もっと滞在型観光を盛り上げたい!「世羅高原農場」が誇る絶景の花畑×ファッション、アート、フォトスポットの可能性
広島県のほぼ中央に位置する世羅町に30年続く観光農園がある。春はチューリップが畑を覆い、夏は向日葵が咲き誇る「世羅高原農場」だ。寒暖差の激しい気候を生かしながら、季節ごとの絶景を提供している。そんな「世羅高原農場」がある世羅町は、コロナ禍でマリオット系列のホテルが開業するなど、観光客が年々増加傾向にある。2年後には総観光客数を280万人とする目標も掲げている。広島といえば原爆ドームやお好み焼きと認知度の高いものは市街地に集中しているが、山間部の小さな町が観光の“目的地”として発展していくためには何が必要か。「世羅高原農場」で代表を務め、現在は4つの観光農園を運営する吉宗誠也さんに話を聞いた。
吉宗 誠也さん/株式会社世羅高原農場・代表取締役
生まれもそだちも世羅町で、現在も世羅町在住。学生時代は地元を離れるが、20歳の頃に当時代表を務めていた父親が他界したことで一時帰省。アルバイトで観光農園を手伝っていた際、お客様から故郷と農園を褒められることが多くやりがいに。大学卒業後はUターンで農園を引き継ぎ、今年で24年。現在は「世羅高原農場」「Flower village花夢の里」「そらの花畑 世羅高原花の森」「せらふじ園」の4つの観光農園を運営する。
良質な農産物の産地として拓かれてきた広島の米処・世羅町
― まずは世羅町について教えていただけますか。
広島県中央部から少し東寄りの山間部にあり、広島市内からは車で約90分、広島空港からは約40分、尾道からは約45分北上した場所で人口は約15,000人の町です。平安時代の頃から米処として有名でした。収穫したお米は陸路で瀬戸内海まで運ばれ、船で紀州の高野山の方まで大量に運ばれていました。高野山エリアのための米処でもあり、高野山と世羅の繋がりによって現在の尾道が切り開かれたと言われています。
― 世羅ではお米も栽培されているんですね。
世羅高原は標高が500mほどあり、寒暖の差が激しいため、良質な農作物が栽培できるんです。広島県内の方からは昔からブランド米、ブランド農作物が多い地域として認知されています。
観光客数大台突破へマリオット系列のホテル開業も後押し
― 昨年は世羅町にマリオット系列のホテルが開業しましたし、多くの方々から注目を集めそうです。
マリオットが手がける「フェアフィールド・バイ・マリオット」は広島県内では世羅にしかありません。世羅町にはこれからたくさんの人々が足を運ぶだろうと、ポテンシャルの高さを感じていただけたのかなと思っています。自然だけでなく食のレベルが高いところも買われたのではないでしょうか。
― 2026年までに総観光客数280万人突破を目標としていますが、状況はいかがでしょうか。
コロナ禍により観光業界全体でダメージがありましたが、世羅は幸いにも広島県内を中心とした近隣の方々による日帰り旅行の需要がありました。また、屋外でソーシャルディスタンスが保たれる環境があったので、お客様の戻りは比較的早かったですね。昔からの「世羅高原農場」ファンの方にも支えられ、今は高止まりが続いている状況です。
― 現在は4つの農園を運営されていますが、開園当初から観光農園としてスタートしたのでしょうか。
もともと「世羅高原農場」は観光農園ではなく、タバコの原料を作る葉タバコの農園としてスタートしました。しかし10年ほど経った頃、連作障害に悩まされるように。農業だけで続けていくことが難しくなり、広い農地を活用しながら直接お客様にサービスを提供しようと模索し、30年ほど前に観光農園という真逆のベクトルへと舵を切りました。当時はまだ「観光農園」というフレーズは珍しく、花畑などの絶景を見せるスタイルは開演直後から多くの方に好評いただきました。
― 気候や土壌などが農園に適していたのでしょうか。
世羅町は広島市内や瀬戸内沿岸よりも涼しい気候のため、都市部では4月中旬に枯れてしまうチューリップが世羅では4月下旬に満開を迎えます。GWの行楽シーズンにチューリップを楽しんでいただけることが強みになるとわかり、30年前にチューリップの観光農園を始めました。それが「世羅の気候風土を生かした感動の花風景を作る」というミッションの礎となりました。
季節ごとに違った絶景を楽しめる季節営業が強み
― 今は国内のいたるところにフラワーパークがありますが、「世羅高原農場」の強みは何ですか。
365日通年で営業しているフラワーパークが多い中、弊社は季節営業で運営しているのが一番の特徴です。理由は2つあって、1つは世羅の気候風土を生かしたモノ作りがしたいから。都市部のフラワーパークと差別化を図るため、世羅の環境下で最高のポテンシャルを発揮する花をセレクトすることが大切。単なる観光地化が目標ではないので、なんでもむやみやたらと植えればいいものではありません。
もう1つは、限られたシーズンにおいて大規模の花畑を作ることができるからです。通年営業のパークでは広い敷地があったとしても、ある区画では見頃、でもその隣は6月まではつぼみ状態、そのまた向こうの畑は準備中と、見頃のエリアが限られてしまう。一方、私たちは、見頃となるシーズンに全力を尽くします。春はチューリップで楽しみ、夏にまた来ていただいた際は向日葵が広がっている。季節によってインパクトのある絶景を楽しんでいただけます。
― 「世羅高原農場」を目的としてもらうために、どのような取り組みをされていますか。
もともと世羅エリアは、広島や中国四国など近隣エリアに住まれている方の日帰りドライブの場所として認知されていました。しかし今は首都圏をはじめ国内のインバウンド客に対しても、世羅町を目的地にしてもらえるように情報発信をしています。花の絶景を押し出した情報発信を中心に、英訳されたSNSの発信などにも力を入れています。
― 観光地としてさらに発展していくためには宿泊施設を充実させることも必要ですね。
そうですね。宿泊施設やその呼び水となる、滞在型観光コンテンツの拡充が課題です。観光農園をもっと充実させ、1日では足りないくらいの花めぐりをご提案することも考えています。「フェアフィールド・バイ・マリオット世羅」の開業も後押しになっており、宿泊型の観光をしていただく土壌が整いつつあると思います。
朝から夜まで楽しんで宿泊もできる観光プログラムの拡充が必要
― それでは最後に、今後の展望を教えてください。
宿泊を伴う滞在型の観光地を目指すとなると、夜の時間帯も楽しめるナイトタイムエコノミーや翌朝も楽しめる観光資源が必要です。今私たちが運営する花畑の可能性も広げつつ、宿泊業の皆さんとの関連産業や異業種とのコラボレーションを実現していきたいと考えています。そして、宿泊していただく方への特別なナイトプログラムや、花畑の楽しみ方の切り口を増やしていきたいです。
― 具体的にはどのようなことが考えられますか。
単なる農園の見学だけでなく、より遠方から足を運んでいただけるような強いエッジの効いた来訪動機を作っていければ、と考えています。例えば、花と親和性の高いフォトやファッション、デザイン、アートとの組み合わせで絶景にさらなる付加価値をつけ、非日常感や没入感を感じることができる体験を提供していきたいですね。
― 確かにアートやファッションとの親和性も高く、アーティストとの協業も考えられそうです。
シーズンによって絶景が変わるので、さまざまなアーティストとの相性も良いかもしれないですね。今年の春先は「葬送のフリーレン」のキャラクターに扮したコスプレイヤーがたくさん来園され、撮影ロケーションとして楽しんでいただけました。非日常の空間をさまざまな切り口で、さまざまな層の方にアプローチできればうれしいです。
現在はウェディング業界の企業様とウェディングフォトの聖地にできないかと模索しています。その他にも、ファッションショーやランウェイなど、観光とは違う認知度を獲得できる印象的な協業ができそうな企業様とのコラボレーションを考えていきたいです。
世羅高原農場とのコラボレーションや協業にご興味ある方は、info@nestbowl.co.jpまでお問い合わせください。