、蓄積されたノウハウがあると思います。

日本の素晴らしい作品を世界に届けたい

― この3年間のコロナ禍で、エンタメ界の業界図は一変したと思います。映画を取り巻く環境はどのように変化しましたか。

まさに、映画業界は激変しました。コロナ禍以前は、日本は史上最高で2600億円くらいまでマーケットが伸びていましたが、コロナ禍でその数字が相当落ち込みました。ただ、昨年はピーク時の8割くらいまで盛り返してきています。IMAXや4DXなどの映画体験も人気ですし、大スクリーンを通した最高の映像・音楽体験ができる映画の価値、魅力を多くの方々が再確認し始めているのではないでしょうか。

― なるほど。徐々に以前のような状況に戻りつつあるとのことですが、今後特に注力されていきたいことは何でしょう。

色々ありますが、まずは洋画の復権ですね。コロナ禍では、邦画が日本のマーケットを支えていたこともあり、洋画よりも邦画の方がお客様の心に近くなったという一面があります。公開された作品が少なかったことやハリウッド俳優や海外のスターたちがなかなか来日できなかったことで、日本のファンとの間には心の距離もできてしまいました。そんな、洋画や海外のセレブリティたちとの間にできてしまった心の距離を今後はまた縮めていきたいと思っています。

― 御社は洋画のイメージが強いですが、実は日本のローカルコンテンツも多く生み出してこられていますよね。

そうですね。アメリカに本社がある会社ですから、アメリカで作られた作品を一人でも多くの日本のお客様に見ていただくのは、我々の大事な役割の1つです。ただ、それだけではなく日本で制作するローカルコンテンツにもかなり力を入れています。最近では「余命10年」や「るろうに剣心」、アニメでは「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズなどが挙げられます。特に日本の場合は、映画、テレビドラマ、アニメ、ゲームなどさまざまな分野でローカルコンテンツが強いという側面があるので、これからもしっかりと注力していきたいですね。

©2022 映画「余命 10 年」製作委員会
©和月伸宏/集英社©2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
©LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社・ジョジョの奇妙な冒険 SO 製作委員会

― 今後、土合さんが成し遂げたいこと、御社の今後の展望についてお教えください。

日本の魅力ある作品を世界にもっと発信していきたいです。アニメはまさにそういう状況になっていますが、アニメ以外にも日本にはまだ世界に知られていない素晴らしい物語がたくさんあります。私自身、物語が大好きですし、物語には考え方や生き方、人生すらも変えていく力があると思っています。ドキドキする物語、ワクワクする物語、勇気や希望を与える物語を世界中のひとりでも多くの方々に届けたいと思っています。

文:鈴木 里映
撮影:Takuma Funaba

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