日本のスポーツを“世界で稼げるコンテンツ”に!B.LEAGUEが仕掛ける国際戦略の勝ち筋 NEW
2024年~2025年の国内観客動員数は478万人、事業規模706億円を見込んでいるB.LEAGUE。いずれも2016年の設立時から倍以上の成長を遂げている。国内だけでなく国外でも積極的に展開し、フィリピンでは2024年と2025年にパブリックビューイングを、台湾でもイベントを開催するなど、盛り上がりを見せている。これらの国際事業を牽引するのが、ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ 国際事業グループ執行役員の岡本直也さんだ。リクルートでの営業を経て、スポーツビジネスの世界に飛び込んだ岡本さんに国際事業の現況やビジネス展開で注目している国々、今後の目標について聞いた。
岡本直也さん/ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ 国際事業グループ 執行役員
立命館アジア太平洋大学卒業。2007年、新卒で株式会社リクルートに入社し、求人・販促メディアの営業を担当。2013年にイギリスへ留学し、ロンドン大学バークベック校スポーツマネジメント大学院を修了。学業と並行して、マンチェスター・ユナイテッドFCのロンドンオフィスに勤務。2015年、シンガポールにある電通スポーツアジアに入社。2018年、楽天グループ株式会社に転職。2021年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究博士課程修了。2024年から現職。
日本のスポーツが世界で稼げることを目指す
― 岡本さんが所属する国際事業グループでは、どんなお仕事をしていますか。
大きく分けて2つあります。ひとつは、競技力向上のため、海外のリーグや国際大会に選手・チームを送り出す業務。B.LEAGUEは、2030年までにNBA選手を5人輩出することを中期経営計画の中で掲げています。そのため、ゼロから制度を作ってNBAのサマーリーグなどに選手やチームを送り出すことが私たちの役割です。ほかにも、EASL(東アジアスーパーリーグ)やBCL(バスケットボール・チャンピオンズリーグ)などの国際大会にチームを派遣する際の調整や帯同も行います。
もうひとつは、海外でビジネスをつくる仕事です。今、最重要視している国はフィリピン、台湾です。国際戦略の中では、攻める国の基準を明確に決めています。①その国がある程度日本を好きであること、②競技力がB.LEAGUEのレベルに匹敵すること、③その国でバスケが人気であること、これら3つです。
― かなり明確に決めているんですね。
そうですね。戦略を進める上では大きく3段階のフェーズに分けています。フェーズ1は、その国の選手がB.LEAGUEに来ること。フェーズ2は、その国で放映権が売れること。フェーズ3は、その国でファンをつくることです。現在、フィリピンはフェーズ3。オフラインのイベントを企画するなど、B.LEAGUEを好きになってもらうための施策を行っています。台湾はB.LEAGUEの試合放送が始まったばかりで、現在はフェーズ2です。
野球でいえば、大谷選手がアメリカで活躍して、日本でもバズっていますよね。そういう状況をいろんな国でつくり出していくのが国際戦略です。


― 岡本さんはこれまでどんなキャリアを歩んできたのでしょう。
私は中学・高校でバスケをやっていて、将来は漠然とスポーツ関係の仕事に就きたいと思っていました。大学もスポーツ関係の学部に進学するつもりでしたが、父親から「英語が話せないとダメなんじゃないか」と言われて。それがきっかけで、留学生が多数在籍する立命館アジア太平洋大学に入学しました。
ただ、私が就職活動をしていた頃は、スポーツ関係の仕事が全くなかったんです。ひとまず自分が最短で成長できる会社に入ろうと考え、大学卒業後はリクルートへ入社し、求人・販促メディアの営業を担当しました。
20代をリクルートで過ごした後、会社を辞めてロンドンの大学院へ入学し、スポーツマネジメントを学びました。どうせなら向こうで仕事を見つけようと思い、就職活動も同時に行いました。ほとんどどこも通りませんでしたが、唯一マンチェスター・ユナイテッドFCがオファーをくれて。そこで一気にキャリアが拓けましたね。
― そこからスポーツビジネスの世界に入ったんですね。
その後、学生ビザが切れたタイミングで、シンガポールにあるスポーツエージェンシー、電通スポーツアジアに入社しました。ASEANでの権利セールスやスポーツマーケティングの運営などに携わり、すごく楽しかったですね。でも、ただ楽しい環境にいるのではなく「もう1回、挑戦できる環境に身を置きたい」と思い、日本に帰国。楽天グループに転職しました。
楽天ではサッカーのイニエスタ選手の肖像権を企業に提案し、アンバサダーとして活用してもらうビジネスに携わりました。ほかにもWUBS(世界大学バスケットボール選手権)、やアスリートビジネスの立ち上げを行い、「楽天スポーツ」というエージェンシーのモデルを築くことができました。
その後は、自分がもともとプレーしていたバスケ1本にしぼってやりたいと思い、2024年からB.LEAGUEで働いています。
― スポーツビジネスを通じて、岡本さんが実現したいことは何ですか。
自分がどこで働くか以上に大事にしているのが、日本のスポーツが海外に出て、稼げるようになることです。例えば、東南アジアの人々は、みんなプレミアリーグやNBAが好き。日本のスポーツはあまり見られていません。
でも、アニメやマンガは海外の多くの国々で人気ですよね。それと同じように日本のスポーツも海外で稼げるようにしたい。その対象がアスリートかもしれないし、リーグの権利かもしれない。転職してもその対象が変わるだけで、根本的な部分はあまり変わっていません。

フィリピン、台湾の次に注目の国はモンゴル、レバノン
― 今、B.LEAGUEが盛り上がっている中で、逆に課題に感じていることはありますか。
フィリピンでは、B.LEAGUEを現地のブランドに価値を感じてもらい、投資してもらうことを目標に置いています。フィリピンは、バスケのリーグが非常に多いんですよ。プロバスケットボールリーグのPBA、独立リーグのMPBL、大学リーグのUAAP、NCAA、さらにNBAも呼んでいます。この中でB.LEAGUEをどう差別化していくかが今後の課題ですね。
― フィリピンと台湾以外に注目している国はありますか。
モンゴルとレバノンです。フィリピンは人口が約1億人、台湾は約2000万人で、それなりにマーケットとして成立していますが、モンゴルは約350万人、レバノンは約500万人です。ただ、私たちが重視してるのは、その国の国民がB.LEAGUEで盛り上がるかどうか。モンゴルは人口は少ないけれど、バスケへの愛があって、競技レベルも高い国です。
個人スポーツでは当然相撲が人気ですが、実はチームスポーツで人気なのはバスケなんです。実際、アメリカのNCAAにはモンゴル人選手が4人もいます。人口は少ないですが、鉱山や天然資源などの大手企業はありますから、1社でも2社でも現地のブランドに興味を持っていただければ良いかなと思っています。そういう意味では、すごく楽しみな国です。
― 相撲のイメージが強かったので意外です。
レバノンに関しては、アジアで非常に競技レベルが高い国です。さらに中東諸国とも比較的友好な関係を築いている国です。なぜそれが大事かというと、中東はリージョナルブロードキャストで、スポーツ配信は、中東系のスポーツメディアが流すことが多いからです。レバノン人選手の活躍がレバノン以外の周辺国に受け入れられるかどうかが重要になってきます。
中東諸国の中では、競技力が高くても育成に力を入れていない国があったり、国が推進するスポーツにバスケが含まれていなかったりします。そういった背景もあって、レバノンに注目しています。
NBAとの提携で日本人選手のレベルアップを図る
― 2025年1月には、NBAと戦略的提携の基本合意を締結しました。このねらいは何でしょう。
サマーリーグなど、いろんな形でNBAに日本人選手を派遣することを努力義務として掲げた協定です。私たちとしては、いかにNBAと組んで、日本人選手のレベルを上げていくかにフォーカスしています。NBAの方針としても、もっと選手のダイバーシティを推進したいというねらいがあります。
― 国際的にも日本人プレイヤーが活躍し始めていますよね。
私たちも、B.LEAGUEの中でプレーする選手の国数を増やしていきたいですし、日本人選手はどんどん海外に出て経験を積んでほしいです。アジアの他のリーグだと、ローカルに閉じてしまう傾向があるんですよ。でも、B.LEAGUEの場合は真逆。2026年からリーグ構造の変更を伴う大規模な変革「B.革新」を行います。その一環として、オンザコートフリーが導入されます。
外国籍選手の登録3名、帰化・アジア枠選手の1名が同時に出場できるようになると、日本人選手は1名しか入れないようになるケースになることがあります。そういった多様な環境で日本人選手がもまれて強くなることを意図していますし、多様な価値観があるリーグで成長してほしいという思いがあります。

― 今後の展望を教えてください。
一か国一か国、丁寧にファンベースを築いていくことです。ファンがいないと結局ビジネスにもつながりませんから。一か国ずつファンの特徴があると思うので、それをしっかり理解して戦略を立てる。そしてビジネスとしても、一か国あたり年間数億円レベルで成立させるのが直近の目標です。
B.LEAGUEの売上のうち、国際事業の売上はまだ10分の1にも満たないんです。これが中長期的に増えていくことを目標にしています。日本のスポーツライツの中で、国際事業の売上比率が20~30%になるようなリーグは、B.LEAGUEも含めてどこにもありません。そこまで行けば真のインターナショナルリーグになります。そしてそれを達成できる仕事に取り組んでいるからには、それを目指したいと思います。
文:渋谷唯子
撮影:船場拓真