サンリオで38年、夢と愛のつまったキャラクタービジネスを展開!今後目指すは世の中を「すてきにする」事業
サンリオの創業者でありオーナーでもある辻信太郎氏の話に感銘を受け、「この会社で働きたい」と決意し、38年間キャラクタービジネスに携わってきた株式会社すてきカンパニー代表取締役 鈴木基博氏。サンリオピューロランドのパイロット版といわれる屋内テーマパーク施設サンリオファンタージェンの立ち上げや、大ヒットとなったCVS(コンビニエンスストア)の「当りくじ」の新企画など、多くの人を巻き込みながら、ワクワクするような仕掛けづくりを行ってきた。定年退職後は、独立して「すてきを創造する総合エンターテインメント企業」を経営している鈴木氏に、これまでの仕事で大切にしてきたこと、すてきカンパニーで実現したいことについて、お話を伺った。
鈴木 基博さん/株式会社すてきカンパニー 代表取締役
1980年株式会社サンリオに入社。直営部「サンリオ直営店Gift Gate」を担当した後、81年末からアメリカSanrio,Inc.に異動し、アメリカのGiftGate直営店やサンリオショップのオープンに関わる。日本に戻り、サンリオファンタージェンといった施設の立ち上げなどに関わる。50歳の時に企画営業本部CVS部門長になり、コンビニの当りくじに対してアイドルを中心にさまざまな企画を提案。ヒットにつなげた。60歳でサンリオを定年退職し、2018年4月に「すてきを創造する総合エンターテインメントコンサルタント事業」を行う株式会社すてきカンパニーを設立。
人生に影響を与えた、サンリオでのビッグプロジェクトと大ヒットのCVS「当りくじ」
― 鈴木さんは新卒で入社されたサンリオに38年間お勤めされていらしたということですが、特に転機となったプロジェクトについて教えていただけますか?
もっとも規模が大きく、私の人生に影響を与えたプロジェクトは、千葉県船橋市のららぽーとに設立した、サンリオファンタージェンという屋内テーマパークの立ち上げです。ここではどのような施設を作るか、といったコンセプトワークからスタートしました。
例えばこの施設の中には、「不思議な街」を作りたいと考えました。そこで「不思議って何?」といったテーマのミーティングを行い、メンバーは「入りたいけど、入り口がわからない店」などと自由に意見を出し合ったのです。それに対して私は「お店に行くのに、不思議なトンネルを通る」といった仕掛けを用意し、ユニークな発想をいかに実際の施設に落とし込んでいくか、といったことを手がけました。また施設の中の噴水広場では、着ぐるみショーを行えるようにし、照明と音響に対して投資を行ったり、着ぐるみの演出家さんにお力添えをいただいたりと、かなりチャレンジングな取り組みを行いました。そういった事例が、現在のサンリオピューロランドのパイロットケースになったようで、本当に貴重な経験をさせていただいたと思っています。
その後、サンリオのオーナーの辻信太郎さんに「これからはコンビニエンスストア(CVS)の時代。CVSをやってみなさい」と言われて、ローソン様の担当になりました。50歳という年齢で一セールスマンとしてスタートするのも、ある意味挑戦の日々で大変でしたが、次第に今後注目されるであろうCVSの営業に、面白さを感じていったのです。
この活動の中で、売上シェアの一番高いCVSでのくじを増やすことに注目しました。当時は、キャラクター主体のくじが主流でしたが、そこにトレンドを取り入れた新体系の当りくじを導入してみようと考えました。つまりキャラクターの力に対し、ライフスタイルに合わせた景品を加えたのです。これはCVSのバイヤーさんたちの心をつかみ、結果的にコンシューマーにヒット。会社の売上に貢献することができました。
この経験からサンリオ以外のアニメやアイドルのIPを手掛けることになりました。そこでゲームやアニメやマンガなどのIPビジネスについて、業界の方から多くのことを学ばせていただいたと思います。定年退職後も、仕事の70%くらいがCVS営業時代に築いた人脈とIPで成り立っています。
関わる企業が多いほどできることが増えていき、お客様にもメリットとなる
― 60歳で定年退職された後に独立され、現在は「すてきカンパニー」を経営されていらっしゃいますよね。どんなきっかけで、起業しようとお考えになられたのでしょうか?
自分の人生を考えた時に、まだまだ面白いこと、楽しいこと、素敵なことをしたいと思いました。サンリオにはシニア社員制度があり、65歳まで勤められるのですが、55歳の時に60歳の定年退職を選ぼうと決めたのです。それで何をしようかと思っていた時、私の叔父が顧問業を営んでいたことを思い出して、「どうやったら顧問業になれるのですか?」と聞いてみました。
まず顧問は何が一番必要なのかというと、引き出しの数だと教えてもらって。いろいろな人と会って話を聞いてみなさい、とアドバイスをしてもらったんです。それ以来、積極的に会食を続けてみたところ、見事に引き出しが増えました。さらにプラスになったのは、会食で知り合った人と、「これは〇〇さんが詳しそうだから聞いてみよう」とか「〇〇について教えてもらいたい」と聞いてみると、心よく教えてくれるんです。分からないことが解決できるようになると、仕事も順調に進めることができるようになりました。
つながりが増えたおかげで、独立する時にいろいろなところにご挨拶に行くと、「弊社に来てもらえませんか?」と何社かご依頼を受けて。それで「申し訳ございません。大変立派なお席ですけど、私は自分でやりたいので」と申し上げたら、あるオーナー様から「顧問をやっていただけませんか?」と言われたんです。それでお話を伺って、自分の力が役立ちそうな企業様からのご依頼は受けるようにして、当初より目指していた顧問業をスタートさせました。
社名については「すてきなことを、すてきな方々(会社)のために、すてきな方法で、すてきなチームで、すてきを創造する総合エンターテインメント企業」になることをコンセプトに掲げ、「すてきカンパニー」にしました。
― 「すてきカンパニー」の主な事業は、いろいろな企業を組み合わせてコラボレーションを作っていくことでしょうか?
そうです。基本は顧問業なのですが、現在は18社のお客様とお取引させていただいています。皆さんからは「すごく大変ですねとか、よく時間ありますね」とおっしゃっていただくのですが、実はお付き合いのある企業は、多ければ多いほどいいのです。
例えばお菓子メーカーとシステム会社、倉庫会社の3社を担当していたとしても、イベント企業がないとすると、何かやろうと考えても、なかなか実行できません。しかしイベント企業が加われば優秀なスタッフがいて、他の3社とユニークなイベントを行うことができる可能性があります。このように関わる企業が多ければ多いほど、できることが増えていくのです。コングロマリットのようなものですね。「たくさん担当されていて、大変ですね」と言われることも多いですが、取引先は多い方が一気に仕事が回り、スムーズに進んでいくのです。
― 18社というネットワークがつながり、皆さんWIN-WINになっていくのですね。
弊社は「すてきなことをしたい」と標榜しているので。皆さんにとってすてきなことって何かな、とつねに考えていくと、A社を見ていると、B社のいいところがなかったりするわけです。顧問は経営まで見ていますので、そうすると「こうしたらいいのに」と分かるんです。だからその企業の足りないところを、埋める施策をアドバイスすることができます。
IPビジネス×ファッションは未開拓のブルー・オーシャンだった
― 現在、すてきカンパニーではさまざまなコラボレーションを手掛けていらっしゃいますが、最近はOEM/ODM企業のサントラ―ジュ様とともに手掛けられたIP×ファッションで大きな効果を生み出されました。こちらはどのような背景で実現したのでしょうか?
サンリオが扱うのは主に雑貨であり、ファッション本体はあまり手掛けてきませんでした。しかし私はファッションについても勉強したくて、会社の援助を受けてファッションスクールに行きました。その影響もあって、ファッションとキャラクターの掛け合わせの仕事をやってみたいと、ずっと考えていたんです。
それで自分で独立した後、こんなお話を聞いたのです。コロナの影響で売上が激減してしまったOEM/ODM企業のサントラ―ジュ様の若いデザイナーさんが、自分のアパレルの技術や知識を駆使して、某アニメ作品の特攻服をルームウエアにするという企画を作りました。アニメグッズ会社にそれを持っていったところ商品化につながり、結果として大ヒット。予想の約10倍の売上になったんです。それをオーナーさんが見ていて、“こういった特殊な技能を生かした仕事をしてもらった方が面白いのではないか?”と気づかれて。新規事業として立ち上げ、それをコントロールしたり、新たに仕事を作る人がいないか、人を探されていらしたんです。
「それだったら鈴木さん」と紹介していただき、「実はファッションとIPをコラボしたい」という話になって。私自身もやりたかったことなのでいろいろお話を伺って成功例も見させていただいたところ、企画をした社員が非常に優秀だと感じて。それで「ぜひご一緒にやりましょう」ということになり、サポートすることになったのです。
― やはりファッションと雑貨では畑が違うのですね。
テキスタイルやアパレルのデザイナーとグッズを作っているデザイナーの感性はやはり違います。ましてや、作り方やどのくらいコストがかかるかは、服を作っているデザイナーだからこそ分かることです。だからファッションとIPが掛け合わさることによって、今までにないものがで上がります。そのいい例が、某アニメ作品のキャラクターが着ているニット。最高峰のニット技術を駆使して、イラストの世界を再現することができるのです。
このようにアパレルならでの追求をしっかりできれば、雑貨の人たちはかないません。つまりその時はファッションとIPという領域が空いていたので、その会社がイニシアチブを取ることができる可能性があります。まさにブルー・オーシャンです。
― OEM企業の技術やクリエーションとIPをうまく組み合わせて、ビジネスとして仕立てたということですね。
そうです。私がやりたかっただけなのですが(笑)。
マーケットがあるかどうかが、成功の秘訣
― さまざまなコラボを生み出してきた鈴木さんが考えるコラボビジネスの成功ポイントを教えていただけますか?
やはり、やってみないと分からないと思います。しかし私が一番大切にしているのは、そこにマーケットがあるかどうかです。いくらいいものを作ったとしても、マーケットがなければ売れないので、マーケットがあるかどうかは、必ず最初に考えます。
購入する人がいるかどうかを見極めながらも、何の領域が空いているのかを探していく必要があります。
たとえばこんな例があります。サンリオ時代、某倉庫業会社様が全国展開しているトランクルームと「ハローキティ」とのコラボレーションを実現させ、「可愛いトランクルーム」を作り出しました。これはサンリオの社員が、一人暮らしをしていて、洋服を収納するために倉庫に預けたいけれど、よく目にする屋外の倉庫は暗くて怖い。「あれをキティちゃんにしたら、絶対に借りるのに」と考えて企画を立てたのが発端でした。見事に女性のお客様やファミリー層にたくさん借りていただいたようです。
こういった事例から分かるようにIPを有効的に使うと、大きな効果を得られる可能性があるのです。
― 最後に鈴木さんの今後の展望をお伺いできますか?
最近では、リアルな店舗を持った企業の立て直しをする仕事が増えています。こういった厳しい業態に対して、IPを有効活用したり、見方を変えたりすることで、盛り返せるようにしていこうと考えています。リアルなお店なので、社員の教育も入ってくるでしょう。
ただ、まずは皆で「どうあると楽しい店になるか?」というコンセプトで考えることから始めます。サンリオでの経験などを活かしながら、これからもたくさんの“すてき”を届けていきたいです。
文:キャベトンコ
撮影:加藤千雅