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進化を続ける「ユニクロ」のサステナビリティ活動。担当23年のシェルバ英子さんが語る、これまでの歩みと未来への想い

進化を続ける「ユニクロ」のサステナビリティ活動。担当23年のシェルバ英子さんが語る、これまでの歩みと未来への想い

日本のアパレル業界を牽引し続け、今や世界的な衣料品メーカーへと成長したファーストリテイリング。日本ではサステナビリティ先進企業としての存在感も大きく、その取り組みの進化と発展には目覚ましいものがある。同社でその活動の先頭に立って推進してきたのが、グローバルマーケティング部 部長でサステナビリティを担当するシェルバ英子さん。入社以来23年、サステナビリティ領域一筋だという。これまでの活動の歩みを振り返ってもらいながら、外部機関と連携する際の秘訣、これから解決すべき課題などを教わった。

シェルバ英子さん/株式会社ファーストリテイリング グローバルマーケティング部 部長
大学卒業後、外資系アパレル企業などを経て、2001年ファーストリテイリングに入社。同年に発足した、現在のサステナビリティ部の前身「社会貢献室」に配属。 以降、サステナビリティ活動の企画・運営を担う部署にて「全商品リサイクル活動」(現在のRE.UNIQLO)や「ユニクロ東北復興応援 プロジェクト」、「Clothes for Smiles」といった各種社会貢献プロジェクトの立ち上げに参画。2020年から、サステナビリティの情報発信を担当。

「服のチカラ」をキーワードに社会をより良くしていきたい

― 現在、サステナビリティな取り組みを積極的に実施されています。取り組みのきっかけについて教えてください。

2001年、社内で社会貢献室を立ち上げたことから始まりました。現在のサステナビリティ部の前身となる部署で、まだサステナビリティやSDGsという言葉が広まっていない頃です。当社が日本全国へと店舗展開するにあたって「その地域から愛され続けるために」、そして「地域の皆さんが抱える社会課題を企業の立場から解決していく」というシンプルな目的でスタートしました。

― 最初は、どんな取り組みから行われたのですか。

服の支援活動です。2001年は、アメリカ同時多発テロ事件による影響でアフガニスタンの人々はパキスタンの国境へと逃れていました。その難民の方々へ越冬支援として当社のアウターを大量にお届けしたのです。

以降、当社では“服のチカラ”をキーワードに、服を通じて社会をより良くしていくことを目指してきました。2002年にはフリースのリサイクル活動をスタートし、2006年には全商品リサイクル活動へと拡大。のちにこの活動は、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)や世界中のNGO・NPOとともに、難民支援活動や被災地への緊急災害支援活動へと発展していきました。

2001年から、難民への服の支援活動をスタート。シェルバさんも度々現地を訪れている。

― 今ではさまざまな企業リサイクル活動を行っていますが、当時はまだ少なかったのではないでしょうか。

そうですね。全商品リサイクルの背景としては、当社の海外進出も大きく関係しています。2006~2007年はニューヨークやパリにも出店していました。そんな中、代表の柳井は海外の要人の方々から「ユニクロは我々の国にどんな貢献をもたらしてくれるのか」とよく聞かれたそうです。つまり、単に安価で品質の良い服をつくって売るだけでは認めてもらえない。このグローバル展開にあたり、当社は企業姿勢や店舗を展開する国に貢献、寄与できることは何かについて真剣に考えて実行し、それをきちんと伝える必要があったのです。

服の支援から、難民の雇用・自立支援へと大きく進化

難民や被災者への支援を開始されて約20年。主な活動内容やその変遷についてお聞かせください。

服の支援から始まり、2011年頃には「難民雇用」や「難民の自立支援」へと発展しました。難民問題を解決していくためには単に服を供給するだけでなく、より包括的な、そして長期的な視点での支援活動を行っていく必要性があるからです。

具体的には、国内外のユニクロ店舗で難民の方を店舗スタッフとして採用すること。これまで日本の店舗では27名の方を採用しています。海外ではアメリカやフランス、ドイツ、オランダなどにあるユニクロ店舗で雇用を行っています。日本の店舗では、店長代行として働くスタッフもいますし、海外のお客様が多い銀座店では、母語(英語やフランス語)を活かして活躍するスタッフもいますね。

― 素晴らしいですね。自立支援ではどのようなことを行っているのですか。

難民キャンプで職業訓練プログラムを実施するほか、2022年にはバングラデシュのロヒンギャの難民キャンプで縫製技術を学べるセンターを設立しました。この難民雇用と自立支援は、ここ10年間で実現した大きな進化だと思います。

シェルバさんはこの仕事に携わるようになってから大学院に通い、非営利組織の経営を学んだ。社会デザイン学のMBAも取得

― UNHCRやプラン・インターナショナル(国際NGO)といった外部セクターともうまく連携されていますよね。

UNHCRさんとは服の支援活動を始めた初期から、プラン・インターナショナルさんとは2012年に当社が立ち上げた「Clothes for Smiles」プロジェクトからご一緒させていただいています。ちょうどこの頃、当社では難民に対してだけではなく、次世代の子どもたちに対する支援も行っていきたいと考えており、支援の規模をさらに拡大させていった時期でした。このときは、バングラデシュ、ガーナ、ジンバブエでジェンダー差別によりさまざまな苦難を強いられている女の子の支援活動を行いました。

― 取り組みの輪がどんどん広がっていますね。

そうですね。社内の動きとしても、2016年頃には部署名をサステナビリティ部へと変更。活動を事業の中に取り込み、一体化していく流れになりました。そして、商品をリサイクル素材にする、CO²の削減目標を決めるといった環境への取り組みもスタート。当社のように、地域貢献、社会貢献から始まり、そして環境への取り組みへ……というアプローチは少し珍しいかもしれません。

民間企業の持ち味を出しながら、NPOやNGOとうまく連携

― サステナビリティ活動において、課題やボトルネックはありますか。

課題はさまざまあります。例えば難民支援の観点でいえば、もっと個人や企業が“自分ごと化”する必要性があると感じています。私がこの活動に関わり始めたとき、世界の難民の数は5000万人くらいでした。それでも多いのに、現在は1億人を超えていて世界情勢はますます悪化しています。今後も当社では世間の皆様が自分ごと化しやすい、あるいは間接的に支援活動に参加できるような機会を多くご提案し、継続していきたいと考えています。

― 例えば、どんな取り組みがありますか。

年間で実施している取り組みとして、2022年にスタートしたチャリティTシャツプロジェクト「PEACE FOR ALL」があります。世界平和を願う著名人の方々にボランティアでTシャツの絵柄をデザインしてもらい、それを当社で販売。販売利益の全額を貧困、差別、暴力、紛争、戦争によって被害を受けた人々を支援する国際的な団体に寄付しています。お客様からも好評で「買い物を通じて支援・寄付できてうれしい」「ユニクロを通じた支援は安心感がある」というお声をいただいています。

また2023年には、UNHCRが立ち上げた「ユース難民アートコンテスト」に共催として参加。全世界から4,000名以上の応募があり、選ばれた5名の受賞作品を、ユニクロがTシャツにし、2024年2月から販売しています。このコレクションのTシャツをご購入いただくと、商品1枚あたり3USドル(約441円※支払い時の為替レートにより変動)が、UNHCRを通して難民支援活動に役立てられます。

2023年にUNHCRと共催した「ユース難民アートコンテスト」の受賞作品をデザインしたチャリティTシャツコレクション「HOPE AWAY FROM HOME」。

― こうした取り組みを行いたいと考える企業は多いと思います。円滑に進める&成功させるためのポイント、秘訣はありますか。

商品を企画する場合は、お客様に「かっこいい」、「かわいい」など欲しくなるような気持ちを起こさせることでしょうか。単に同情を誘うようなものではなく、商品としての価値をきちんと担保する必要があると思います。そして、支援プロジェクトを継続的に行うこと。それもずっと同じカタチではなく、進化させていくことが大事だと思います。

また、NGO・NPOとのパートナーシップでは、民間企業とNPO・NGO間にあるカラーの違いを埋める、理解を深めるといった努力も必要です。民間企業ならではの得意な部分を出しながら、理想的なパートナーシップを築いていけるといいですね。当社とUNHCRも、10数年をかけてそれができるようになってきたと感じます。互いの目線や立場は違いますが、同じ大きな目標に向かう同志として協力し合って動いていけるとよいと思います。

― 最後に、こうした活動に対するシェルバさんの想い、今後の展望についてお聞かせください。

こうした活動は「ユニクロのような企業だからできること」と思われてしまうかもしれませんが、多くのさまざまな企業、個人の方々みんなで力をあわせて取り組んでいくべき課題だと思っています。我々も、取り組み始めた以上はとことん深く知り、本質的な解決まで行いたいと思っています。しかしながら、自社だけで実施する限界がありますのでこれからも協働パートナーや賛同者をどんどん増やしていきたいです。

文/鈴木里映
撮影/船場拓真

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