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ファッション業界におけるサーキュラーエコノミーの可能性

ファッション業界におけるサーキュラーエコノミーの可能性

従来の経済モデルは、「大量生産→大量消費→大量廃棄」の一方通行型の流れとなっており、その直線的(リニア:Linear)な構造から、リニアエコノミーと呼ばれている。リニアエコノミーは、すべてのものが廃棄を前提として作られ、消費されることが大きな特徴で、とにかく作っては消費し、廃棄するという行為の繰り返しによる経済活動であった。しかし、この先もリニアエコノミー型の経済モデルのまま進んでいけば、近い将来環境破壊は取り返しのつかないところまで行きついてしまうだろう。そこで今注目されているのが、サーキュラーエコノミー(循環型経済)という新たな経済活動である。

サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは

サーキュラー(Circular)とは円形という意味で、サーキュラーエコノミーとは、消費した商品を再利用しながら循環させていく経済構造である。再利用といえばリサイクルなどに代表されるリユースエコノミー(Reuse Economy)がよく知られているが、リユースエコノミーとサーキュラーエコノミーの決定的な違いは、廃棄や環境汚染ゼロに対する根本的な取り組みにある。リユースエコノミーは、再利用によって製品を長く使用し、廃棄物の削減につなげることは可能だが、最終的には廃棄されてしまう。一方で、サーキュラーエコノミーは原材料の選定やデザインなど、最初の段階から製品が再生されることを前提に生産を行う。さらには、生産の際に消費されるエネルギーも再生可能エネルギーを使用するなど、徹底して廃棄や環境汚染ゼロを目指して経済を循環させていく。

環境問題とファッション業界

自治体や業者による古着の回収や再利用はよく知られているため、私たちはもうすでに循環型に似た経済活動を行っているのではないか、と思いがちだ。しかし現状としてファッション業界は、リニアエコノミーの典型的な経済モデルのひとつとされている。たとえば化学繊維などの素材、水や化学染料などを大量に使用する製造工程、廃棄・焼却処分によるCO2の排出、洗濯排水による水質汚染など、ファッション産業は環境への負荷が非常に高く、問題視されてきた。

サーキュラーエコノミーへの取り組み

こうした現状を踏まえ、ファッション業界からもリニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへの転換を行う取り組みが次々と生まれてきている。なかでもステラ・マッカートニーによるサステイナブル(持続可能)なファッションへの提唱は、多くのファッションブランドに大きな影響を与えた。レザーを使用せず、再生された素材を使用した服や小物類、環境への配慮を強調した広告など、彼女のゆるぎない環境への想いは着実にファッション業界に浸透している。

また近年では、ラグジュアリーブランド大手傘下のグッチも、環境負荷を測定して可視化する革新的なツール「環境損益計算書(E P&L)」を導入するなど、多くの企業が環境問題を重視し、環境破壊を食い止めるための具体的な活動をスタートさせている。

一方で、当初から環境問題に着目した新しいブランドも誕生している。そのひとつが、2020年1月に東京へも進出を果たしたシリコンバレー発の話題のシューズブランド、Allbirds(オールバーズ)である。Allbirdsは、シューズの生産にかかるエネルギーの消費量の抑制を実現させ、ソールを含め素材は全てサステイナブルの理念に基づき選ばれている。スタイリッシュな見た目と企業理念が理想的な形で結びついた成功例のひとつといえるだろう。

さらには、かつてはリニアエコノミーの典型的な構造とされていたファストファッションも、生産工程の見直しを図ったり、再生可能な素材の開発や店舗での古着回収など、大量に製造し、買っては捨てるスタイルから新しいスタイルへの移行へと舵を切りつつある。

変化する消費の概念

サーキュラーエコノミーへの転換の背景には、消費の概念自体への大きな価値観の変動が影響しているとも言える。たとえば今まではモノを所有することに価値があり、それにともない消費活動が付随していた。しかしこれからは所有という部分への価値に代わり、モノ(製品)を通してデジタル技術などを駆使したきめ細かいサービスの提供を受けることや、製品の寿命がきても廃棄する手間を省き、メーカーや関連企業が素早く回収し、再利用さらには再循環させるシステムなどの利用による利便性に対価を払う、ある種投資的な側面も含んだお金の使い方が増えていくだろう。ファッションにおいても、こうした概念が高まっていくことが予想される。

かつての日本文化がサーキュラーエコノミーのヒントに?

サーキュラーエコノミーを定着させていくには、長期的な取り組みが欠かせない。それには多額のコストが伴い、ひとつの企業を取りまくさまざまな業種の協力も必要となる。こうした背景から、サーキュラーエコノミーへの転換の必要性を認識していながらも、取り組みまでには至らない企業も多いのではないだろうか。日本においてサーキュラーエコノミーの考え方が、欧米諸国に比べまだあまり根付いていない理由のひとつに、こうしたサーキュラーエコノミーへの転換の難しさがあるとも推測される。

しかし振り返ってみると、今では高級品、贅沢品とみられるようになった着物もかつては日本人の普段着であり、その特徴的な構造は体型の変化などによって変幻自在にほどいては縫い直すことを前提に発展した。着られないほどすり切れた着物は最終的に布団の生地などにリメイクされ、徹底的に活用されてきた。こうした日本の文化には、未来のサーキュラーエコノミーへの取り組みのヒントが隠されているのかもしれない。

コロナ禍で大打撃を受けているファッション業界においては、短期的な利益が必要とされる局面が増えている。しかしこのコロナ禍は、リニアエコノミーへの逆行を図り、サーキュラーエコノミーの導入を考えるだけでなく、ブランドや企業としての方向性の抜本的な改革に踏み切るチャンスとしてとらえる企業も出てくるに違いない。

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