未来に繋がる“すごい”を発信する。アーバンリサーチが大阪・関西万博出店した理由と未来に繋げたいもの NEW
2025年4月13日開幕の大阪・関西万博にアーバンリサーチが出店する。アーバンリサーチの万博、略して「アーバン博」では、新しい技術と衣食住の融合をコンセプトに未来に繋がる“すごい”を発信するという。万博出店の責任者として尽力してきたのが、事業本部部長の新山浩児さんだ。同社でバイヤーやマーチャンダイザーを経験したほか、新規ブランドの立ち上げにも携わってきた新山さんに、出店に至った背景や、万博での経験を未来にどう繋げていきたいかを聞いた。
新山浩児さん/株式会社アーバンリサーチ 事業本部 THE GOODLAND MARKET 部長
アルバイトとしてアーバンリサーチに入社し、販売員、店長を経験する。その後、バイヤーやマーチャンダイザー、商品企画を担当。「URBAN RESEARCH Sonny Label」などの新規ブランドや、同社が発起人となった「東北コットンプロジェクト」の中心人物として、取り組みを推進。2020年6月に新ブランド「THE GOODLAND MARKET」をローンチ。現在は同ブランドのディレクションやBtoB事業にも携わる。
社員が一体となって“すごい”をシェアする「アーバン博」
― 大阪・関西万博へ出店を決めた背景を教えてください。
BtoB事業を通じて繋がりのあった企業の方から、公募についてのお話を伺ったことがきっかけです。その方は、循環型ファッションライフスタイルを提案する弊社のブランド「THE GOODLAND MARKET」(以下、TGM)の取り組みを深く理解してくださっており、「万博のコンセプトにも合うのではないか」と背中を押してくれました。
TGMは僕が2020年に立ち上げたブランドです。個人的には、出店したい気持ちは強くありました。また、アーバンリサーチとしても、万博出店を追い風にしたいと考えたんです。
現在の社長は就任してから、企業理念である“すごいをシェアする”を常におっしゃっていました。それが実践できていると感じる場面はポツポツとありましたが、中には「自分は本当に“すごいをシェア”できているんだろうか」と疑問を抱く人もいたと思います。万博は、みんなのモチベーションを上げる絶好の機会にもなると考えました。
いざ出店が決まり各部署の責任者とともに準備を進める中で、販売員の社内公募をしたところたくさんのスタッフが手を挙げてくれて。社長も社内報を出して激励してくれました。みんなの「熱」が感じられましたね。
― “未来に繋がるすごいをシェアする”をテーマに、「アーバン博」と銘打って出店されます。どのような商品が並ぶのでしょうか。
ファッションを軸に、「ジャポニズム」「テクノロジー」「スーベニア」をテーマにした商品を扱います。そのうち60~70%はTGMの商品です。万博のコンセプトと最も合致すると考え、構成比を高くしました。内装も再利用することを前提にデザインしていて、什器や備品などの約70%は、万博が終わった後も店舗で活用する予定です。
僕も準備で現地に行きましたが、「そこまでやる!?」と思うぐらいゴミの分別が厳しいんですよ。でも、そういう「めんどくさいこと」が未来に繋がると感じました。便利なモノやサービスは、次から次へと生まれ消費されていきます。一方で、不便なモノやコトは、時間も手間もかかる。その分、未来に残るものがあると思うんです。これからは「めんどくさいこと」にこそ、価値が出てくるはずです。
同じことはTGMにも言えます。TGMでやっていることは、すぐに売上に繋がるわけではありません。でも、お客さんの心に響くようなものを伝えられます。今回の万博でも、ファッションを通じて、その背景にあるストーリーに目を向けてもらえたらと思っています。


人との出会いで生まれたブランド
― アーバン博の中核となるTGM。このブランドが立ち上がった経緯を教えてください。
構想自体は、10年以上前から考えていました。もともとブランドのスタート地点は「サステナブル」ではなく「人」。僕がこれまでお世話になった人たちと、何かやりたいと思っていました。
僕がアーバンリサーチに入社したのは、店舗がまだ数軒しかない時代です。競合がたくさんいる中で、販売にしてもバイイングにしても、うまくいかないことのほうが多く、悔しい思いをすることがありました。でも、いろんな人たちが支えてくれた。だから今のアーバンリサーチがあります。その助けてくれた人たちが、今のTGMに通じるようなモノづくりをしていたんですよ。
そうはいっても、具体的なアイデアには落とし込めていませんでした。実際に動き出すきっかけをくれたのは前社長です。たまたま経営会議で「お前、何か考えてるやろ」と言われて。当時、新規ブランドがなかなか出ていなかったので、見抜かれたんでしょうね(笑)。思い切ってアイデアを話してみたら、企画書を出すことに。そこから具体的なブランドの方向性を定めていきました。
「これまでのセレクトショップのあり方に一石を投じることができたら」。そう思いながら企画書を作っていました。
― 立ち上げまで順調に進みましたか。
ローンチがコロナ禍と重なってしまって、もう全然。オンライン販売はスタートしたものの、3年ぐらいは肩身が狭かったです。でも「今に見とけよ」と思っていました。
新卒採用向けの会社説明会でもよく話すのですが、新しいことを始めるとき、僕は「3歩の法則」を考えるようにしているんです。まずは一生懸命がんばって、1歩目を踏み出してみる。2歩目で「何かやっている」と振り返ってもらう。3歩目で、形勢逆転です。
TGMも1歩目はしんどかったですが、その後はリアル店舗を作ることができて、さらには万博にもつながりました。今は「諦めずにやっていて良かった」と思います。
― 新山さんのアイデアは、そのまま今のTGMのコンセプトになったのでしょうか。
僕のアイデアをベースに、もうひとりの社員とブランドを一緒に作っていきました。もともと彼女は違う部署にいたのですが、僕がプロジェクトリーダーを務めた「東北コットンプロジェクト」で知り合いました。話してみると、サステナブルな取り組みに興味があって、海外の事例にも詳しい。さらに年齢も当時20代半ばで、TGMがターゲットとしている年齢層にも近い。「TGMは、この子の感性に任せてみよう」と思いました。
会社にも相談して、TGMが立ち上がってからは本格的に参画してもらいました。すると「あれもやりたい」「これもやりたい」と積極的にアイデアを出してくれて。前例のないこともありましたが、僕が引っ張った以上「やらせなあかんな」と思い、ほとんど実現しましたね。彼女はバイイング未経験でしたが、一生懸命勉強して、ものすごく成長してくれました。彼女がいたからこそ、今のTGMがあります。

アーバンリサーチにとって、万博はスイッチになる
― TGMに今後、期待することは何ですか。
今までできなかったことが、万博を機に実現できているんですよ。このまま万博の外に店舗として持って行っても、十分戦っていけると思います。万博が終わったらおしまいではなく、新しい未来に繋がる新業態になることを期待しています。
― 万博は御社にどのような影響を与えてくれると思いますか。
アーバンリサーチにとって、万博は良いスイッチになると思うんです。
ひとつは、新たな挑戦を加速させるスイッチ。アーバンリサーチは、常に新しいことにチャレンジすることで成長してきました。僕自身、まだ数店舗しかなかった時代から、お店づくりでもバイイングでも、やりたいことを全部やらせてもらえました。万博は、社員のみんなが「もっとやってみよう」と思うきっかけをくれるはずです。そう思ってくれたら、組織としてこれほど強いものはありません。
もうひとつは、ブランド価値を高める方向性へのスイッチ。これまでは売上を伸ばしていくためにリソースを割いてきましたが、今後はブランド価値を高めていくことも必要だと考えています。これからは、TGMのコンセプトのような価値観を重視する子たちが増えてくるはずです。だからこそ、アーバンリサーチのブランド価値とは何かを考えて、高めていかなければなりません。
万博の成果は、きっと終わった後に出てきます。例えば、アーバンリサーチで働きたいという人が増えたり、海外出店の機会につながったり、いろんな可能性が広がることを楽しみにしています。

― 新山さんの今後の展望を教えてください。
今、僕が携わっているBtoBの事業部を、既存の事業部や職種ではできないことに挑戦できるプラットフォームのような場をつくりたいと考えています。部署の垣根を超えていろんな人たちが働けると面白いだろうな、と。これまで自分では気づかなかった適性が見つかることもあるでしょうし、長年キャリアを積んできた人たちにとっては活躍の場を広げることにもつながります。
実験を通して、新しいものを生み出していく。そしてうまくマネタイズできるようになれば、事業の柱のひとつになり、アーバンリサーチの強みにもなります。みんなが今よりもっと輝いて働ける、そんな未来に繋がる手伝いができたらと思います。
文:渋谷唯子
撮影:船場拓真