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【イベントレポート】佐野 明政さんが手がけた3つのコラボ事例から紐解く。「ビームス流ココロを動かすコラボの作り方」

【イベントレポート】佐野 明政さんが手がけた3つのコラボ事例から紐解く。「ビームス流ココロを動かすコラボの作り方」

2024年6月13日(木)、NESTBOWL主催のセミナー「ビームス流ココロを動かすコラボの作り方」が開催された。登壇者はビームス クリエイティブのプロデューサー、佐野 明政さん。本セミナーでは、ユニークなコラボレーションを生み出し続けている佐野さん独自の企画術のなかでも「ファッション×地域×スポーツ」にフォーカス。これまで手がけてきた事例を振り返りながら、アイデアを魅力的な企画として成功させるためのプロセスとマインドセットが語られた。

ゲストスピーカー:佐野 明政さん/株式会社ビームス クリエイティブ ビジネスプロデュース部 プロデューサー(写真:右)
愛知県名古屋市出身。2000年ビームスに入社。2010年に修士号取得。ショップスタッフを経験したのち、アウトレット事業、ライフスタイル業態であるビーミングライフストアの立ち上げを手掛ける。2016年よりBEAMS JAPANのプロジェクトリーダーを務め、立ち上げから現在まで、「日本の魅力的なモノ・コト・ヒト」を国内外に発信する数々の企画を主導。2022年からは、「BEAMS SPORTS」も担当。持ち前のユニークな企画力・発信力・コラボ力を活かし、ファッション×地域×スポーツの可能性も追求している。大のサッカーファンで、1998年以降のワールドカップ大会は、すべて現地で観戦している。

モデレーター:田崎 直人さん/NESTBOWL株式会社 CEO(写真:左)
1989年、埼玉県生まれ。大学卒業後、クリエイティブに特化したエージェンシー事業を展開するクリーク・アンド・リバー社にて、ゲーム、ファッション、XRなど、主に新規事業立ち上げに従事。「NESTBOWL」ではCOOとしてサービス運営に携わり、2024年1月、現職に就任。家業である創業30年のもつ焼き専門店「せんとり」の経営サポートも担う。趣味はサッカーやランニング、テニスなどのスポーツを中心に、社会人漫才コンビとしての活動もしている。

牛乳石鹸と銭湯の魅力を再発信するためのプロジェクト

ー 佐野さんはこれまで数々のコラボ企画を主導されてきましたが、「牛乳石鹸」とのプロジェクト「銭湯のススメ」はどういった経緯で企画されたのでしょうか。

きっかけは「牛乳石鹸」の製造・販売を行う牛乳石鹸共進社からの「固形石鹸を新たな層にリーチさせたい」というご相談でした。お話を受けた時は正直、大手代理店に頼んだ方が新たな層に届き売上増に繋がるのではと思いました。ただ、先方のご担当者と話し合いを重ねていくうちに、銭湯文化をとても大切にしている企業様だということが分かって。

BEAMS JAPANは「日本の魅力・文化を国内外へ発信する」という思いのもと始まった事業でもありますから、やはり弊社で取り組むべき案件だと思い、銭湯を起点としたコラボレーション企画を模索しました。

ー 2019年に初開催されて、大きな話題になりましたね。

実施内容としては牛乳石鹸とBEAMS JAPANのコラボ石鹸やアパレルアイテムの展開に加え、東京都浴場組合公認のもとで約550か所の銭湯を対象としたスタンプラリーの実施およびイラストレーター・長場雄さんが手がけたオリジナル暖簾を入り口に設置するなど、銭湯というコミュニティを介して人々が交差する場作りに注力しました。

同時にメディアリレーションを構築することも意識的に行っていましたね。「銭湯のススメ」の企画の際は、報道関係者に興味を持ってもらえるのではと思い、当初ビームスでは馴染みがなかった記者会見を行ったんですよ。結果として知名度の高いニュース番組に取り上げていただいたことが、多くの方々が銭湯を訪れるきっかけのひとつになったと感じています。

ー 企画だけに注力するのではなく、メディアを活用した情報展開の仕方もカギとなりそうです。

おっしゃる通りです。先方も大変喜んでくれて、以降の継続開催へ繋がっています。第2弾(2021年)では、マンガ「テルマエ・ロマエ」作者のヤマザキマリさんに銭湯絵やグッズイラストを手がけていただき、第4弾(2024年)では、都営バスとのコラボも果たすことができました。

ー コラボレーションを仕掛けるうえで大切にしていることはありますか。

本当に自分が実現したいことを提案すること、そしてそのアイデアをやりきること、この2点に尽きると思います。

初めての試みで何事もなく上手くいくということはそうそうありません。正直、この取り組みでも様々なことが発生しました。起きてしまったことについては関係者と会話を重ねて真摯に向き合う姿勢が必要不可欠です。ですが、そういった時間がチームワークの改善や企画を継続するためのアイデアと新たなコラボレーションの創出に必要な時間であるとも感じています。

ユニフォーム制作依頼を大型イベントに発展させるまで

ー 2019年の、名古屋グランパスエイト(以下、名古屋G)主催の「鯱の大祭典」との連動プロジェクト「大名古屋展」の開催経緯について教えてください。

2018年に名古屋Gから、夏のお祭りと位置づける「鯱の大祭典」の試合で選手が着用するユニフォームの制作依頼を受けたことが元々のきっかけでした。過去に神戸市や伊勢市からの依頼でガイドブックやグッズ制作を行っていたので、そのノウハウを活かしつつ、自分たちの力だけでは伝えられない名古屋の魅力を地元企業と一緒に発信する機会に繋がるのではないかと思ったんです。

私が名古屋出身かつサッカーファンだということも影響していますが、ちょうどこの時期に、とある調査で日本の8大都市における魅力度ランキングで名古屋が最下位という事実を知り、そのことが自身をより奮い立たせました。そして、地元で圧倒的に愛されている名古屋Gとタッグを組めば、より多くの人に名古屋の魅力が伝わるはずだと「大名古屋展」の開催に向けて着手したんです。

ー 開催にあたって、具体的にどのような工程を経たのでしょうか。

大規模なイベントであるほど、PRやポップアップストアの運営、LP制作、記者会見のセッティングなど多方面で支出が伴うため参画企業の協力が必要です。「大名古屋展」と謳っている分、コラボレーションや協力をお願いする企業も名古屋にゆかりのある企業でなければ意味がありません。

そのためリレーションがない企業も含めてアポイントを取って打ち合わせの機会をいただき、頭をひねり工夫を凝らしながらプレゼンを行う、初開催の時はこの繰り返しだったように思います。その際は企業の課題をとことんヒアリングしたうえで、「大名古屋展」が課題解決にどう作用するかを主にアプローチしていきました。

ー 根気が必要だと思うのですが、先方とのやりとりで大切にしていたことはありますか。

先方には珍しいプレゼンだとしばしば驚かれるのですが、情緒的な表現で訴えかけることが多いかもしれません。もちろん、ビジネスですから数字は気にしなくてはいけないものですが、私が思い描く夢や名古屋への想いを伝えることも同じぐらい大切かなと思っています。

名古屋には魅力がないと思われ続けるのは悔しいですし、世界的に見ても魅力のある都市へ変えたいと本気で考えています。思いの丈をストレートに伝えると担当の方に届くものがあったようで、初回開催時には6社が参画してくれました。コンスタントな連絡や対面コミュニケーションが大切だと再認識した瞬間でしたね。

ー 佐野さんの熱い想いが5回目の開催に大きく繋がっているのですね。

スポーツとファッション、地域を掛け合わせることで、サッカーファンだけではなくファッションが好きな人達、地域の人達を巻き込み、より大きな試みを行うことができる。何より地域の人達が喜びと楽しさの中で地元の魅力を再発見できる機会となっています。「大名古屋展」は名古屋をさらに活力のある都市へと発展させていくための足がかりとなるに違いないので、今後も継続していきたいです。

市制100周年イベント「かわさき飛躍祭」の開催

ー 6月29日(土)には川崎市の市制100周年を祝う「かわさき飛躍祭」が控えています。(※現在、イベントは終了しております)

川崎市にはかつて、プロ野球チームやプロサッカークラブが本拠地を置いていた過去がありますが、いずれも離れてしまったことから「スポーツが根付かない街」と言われていました。その定説を塗り替えたのが、「Jリーグ最強の企画家」として名高い、川崎フロンターレ(以下、川崎F)にてプロモーション部部長を務めた天野 春果さん(現 Two Wheel Sports代表取締役社長)。

私が販売員として店頭に立っていた2003年にお客様としてご来店されてから仲良くさせていただいています。そのような方とタッグを組みイベントに関わる様々なデザインを、私が関わるBEAMS SPORTSで担当し、川崎市の記念すべき日の盛り上げの一端を担えることを大変光栄に思っています。

ー 具体的にはどのような催しが予定されているのでしょうか。

オフィシャルグッズの販売や飲食ブースの展開はもちろん、3人組ガールズバンド「SHISHAMO」をはじめ川崎市にゆかりのあるアーティストによるライブパフォーマンス、ブルーインパルスの展示飛行、そして始球式に川崎市出身の市原隼人さんを迎えた川崎Fとサンフレッチェ広島による記念マッチなど内容盛りだくさんのイベントとなっています。

ー 行政や実行委員会、天野さんといった様々な関係各所と連携を図りながら、デザインの最適解を見出していくのは骨が折れる思いでしょうね。

大変なことも多々ありますが、少しでも齟齬が生じるとすべての歯車が噛み合わなくなってしまうので、そこは時間をかけてクリアにしていきます。あとは先ほどお話しした通り、リスペクトの気持ちを持ち、顔を合わせて幾度となくディスカッションを行いました。地道なコミュニケーションの甲斐もあって、今はとても良いチームワークが取れているので、当日を迎えるのが楽しみで仕方ありません。

ー ここまで3つの事例をもとに佐野さんの仕事にフォーカスしてきましたが、最後にそのユニークな企画の源を教えてください。

「日本を元気にしたい」、その一心です。昔から人を楽しませる、人と人を繋ぐような取り組みをすることが大好きでした。少子高齢化や景気停滞など寂しいニュースも聞こえてきますが、以前のように活気に満ちた日本社会の実現に向けてアクションを起こし続けていきます。そのために、関わるすべての方々の長所に目を向けられる、そしてリスペクトの気持ちを絶やさず持ち続けて行動を起こせる人間でありたいと思っています。

文:芳賀たかし
撮影:船場拓真

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