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【イベントレポート】ブルガリとセーブ・ザ・チルドレンが築いた16年の歩み。異なる世界をつなぐリーダーシップとは

【イベントレポート】ブルガリとセーブ・ザ・チルドレンが築いた16年の歩み。異なる世界をつなぐリーダーシップとは NEW

2009年からパートナーシップを構築してきた、ブルガリセーブ・ザ・チルドレン。ラグジュアリーブランドと国際NGO、互いに異なる文化や目標を持つ組織はそれぞれどのようにリーダーシップを発揮しながら、パートナーシップを深めてきたのか。その知見を学べるマスタークラスが慶應義塾大学 三田キャンパスで開催された。ブルガリ副CEOのラウラ・ブルデーゼさん、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン事務局長の髙井明子さんによるトークセッションが行われ、協働の裏側やリーダーシップのあり方について語った。モデレーターは同大学名誉教授の田村次朗さんが務めた。こちらの記事では、そのマスタークラスの一部を抜粋し、共に歩み続けた16年とそこで発揮されたリーダーシップについてお伝えしたい。

<スピーカー>
ラウラ・ブルデーゼさん/BVLGARI 副CEO(写真:真ん中)
イタリア・トリエステ大学を卒業後、バイヤスドルフとロレアルで職務を歴任。1999年スウォッチグループに入社。2012年にカルバン・クライン ウォッチ&ジュエリーのプレジデントおよびCEOに任命された。2016年にLVMHに入社し、アクア ディ パルマのCEOに就任。2022年1月にブルガリのマーケティング&コミュニケーションにおけるヴァイスプレジデントおよびエグゼクティブコミッティーのメンバーに任命された。2024年9月より現職。

■髙井明子さん/公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 専務理事・事務局長(写真:右)
東京都生まれ。米グリネル大学卒業後、エイズ支援のNPOで勤務しながら、東京大学大学院医学系研究科で国際地域保健学、公衆衛生などを学ぶ。国連人口基金ニューヨーク本部に入局し、HIV感染予防に従事した後、ベトナム事務所などで活動。東日本大震災を機にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに入局し、国内外の「子ども支援」の道へ。2022年3月に事務局長、2023年3月に専務理事・事務局長に就任、現在に至る。

<モデレーター>
田村次朗さん/慶應義塾大学 名誉教授(写真:左)
大学院大学至善館 教授。慶應義塾大学 名誉教授、慶應義塾大学KGRI(グローバルリサーチインスティテュート)特任教授も兼務。交渉学、経済法、国際経済法を専門とし、国内外における交渉とリーダーシップ教育の推進および実務との橋渡しに注力している。ハーバード大学国際交渉学プログラムにおいてはインターナショナル・アカデミック・アドバイザーを務めるほか、TMI総合法律事務所の顧問としても務める。

2009年のコラボレーションリングから始まったパートナーシップ

田村次朗さん(以下、田村):両者のパートナーシップはどのようにして始まりましたか。

ラウラ・ブルデーゼさん(以下、ラウラ):始まりは約16年前です。2009年はブルガリの創業125周年で、私たちは目的を持って、「寄付」や「還元」という形で祝いたいと考えていました。そこで、世界で最も影響力のあるNGO、セーブ・ザ・チルドレンとのコラボレーションリングを発売しました。

この時は1回限りの寄付でしたが、私たちの中で何かが揺り動かされたのです。翌年からセーブ・ザ・チルドレンと長期的なパートナーシップを構築することを決めました。リングから始まったコラボレーションは、やがてジュエリーのフルラインに広がり、その価格の一部をセーブ・ザ・チルドレンに寄付してきました。その後も互いに学び合い、共創し、約140のプロジェクトを通じて世界中の子どもやその家族を支援しました。

パートナーシップは成長し、この16年間で約1億2000万ドルを寄付することができました。金額自体も大きいですが、共に構築してきたものはそれ以上に価値があります。セーブ・ザ・チルドレンとのパートナーシップにさらに力を入れて長期的に活動するため、2024年3月にはブルガリ 財団を設立しました。

田村:どのようなプログラムやテーマに取り組んできたのでしょうか。

髙井明子さん(以下、髙井):最初に取り組んだのは、紛争下にある子どもたちの教育支援です。このパートナーシップが始まった頃、私たちは紛争地域における教育支援に必要な資金を集める取り組みを行っていました。当時、その分野に関心を示すパートナーがそれほど多くなかった中、ブルガリは主要パートナーとして最初に一歩を踏み出してくださいました。

その後、2010年のハイチ地震での緊急人道支援をきっかけに、2011年に発生した東日本大震災を含む、世界中の緊急人道支援へのサポートを継続してくださっています。2016年からは、青少年にフォーカスしたプログラムを開始し、人生の大切な時期に、将来を描くことができるよう、研修や経済的なエンパワメントを通じた支援を行っています。

双方のリーダーシップにもたらした変化

田村:私は大学で、主に「アダプティブ・リーダーシップ」と「オーセンティック・リーダーシップ」について教えています。おふたりとも、さまざまな課題に直面しながらも、価値観を大切にしながらリーダーシップを発揮していますね。ただ、パートナーシップが始まった当初、それぞれのブランドはまるで別世界だったのではないでしょうか。どのような共通点があったのでしょう。

髙井:確かに、私たちが活動する分野は大きくかけ離れていますが、共通のコミットメントがあります。それはプラスの変化やインパクトを子どもたちに届けたいという気持ちです。

ラウラ:全くその通りです。最近は、恒久的な危機の時代といわれています。それは特に子どもたちにマイナスの影響を与えています。

皆さんの中には、いつか大きな多国籍企業で、特にラグジュアリーブランドで働きたいと思っている人もいるかもしれません。しかし、贅沢さの追求だけではなく、社会的課題や環境に対する責任も果たしていく必要があります。なぜなら、提供している商品の源は、この世界にあるからです。私たちはその中で責任ある行動、責任あるリーダーシップを果たしていく必要があります。

田村教授がおっしゃった2つのリーダーシップのほかに、「ジェネラティブ・リーダーシップ」があります。それは、この変わりつつある世界に適応したオープンなリーダーシップです。人々の声に耳を傾けて、社会や子どもたちに対してプラスのものを生み出し、地域社会に貢献する。これからはそういうリーダーシップが必要だと思います。

田村:パートナーシップを構築する過程で、どのような課題がありましたか。

髙井:セーブ・ザ・チルドレンは、人道支援や開発支援を行うNGO、一方でブルガリはラグジュアリーブランドです。最初は、まったく違う世界で生きている私たちがどのようにやっていけばいいのかと思いました。

ブルガリのチームが初めてセーブ・ザ・チルドレンの活動現場を訪問した際、私は彼らが「コンフォートゾーン」にいたいのではないかと思っていました。ところが、実際は全く逆で、とても良い経験となったそうです。その後も何度も訪問していただき、現場で何が起こっているかを見て、持ち帰ってもらいました。コンフォートゾーンから一歩出て、新たなコンフォートゾーンをつくり出すことができたのです。

田村:ラウラさんはどうですか。

ラウラ:素晴らしいものは、ダイバーシティから生まれます。宝石もそうですし、「人」もそうです。私たちは異なる環境にいて、ゴールやKPIも異なります。その中で共通の言語を見出すのはとても大切なことでした。また、ブルガリにとってはレピュテーションリスク(ネガティブな評判が広がることで、信用やブランド価値が低下し、経済的損失をもたらすリスク)や説明責任の透明性といったリスクなどもゼロではありませんでした。

それでも、私たちはセーブ・ザ・チルドレンと手を組むことを決めました。長期的な関係があり、ベストなパートナーだと思ったのです。リーダーシップにおいては、リスクを取ること、それから相互に信頼を構築していくことが重要です。

田村: パートナーシップによって、ブルガリはどのようにしてリーダーシップを発揮・強化できましたか。

ラウラ:セーブ・ザ・チルドレンと協力を始めたら、全従業員が視察に行きたがったんですよ。私自身も視察に行きましたが、自分の人生を変えるような経験となりました。そして従業員も、ブルガリで働くことにますます誇りを持つようになりました。

ブルガリでは従業員に対して調査を行っており、「ブルガリで働いていて楽しいか」「誇りを持っているか」などの質問をします。「誇りを持って働いている」と回答する人の理由には、必ずセーブ・ザ・チルドレンの活動があります。これは素晴らしいことです。従業員は、利益の追求だけではなく、明確で深い目的を持っている会社で働くことに喜びを感じているわけですから。

このパートナーシップを通じて、ブルガリは製品の優良性や市場における地位だけでなく、人々の生活に直接的な影響を与え、社会貢献に積極的に取り組み、より包括的で深いリーダーシップを発揮できるようになったのです。

田村: セーブ・ザ・チルドレンはどうですか。

髙井:NGOとラグジュアリーブランドとのパートナーシップを構築し、このような場で一緒に登壇することは、想像しづらいことです。ソーシャルセクターで働いている人たちは、同じような意識を持つ人たちと話すことが多いのですが、同じ意識を持った人たちは、コンフォートゾーンの外にもいるかもしれません。そうした人たちに出会うためには、より多くの人たちと対話を重ねる必要があります。

ブルガリはセーブ・ザ・チルドレンのミッションを理解してくれました。私たちは、今グローバルで何が起きているのか、子どもたちが直面している課題は何かといったことから対話を始めました。そして、プログラムの成果や相互の成長という長期的な視点での価値を理解してもらうよう働きかけてきました。その結果、この素晴らしいパートナーシップを通じて、共に声を上げることができたのです。ブルガリと共に世界を変えることができました。

リーダーシップのカタチは多様&磨き続けるもの

田村:今日ここにいる若いプロフェッショナルたちは、このマスタークラスで学んだことを今後どのように活かせると良いでしょうか。

髙井:リーダーシップには、いろんなスタイルがあります。例えば、私は立ち上がって大きな看板を掲げて「ここに来てください!」というタイプではありません。どちらかと言うと、他の人に語りかけてその人に見合った機会をつくりたい。そして、その中で一緒に働いていきたい、そんなスタイルです。

皆さんの中にも、シャイでどちらかと言うと助手席に座るようなタイプの人がいるかもしれません。それはそれでいいと思います。職場では自分の居場所を見つけることが大事です。そして自分に向いていることを見つけてください。そこから始めたらいいと私は思います。

ラウラ:リーダーシップは、それぞれの個性を生かしたやり方があります。そして生まれ持った才能ではなく学んでいくもの、磨きをかけていくものです。日々変わりつつある世界の中で、リーダーシップも変わっていかなければなりません。皆さんも学び続けてください。そして自分の道を見つけてください。

私もキャリアの中で、いろんなことを学んできました。時には学びすぎて混乱したこともありましたが、私は私なりのやり方を見つけようと思ったんです。どれが正しいか、どれが間違っているかではなく、自分自身のリーダーシップを見つけ、オープンで好奇心を持ち、そして目的志向で取り組むのが良いと思います。

文:渋谷唯子

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1884年創業以来130年を超える歴史を持つ、
イタリアの宝飾品ブランド「ブルガリ」。