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オルタナティブであるかどうか。異例のPRを成功に導いた、TaiTanのクリエイティブ思考法

オルタナティブであるかどうか。異例のPRを成功に導いた、TaiTanのクリエイティブ思考法 NEW

創業100周年を迎えたオーディオ機器の世界的リーディングカンパニー「Shure」が、今年1月にプロモーション企画で発表したスニーカーが熱狂を生んでいる。仕掛けたのは、TaiTanさん。3MCヒップホップクルー「Dos Monos」のラッパーやクリエイティブディレクターとして知られ、2020年に立ち上げたPodcast番組「奇奇怪怪」は書籍化されるなど人気を博している。言葉を扱うプロフェッショナルである彼は、モノを生み出す工程において何を考え、何を核としているのか。自由な発想の裏にある独自の思考、仕事への向き合い方について伺った。

TaiTan /ラッパー、ポッドキャスター、クリエイティブディレクター
「Dos Monos」のラッパー。2020年5月に玉置周啓(MONO NO AWARE)と立ち上げたPodcast番組「奇奇怪怪」が人気を博し、Spotify Podcastチャートでは最高順位1位を獲得、現在まで書籍版が2冊刊行されている。今年1月にはマイクブランド「Shure」とコラボレーションしたスニーカー「IGNITE the Podcasters」を発表、今年3月には自身がパーソナリティを務めるTBSラジオ「脳盗」発となる音を出さなければ全商品を盗めるショップ「盗」の第二弾開催が予定されている。ユニークなプロモーション企画も含めて話題を呼ぶなど、クリエイティブディレクターとしても手腕を発揮している。

多岐に渡る活動の共通項は“言葉を扱う”

ー ひとつの肩書きにとらわれない生き方は、意識して目指していたのですか。

自然とライフスタイルが確立されていきました。ひとつの肩書き、ひとつの場所に居続けるのは、僕の生き方としてはしっくりこないんです。ただ、どの仕事においても共通しているのが、“言葉を扱う”ということ。書く、話す、言葉をつくる、そして出来上がったものを様々なチャネルを介して発信することが僕の仕事です。いま思えば、幼少期から音楽や小説、ラジオやテレビなどに触れて得た、ポップカルチャー全般の蓄積が自分をつくっているんだと思います。

ー 言葉の力に魅了されたのはなぜですか。

中学生の頃からラジオを聴いていたのですが、その時に言葉がもたらす影響力の大きさを知りました。言葉は目に見えないものですが、感性や行動が変わるきっかけになるというか、人を突き動かす力がありますよね。ラップを始めたのも、ヒップホップで紡がれる言葉に影響されたからです。

また、デザインや服飾、映像などを生み出す技術がないからこそ、唯一、自分にも出来そうな言葉という表現技法のポテンシャルに惹かれたんだと思います。いずれにしても、言葉を扱う仕事をしたかったし、僕が歩んできた人生や特性を活かせるという予感がありました。

ー ラッパー、クリエイティブディレクターとして活動されていますが、Podcast番組「奇奇怪怪」はどのような位置付けですか。

コロナ禍で音楽をはじめすべての活動が止まったことを機に始めたのですが、今では仕事をする上での基盤となっていますね。といいつつ、実際には取り止めのない仮説を話す場所になっているのですが。ただ、僕にとっては考えや時代の捉え方などをアウトプットできる場所というのが必要不可欠なんです。

そこで生み出されたアイデアのカケラが凝縮されて活動の原液、つまりはIPとなるわけです。それはアニメーションだったり、スニーカーだったり、イベントだったりとカタチを変えて世に放たれる。そういう意味ではファクトリーのように捉えています。

オルタナティブの可能性を拡げた「Shure」とのコラボ

ー ゼロからアイデアを生み出し、つくり上げていくことは簡単ではないですが、ご自身を突き動かしているものは何ですか。

聞こえはワガママかもしれませんが、欲しいものを手に入れたいからつくるという感覚でしょうか。アイデアを具現化していくまでの工程を考えるのが好きなんです。その際に大切にしているのが、「時代の潮流や合理性を抜きにしてオルタナティブ(既成の概念や方法に代わる新たなもの)であるか」。単純にオルタナティブな可能性をひろげたい気持ちもありますが、受け手に「自分にも何か出来るかもしれない」と思ってもらえるモノを生み出したいという気持ちの方が本心に近いかもしれません。

ー 直近で言うと、マイクブランド「Shure」とのコラボで発表したスニーカーが、PRも含めて大きな話題になりました。

マイクブランドがPR企画でスニーカーをつくる。これは一般的には考えにくい、また考えたとしても合理性のなさからGOを出す当事者ってなかなかいないと思うんです。広告代理店を含めて「Shure」チームに勇気がある方達がたくさんいたからこそ、実現した企画だと思っています。

簡潔に企画内容をお話しすると、スニーカーのソール内部には「Shure」の高性能マイクと引き換えられるシリアルナンバーが隠されていて、歩行の摩耗によって出現するという仕掛けを施したんです。要は歩けば歩くほど、マイクを貰うというゴールに近づくわけです。次世代のポッドキャスターを支援するという意義を軸にしたものだったので、自らの足で獲得した言葉と熱が面白い番組をつくるという想いを込めています。

歩くだけで高性能マイクが手に入る世界初のスニーカー“IGNITE the Podcasters”

ー 単なるプレゼントキャンペーンにならないような仕組みを考えたわけですね。

リポストやフォローするとプレゼントが当たるって色気がないし、周囲からプレゼントキャンペーンに参加してる人って思われるのは嫌じゃないですか。だから、裏アカウントで応募する人が多いわけで。そう考えた時、「それって本当にブランド側にメリットがあるの?」って思うんです。

それに受動的な企画よりも能動的な企画の方が熱狂を生みやすいことは経験上分かっていたので、あとはスニーカーが持つポテンシャルや周辺イメージを活用しながらスキーム構築をすればうまくいく確信はありました。

ー とはいえ、一般的に企業はリスクテイクをしたがらないと思うのですが、今回のPR企画が実現した背景にはどのような理由が考えられますか。

あくまで僕の憶測ですが、担当者の方々も既成のPR手法に頭打ち感や閉塞感を感じていたのではないでしょうか。そのタイミングでスニーカーをつくるというアイデアを持っていったものですから、直感的に面白いとおっしゃってくれたんだと思います。その瞬間に良いパートナーになる予感がありましたし、「なぜスニーカーでなければいけないのか」「それによってどのような効果がもたらされるのか」を論理立てて丁寧に提案できたことが信頼に繋がったのでは、と思っています。

ー 「何となく良い」ではなく、左脳的アイデアをロジカルに説明・提案することが大切だ、と。

単に「映像やグラフィックがカッコいい」とか「旬なタレントをキャスティングする」とかって、本質的には代替可能なものになってしまうし、結局は好みの問題になってくる。何より、それらがどう作用するか分かっていないというか。前述したことはアウトプットの仕方であって、クリエイティブというのは根本的なところに位置するもの。だからこそ、僕は言語化できる状態にまで持っていくことを大事にしてますね。

コラボは、両社の文脈の合流点を見極めるのが肝

ー コラボする上で大切にしていることを教えてください。

そもそも、コラボの意義とは何なのかという話になりますが、僕は「各々が持っている文脈を掛け合わせることで熱狂を倍化させること」だと思っています。もし、足し算の原理でいくなら、僕よりもフォロワー100万人のインフルエンサーに依頼した方がいいわけですから。それに、例えコラボしたとしても、SNS投稿だけで終わることってたくさんあると思うんです。これって企業からお金が動いただけで、現実的には何も起きていないですよね。

では、そうならないためにはどうすればいいのか。それは「インフルエンサーの文脈をブランドが理解すること」、そして「インフルエンサーがブランドに対してリスペクトがあるか」が重要だと思っていて。そうであれば、従来とは異なる方法や高い熱量を持って取り組むはずなんですよね。「両者の文脈がどこで合流しているか」。まずはそこを見極めるのを大切にしています。

ー TaiTanさんとコラボする価値というのは、どこにあると思いますか。

表立って話をする演者としてのTaiTanとコラボするということは、彼の能力を最大限に引き出す裏方としてのイイヅカタイタンとプロジェクト進行をするということになります。そういう意味では、TaiTanが高いモチベーションを維持しつつ、主体的に動くスキームがつくられるんだと思います。演者と裏方が同居しているからこそ、腹の中を明かして話し合うこともできますし。

ー 肩書きや固定観念に捉われず、自由な発想を持って働くためには、どのようなことが要されますか。

そういうキャリアを築いている人の傍にいることですかね。考え方とか働き方って、誰かに教えられて変わるものじゃなくて、傍に居続けることで感染していくものだと思うんです。企業風土でイメージしてもらえると分かりやすいと思うんですけど「リクルートっぽい」「サイバーエージェントっぽい」とかってあるじゃないですか。なので、もしも僕のような働き方、生き方をしたいと思ってくれる人がいるならば、僕とコンタクトを取ってもらえたらいいと思います(笑)。

文:芳賀たかし
写真:船場拓真

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